2.ものは相談
『のぅお主、儂の声が聞こえるんなら、一つ頼まれてはくれんかのぅ』
一つ手前の宿場町で、何かアンデッドらしい化け物が出るって話を聞いて出向いた俺に話しかけたのが、シャイルの父っつぁんだったわけだ。いい加減傷んだ屍体が話しかけてくりゃあ、そりゃ大抵のやつらは肝を潰して逃げ出すわな。そもそも死霊術の素養の無い者に、アンデッドの「声」が聞こえるかどうかも怪しいもんだ。
ま、俺ぁこれでも死霊術師だったから、アンデッドと出会った事も一度や二度じゃねぇんだが……それでも、ハッキリとした自我を持って話しかけてくるアンデッドに出会ったなぁ、数える程しか無ぇ。……ハミルカスやケイツは別としてな。
だからまぁ……討伐だの浄霊だのでケリを付ける前に、ちょいと話を聞いてみようかって気になったんだが……
「……盗賊に襲われておっ死んじまった? この場所でか?」
『うむ。気が急いていたためか、不覚を取ってしもぅての』
「……んで? 自分を殺した盗賊どもに、仕返しでもしてぇってのか?」
今際の際の怨みを晴らせ――ってのかと思ったんだがよ、父っつぁんの〝頼み〟ってなぁ、それとは違ってた。
「……荷を届けたい?」
『うむ。儂はこれでも商人でな。請け負った荷を届けずに果てるなど、商人としての矜恃に悖るというもんじゃ』
「……盗賊に持ってかれちまったんじゃねぇのかよ?」
『そんなヘマはせんわい。儂はこれでも【金庫】というスキルを持っておってな』
「【金庫】?」
俺ぁちっとも知らなかったんだが、【金庫】ってなぁ収納系スキルの一種らしい。何でも――〝任意の場所に小さな収納空間を設定し、品物を仕舞う事ができる。施術者が死んでも収納空間はそのまま残る。同時に二つ以上の【金庫】を設定はできない〟――ってぇスキルらしい。割と珍しいスキルらしくって、この国でも持ってるやつぁ数える程しかいねぇんじゃねぇかって話だった。
「――んで、荷物はその【金庫】ってのに仕舞ってあんのかよ?」
『うむ。その代わりにこの儂は、当てが外れた盗賊どもに殺されてしもぅたがな』
おぉ……美談なのかヘマなのか判んねぇ話だな。
『どちらかと言えばヘマの方じゃろうな。金袋の一つも宛がってやれば、賊どもも上機嫌で引き上げたであろうによ』
「……んで……死にはしたが、最期に商人の本分ってやつを全うしたい。そう言うんだな?」
『それもあるし……何よりな、届けたい荷というのは婚礼衣装なんじゃ。……赤ん坊の頃から知っておる娘での』
――しかし、さすがにアンデッドとなった自分が届けるわけにはいかないから、自分の代わりに荷を届けてほしい……ってのが父っつぁんの頼みだった。
『手間賃というては何じゃが、儂を襲った盗賊どもの塒は突き止めてある。留守を襲うなり討ち果たすなりすれば、やつらが貯め込んでいるお宝はお前さんのもんじゃ』
悪くねぇ取引のように思えたけどよ、承知するには幾つかの問題点ってやつがあった。
「第一に――その婚礼ってやつはいつで、届け先はどこなんだよ?」
父っつぁんを問い詰めてみたところ、どう逆立ちしても婚礼には間に合いそうにねぇって事が判明した。
『無理か……』
「もう一つ。仮に俺が依頼を受けて荷を運んでも、それが父っつぁんの荷だって証明するもんが無ぇんじゃねぇか?」
一面識も無ぇ男がいきなり訪ねて行って、父っつぁんの代理だって言っても、納得してくれるかどうか。怪しまれて受け取ってもらえねぇ可能性だってある。
『……無念じゃ……』
「ま、諦めるなぁちょいとばかし早いかもだぜ? 父っつぁん次第だがな?」