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正義の実現者になりたくて  作者: 藤本悠
9/11

第八話【デート】

遅れてすいません!ギリギリ日曜だから許して……

おはよう世界。

寝付きが悪かったせいか、本日の寝覚めはあまり良くなかった。

昨日色々あったせいか珍しく普段より一時間ほど遅く目が覚めた。

姉さんは……まだ寝てるか。

昨日の事もあったし、まだ寝かせてあげよう。

布団をかけ直して、僕は「んー」と背伸びをしながら、今朝の献立を考えるのだった。

さあ日常の始まりだ。


***


そのはずだったのだが。

―――放課後、第三演習場裏で待っています。

日常が破壊された。

「……どう思う?」

「……ラブレターね。コッテコテのテンプレート使い回しの」

「だよねえ」

寮の下駄箱に入っていたそれを、制服の胸ポケットにしまい一度整理する。

僕たちは、普段よりも一時間ほど遅い朝食を済ませて、授業に行こうと寮の玄関まで来たのだが。

下駄箱の中に、それが入っていた。

背後の姉さんが怖い。

↑イマココ。

やっぱり姉さんは僕への愛情の出力の仕方がバグってると思う。

「ま、まあどう良くて罰ゲームだよ。本気で僕を好きになる人なんていないって」

「ふーん……そう……別にそんな事どうでもいいけど、ふーん……」

うわあ、めっちゃ気にしてる……。

ま、これ以上相手していてもしょうがないし、行くか。

「どうでもいいけど、僕もう行くからね」

「うん……」

この調子で一日中やられたらキツいんだが。

あ、ていうか。

今日の実習、第三演習場だったな。

うーん?

いや、まさかね。

流石にそれは考え過ぎというものだ。

だとしたら、そいつ僕の時間割知ってるか一緒の授業取ってる奴なんだよ。

どっちにも心当たりはナシ。

……ナシ、だよな。

少なくとも、女子はいなかった気が……いや。

一人いたか。

いや、余計に無いな。

あの王女様が?

僕にラブレター?

無い無い無い。

僕の今日の昼飯を賭けてもいい。

……ヤバいちょっと不安になってきた。

「……馬鹿ね」

「あれ、声に出てた!?」

「ええ。具体的にはいや、まさかねのあたりから」

「ほぼ最初からじゃねえか!」

朝から、何か調子狂うなあ。

んで、五・六限。

騎士志望の生徒たちの三分の一はこの時間実習である。

んで、本日の僕のお相手はと。

「……今日もよろしく」

「ええ、よろしく」

なんだろう、なんか嫌だなあ。

でも生まれてから初めての感覚だな、これ。

だからか、ちょっと嬉しくもある。

いや、感覚としては不快の類なんだけど。

今日も王女様の剣は美しかった。

正直途中からは手紙の事など頭から消えていた。

何度も言うが僕に剣の才能はない。

基本を愚直に積み重ねて、凡人が辿り着ける最高到達点にまで登ったが、僕を純粋な剣技で上回る剣士はこの時代にゴロゴロいるだろうし、所詮僕の剣はその程度だ。

盗賊相手に基本遠距離から射殺だったのも、自分の剣腕に不安があった事が理由の一つなのだ。

でも、凡人には凡人なりの意地がある。

自分に出来る事は全てやって、後はひたすら反復し続けた。

とにかく剣を振って、振れなくなったら休んで、また振った。

最適な軌道、最適な体運び、見切り、押す引くの見極め。

覚える事はたくさんあって、姉さんと打ち合っている間にそんな事を考えていたら勝負にすらならなくて。

だから、体が条件反射で動くくらい、反復した。

たくさん、たくさん、たくさん。

その上で、魔力を使い、魔眼を使いようやく百本あれば一本取れるぐらいにはなった。

所詮は凡人の剣。

陰身流なしではこの様だ。

だからこそ、彼女の剣は好きだ。

凡人の剣だろう。

不格好な剣から無駄を削ぎ落としていった、努力の跡が見て取れる。

才能のある人間の使う剣ではない。

だけど、だからこそここまで美しい剣が生まれた。

巷に腐るほど蔓延る、魔力任せ力任せな剣とは違う。

うん、やっぱり僕は彼女の剣が好きだ。

自分が通って来た道を、多分もっと色々抱えながら歩んで来た彼女を、尊敬しているんだ。多分。

「……と」

もう終わりか。

終業の鐘が鳴り、みんなが三々五々にいなくなっていく。

さーて、僕も帰るか。

……あ。

あ~~~……!

そうだ、この後ここの裏に来いって……。

ま、じゃあ僕に告白する酔狂な奴の顔を拝みに行きましょうか。


「さっきぶりね」

「はー……」

何だ、つまらん。

もうちょっとこう変化球を期待してたんだが。

ベッタベタじゃないか、ここはこう少し一ひねり入れてほしいものだ。

「ねえ、人の顔を見てため息を吐かないでほしいんだけど」

おっと、つい漏れてしまった。

「いや、ごめんね?で、何の用かな」

「貴方、存外鈍いのね?まあ、尚更都合が良いんだけど」

なーんか、不穏な単語が聞こえた気がするなー。

「私と、男女交際的な意味でお付き合いしてくれないかしら」

うーん、正直胡散臭さ極まりないよね。

ただこれで振ると変に噂されるかもしれないしなあ。

そもそも、何の理由付けもなく言われてもなあ。

「あら、思っていた程軽率では無いのね。見直したわ」

「そう?お褒めに預かり光栄だよ。で、何で僕?」

作り笑いを貼り付けながら、淡々と質問する。

ここで考えなしにオッケー出すほど、甘くはない。

前世では女関係それなりに失敗しているので、ここら辺まあいっかで済ませたらアカン事を僕は学んでいる。

ま、理由次第ではオッケーだけどね。

「そうね……打算的なのと感情的なの、どっちから聞きたい?」

あら意外。

両方あるんだ。

てっきりどっちかと思ってた。

こちらこそ、思ったほど軽薄では無くて見直したよ。

「打算から」

「そうね。……色々あって、恋人役をやってくれる人間が必要になったの。その上で、私がそれなりに関わりを持っている男子の中で、一番気に入ったからよ。貴方良いところと欠点がはっきりしていて、それも十分我慢出来る範囲内なのよ。ま、別に上手く続けば当然そのまま本当に恋人だと父に紹介しても良いけど」

それは勘弁願いたいな……。

で、感情的な方の理由は?

「そうね……。貴方、私と少し似てるでしょ」

「……まあ、そうだね」

薄々勘付いていたから、あえて否定はしなかった。

「優秀な姉がいて」

と彼女。

「比べられるまでもない差があって」

と僕。

「剣の才能はない」

続けて彼女。

フッ、と二人同時に口元を緩めた。

まったく、こうして口に出すと嫌んなるくらい似てるな。

「私ね、自分の剣が嫌いなのよ」

そう、彼女は呟いた。

「姉に追いつきたくて、やるだけやって、誰にも見向きもされなかった剣。生まれてきて半分以上を捧げて、得られたのは無才の剣。凡人の剣」

それを仕方ないと諦めている自分にも嫌気がさしていた、と自嘲するように言うアストレア。

「でも、貴方は自分の剣を嫌っていないでしょう?派手さもなければ、期待もない剣を」

理由って程でもないけどね。

「……ちょっと気になったのよ。アンタに何か期待した訳でも、期待してほしい訳でもないけど」

ああ。

何か、分かる。

感情が収束せず、ぐちゃぐちゃになっていて自分でも何を思ってその考えに至ったのか分からないのだろう。

僕は、いや〝俺〟はそれを知っている。

嫌と言うほど、知ってしまった。

チッ。

他人事に思えない。

間違っても同情ではないけど、彼女の事が気にかかる。

「ま、こんなところかしらね。貴方が満足したのかは分からないけど」

「いや、満足だ。納得したよ。納得せざるをえない」

降参だ。

両手を上げて、白旗を振る。

いやまったく、断るつもりだったんだがな……。

なかなかどうして、その答えが気に入った。

ガーデンを率いる立場からすると明らかにリスクが大き過ぎるが。

「あああと、口止め料も兼ねて、お金もあげるわよ?」

勿論金貨でね、と彼女が言う前に、一二もなく僕は飛びついたのだった。

いやだって。

インゴットとか細々した道具とかその他色々お金けっこうかかるんだもん。

後にも先にも、ここまで考えなしだったのはこの時ぐらいだろう。


***


「んで、契約恋愛は良いけど。具体的に何すんの?」

勿論、前世から持ち越した知識はあるが、これは僕が主導する事でもない。

つーか、あんま思い出したくないなー。ほぼ黒歴史だわあんなの。

「そうね……じゃあ、とりあえず一緒に下校しましょうか」

まあ、関係性を周りに示すには一番手っ取り早いな。

あー、というか姉さんの耳に入ったら何て言われるか。

まあそこら辺は追々考えよう。

流石に交際に反対……はしないだろうし、致命的な要素は見当たらないから姉さんは後回しで良いだろう。

「それで、明日からの話だけど」

「何?」

「一緒に登校……はちょっと過剰(オーバー)だけど、そういう感じのやつで恋人だってアピールしていくから。合わせてね」

「ん。りょーかいりょーかい」

まあ想定内というか最低でもそれぐらいしないと意味がないからな。

しっかし、恋人偽装したいとは。

……王族らしく(というのも変だが)婚約でもしてるのかな?

やめだやめ。

明らかに厄ネタなのに、深入りする必要はない。少なくとも今はまだ。

一応後でアレフに裏がないかだけ探ってもらうとして。

ま、健全(前世と比べると)な恋人関係ってヤツを味わうとするか。

この王女の性格からして、僕の正体を知った上でここまで上手く嘘吐けるとはちょっと思えないので、まあ安心だしね。

そんな事をぼんやりと考えながら、僕は寮へと帰った。

翌朝。

「じゃあはいこれ、今日の分」

「はいどうも。で、結局付き合う事になった訳?」

姉さんに今日の昼ごはんを渡し、質問される。

「ああうん、でも安心してってば。彼女も言っていたけど契約恋愛だから」

「そう……。でも、一応気は抜かない事。アンタも一応、ノクター家の人間なんだから」

そう言われて、ああ、と思い出した。

そう言えば、僕まだ一応貴族だったな。

今年は工房に籠もっていたか学園での生活だったので頭から抜け落ちていたが、僕も一応公爵家の人間なんだった。

んー……でもなあ。

「あの王女様が、腹芸出来るかなあ?」

「アンタだって大して知ってもいないんだから、分かんないわよ。とにかく、一線は引いておきなさい」

「あーい」

まあそれもそうだな、と姉さんの言葉を頭の片隅に留め置いて、寮を出る。

「おはよう、ナギ・ノクター君」

「あ、おはよう」

おお、本当に迎えに来ていた。

つーか早いな。

まだ八時前だぞ。

「良いでしょ、()()何だから」

恋人を強調して言ってくる。

なるほど、今の内から慣れておけって事か。

りょーかい。

「ん、分かったよ。じゃあ行こっか、()()()()()

おかえしとばかりに呼び捨てしてみたが、特に文句も言われず

「……やるじゃない」

と、小声で褒められた。

ま、なら良いか。

それから、僕たちは授業中以外ほぼ全ての時間一緒にいた。

何なら実習の時間は彼女とだったので授業中も一緒かもしれない。

周囲の視線が痛いほど刺さっていたが、二千年前だって聖騎士(パラディン)として式典などでは大勢に見られていたのでそこまで気になりはしなかった。ああいや、別に気にならない訳ではない。

そして放課後。

「ああそうだ、父さんに君と付き合い始めたって手紙送っちゃったけど、良かった?」

「ええ、寧ろそうして欲しかったところだわ。私の場合、貴方を父に紹介するとなると正式に婚約ってことになるから、軽々しく出来ないけど。貴方のお父さんってヘクター・ノクター公爵でしょう?北の国境を任されるほどの公爵が私たちの交際を認めてくれるなら、貴族たちも耳に入れざるを得ないでしょうから、願ってもない事よ」

なるほど、より周りに広められるって事か。

「あと、はいこれ、今日の分よ。結構無茶ぶりもしたのに、一日ありがとうね」

と、渡してきたのは、金貨が入った巾着だった。

中を改めるまでもなく、その重さと手触りからしてそれなりの金額だ。

ああ、そう言えばそういう契約だったな。

「何?贋金つかまされたとでも思った?確認しても良いけど」

「いや。契約事でそんな事するとは思っていないよ。ま、今後後腐れなくするために契約(ゲッシュ)結んでも良いけど」

「……は?」

何だか凄い怪訝な顔をされた。

何だ、僕そんなに変な事言ったか?

「えーと、僕そんなに変な事言ったかな?確かに契約(ゲッシュ)はちょっと大袈裟だったかもしれないけど、でも裏切られない為の保険は必要だと」

「違う!」

僕の言葉を遮る様に、彼女が叫んだ。

「私が言っているのはそういう事じゃないのよ。契約(ゲッシュ)は、上手く騙せばそれだけで相手を殺せるのよ。二つの《契約(ゲッシュ)》を結んで、どちらかを守ればどちらかを守れない様状況を作れば、契約(ゲッシュ)を破った罰則が課される。他者間での契約(ゲッシュ)は、破ればほぼ確実に死ぬわ。魔術的な呪いで自害させれるのよ。だから、研究が進んでいなかった二千年前ならいざ知らず、今契約(ゲッシュ)を交わす人間はいないわ。まともな人間ならね」

禁止こそされてはいないものの、王国法でも非推奨とされているらしい。

……何というか、二千年前と比べると日和見が増えたな。

その程度のリスク、自分たちで管理しておくものだろうに。

いや、これも平和になったから生まれた余裕による人道的見地だとすれば、僕があれこれ言うのは間違いだろう。

「……まあ、怖気付いたと思われるのも癪だし、別に結んでも……」

「いや、良いよ。それより、大体今日一日一緒にいたけど、他に何かするの?」

「え?そ、そうね……うーん、じゃあ、今週末一緒に出掛けましょう」

なるほど、逢い引き(デート)ね。

うわ、めっちゃ久しぶりの響きだな。

……ま、健全な交際など前世から数えても久しいから当然と言えば当然か。

「そっか。じゃあ、また明日。どこ行くかは任せても?」

「ええ、任せてちょうだい。半分以上私に付き合ってもらう訳だし」

なるほど、荷物持ち兼話し相手か。

「分かった、楽しみにしておくよ。じゃ」

そうして、一週間はあっという間に過ぎ去り、デート当日。

「……私服がこんなのしかないけど、まあどうせ見た目では釣り合っていないんだから今更か」

服に着られるよりは身の丈にあったものを着ていた方が良い。

もしかしたら、それを咎められるかもしれないが、それならそれ。

僕の服を見繕ってもらうという事で、恋人を演出するには丁度いいだろう。

しかし、ちょっと早く来過ぎたかな。

学園の正門前。

待ち合わせは十時だったのだが、余裕を持って出ろと姉さんに三十分以上早く叩き出された。

「……あれから、学園の方で動きはナシ、か」

チカ、チカと光信号で報告を受け取る。

何というか、大人しくしているというよりは尻尾を掴ませない様水面下で何か企んでいる感じだな。

あの後、クソ道化(ピエロ)を問い詰めた感じからして恐らく学園の総意という訳ではなく、不穏分子が潜り込んでいたのだろう。

しかし、あの動き方を見るに……何か違和感が残る。

僕は何か見落としているのか……?

「あら、お互い早いわね」

と、そこで思考は止まった。

「そうだね、まあ僕の場合は姉さんに早く行けって言われたからだけど」

その光景が容易に目に浮かんだのか、アストレアはクスっと笑った。

「それじゃ、ちょっと早いけど行きましょうか?」

「うん、まあずっとここにいても邪魔だしね」

と、僕たちは学園を後に街へと出かけた。

魔力で動いている路面電車で街の方へ向かい、そこからは彼女の趣味に付き合う事になった。

アクセサリー、化粧品、そして服。

何か見覚えのあるデザインのデパートで彼女の買い物を一通り済ませて、そして正午過ぎ。

「お昼にしましょうか」

「そうだね、もういい時間だし」

あ、そう言えばここら辺でいい感じのレストランがあったんだ。

ちょっと入り組んだところにあるからそこまで混まない事もあり、僕の中ではかなり良い評価だ。

一回出ないといけないけど、うーん……

「ねえ、良い店知ってるんだけど。一回出なきゃいけないから、どうする?」

「え?ええ、良いわよ」

あっけなく了承を得て、じゃあ行くかと昼飯にありついた。

「貴方、なかなか良い目してるわね」

「ん?」

「この店の事もだけど、服選びの時とかも、私の好みとかそんなに知らないのに、色合わせで良いのをしっかり選んだり、趣味が合うんじゃなくて、観察眼が良いのよね」

午前中、楽しかったわ。

それを聞いて、少しほっとした。

「それは良かった。僕の好きなものを気に入ってくれるのは素直に嬉しいしね」

これはまあ本音。

自分が好きなものが他人に認められているようなものだしね。

「じゃ、午後からは貴方の服でも見ましょうか。周りからそれっぽく見えるし、ね?」

まったく、つくづく。

似た者同士だな、僕たちは。

それから、僕の服をアストレアに見繕ってもらい、何だかんだ良い時間になった。

「荷物は部屋に送ってもらったから、多分帰る頃にはついてると思うよ」

「そう、ありがとう」

「ごっこではあったけど、今日、結構楽しかったよ。じゃ、また明日」

それを聞いて、彼女は少し目を丸くして

「……私も、楽しかったわ。貴方となら、上手くやって―――」

そこから先は、ついぞ聞けなかった。

彼女が、消えた。

そして、確かに視界に入った黒い外套。

追うか少し迷ったが、僕はあくまで公爵家の落ちこぼれだ。

王女様を単身救出する?

いやそれは()()

だから、これは。

俺の仕事だ。


***


―――目を覚ますと、そこにいた。

暗い。

寒い。

あと、臭い。

手足はミスリルの枷で寝台に拘束されていた。

ああ、これは。

俗に言う誘拐だろう。

―――彼は。

無事だろうか。

確かめるすべも無い。

恐怖はあった。

焦りもあった。

だが、それ以上に諦観があった。

自分の最後がどうなるか、考えた事が無い訳では無かったが。

せめて、もう少しマシな死に方が良かったな。

それからは、あんまり覚えていない。

多分一週間は経っていたんだと思う。

汚物の様な食事だったり、血を抜かれたりした様な気もするが。

意識がはっきりしていなくて、あまり覚えていない。

はっきり気が付いたのは、自分が剣を手にして、地下水路に立っているところからだった。

多分、逃げれたのだろう。

途中、何かバケモノの様なモノを見た気もするが、どうでもいい。

どこに通じているか分からないが、とにかく歩いた。

そして目の前に現れたのは、親が婚約者に押していた男だった。

何か訳の分からない事を言っていた。

元々頭がおかしいんじゃないかと思っていたが、やっぱり本当におかしかったのかもしれない。

上手く手に力が入らなかったが、剣を握り、斬りかかった。

でも、二合三合打ち合っただけで、力で押し切られた。

結局、私の終わり方はこんなものなのか。

そう、諦めた時。

私の運命がやってきた。

金属質な靴音が、地下水道に響く。

暗闇から出てきたのは、闇を切り取ったのではないかと思うほど黒い一人の人間。

男か女か。

子供か大人か。

それすらも分からない。

だが、胸は高鳴っていた。

これが、自分の運命を変える一手だと知っているように。

彼は、口を開いた。


「我が名は、ゼロ。悪より生まれ、悪を狩る者」


それが、私のすべてを変えた瞬間だった。

次回、主人公が暴れます

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