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正義の実現者になりたくて  作者: 藤本悠
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第三話【初めての友達】

早足で完成させました。自分にしてはかなり早い方だと思います。次の投稿はちょっと時間が空くと思います。

ふと。

これまでの自分を振り返ってみた。

前世においては、英雄と称えられながらもそれは欺瞞だった。

今世においては、まだ何も果たせてはおらず理想には程遠い。

そんな自分に、価値はあるのだろうか。

多分ないだろう。

人は、死んだ時初めてその意味を、価値を見出される。

あいや、これは人間に限った話では無かったな。

全ての生命にはそれそのものに価値はなく、何の意味もない。

全てが終わったときに、それは分かるのだ。

だから、自分には価値がない、意味がない、だなんて腐っているのは何とも馬鹿らしい事だろう。

え?そうとも、自分を叱咤しているんだ。

今はまだ嘘だとしても、せめて助けた女の子にカッコぐらいつけなきゃ男じゃない。

―――と言う訳で。

記憶から再製した、懐かしの我が相棒―――二千年前の自動拳銃を握り、檻の鉄格子に向けておもむろに一発放った。

いや、銃は無理かと思ったがやれば出来るものだな。

ついでに、弾丸に起源魔術を付与して、一発で枠から格子を外すという演出に成功する。

もうちょいついでに、落下する格子を起源魔術で引き寄せ、手を振ると同時に横合いに飛ばす。

うんまあ、「正義の味方」の演出はこんなもんで良いだろう。

トリガーから指は外して、彼女の額に突きつける。

「……僕が死ねと言えば、死ぬのか?」

何となく言ってみたが、特に意味は……いや無い事もないか。

奴隷根性がどの程度なのか、確かめるのはまあ必要な事か。

「言い方を変えよう。僕が殺すというなら、黙って受け入れるのか?」

うーん、これで肯定する様なら、色々と教育しなければならないぞ。

「……だ」

「うん?何だ」

「いや……だ、です」

ほう。

なるほど、命までくれてはやらないか。

まったくよろしくはないし前途多難だが、ならまあ良いか。

死にたくない、が口に出せるならまだとりあえず大丈夫だ。

もとより選択肢はなかったが、この娘の面倒を見るとしよう。

「では死なないために動かなければ。失礼」

やせ細った手足、魔眼で視るまでもなく栄養失調だ。

この状態で歩かせるほど鬼畜でもない。

肩に担ぎ上げ、走る。

途中、いくばくか水を与え、死なないように注意した。

やれやれ、どうやら自分から厄介事を抱え込んだらしい。

ま、正義の味方になるためだ。

それぐらいは甘んじて受け入れよう。


***


……とは言ったものの。

水ぐらいなら僕でも何とかなるが、ちゃんとした食べ物となると一人ではちょっと厳しい。

しょうがない、ここは素直に信頼できる大人を頼るとしよう。

「アーリア、開けてください」

裏手から屋敷に戻り、彼女―――僕の専属のメイドが朝の支度をしに来たのを見計らって窓をノックした。

何故敬語なのかって?

怒らせると怖いからダヨ。

「……今度はどうなされましたか?」

アナの事もだが、彼女には色々苦労をかけているので、もう僕が厄介事を持ち込んだのは分かっているようだ。

「ちょっと、色々あって。お湯と、何か消化に良い食べ物と、女性用の下着と服を持ってきてくれませんか」

僕が傍らに抱えている彼女を見て、アーリアは察した様に目を閉じてため息を吐いた。

「……なるほど。ナギ様、アナ様に続きまた拾ってこられたのですね?」

「拾って来たって、そんな犬猫じゃないんだから……」

「ええ、そうです。ですので、拾ってきたという事は責任をもって面倒を見るつもりでしょうね?」

ね?怖いんだ怒らせると。

「勿論。ただ、今はちょっと手を貸してほしい。住む場所は僕が何とかするから、とりあえず今を乗り切らないと彼女、本当に死んでしまう」

じっ、とアーリアは十秒ほど僕を見下ろし、相好を崩した。

「分かりました。そのつもりでしたら私からは何も言う事はありません。少々お待ちを」

一礼して、アーリアは部屋を去り、そして数分後すぐに戻って来た。

「色々汚れているので、桶とお湯でまず身体を洗いましょう。飲むも食べるもその後です」

小さめの風呂桶を床に置き、彼女を―――あ。

名前を聞いていなかった。

しまったな、聞くタイミングはあったのだが、完全に忘れていた。

「あー……」

「今は後にしてください」

「……はい」

―――ともあれ、彼女をお湯に浸からせ、汚れを落とした。

風邪を引かない様バスタオルで身体を念入りに(アーリアが)拭き、アーリアが持ってきた下着と服を(アーリアが)着せた。

うん、僕役立たずだなこれ。

まあしょうがない。

せめて邪魔にならない様部屋の隅に移動し、少女が液状の何か(粥かスープかだろう)を口に運ぶのを眺めていると。

「……それで彼女はどちらから?」

まっとう過ぎる疑問がアーリアから飛び出してきた。

うん、いやまあこうなるとは分かった上でアーリアを頼ったんだけど。

説明しづらいなあ。

前提となる僕の凶行を説明しない事には―――たとえボカして話したとしても死体が見つかればどうせバレる―――納得がいく説明が出来ない。

話して良いものか、やはり迷う。

うーん……。

まあ、なるようになるか。

「えーと、実は……」

「それを聞くとナギ様に不都合がありますか?」

「え?」

「でしたら、深くは尋ねません。私が知る必要が出来たら、その時はお話しください」

なんと。

いくら僕付きの侍女だとは言え、ちょっと信頼し過ぎじゃない?

いや、それは今更か。

こっそりと修行するのにも、専属の侍女である彼女の目を避けてというのは現実的ではない。

なので、アナの事も彼女には話している。

それを叱責するのでもなく黙ってくれた時点で、彼女の僕に対する忠誠心は疑いようがない。

そもそも姉さんがつけたのだ。

簡単に僕を裏切る様な人間を指名はしないだろう。

……なんというかまあ、間接的とはいえ結局姉さんに助けられてるな、僕。

情けなさはあるが、それ以上に自分が愛されていて良かったとも思う。

「ありがとうございます、アーリア」

「いえ、フレア様から追加で給金を貰っておりますので。これも仕事の内です」

うーむ、素直じゃない。なんて、言った日にはボロ雑巾よりひどい目に合わせられる事間違いなしだ。

「とりあえず、今日いっぱいは僕の部屋で匿います。住居に関しては当てがあるので、それを使いますが、かなり頻繁に会いにいくつもりです。基本的にアナについていてもらうつもりですが、あの様子だと僕も必要そうですし」

「そうですか。私は他に何か?」

「そうですね、薬や日用品の類、後替えの衣類を何着か。あと、教育しなければならないので、ペンと紙ぐらいは必要ですね。これは僕の方で用意出来るので構いませんが。今思いつく限りではそれぐらいです」

「かしこまりました。住居が決定したら教えてください」

「はい」

さてと、そろそろ食べ終わったか。

本当は、今すぐにでも聞きたい事が山ほどあるが、流石に疲れているだろうし僕もそこまで考えなしじゃない。

「眠いだろうし、今は御休み」

体格はほぼ変わらないので、抱き上げるのに少し苦労したが何とか横抱きでベッドまで運び、寝かす。

続きは、起きてからだ。

「改めて、ありがとうございました、アーリア。朝の支度はこの通り、もういいので。行きましょうか」

身支度は先ほど済ませた。

出来る男は違うのだよ。

「かしこまりました。では、参りましょう」

先に部屋を出たアーリアに続いて部屋を出る。前にちょっと踏みとどまって。

「アナ。その娘、よろしく頼む」

「うん。任せて」

一応、頼んでから改めて部屋を後にした。

そろそろ姉さんが起きてくる時間だ。

二重の意味で朝の稽古に遅れる訳にはいかないので、さっさと行こう。

木剣を片手に、今日はアーリアと共に裏庭へ出る。

東の山から陽が差し込んできた。

そろそろ来るかな。

噂をすれば、足音と共に、姉さんが現れた。

「あら、今日はアーリアも来てるの。珍しいわね」

「おはようございます、フレア様」

「そうね。それじゃあナギ、始めるわよ!」

珍しく、姉さんが合図ありで打ち合いを始める。

さて、いつもの毎日のはじまりだ。


***


そして、いつも通りボコボコにされる。

魔力ありでも、技量ではまだ姉さんの方が上回っているからか一瞬の隙を突かれ滅多打ちにされた。

それでも、以前よりはまともな試合になっている。

これでまだ成長の余地があるのだから、我が姉ながら末恐ろしい。

「やっぱり姉さんには敵わないなあ」

「当然よ。ま、でも最近はやりがいがあるわね」

しっかりと地力が磨かれているのだと、認められたようで少し嬉しかった。

そして、昼過ぎ。

今日は工房の手伝いは休む事にして、エルフの少女の面倒を見るのに使おう。

彼女は、しっかり九時間ほど寝て、そしてそろそろ三時だしおやつ持ってきてーという時分になってようやく目を覚ました。

「んう……」

「お、起きた?おはよう。って言ってももう三時にはなるけどね」

「うにゃ?」

まだ眠いようだ。

こういうのはあんまりよくないんだけど、ちょっと目を覚ましてもらおうか。

「ちょっと額失礼―――『(だつ)』」

彼女から眠気を『奪った』。

起源魔術は、習得難易度は馬鹿みたいに高いがその分使えれば非常に便利だ。

僕の起源は、本来だと『奪い、与える』。

何やら色々あって本来とは少し違うらしいが、基本的にはこの二つが僕の起源だ。

眠気を奪うのは、加減を間違えると不眠症になりかねないので多用は避けているが、このままだとそのまま二度寝されそうだったので目を覚まさせてもらった。

しかし、こうして見ると可愛い子だな。

短めの銀髪、透き通るような白い肌、森妖精(エルフ)特有の尖った耳、赤銅色の美しい瞳……赤銅色?

あ?待て待て待て。

今朝見た時は確かにブルーだったぞ?

「……どういう事だ?」

訳が分からない。

眠気を奪った時に間違えて目の色も奪ってしまったのか?

だがそれならもっと分かりやすく異質なはずだ。

体質?見間違え?それとも何らかの魔術による偽装?

うーん……。

「まあいっか」

多分すり替わったとかでは無いだろう。根源は確かに今朝見た彼女のものだし、アナもついていた。

「えっと、あの……?」

おっと、どうやら不安がらせてしまったようだ。

「改めて、こんにちは。僕はナギーニャ・ヴィ・ノクター。みんなにはナギって呼ばれてるんだ」

「……ナディ?」

「いや、ナギ」

「ナディ」

「ナギ……」

「ナディ!」

「ああもう、それでいいや」

舌足らずなのか、それともどういう経緯でか言葉が不自由なのか。

そもそも名前なんて識別出来れば良いんだから、こんな事にムキになるのは馬鹿だ。

とりあえず僕の呼び方はそれでいいや。

「それで、君の名前は?」

だから、まず彼女の名前を知るところから始めよう。

「わた……ボクは、シル」

コンコンコン!

何だいったい。

今大切な時間だってのに。

しかしなるほど、シルというのか。

ひとまず、シルに布団の中に隠れている様に言い、扉を開ける。

「……ってアーリア?どうしたのさ」

「おやつをとの事でしたので、厨房から持ってきたのですが」

あ、ヤベ。

「ごめんごめんアーリア!とりあえず入って!」

後で平謝りすることになりそうだが、まあ良いや。

今更僕に尊厳なんてないし。

「おや。お目覚めになられたのですね」

「ああうん、さっきね」

お茶の用意をしてくれているアーリアを尻目に、会話を再開する。

「それじゃあ、話の続きをしようか。えーと、シル。君は今何歳?」

まずは、簡単な質問から。

これで年が分からないと言われたらちょっと困った事になったが、そんな事はなかった。

「えっと、今年で十歳。生まれは四月」

「そっか。どこで生まれたか、分かる?」

「えと、前までは、ノト村にいたんだ」

ふむ。公爵領の村じゃないか。

となると、いくつか姉さんに報告しておかないといけないかもしれないがそれ以上に。

「君の親はそこに今もいる?」

僕が住むところを探す必要もなく、家に帰してあげればそれで良い。

「えっと、その、分かんない」

「ナギ様、よろしいでしょうか」

「何ですか、アーリア?」

紅茶を淹れて僕たちの前に二つカップを出しながら、

「ノト村は先日、村長にあたる騎士の失踪で崩壊、村は実質取り潰しとなりました」

と耳打ちしてきた。

あー。

となると、探すのは面倒だな。

聞き込みで探すにしても、今日明日の寝床の確保をしないと。

やはり、当面は僕が面倒を見なければならないようだ。

「ナディ?」

きょとんとした顔で僕の事を見てくるシル。

この事実を、出来るだけ傷つけないよう伝えなければならないのか。

「シル、よく聞いてほしい。君のお父さんとお母さんは、今はちょっと見つけるのが難しいんだ。しばらくの間、こことは別のところで寝泊まりしてもらわなきゃいけない。もちろん、一人にはしないけど、それで良い?」

嫌って言えない雰囲気作って言うのもだいぶ卑怯だと思うが、まあ嫌なら嫌で方法はいくつか考えてはいる。

「会いに来て……くれる?」

「勿論。毎日会いに行くよ」

「でもわた……ボク、ハーフエルフだよ?一緒にいたら……」

ハーフへの差別か。

ここノクター公爵領では原則種族や宗教による差別は禁じられている。

だが、それが子供にまで強制できるかと言えば、否だ。

それを気にしてくれているのだろう。

「なら、君が友達になってくれれば良いよ」

「友……達……?」

「うん。ダメかな」

ま、これでダメって言われたらマジでしばらく引きこもってやる。

「ううん、ダメじゃないよ。よろしく、ナディ」

「こっちこそ、これからよろしく、シル」

こうして、今世で初めての友達が出来た。

出会いも経緯もおかしなものだが、多分、前世含めて初めての、まっとうな友達だ。

正直、めちゃくちゃ嬉しい。

しかし、ナディか。

ナギってそんなに言い辛いかな……?

ひとまず、ここで一区切りです。次は時間が五年ほど飛びます。出来るだけ早く投稿したいと思います。

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