第十話【悪を狩る者たち】
いやほんと……もう遅刻常習犯ですいません……。冬休み入ったので今までよりは早く更新出来ると思います……。
一方、地上。
彼が遊んでいた間、地上は地上で大混乱だった。
唐突にガーデンと結社が全力で衝突したのだ。
隠蔽出来る規模ではなかった。
当然街にも被害が出ており、開戦から五分で既に十五棟が倒壊、七十八棟が戦闘の余波で半壊。
火災こそ発生していないが、街は戦場の様相をなしていた。
「何が起こっているの!?」
「分かりません!五分前に膨大な魔力を検知しましたが、範囲が広すぎて発生元の特定は出来ていません。今のところ市民に死傷者は出ていませんが、かなり大規模な戦闘の様でいつ二次被害が出てもおかしくありません!」
「くっ……。仕方がない……私が前に出る!戦線は維持するから、市民の避難を急がせなさい!それと同時に地区の封鎖も急いで!」
そう部下の騎士に告げ、眼下の戦場へ飛び降りる一人の騎士。
彼女こそ、アストレアの姉にしてアスリル王国第一騎士団騎士長。
そしてアスリル王国第一王女、クラリス・アスリルである。
***
「アレフ様、既に結社の構成員の損耗率、三割以上に達しました。後はほとんどが末端の非戦闘員です。作戦は」
「変更なし。全員殺して、死体は回収しなさい。彼の禁術で後から情報は抜き取れる。今宵は我々のお披露目でもあるのだから、確実に全員殺して、全員生きて帰る事。彼から、貴方達の死は許されていないのだから」
「……はっ!」
平兵士からの伝令を受け、作戦の続行を命じるアレフ。
開戦から十分未満。
彼女はこの盤面を完全に支配していた。
徹底した集団戦術、遺体処理、情報の逐次更新。
現場指揮はギメルに任せているとは言え、ゼロが完全に指揮系統を彼女に丸投げしている以上手抜かりなど出来るはずもない。
何より、相手は怨敵だ。
全体指揮を執っていて何故手を抜けるだろう。
「報告です、アレフ様」
「ベート、早かったわね」
「予想より早く事が片付きましたので。ゼロ様が動かれました。それと、伝言です。『巨人の亡霊は任せた』との事」
建物の上の指揮所に戻って来たベートからの報告を受け、眉を顰めるアレフ。
「……なるほど、この魔力。確かにあれは騎士団や平兵士でどうにかなるものでは無いわね。私も動くわ、ここは一旦貴女に任せるわよ、ベート」
「お任せを。アレフ様も、お気を付けて」
ベートに全体指揮を任せ、ゼロからの指令を受けてアレフは戦場へと足を踏み入れた。
「……しかし、これはまた。随分と荒れそうね」
一方、スヴァローグ学長室。
「ええ、第五区画丸ごと封鎖しちゃってください。最悪あそこごと吹き飛ばすので、市民の皆さんは絶対に中に残さないでくださいね。え?区画丸ごと吹き飛ばす方法?企業秘密です、とだけお答えしておきましょう。……次の北の大遠征、万全を期しておきたいですよねぇ?そんな時に国民からの信頼が得られなかったら、困りますよねぇ?ええ、どうも。いやいや悪魔だなんて、そんな褒めないでくださいよ、照れます。それでは、いつも通り上手く処理してください」
悪魔はニヤニヤ笑いで電話を切り、『窓』で戦況を確認する。
「流石にあの程度の構成員ではガーデンに手も足も出ませんね。頼みの綱のウィンティ先生も、ゼロが相手では分が悪い。これなら、介入の必要はなさそうですね。色々と問題ですが、まあ被害は何も知らずに現場処理に追われている第一騎士団と地区一つなので、何ら問題はありませんか。……ん?……なるほど……。……クックックックックッ……!いやあ本当に、人間は見ていて飽きませんねぇ」
窓に映ったそれを見て、何を察したのか、愉悦に浸った笑い声が喉から漏れる道化悪魔。
「ベアトリクス……アレフでしたか。彼女は確か解除出来ましたね」
それを目指し戦場を疾走するアレフを見ながら。
「どんな反応するか楽しみですね。私、悪魔ですからこういうのは大好物です」
人の嘆きを喰らう悪魔は、愉悦の到来を予感した。
「……フッ!」
平兵士が討ち漏らした結社の構成員を見つける度に一呼吸で屠りながら、走り続けるアレフ。
「あと少し……ッこの魔力の感覚……!まさか……!?」
一つの嫌な予感。
焦燥感に駆られ加速するアレフ。
それは、あってはならない事だった。
同時に、結社が王女を攫った時点でそれの存在はほぼ確定していた。
それは、何度も見たものだった。
「あれは、第一王女……今鉢合わせると面倒ね」
クラリスを避け、建物の上から現場を覗く。
「……ッ!そう……やっぱりそうよね……」
眼下に広がるは、粉塵を切り裂きながら暴れる異形の巨人。
それに斬りかかる、第一王女だった。
「かつての私たちと同じ、悪魔の受肉体……!」
それは、生け贄にされた肉の器だった。
「―――愚か。人間とは醜さを備えているものですが、これはその中でも最上級のものだ」
学園の悪魔は、声色とは裏腹に冷淡な表情だった。
「長く人間を見てきましたが、いつの世も振り切れた狂気は芳醇な絶望と苦痛をもたらしますね。ま、残念なことに苦痛は私の好物ではないので愉悦に染まり切れませんが」
ツイ、と窓をアレフに向け
「ああ、だがこの煮えたぎる怒りは私の好むところです。これはこれでなかなか……」
悦に浸っていた。
当の本人はそんな事知る由もなく。
「終わらせないと。早く、楽にしてあげないと」
半ば機械的に、飛び上がりかつて己を救った術を剣に乗せる。
「本来の用途は違うらしいけど……」
剣を握る手が震える。
何度も人を殺した。
悪人を殺してきたし、彼の為なら善人だって殺すつもりだった。
だが。
同胞を殺す事だけは、躊躇ってしまう。
それでも。
貴女はもう助からない。
だから―――
「今、開放してあげる……!穢土廻生の術、解!」
穢土廻生。
死した人間を遺伝子情報と生け贄を利用し惑星の根源からサルベージしてこの世に呼ぶ術。
憑りつく原理が悪魔の受肉と近しいため、術の解除方法も共通で使える。
「誰だお前は!このバケモノについて何か知っているのか!?」
背後から響くクラリスの声。
怒鳴り返したい衝動を抑え、言うべきことだけを告げる。
「誰だと言われれば、私はアレフ。彼女については、予想はしていたけど本当にいるとは思っていなかったわ。これでいいかしら」
絶対に心の内を悟られない様に隠し、淡々と答える。
「……ッ!今戦っているのは、お前の仲間なのか!?」
「ええ。悪いけど遺体はこっちで回収させてもらうわ。貴方達よりは有効に活用出来るもの」
ぞんざいな物言いに睨みつけてくるクラリス。
「いったい……お前たちは何なんだ……!いきなり街を破壊し始めて……!」
「―――我らは、ラウンズガーデン。悪より生まれ、悪を狩る。ただそれだけのためにある」
そう、一番の目的であった自分たちの台頭を告げ、その場を後に去ろうとした時。
「待て!何故……誰と戦っていると言うんだ!罪を重ねたとして、それでも倒すべき悪とは何だ!?」
「せめて言うなら……人類悪」
「何?」
「知りたいと言うのならそこまでは止めないわ。ただし、闇を知ろうとする以上、闇に呑まれる事も覚悟しなさい」
アレフはそう言い残し、幻術で姿をくらました。
「……何だったと言うのよ」
一人残されたクラリスは、ただ茫然とその場に立っていた。
***
「今戻ったわ」
「こちらは特に異常ありません。……そちらは?」
首を横に振り、
「いいえ、もう手遅れだったわ。彼に後で穢土廻生してもらうけど、丁重に保管しなさい」
現場から抱えてきた少女の亡骸を、平兵士に手渡した。
「我々の目的はこれで十分達成したわ。引くわよ」
「はい。撤退の用意を!」
構えていた陣を即座に引き払い、地区から脱出するラウンズガーデンの面々。
その直後、背後から感じる膨大な魔力の高まりと天変地異かと見紛うほどの爆発。
―――彼の魔力。
先程の戦闘でナーバスになっていた精神が、あの美しい魔力を見た事で安らいでいる。
そうだ、大丈夫だ。
彼がいれば、彼さえいれば。
私は、どこまでもいける―――!
もうちょっとだけ続いて、一旦王女編区切り付けます。次回は年内には上げます。
※追伸、無理そうです。




