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部屋にて

直樹は12番だったので、三階の部屋だった。

温めてまだ食べていない冷凍食品を手に、追われるように上がって来た。

一番端が11の和彦で、その下の二階の部屋が1の悟の部屋になるはずだった。

急いで部屋の扉へと向かうと、和彦が言った。

「結構扉と扉の間が広いな。」と、奥へと歩きながら、直樹を振り返った。「監獄みたいな部屋かもと覚悟してたんだが。」

この立派な洋館に監獄はないだろう。

直樹は苦笑しながら自分の扉を開いた。

そして、思わず声を上げた。

「…うわ!凄い!」

そう、すごいのだ。

正面の窓には高そうなカーテンが纏めてあって、明るい。

そして、何より天井からはスッキリしているが豪華なシャンデリアの小さな物が吊り下げられていて、廊下から続いてふかふかの絨毯が敷かれてある。

「え、マジで?」それを聞いた和彦が、自分も部屋の扉を開いた。「うわ、なんだこれ。」

そうして、こちらに構わず中へと駆け込んでいく。

直樹も、自分の部屋へと入って扉を閉じた。


モニターで見た見取り図の通り、入って左側に大きなクローゼットがあり、右側の扉を開くとシステムバスがあった。

中へと足を進めると、向かって右側には大きな天蓋付きのベッドが鎮座していて、左側には長い机とその下に小さな冷蔵庫、そして正面の窓際には椅子が二つと、小さな丸いテーブルが置いてある。

そして机の上には、ルールブックが置いてあった。

急いで冷凍食品と飲み掛けのペットボトルのお茶をそこに置いて、それを手に取って中を見ると、確かに細かくいろいろなことが書いてある。

役職のことも一つ一つ解説してあって、狩人の連続護衛は無しだった。

つまり、狼にもチャンスはあるわけだ。

気になる狂人の項目だが、そこには『狼陣営。占われたら白となります。狼を勝ちに導くのが役目となります。』とだけ書いてあった。

基本的に、村人とあまり変わらないのだ。

ただ、狼陣営なだけで。

…どうするかな。

直樹は、眉を寄せてベッドに座ると、考え込んだ。

狂人は、占い師に出たのだろうか。

だとしたら、美智か悟である可能性が高い。

霊媒師に出られなかった自分は、潜伏狂人になってしまったが、こうなったからには、ここからしっかり考えて、狂人だと疑われている今を払拭して行かなければならない。

本当は、狼の代わりに吊られる覚悟もあった。

だが、この項目…『追放されたら、命を対価としてもらい受けますが、対価を先に支払ってくださっているかたは保留になり、ゲーム終了時に敗者であればお金は没収されます。』ということだ。

支払っていなければ、有無を言わさず殺されるということなのだろう。

あいにく、そこは全く覚えていなかったが、恐らく記憶では金に困っていたので、自分は支払ってはいないだろう。

だが、勝ったら…。

『勝利陣営は、帰って来ます。』

こうも、書いてあった。

しかし、正志が叫んでいたように、死んだものをどうやって生き返らせるというのだろう。

直樹は、頭を抱えた。

…これは、吊られるわけには行かなくなった。

だが、それでどうやって狼を勝たせたら良いんだろうか。

霊媒師に出なかったことは、生き残ることを考えると良かったと思う。

だが、役に立たない狂人の自分を、狼はどう見ているのだろうか。

そもそも、狂人だと思わずに襲撃されてしまうかもしれないのだ。

…発言には、気を付けよう。

直樹は、気を引き締めた。

これは、遊びではない。

命がかかっているのだ。

まずは食事だと、もう冷めて冷たくなったパスタを、急いで掻き込みながら、これからの議論のことを考えたのだった。


しばらくしてから、食べ終わった皿を持って下へと降りて行くと、リビングに数人が降りて来て、窓際のソファで話しているのが見えた。

そこに居た、真悟が振り返った。

「直樹か。こっちに来いよ、話をしよう。」

直樹は、頷いた。

「うん。待ってくれ、ゴミを片付けて来る。」

直樹は、急ぎ足でキッチンへ入って分別されているゴミ箱の中へゴミを放り込んだ。

すると、祈が振り返った。

「あら。ご飯終わりました?」

直樹は、頷いた。

「はい。」思わず敬語が出てしまう。直樹は続けた。「祈さんは、どうしたんですか?」

祈は、答えた。

「夜ご飯の下準備をしていたの。昼ご飯は急がなきゃならなかったけど、夜はもっときちんとしたものを食べさせてあげたくて。ただの野菜炒めと味噌汁を、それはおいしいおいしいと言って食べてくださるものだから。」

煌は、案外何でも満足できる人なのかもしれない。

そこへ、真希が入って来た。

「あら?二人でどうしたの?怪しいなあ。」

どっちの方向に怪しいんだろう。

直樹は、どちらにしても急いで言った。

「いや、オレはゴミを捨てに今来ただけ。」と、手を上げた。「じゃあ、オレは真悟さんに話そうって言われてるからリビングに出ます。」

祈は、頷いた。

「ええ。」

しかし、真希は言った。

「待ちなさいよ、祈さんは結構人気があるみたいよ?悟さんも和彦さんも、あの人と話してみたいなあって言ってたし。あなたが抜け駆けしてるの知ったら、吊られちゃうかもよ?」

やっぱりそっちか。

直樹が慌てて否定しようとしていると、祈が先に言った。

「何を言っているの?私は33歳なのよ。直樹さんはまだ22歳でしょう。こんなおばさんに、いくらなんでもかわいそうよ。変なことを言わないで。」

凛とした言い方で、思わず直樹も真希も怯んだ。

とはいえ祈は、綺麗なお姉さんといった感じなので、直樹から見ていくらでもイケる範囲だったが、余計なことは言わなかった。

真希は、ふて腐れた顔をした。

「でも…祈さんばっかり。男性ばかりで話してるのを聞いたら、みんな祈さん祈さんなんだもの。誰か決めてくれたら助かるなって。私は、煌さんと仲良くなりたいと思ってるから、その他で。」

直樹は、内心眉を寄せた。

…命が懸かってるんだぞ?

祈は、ため息をついた。

「…あのね、多分、だけど私、結婚してる。」え、と二人が目を丸くすると、祈は左手を上げた。「ほら。指輪の跡があるの。ここだけ日に焼けてなくて真っ白でしょ?覚えていないけど、だから男の人なんか考えられないのよ。煌さんも、チラと見ただけだけど、手に同じような跡があったから、多分既婚者よ?だから私、そんな風に見ないようにしているわ。それどころじゃないし。」

…ほんとだ。

直樹は、納得した。

そもそもこんなに綺麗な人が、独身のはずはないのだ。

真希も、急いで自分の手を見ていたが、どうやら真希は結婚していないようだった。

「…そうか。じゃ、祈さんは煌さんには何もないのね?」祈が驚いた顔をする。真希は続けた。「じゃあ、私が言い寄ってもいいよね。」

直樹が、言った。

「ダメだって、聞いてなかったのか?煌さんにも指輪の跡があったって。」

真希は、顔をしかめた。

「それが何?」え、と祈も直樹も目を丸くする。真希は不敵に笑った。「ここには奥さんもいないんだし、仲良くなれば私を選んでくれるかもじゃない。祈さんが強敵だと思ってたから、良かった。だったら良いの。じゃあ、私が煌さんの食事を作るから、祈さんはもういいよ。それは、誰か他の人と食べて。」

祈は、何か言おうとしたが、仕方なく頷いた。

「…分かったわ。」

直樹がドン引きしているのにも、全く意に介さず、真希は嬉々として冷蔵庫を開け始めた。

祈は黙って煮物などを片付け始めて、その空気に耐えきれず、直樹は逃げるようにリビングへと出て行ったのだった。


リビングへ出てため息をつくと、真悟が振り返った。

「あれ。どうした、ゴミを捨てたにしては時間掛かったな。」

直樹は、そこに座るみんなに寄って行きながら、小声で言った。

「…真希さんが来て。祈さんがご飯作ってたんだけどね。あの…あの人、ヤバくないか?」

「え、祈さん?」

正志が言う。

直樹は、首を振った。

「いや、真希さん。なんか、命懸けだって分かったところなのに、恋愛とか…あり得ないんだけど。なんか祈さんがもてるとか何とか言って。」

向こうに座っていた、清が言った。

「マジか。こっちはそれどころじゃないのに。てか、そりゃオレだって祈さんは綺麗で上品だなって思うけど、それはみんな思ってることだろ?」

それには、海斗が答えた。

「だよね。あの人、優しいし雰囲気がお母さんみたいで好き。話し方も上品だしね。」

直樹は、言った。

「でも向こうが海斗よりかなり歳上だろ?」

高広が、苦笑した。

「オレはオレのが歳上だからな。確かに話したいとは思うかな。」

直樹は、ムスッとした顔をした。

「でも、祈さんは多分結婚してるって言ってた。覚えてないらしいけど、左手の薬指の辺りに白く指輪の跡があったんだよね。それで、恋愛とかないって真希さんに言ったんだけど…真希さんが狙ってる人、知ってるか?」

海斗が頷いた。

「煌さんでしょ?でも、煌さんは祈さんばっか見てるし、多分祈さんがタイプなのか、それとも自分に面倒なことを言わないから良いのか、どっちかだよね。どっちにしろ真希さんは望み薄なんじゃない?」

ハッキリ言うなあ。

直樹は思ったが、言った。

「祈さんは、煌さんの指にも跡があったって。」皆が驚いた顔をする。直樹は続けた。「だから、そんな対象には見てないって。でも、真希さんは全然気にしてないみたいで、ここには奥さんが居ないから、自分を選んでもらうとかなんとか…もう、オレドン引き。食事も夜から自分が作るってさ。祈さんは黙って片付けてたけど。」

真悟が、呆れたように顔をしかめた。

「マジかよ。なんかめんどくさいなあ。盤面濁るじゃないか。私情のもつれとかで吊り押したりしないだろうな。人外が分からなくなる。」

清も、険しい顔をした。

「迷惑だな。やめて欲しいが、その様子だと言って聞きそうにないな。どうしたもんだろう。」

海斗が、言った。

「詩子さんも、煌さんが好きみたいだったよ?揉めるんじゃないかなあ。裕馬に言って、そういうの無しにしてくれって言ってもらう?」

それが一番かもしれない。

聞くかどうかわからないが。

直樹は、ゲーム外で何をやってるんだと、叫びだしたい気分だった。

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