賞金
『皆様、ご記憶が戻られたのでご自分が署名された契約のことについても、思い出しておられるかと思いますが、賞金は1000万円を上限に、自陣営にどこまで貢献したかで決まります。とりあえず、勝利陣営には一律百万円。そこから、貢献度をこちらで観察しておりましたので、一番貢献した方には更に900万、その他、生き残った日数などで計算して、それぞれの金額を設定しました。ちなみに、勝利の妨げになるような動きをされた場合も、百万円からマイナスになっていて、今画面上に現れているのが、最終的にそれぞれに支給される金額となります。ご確認ください。』
見ると、裕馬の数字の横には、8,000,000と表示されていた。
「…やった!借金が激減する!」
裕馬は、思わず叫ぶ。
しかし直樹と、煌の横には0、しかなかった。
ルール違反だったからだ。
しかし、和彦が戸惑いがちに言った。
「…オレ、狼だったんだけど。」
そう、和彦と、諒の横にも、数字があったのだ。
声は答えた。
「まず、敗者であっても一律、生き残った日数でお給料をお出ししております。1日10万円の計算ですので、7日生き残った方は70万円です。」
つまり、和彦の横には60万の表示があった。
ちなみに貢献度が一番高いと判断されたのは真悟らしく、その隣りには1000万の数字が燦然と輝いていた。
「…僕は、生きてただけだもんねぇ。」海斗が言う。「500万でも貰いすぎだよねぇ。」
だが、詩子が不満げな顔をした。
「私はどうして50万円なの?納得が行かない。」
確かに、詩子は0が一つ少ない。
勝ったのに、初日に噛まれた徹より少ない金額なのだ。
声は、答えた。
「村の勝利に貢献するどころか、惑わせた村騙りはこちらでの評価もかなりマイナスになりました。本来、もっと少ない金額でしたが、一応勝利陣営ですのでそれだけ残した形です。」
詩子は、むっつりと黙る。
玉緒は、言った。
「…でも、無いよりマシ。私はもっとしっかりするべきだったわ。狼の人達に迷惑をかけてしまった。反省しているわ。」
諒は、玉緒を見た。
「こっちこそ、邪険に扱ってごめんな。勝てなくて申し訳ない。」
咲子は、亜由美に言った。
「亜由美さん、庇えなくてごめんなさい。あなた、初日に吊られたしで10万円しかないわね。もう、勝てないってあきらめて後悔してる。」
亜由美は、苦笑して首を振った。
「いいの。狐になった時点でヤバいなあって思ってたから。騙りに出てくれてありがとう。私は怖くて無理だった。」
みんなが、それぞれの金額に納得していると、声は続けた。
「では、後でお部屋に現金でお届けしておきますので、ご確認ください。明日までの予定で迎えのバスが来るまでまだお時間がありますので、ご自由に過ごして頂いて結構です。玄関の施錠もなくなっておりますが、外は獣も迷い込んで参ります。お散歩の際には、熊避けの鈴をご用意致しますので、それをお持ちになってください。ちなみに熊は、一度敷地へ侵入してリビングの窓を割って入って来たことがあり、リビングの窓は強化されておりますので、屋敷の中に居る限りは問題ありません。」
熊が来るのか。
というか、だから厳重な窓になってるのかよ。
皆はドン引きだったが、煌は機嫌よく立ち上がった。
「終わったな。私は紫貴と部屋でゆっくり過ごすかな。ゲームの振り返りもしたいし。」
それには、紫貴が慌てて言った。
「まあ。あの、振り返りなら皆でやった方が良いですわ。それぞれの視点が聞けますでしょう。ここで、したい人だけ残ってやりましょう。」
モニターの声が、割り込んだ。
『それでは、明日の朝バスが参りましたら順に乗り込んでください。この度は、ゲームにご参加頂きまして、ありがとうございました。』
モニターは、暗転した。
美智が、シンとした皆に、気を遣って言った。
「じゃあ、振り返りする?休みたい人は部屋に戻って。私は噛まれてからずっと見てたけど、個人の部屋の中まで見えてないからみんながどんな風に頑張ったのか、細かいところが分からないのよ。」
亜由美が、何度も頷いた。
「そうね!私も。初日に一人でさみしいなあって思ってたら、徹さんが来てホッとしたのよね。みんなに、死んでないんだよってこっちで叫んでたんだけどな。」
清が、言った。
「そういえば、どこに居たんだ?声なんか気配すら全くだったのに。」
それには、徹が答えた。
「四階だよ。ロープ張ってあって入れなかったけど、オレ達はそこに居たんだ。クリスさんとか、他にも外国人の人とか居てね、めっちゃ至れり尽くせりだったんだ。オレ達は上で、モニター見ながら食っちゃ寝してたわけだよ。暇だからゲーム機でゲームしたりな。あ、ここゲームキューブあるんだぞ!プレステ2も。」
ということは、追放組は悠々自適で過ごしていたのだ。
煌は、苦笑した。
「…まあ、今の時代ならそれらが最新機器だな。暇をもて余したら、それらも君達にはいい暇潰しになるのだろう。」
今の時代…?
皆が怪訝な顔をするのに、紫貴が横から割り込んだ。
「それより、ゲームですわ。初日からお話を聞かせてもらいましょう。特に直樹さん、どうしてあの時に出たのかとか。直樹さんなりに、良い頃合いだと思われたんでしょう?潜伏せずに出た理由とか、お聞きしたいわ。」
直樹は、渋い顔をした。
「ええっと…あの、オレはホントにヤバいことしたから。他の人の話を聞いてみたほうが良いんじゃないですか。」
しかし、諒が直樹を意地悪そうな顔で見て、ニヤリと笑った。
「ホント、聞きたいよな。自分があんな死にかたしたら、狼不利になるのにどんな利があると思ったのか。」
直樹は、赤い顔をして、叫んだ。
「だから!ほんと狂ってたとしか思えないんだってば!」
皆が笑い、そこからゲームの話になった。
それぞれの視点の話が、とても珍しく面白くて、裕馬は夢中になったのだった。
夜も更けて、時間制限もなくなったのでまだリビングで残って酒を飲んでいる人達も居た中で、裕馬は部屋に向かって歩いていた。
…長い一週間だった。
裕馬は、思った。
本気で死ぬと思ったからこそのあの進行だったが、こうなることがわかっていたならもっと上手いことやれた気がする。
気持ちの余裕が違うのだ。
階段を上がって折り返そうとすると、煌と祈、いや彰と紫貴が部屋に入ろうとしているところに行き合った。
彰が、振り返って言った。
「裕馬。君は酒盛りに付き合わないのかね?」
裕馬は、答えた。
「彰さんこそ。」と、近くへ歩み寄った。「お二人はホントに仲が良いんですね。結婚してたことすら忘れてたのに…凄いと思います。」
彰は、機嫌よく頷いた。
「私達は一緒にいろいろ乗り越えて来たからな。命に刷り込まれているのかもしれない。私が紫貴以外を愛するはずなどないのだ。」
紫貴は、苦笑している。
裕馬は言った。
「子供の頃からなんですよね?正志さんが言ってた。一緒に育ったんですか?」
紫貴は、首を振った。
「いいえ。最初は図書館で会っただけだったの。彰さんが5歳の時よ。その後すぐに彰さんはアメリカに留学してしまったので、何年も離れていたわ。文通したり、電話で話したりしていただけ。再会したのは私が高校卒業前だったわ。」
ということは、彰はその頃まだ中学生になるかならないかではないだろうか。
彰は、言った。
「ずっと紫貴だけを思っていたのだ。私は幸せだよ。最初に出会っていたから、あれこれ寄り道することもなく生きて来られたのだから。」
5歳からとは凄いな。
年季の入った想いに、裕馬は舌を巻いた。
これじゃあ確かに真希さんが割り込むなどできなかったはずだ。
裕馬は、笑って足を階段へと向けた。
「じゃあ、もう部屋に戻ります。おやすみなさい、また明日。」
彰と紫貴は、頷いた。
「おやすみ。」
そうして、二人は部屋へと入って行った。
それを見てから、裕馬も階段を上がって行ったのだった。




