狼の話3
祈さんは、次の日追放されて見付かった。
オレは、ここは狼らしく振る舞おうと、慌てた様子は見せなかったが、占い結果を聞いて驚いた…真悟は海斗、悟は和彦を占っていたのだ。
また、引っ掛けられたのだと思った。
海斗は当然ながら生きていて白、もう真悟目線でのグレーは和彦しか居ない。
つまり、祈さんは呪殺ではあり得ず、狼目線ではもう、詰みだった。
祈が真だと皆に分かったことになるので、真悟目線でのグレー吊りは続行され、和彦しか吊る場所はない。
オレは露出しているので、絶対に吊られる。
今夜、和彦が吊られたらもう、終わりだった。
オレと和彦は、部屋で話した。
和彦は自分が選んだ襲撃先でこうなったので、悔いはないがオレにはすまないと言っていた。
和彦は思い出したことを話してくれたが、どうやら家族を養うために、起死回生を賭けてこれに参加していたらしい。
自営の会社は傾いていて、明日の支払いにも困る状況だったと。
だが、どうしても娘の学校のこともあるし、金が要った。
命懸けになるだろうと聞かされていたが、なのでこれに参加したのだということだ。
家族には、一切何も話さず来たのだという。
恐らく出張だと思っているが、死んで戻ったらどうなるのかと考えた。
思えば、高めの生命保険に入っていたし、年金も真面目に払っていたから、遺族年金もあるだろうと思い出した。
死んでも問題ないなと思えて、今は心も穏やかなんだと和彦は笑っていた。
オレには、そんなものはなかった。
きっちり生きて、結局死ぬことになる和彦が、生かしてやりたかったと涙が出た。
だが、時は無情に夜になり、そして和彦は、覚悟の上で吊られて行ったんだ。
昨夜は、本当はもう、誰も襲撃せずに、ルール違反で死のうと思っていた。
でも、よく考えたらオレ達だってオレ達なりに必死だった。
好きで狼だったんじゃない。
狐の奴らもそうだろう。
だから、話してから死のうと思った。
だから、誰でも良かったが真悟を噛んだ。
狂人達には悪かったと思ってる。
だが、直樹がもっと上手く立ち回ってくれてたらと思うから、オレがすまないと思うのは美智さんだけだけどな。
あの人は囲ってくれてたんだから。
あそこが勝敗の分かれ目だったと今思う。
それにしても、煌さんは会ったばかりの祈さんをそこまで想うって凄いな。
祈さんも煌さんを守らなければもっと簡単にゲームが終わってたのに。
ほんと、オレ達は帰れないが、あの二人には幸せになって欲しいもんだよ。
記憶が戻ってから結婚、してなかったらいいよな。
裕馬は、長い話を聞いて、複雑だった。
人外が悪いのではないのだ。
たまたま振り分けられただけで、狼や狐も頑張らなければゲームは成立せず、結局全員ゲーム放棄で追放だっただろう。
正志が、言った。
「…まあ、狼を恨んでねぇよ。追放された奴らが戻って来るのか分からねぇが、戻って来るとしてもお前達が犠牲になったと聞いたら複雑だろう。結局、こんなことをやらせてる奴らが悪いんでぇ。金が欲しい気持ちにつけ込んで…もう、言っても仕方ねぇがな。」
海斗が、言った。
「ねぇ、もう終わりなんだし、好きに過ごそうよ。諒さんも。敵味方関係なく。やってられないじゃないか、こんなの。最初19人居たんだよ?もう…今、6人だ。」
残っているのは悟、正志、諒、海斗、清、裕馬だけだ。
好きに過ごすといって、何もすることがない。
すると、モニターから声がした。
『…投票しますか?』
え、と皆が顔をあげる。
モニターの声は、また続けた。
『投票を開始しますか?』
今すぐ、ゲームを終わらせるかと聞いているのだ。
裕馬は、躊躇った。
「え…でも、まだ時間があるのに。」
諒の生きる時間が短くなってしまう。
だが、諒は言った。
「…投票を始めてくれ。」と、戸惑う皆に向かって苦笑した。「とっくに覚悟はできてるんだよ。むしろ長引く方がつらい。さっさとやってくれ。」
すると、モニターが答えた。
『投票してください。』
皆は、慌てた。
「え、え、本当にもう?!」
正志が言う。
「急げ!遅れたら全員追放だぞ!」
皆は、その声に慌てて腕輪のカバーを開いた。
そして、諒の番号、8を入力した。
『…No.8は追放されます。おめでとうごさいます。村人陣営の勝利です。』
皆が肩の力を抜くと、諒がカックリと首を前に倒して動かなくなった。
だが、勝ったのにこのどうしようもない気持ちはなんだろう。
そんな状態の皆に向かって、声は続けた。
『ゲームが終わりましたので、一旦お部屋に戻って待機してください。後程、運営よりご説明がございます。お部屋にお戻りください。』
裕馬は、言った。
「諒さんはどうするんだよ?このままにしろって?」
声は答えた。
『そのままにしておいてください。こちらで処理致します。』
処理…。
皆は戸惑ったが、歯向かってまたルール違反だと言われたら何のために勝ったのか分からない。
なので、仕方なくソファに沈む諒をそのままにして、残りの5人は言われるままに部屋へと戻って行ったのだった。
部屋に戻った裕馬は、扉を閉じて肩を落とした。
…みんな、みんなの思いがあったのだ。
そう思うと、やりきれなかった。
このまま、どうなるのだろう。
裕馬は、不安になった。
また、残っている村人達で役を振り分け直してゲームをしろとか言われたら、どうしたらいいんだろう。
煌は村人だが、ルール違反なので戻っては来れない。
煌が居ないことに気付いた祈が、まともにゲームできるとも思えない。
そもそも、裕馬はもう、精根尽き果てていた。
部屋のベッドへと腰かけて、フッと息をついたその時、ふと腕輪の辺りがチクとした。
…痛っ、
裕馬は、そう声を上げる暇もなく、そのまま目の前が真っ暗になって、何も分からなくなってしまった。
ハッと目を開く。
…あれ。
裕馬は、起き上がった。
窓の外は暗くなっていて、自分はベッドにきちんと横になって寝ていたようだ。
暗い…ということは、朝じゃない。
裕馬は、頭がぼうっとするのを感じた。
ええっと…オレはここでゲームをさせられて、終わって、部屋へ戻れと言われて…。
そう思い出して首を傾げていると、頭の中に、ここへ連れて来られた時の事が鮮明に現れて来た。
自分は、26歳の会社員、光野裕馬だ。
毎日の仕事は単調で、ハッキリ言って辞めたい気持ちになっていたが、毎日の生活を支えるためには辞めるわけにも行かず、それでも仕事さえしていたら、少しは蓄財も増やすことができた。
そんな毎日の中で、ふと投資、という文字をテレビで見つけた。
そうだ、これだけ金が貯まって来たのだし、投資で少しずつでも金を稼いで行けたら、いつかは仕事を辞めることができるのではないか。
裕馬は、軽く考えていた。
全く知識もなかったが、本を少し読んだだけで、いけるような気がした。
それで、全財産を賭けて、投資を始めたのだ。
最初は、上手く行った。
投資の世界からしたら僅かな資金だったが、それが短い間に倍に増えた。
これで、味を占めたのが悪かった。
裕馬は、どんどんと資金を投入して株を買い足して行った。
いくらでも金が増える状態だったので、少しぐらい借金をして買っても、大丈夫だと思った。
確かに最初は、上手く行って返済もきちんとできた。
それが、ある日持ち株の大暴落から始まって、慌てて売って損を出したが、それを取り返そうと無理を繰り返してしまった。
毎日、必死だった。
気が付くと、持っていた資金は全て溶けてなくなってしまっており、借金だけが残った。
それでも、一千万ぐらいで済んだのは、そこまで必死に何とかしたからだ。
だが、月の返済が会社勤めでは追いつかないほどの額になっていたので、どうしてもその、一千万が必要だった。
そんな時に、怪しい広告を見つけた。
簡単なゲームをしたら、一千万円の賞金が出る。
だが、負けたら賞金が無いどころか、ペナルティーがある、と書かれてあった。
ペナルティーを免除したければ、百万円を先に振り込んで置く必要があったが、そんな金があるはずもなかった。
とにかく勝てばいいんだと、普段なら見向きもしないそんな広告を手に、気が付くとその番号に電話して、応募していた。




