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噛み先

どう見ても、海斗は人外ではない、と村人には思えた。

だが、それでも確定占い師の真悟のグレーである以上、狐の恐れがあるので残すことはできなかった。

シンと静まり返った席で、裕馬が口を開いた。

「…それで、諒さん。狼だったわけだけど、何か言うことある?」

諒は、黙ってこれまでの話を聞いていたが、口を開いた。

「…別に。まだ諦めてないしな。オレが吊られたとしても、仲間は頑張ってくれるだろう。村人には何も見えてないわけだし、情報を落とすつもりはない。こっちも命が懸かっているんでね。すまないな。」

とてもすまない、という感じではなかったが、諒はそう言った。

これから諒が誰に入れるかで見極めたいと思うところだが、多分諒はそんな分かりやすい事はしないだろう。

土壇場になったら分からないが。

裕馬は、息をついた。

「…じゃあ、吊り先も占い先も決まっているから、これで解散。話したいことがあったら個人的に話しに来てくれたらいい。次は、投票前にここに集まってくれたらいいので。以上だ。」

皆が、立ち上がる。

煌は、いち早く立ち上がるとサッとリビングを出て行った。

恐らく、祈の様子を見に行ったのだと思われた。

裕馬は、ため息をついて自分も部屋へ帰ろう、と三階へと上がって行ったのだった。


部屋でしばらく1人で居たが、誰も訪ねて来る事もなく、手持ち無沙汰なのでフラッと廊下へと出て行くと、二階へと降りて行った。

すると、ちょうど祈の部屋から煌が、深刻な顔をしながら出て来たところだった。

裕馬は、思わず声を掛けた。

「あ、煌さん。」

煌は、裕馬を見た。

「裕馬。」

裕馬は、煌に歩み寄った。

「祈さんは、まだ?」

煌は、ため息をついた。

「…こちらへ。私の部屋へ入ろう。」

煌は言って、祈の隣りの自分の部屋の扉を開いた。

裕馬は、黙って頷いてそれに従って煌の部屋の中へと入って行った。


扉を閉じると、煌は言った。

「どうしても、祈が納得してくれないのだ。会議に出たら自分が狩人で私が猫又だと口走ってしまいそうだと言い出して、仕方なく部屋で残る事に同意したが…今も、朝食を食べないのでサンドイッチを持って上がったのに、それにも口をつけようとしない。いくらなんでも昼食は食べなければと言うのに、ベッドに入って私に背を向けて答えようともしないのだ。私にはもう、どうしたら良いのか分からないのだ。」

祈は、ハンストしてるのか。

というか、食欲などわかないのかもしれない。

よく考えたら、煌が祈を好きなんだと思っていたが、祈も煌を好きになったように見えた。

その好きになった人が、今夜死ぬと思ったら、とてもじゃないが食事などする気にはならないだろう。

煌は死なないと言うが、そんな事はまだ分からないのだ。

裕馬は、言った。

「…それは…きっと、祈さんからしたら煌さんが好きなんでしょう、きっと。だから、その人が今夜死ぬとか思ったら、それも自分を庇って死ぬんだとか思ったら、とてもじゃないけど食事が喉を通らないんじゃないでしょうか。そんなつらい思いをさせる、煌さんのことも好きだけど自分の気持ちを分かってくれない、って恨んでしまっているのかも。」

煌は、驚いた顔をした。

「え、私を恨む?私に好意を持っているのに?」

裕馬は、困った顔をした。

「だから、複雑なんですって、そういう感情って。こんなつらい気持ちをさせるなんてと、自分の気持ちを分かってくれないあなたを恨んでもおかしくないです。」

煌は、真剣な顔をした。

「…確かに、祈は自分の気持ちを分かってくれない、と言っていた。だが、私だって祈を失いたくないのだ。祈も私の気持ちを分かってくれていないのだ。私だって恨みたい心地になる。」

裕馬は、頷いた。

「そうですよね。お互いにお互いを大切に思うからこそ、そうなるんです。きっと、祈さんは本当に煌さんが好きなんでしょう。煌さんは、祈さんに恨まれるのと、祈さんが犠牲になるのと、どっちを選びます?」

煌は、迷わず答えた。

「祈が犠牲になるぐらいなら恨まれた方がマシだ。きっと、終わってから分かってくれるはず。そう思うしかない。」

裕馬は、それにはまた頷いたが、言った。

「…でも、最低限分かってもらえるように説得は続けておいた方がいいですよ。そうでないと、もし煌さんが犠牲になって、勝ち残って復活して来たとしても、肝心のところで話も聞いてくれない、と信頼を失って逆にそれからの関係がギクシャクするかもしれませんから。最悪、付き合うとか結婚とか拒否されるかも。」

煌は、それには目を見開いて食い気味に言った。

「なんだって?!私を好きだからとこんな風になっているのに、結局私を拒絶すると?!」

裕馬は、驚いて言った。

「いや、だから、ちゃんと話して分かり合わないとって。話をきちんと聞いてくれずに、自分のやりたいようにやるだけの人だって思われたら、結局嫌われますよって事ですよ。だから、ちゃんと話しておいた方がいいですって。」

煌は、それを聞いて分かったのか、すぐに扉へ向かった。

「…分かった。やっぱりこちらに背を向けていても話をして、分かってもらえるようにする。私は…こんな事には疎いようで。教えてもらわねば分からないのだよ。」

裕馬は、頷いて自分の扉を出た。

「オレだって分からないことだらけですよ。でも、こんな事なら何となく。」

煌は、頷いて廊下へと出ると、すぐに祈の部屋へとさっさとチャイムも鳴らさず入って行った。

裕馬は、また1人になったとぶらぶらと一階へと降りて行ったのだった。


今は、11人だ。

残っているのは悟、高広、正志、真悟、諒、煌、祈、和彦、海斗、清、裕馬で、真悟は真占い師、正志はその白先で村人、煌は猫又、祈は狩人、清と裕馬は共有者で、諒は真悟の黒だった。

残っているのは悟、高広、和彦、海斗の四人で、縄はまだ5本ある。

全部吊り切って最後に諒を吊っても、充分縄は足りているので、問題ないはずだった。

問題ないはずなのに、どうしたことか全く村の中の人外から、絶望のような雰囲気は感じないのはどうしてだろう。

裕馬がリビングへと降りて行くと、そこには正志と清が、二人で座って話していた。

思えば、正志には真役職の内訳がバレていたが、狼は全く気取らず煌を襲撃した。

ということは、正志は真悟の白でなくても、かなり白く見えていた。

清が、振り返って言った。

「裕馬。」

裕馬は、二人に近付いて行ってソファに座った。

「二人で話してたのか?」

正志が、首を振った。

「いや。さっきチラッと諒が来たんだ。で、清にさ…気になる事を言ったんでぇ。」

「え?気になること?」

裕馬が怪訝な顔をすると、清は頷いた。

「あいつは、お前はほんとに狩人か?って。ま…正志も知ってるわけだから、正志が脇から『どういうことだ?』って聞いてくれたんだが、諒は笑って言うんだ、ま、狐を噛んでも襲撃無しの状態になるんだってことだ、ってさ。」

正志は、頷いた。

「そう。それでオレに向かって言うんだよ、オレはもうこうなったら別に生き残ろうとは思わないが、このまま狐の思い通りにされるのは癪だから教えてやるんだって。オレが黒を打たれるのを、黙って見てると思うのか?だってさ。どういう事だって聞いたけど、笑いながら出て行った。つまりは、もしかしたら真悟を噛んだのかって…なんか、清と考え込んじまって。」

裕馬は、このまま勝てるのかと少し違和感を感じていたところだったので、それを言われてドキッとした。

急に動悸が激しくなって来る。

「…待ってくれ、って事は、真悟さん噛み?煌さん噛みで護衛成功したんじゃなくて?」

清が、重苦しい顔で頷いた。

「そうだな。ただ混乱させようと思って言ってるのかもしれない。だが、狼が狐位置を知らせて来たとも考えられる。今、正志とそれなら真悟さんが狐で、咲子さんを狼が噛めたことになるから、狩人も偽って狼からは見えるんだろうなって。って事は何度も言ってるように高広さんも偽だから多分狼か狂人で、玉緒さん真だったって事になるだろ?これはおかしくないんだ、なぜなら狼も一狼吊れてるって思わせたいからたまたま玉緒さんに黒を打ってただけかもしれないし。そうしたら、狐の結果と合ったって事になるかもしれない。真悟が狐で狩人が偽なら…真悟の白先を考えた時、ちょっとゾッとして。」

裕馬は、ハッとした。

祈が、初日の真悟の白先なのだ。

つまり、真悟が仲間の祈を囲っていたのではないのかと言うのだ。

…もしかしたら、こうなった事に一番戸惑っているのは、祈なのではないか。

裕馬は、食事もしないという祈の様子を聞いているので、そう思った。

自分が破綻して吊られたら、煌は猫又だと知らせて噛まれる事も無くなると思っていたのではないだろうか。

それが、思いもかけず生き残ってしまい、護衛成功したと皆に思われて、真が確定してしまった。

このままでは、煌は人外の自分を庇って死ぬ事になると、あんな風に思い詰めているのではないか…?

そう思うと、残りの人外はどうなるんだ。

裕馬は、また視点整理かと、うんざりした気持ちになりながらも、動悸が収まらなかったのだった。

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