確定事項
残った祈は、煌に訴えた。
「煌さん、私は別に、もう真確定したのですし、良いと思っているのです。これで村目線がスッキリしましたでしょう。あなたが犠牲にならなくても、道筋を間違えなければ必ず村は勝ちます。最後まで、きっちりお世話をしてあげてください。今だって、共有者はあなた頼みではありませんか。人外に上手く言いくるめられてしまって、混乱して間違えたらどうするのです。」
煌は、答えた。
「だから、私が居なくなってからもきちんと進行できるようにとわざわざ面倒だがああして全部説明したのだぞ。私は問題ないのだ。どうして私を守ったのだ…もっと簡単になったのに。」
祈は、言った。
「あなたに死んで欲しくなかったからです。」祈は、表情を崩して、煌の手を握った。「煌さん、お願いですから私に死に顔を見せないでください。まして、私の身代わりになど、考えたくもありません。最初は、このまま人外を処理してしまえば簡単に終わるものだと思っていました。でも、あなたは昨日狩人だと明かしてしまって、自ら進んで噛み位置に入って行かれた。本気なんだと思った時、絶対に嫌だと思ったのですわ。だから守りました。今朝、顔を合わせた時にあなたを守ったと言ったら、あなたは顔をしかめましたけれど、私は生きて会えて本当にほっとしたのです。お願いですから、私より先に死なないでください。私は…なぜか、それがとても嫌だと心底思うのですわ。」
煌は、必死に訴える祈の顔を見て、断固とした顔をしていたのに、困ったような顔になった。
「祈…泣くんじゃない。」祈は、ハッとした。いつの間にか涙が流れていたのだ。「君も私を大切に思ってくれているのか。」
祈は、涙を慌てて拭いながら、頷いた。
「はい。どうやら、私はあなたがとても大切なようですわ。」
煌は、両手で祈の手を握った。
「私も、君が慕わしい。」祈が顔を上げると、煌は続けた。「君には分かっていただろうが…ゲームが終わってから言わねばと、黙っていただけ。既婚云々のことだが、私は自分を信じている。君以外を愛したことがあるはずがない。私はとても自分というものを大切にしていて、自分の心を偽って生きることはしないはずだと分かるのだ。簡単には、心を奪われる事など無いと言う事も。だからこそ、君を愛したのが初めてであると断言できる。君の事情は分からないが、私はどうあっても君と一緒に生きたいのだ。ここ数日共に過ごして来て、なお一層そう思うようになった。なので、君には死んで欲しくない。ワケの分からない薬の餌食になったらと考えると、いくら生き返るのだとしても後遺症などを案じて犠牲になどできない。私自身は、自分が医者だし後遺症が出ようがきっと何とかするだろう。なので、分かって欲しいのだ。私を大切だと思うなら、私の心を慮ってくれないか。私は勝とうが負けようが、生き残れるのだが、君も生かしたいのでどうしても勝ちたいと思っているのだ。そのためには、確実に1人、狼を道連れにしたいと考えている。分かってくれないか。」
祈は、それを聞いてまた涙を流しながら、下を向いた。
「…私の気持ちは、分かってくださらないのですね…。」
煌は、祈が泣くのにどうしても慣れなくて、困った顔のまま祈を引き寄せると、抱きしめた。
祈はじっとしているが、泣き止む様子はない。
煌は、どうしたら分かってもらえるのかと、ため息をついたのだった。
7時半になり、皆がぞろぞろとリビングへと集まって来たが、祈だけが来ていなかった。
よく考えると、珍しく煌が1人でキッチンへ来ていて、そこで栄養ゼリーをさっさと飲むと、サンドイッチを手にまた上がって行ったのを目撃していた。
恐らく、祈は納得していなくて、部屋に籠っているのだろうと思われた。
だが、祈は真役職なので問題ない。
裕馬は、言った。
「…煌さん、祈さんは?」
煌は、疲れたように答えた。
「…祈は少し、まいっていて。皆は慣れて来ているが、数日人が亡くなるのを見てばかりなのだ。あれは真役職だし、休ませていてもいいと思う。どこに投票するかは私が話しておく。祈無しで始めよう。」
裕馬は、頷いて話し始めた。
「…では、煌さんと清さんと話し合った結果を話すね。」と、皆を見回した。「今日、煌さんで護衛成功が出て清さんの真狩人が確定した。ということで、間違いなく狩人は咲子さんを守っていたという事になって、咲子さんを殺すには呪殺以外になかったことになるので、真悟さんは真占い師。咲子さんは狐で確定だ。心配なのは高広さんで、結果は真悟さんの結果と、狩人の守り先とで破綻はないが、まだ確定とは言えない。だが、とりあえず玉緒さんであろうが亜由美さんであろうが黒は1落ちていて、そして真占い師が確定した真悟さんから黒が出ている諒さんは黒確定。あと狼一匹と、狐が残っている前提で、今日は諒さんを残して真悟さんのグレーを詰める。真悟さんのグレーは和彦さんと海斗。この内一人を吊って狩人に真悟さんではないので守らせ、高広さんを占ってもらって色を見て悟さんの真贋を見極めたい。それで明日の吊り先も決めて行く。悟さんには今夜生き残った方のグレーを占ってもらうが、そう考えるととりあえず、海斗から吊るのが妥当かなという結論なんだけどね。」
海斗が、目を見開いた。
「僕だって?なんで?悟さんの白だからなの?和彦さんが美智さんから白もらってて、悟さんが偽なら人外かもだから?」
裕馬は、頷く。
「そう。負け筋は結局、今残っている高広さん、悟さんが人外の場合にあちこち迷って狐を残してしまうことだからな。」
海斗は、首を振った。
「でも!僕は村人なのに!確かに煌さんを疑ったのは悪かったと思うよ!でも、結果的に共有で、狩人じゃなかったじゃないか。違和感かんじるのも仕方がないでしょ?!そっちが僕達を騙してたから間違えただけなのに!村なのおかしい!」
悟が、言った。
「オレは呪殺も出せてないし疑われるのは仕方ないが、真占い師なんだって。海斗は白だったぞ。吊るのはおかしい、だったら和彦さんから吊ってくれ。和彦さんが黒で美智さんを漂白噛みしたんじゃないのか。あの噛みには違和感があっただろうが!」
こうなるのは、分かっていた。
清が、言った。
「仕方ないんだ。分かるだろう、村から見たらグレーは怪しいんだよ。真悟さん以外が占ったところはみんなグレーだ。まずは海斗、明日の結果次第で和彦まで必ず吊りきる。それは確定事項だ。その後諒さん。この流れは止まらない。分かるだろ?縄は足りてる。必ず勝つから、村でも信じて吊られてくれ。」
海斗は、清を睨みつけていたが、しばらくそうして睨み合った後に、フッと肩の力を抜いた。
そして、ため息をついた。
「…分かったよ。仕方ない。煌さんが言ってたように、死んでるけど死んでない状態になるだけなんだし。みんな目線、僕が狼じゃなくても狐の可能性があるってことでしょ?悟さんが偽だったらって。僕目線でも悟さんが真なのか偽なのか分からないぐらいなんだから、迷うのは当然だよ。だったら高広さんから吊ってくれって言いたいところだけど、僕の色を見てもらわなきゃならないしね。でも、悟さんも高広さんも真だったら、和彦さんまできっちりローラーしてよ?真悟さんが真だったから、正志は白だしもう吊る所は決まってるんだもんね。縄は五本ある。間に合うはずだし、寝て待ってるよ。」
海斗は、吊りを飲むんだ。
裕馬は、それを聞いて顔をしかめた。
恐らく、海斗は村人。
だが、そう見えるようにしているだけかもしれない。
裕馬は迷ったが、しかしもう、決められたことだった。




