吊り先
裕馬は、悩んだ。
何を信じたら良いのか分からなくなったのだ。
そもそも、煌は狩人ではなく猫又で、噛ませるためにあんなことを言っているのだが、知っているのは共有と煌と祈だけだった。
煌の誤算は、自分が狩人を騙ることで村人から怪しまれることになった事だろう。
何しろ、煌と玉緒では圧倒的に発言力が違うので、皆は要らぬ心配をすることになってしまったのだ。
だが、実際は狩人は祈で、煌は確定猫又なのだ。
COしてしまえば本来噛まれず、吊られない唯一の村人確定の白で、発言はあっさり通るはずだった。
それが、狩人を騙ることでこんなことになっている。
しかし、裕馬は悩んでいた。
なぜなら、煌が個人的に祈を守ろうとしているからだ。
祈の事をどこまで信じたら良いのか、裕馬にはわからない。
頭が良いのは分かるのだが、だからこそ黙っていて発言も少ない様が、何やら不気味に思えて来てならない。
煌が怪しまれる位置になってしまったことで、もしかしたら縄消費に使わせようと狼は噛んで来ないかもしれないし、このままでは思うようには行かなさそうだった。
裕馬は、祈に話を聞くことにした。
当然と言えば当然なのだが、祈の部屋には煌が居た。
いつもなら居た海斗と正志は居ない。
どうやら、怪しみ始めて一緒に行動しないことにしたようだった。
部屋へ入って行くと、煌が言った。
「裕馬。行き詰まっているのか。」
裕馬は、頷いた。
「はい。何を信じたら良いのか分からなくなりました。」と、椅子に座った。「煌さん、正直に言います。オレ、あなたは真猫又だから信じてますけど、村人には狩人だって言ったでしょう。だから、村人からは思考が濁るんです。玉緒さんとあなただったら、とてもじゃないけど敵わないってみんな知ってるし。でも、祈さんだったらみんなわからないから狩人ローラー完遂しようと言い出すかもしれない。それが分かってるから、今日狩人を騙ったんじゃないですか?」
煌は、息をついた。
「…その通りだ。祈は初日から、私には思考を落としてくれていたが、村にはあまり落としていない。私は祈が真だと知っているし信じているが、村目線ではわからないだろう。狩人ローラー完遂とか言い出させないために、私は騙った。私を疑うのは想定内だ。なぜなら、狼にはこのままでは勝ち筋がないからだ。私を吊ろうと言い出す輩の中に人外が居る。君に私を怪しいと言って来た中に、真悟のグレーは何人居たかね?」
裕馬は、え、と驚いた顔をした。
「…どうして、オレに誰かがあなたを怪しいと訴えに来たと?」
煌は、答えた。
「君は私を信じてくれているようだったからだ。私の言う通りにグレー吊りにしてくれるのではと思っていたのだがね。それを、今は悩んでいる。つまりは、誰かが君に訴えたとしか考えられないではないか。それより、誰が言いに来た?諒、和彦、それにここに居ない正志や海斗辺りではないのか。」
裕馬は、そこまで分かっているのなら、と、頷いた。
「…はい。まさにその4人です。」
煌は、頷く。
「ならばやはり、真悟のグレーだ。諒、和彦、海斗。真希さんは違ったか…祈を何やら疑って来るので、祈は白だと言うが、私はあるかもしれないと思っていたのだがね。」
確かに、真悟のグレーを吊れと言ったのだから、グレーに居る人達は反論したくなるだろう。
祈が、言った。
「でしたら、ただ一人完全グレーの諒さんから吊ればどうかしら?狐である可能性まであるのですし。」
裕馬は、そんな祈に言った。
「…祈さん、正直な話、煌さんは信じられてもオレはまだ、あなたまで信じてないんです。」祈は、眉を上げた。裕馬は続けた。「あなたが煌さんを騙せているとは思っていません。あなたがもし真狩人ならば、何も問題はない。でも、村人達はきっと、本当の役職内訳を知らせたとしたら、煌さんがあなたを偽だと知っていて、守ろうとしていると考えるでしょう。オレだって、信じたいんですよ。でも、煌さんは猫又なのに狩人COして、命を懸けてまであなたを守ろうとしている。そんな煌さんなんだから、あなたが偽でも必ず庇うと考えるんです。だから、共有の間でも迷うんです。それがなければ、また違ったと思うのに。」
煌が、割り込んだ。
「私が祈を人外だと知っていて庇っているというのか。」
裕馬は、言った。
「あくまでも可能性です。そう見えてもおかしくはないでしょう?だってあなたは、命懸けで祈さんを守っているでしょう。狼からは真役職にしか見えてないはずだし、噛まれるのに。」
煌は、息をついた。
「…私が噛まれたら狼には内訳が透けていないということになるから、祈の真が確定するではないか。むしろ噛まれない方が面倒なのだ。怪しまれて迷惑している。君にできることは、私を真だと信じると宣言してグレーに手をかけること。そして、今夜縄をこれ以上増やさせないようにと私を噛んで来るように誘導することだ。私は咲子さんと悟から白をもらっているから、あいつら目線では狂人と言えるではないか?共有が私を信じて吊れないなら、噛むしかない。狼は噛んで来る。それで狼が落ちる。仮に祈が偽でも、狼が落ちるのだから君にとって益しかないだろうが。死んだ狼位置から、他の狼も透けて来る。真悟が占うので、完全に村目線詰まる。私を噛ませるのだ、裕馬。清と話し合って、絶対に私は吊らないと決めたと言え。分かったな?」
煌は、真猫又だ。
噛まれることで、狼を一人道連れにする。
確実に一人外落ちる…狼位置がそれで分かる。
今はまだ偶数進行、そうなっても縄は減らない。
縄に余裕ができる…。
「…それなら、悟さんに秘かに祈さんを占わせます。それでも良いですか?」
真悟偽でも悟は真の可能性がある。
狼は、狐対策で真占い師は残しているはずだからだ。
祈が狂人なら狼陣営なので、煌が噛まれたら裕馬目線、狼陣営ではない。
だが、狐だったとしたら…?
煌は、ニヤリと笑った。
「それでもいい。祈は溶けない。呪殺は出ない。悟が人外だった時は面倒だが…それで2白になれば、君は祈を信じるのだぞ?」
裕馬は、頷いた。
「はい。必ず。では、今夜はグレーから。あなたを信じて、真悟さんのグレーの真希さん、諒さん、和彦さん、海斗から投票します。」
祈は、言った。
「あなたが指定した方がいいわ。」裕馬が祈を見ると、祈は続けた。「恐らく票は割れるでしょう。真希さんが恐らく白に私には見えているから…狼はそこに票を合わせて来そうよ。一緒に煌さんを疑った4人の票は、その4人だと恐らく真希さんに行く。人は同じ意見の人を信じようとするから。結局狼は吊れない気がするの。狼も、盤面が詰まって来て必死よ。村人を巻き込んで、もっともな意見で誘導しようとして来るわ。今夜は、あなたを守る。強い意見を出したら、あなたを噛む可能性も高くなるから。怪しむために、あなたを噛んで煌さんと真正面から対決しようとするかも知れないから。それで縄が増えるでしょう。」
裕馬は、一瞬迷った。
煌を守らせても良いかと思ったのだ。
だが、祈の言うことはもっともなので、それ以上何も言わなかった。
だが、吊り先を指定するつもりは、なかった。
…どうしてそこまで真希さんを庇うのだろう。
祈がそこまで真希を庇うのが、まだ分からなかった。
何しろ、真希は初日に吊られていてもおかしくはなかった位置で、咲子からは黒を打たれているのだ。
それでも、煌は祈を疑っている様子はない。
裕馬は複雑な気持ちになりながら、祈の部屋を出たのだった。




