賢い狂人
「…でも…煌さん、祈さん、君達二人は常に一緒に行動してたよな?」裕馬は、言った。「いつそんな作戦を立てて指示してたんだ?いつも真役職一人と、村人二人と行動していて。祈さん、ああ見えてめっちゃ賢いよ?煌さんともずっと話してるのに。騙せるとは思えないけど。」
海斗は、顔をしかめた。
「…ほんと、それなんだよね。僕もそれは考えたよ。でもさ、夜の投票が終わったら部屋に帰るから、その間は施錠時間までフリーなんだよね。その時に話しててもおかしくないなって。」
裕馬は、何か引っ掛かった。
煌と祈が裕馬の頭の中ではひっくり返っているので、余計におかしく思うのだ。
煌は、祈の部屋に施錠時間ギリギリまで居るような気がする。
何しろ、あの二人は二人にしかわからない事を、その時間に共有しているようだったからだ。
仮にその時に、人外だと気付いて協力しているとしても、煌が祈の側を離れるだろうか。
「…煌さんってさ、祈さんと施錠時間ギリギリまで一緒に居るんじゃないのか?」裕馬は言ってみた。「どこかに話に行くとして、祈さんが怪しんでしまうから行けないような気がするけどな。そもそも二人の部屋って正志の真向かいだろ?正志ってめちゃ耳が良いのに、気取られずにどこかに行けるか?」
つまり、祈は煌に隠しているのなら、勝手に計画を話に行けない。
この護衛先の事も、煌と話して決めたとわざわざ裕馬に施錠時間ギリギリに話に来たぐらいだ。
もちろん、煌と一緒に。
煌が加担していないと、狼と連携して動くのは困難だった。
もちろん、煌は祈に協力するだろうが、本当にそうだろうか。
正志の耳をくぐり抜けて?
「…まあなあ、確かに。祈さんがあいつの中心みたいなもんだから、祈さんにどこに行くとか聞かれたら、まあ、出ていくなんてできないわな。オレの耳は確かにめちゃ良いから、みんなに聴こえないらしい部屋の外の音も聴こえるし、扉が開いたら気付くはずだがそんな音も全く聞いてなかった。聞いてたらもっと早く警戒してたよ。とりあえず、心配してるだけなんだよ。人は分かりやすい事を信じる傾向があるから、とにかくオレ達は、いろんな可能性を考えて吊り先を決めてかなきゃならねぇ。縄は5つあるが、人外がどこまで処理できてるかだ。村目線じゃ、確実に落ちてるのは誰だ?ほんとに直樹は人外なのか。まあ、直樹が真なら亜由美さんで一人、高広真なら直樹で一人落ちてることになるが、だったら最大6人外残ってることになるぞ?縄が足りてねぇ。もう村は詰み盤面だ。真役職ばっかが犠牲になってたらな。ここは最悪の場合を考えて、村目線確実に人外が一落ちることになる、占い師か霊媒から吊る方が良いんじゃないか。そうしたら、とりあえず明日は来る。4縄だから、依然として無理ゲーだが真占い師が生きてたら、狐を呪殺してくれるかも知れねぇ。偶然進行だから縄は減らないしよ。どっちかが真だって、賭けるしかねぇよ。」
正志は、そう言って険しい顔をした。
村目線確実に明日へ向かえるように…。
裕馬は、頭を抱えたい気持ちだった。
諒が、言った。
「…でも、そうなると煌さんの真がより確実に見えるように、狼は噛んで来るかもしれない。そうしたら、村は煌さんを真だと置いて、真悟の占い先の白を避けて吊りきるだろう。そこまで、計算されてる気がする。気が抜けない。」
裕馬は、それならそれでいい、と思った。
狼が煌を噛むということは、狩人COが祈だと知られていないということで、煌と祈を信じる事ができる。
そして、狼も一人落ちる。
狼は、祈が狂人でないのなら、煌が騙りだと知っているので絶対に噛みはしないからだ。
裕馬は、言った。
「…分かってる。煌さんならそんなこともしてきそうだしね。そうなったら人外が確実に一落ちた目線になるし、村目線また楽になるじゃないか。分かった、考えておくよ。また昼の会議で話す。」
4人は、頷いて立ち上がった。
そして、リビングから出ていくのを見送って、裕馬も清の所へ行こう、と立ち上がったのだった。
裕馬は、皆の目を気にしながら清の部屋へと向かった。
清は、部屋で一人じっと考えていたらしく、机の上のメモ帳にはいろいろな事が雑に書かれて放置してあった。
裕馬は、それを見ながら、清に諒たちから聞いた、可能性について問う事にした。
一通り説明が終わると、清はため息をついた。
「…確かに。煌さん目線じゃ、もう狼は詰みで勝ちが無い状態だって言うのが、怪しいって言うんだな。まだ12人残ってるのに、そこまで盤面が詰まっているのもおかしいと。」
裕馬は、頷いた。
「そういう風に見えるようにされてるように、みんな感じるんだよ。今日話しに来た四人は、全員狼が混じっていてもおかしくない面子だった。だが、全部が狼ではあり得ない。人外が居たにしてもほとんどは村人だろう。村人がそう考えるんだったら、再考しないといけないのかなって思って。」
清は、考え込む顔をした。
「…確かにその通りだ。だが、真悟が狐だって?…相互占いと聞いても、顔色一つ変えなかったぞ。咲子さんだってそうかもしれないが、咲子さんはあまり発言しない方だから、印象にない。悟はあんな感じで構える様子もなかったしな。狐目線じゃ狼位置が分かってないはずだし…少なからず怖いはずだが。ただ、真悟と悟はいつも通りいくらか議論に参加していたが、咲子さんはいつも以上に全く発言しなかった。それが、狐で呪殺を恐れていたとしたら、そうかもしれないと今、考えていたところだったんだがな。」
裕馬は、ため息をついた。
「そうかもしれない。もともと静かな人だから、あんまり見てなかったんだよな。こんな事なら、もっと観察しておけば良かったよ。話す人ばっかり見てたから、咲子さんの表情まで精査していなかった。とはいえ、咲子さんが犠牲になったのは確かで、真悟と悟が残ってる。そもそも美智さんを噛んだ理由が狐を探しての事だったとしたら、美智さんの少ない白先に、間違いがあったと言う事にならないか?」裕馬は、ハッとした。「そうだよ、諒は美智さんをとりあえず噛んだら噛めたから真だったと言ったが、もしかしたら偽だと分かったから噛んでみたんじゃないのか。狐だったら黒塗りしようと考えて。」
清は、頷いた。
「そうだよな。美智さんの白先は悟と和彦だけだ。となると、どっちかが狼で、狂人でも狐でも、とにかく噛んでみようと思ったのかも。狂人だったら噛めた時点で真だと言われて、どちらにしろ悟と和彦が白置きされる。この村は、簡単にはそれで真だとは置いてはくれなかったが。」
裕馬は、首を傾げた。
「悟が狼か…?美智さんから白を打たれて偽だと分かって?」
清は、首を振った。
「いや、違うだろう。だったらどうせなら真占い師の方を噛む。咲子さんか真悟。狐対策にはどっちか一人残っていればいいわけだろう?初日に真占い師の一人を抜けたら、もう一人しか真結果を落とせないので狼には有利だ。一人噛まれたからと全部吊ろうとはならない。狐が居るからだ。だが、狼が美智さんを噛んだのは、二日目の夜だった。狼が、そこまで美智さんの真贋が分からなかったとしたら合点がいくと思うんだが。だから美智さんが偽の場合は、和彦が怪しいなとオレは思ってたんだがな。」
だが、その和彦が諒や正志、海斗と共にあの考えを言って来た。
狩人、霊媒が両偽視点だ。
「…なあ、でも、狼にも狐の位置は分かってないよな?ほんとに狐だって分かるには、霊媒結果でも無理だ。じゃあ、噛めるか噛めないかってことだが、ここまで護衛成功は出ていない。占い師の中ならいざ知らず、グレーの狐って狼にも未だに分かってないんじゃないのか?」
裕馬がそう言うと、清は頷いた。
「その通りだ。分かってないと思うぞ。処理されているのかいないのかも分かっていないと思う。今回、もし真悟が真だったら、狼目線じゃ分かってるだろうな。とりあえず狐が一人落ちたって。だが、グレーは真占い師が占わなければ分からない。狼目線、だから村人を処理するだけじゃ勝てないんだ。自分が生き残って、尚且つ村人を減らして狐を吊らないとな。一番良いのは、真占い師を残して自分以外を占わせていくことだ。だから、狼は絶対に真占い師を噛みたくないはずだ。一人は絶対に残しているとオレは思っている。いずれは噛むにしても、まだ人数が多過ぎるんだ。今じゃない。」
ということは、真悟と悟のうち、最低でも一人は真占い師なのではないか。
咲子さんを噛み合わせたのも、偶然ではなく真希さん黒で偽が透けた狼が、だったら狐だと判断して真悟の真を確定させることを避けるために、噛み合わせて来たと考えたら辻褄が合う。
だったら狐?
「あれ」裕馬は、違和感があって言った。「だったら狐?狂人かもしれないよな。美智さんが真だと思って噛んでるんだったら、三人の中には狂人と狐が残ってるんだし。狼が出てるから?いや、でもだったら悟は美智さんの白だし真悟で呪殺が出るなんて分からないよな。ってことは、狼はやっぱり美智さんが偽だと知ってた?噛めたから狂人?だから他の偽は狐?」
清は、顔を険しくした。
「…ほんとだな。狼は、咲子さんで呪殺が起こると分かって噛み合わせて来たとしたら、残っているのは真占い師しか居ないって事になる。そもそも悟が狂人だったら真悟白はおかしいんだよ。黒を打っておかないと、美智さんにも白を出してるのに破綻するかもしれないじゃないか。呪殺が出せないんだからな。咲子さんを噛むより、真悟を噛んだ方が良かっただろうし。どっちが真なのか、分からなかっただろうから。」
裕馬は、ハッとした。
そうだ、悟が偽なら、白を出すなら出すで、真悟を噛めば良かったのだ。
そうしたら、誰が呪殺を出したのか分からなくなって、真占い師も一人落ちて狼は助かる。
それをしなかったのは、悟が真占い師だから…?
そもそも、二人が真占い師で、どっちが確定しても面倒だったからなのか。
裕馬は、言った。
「…そうだ、どっちが真なのか分からないとなって、村人がじゃあこっちと言った時、どっちも真だったら狼は首を絞められる。どっちも間違いではないからだ。祈さんが偽物だったら、わざわざ咲子さんを守ると言って来て、そこを噛み合わせて来る必要はなかった。真悟さんを噛んだら良かったんだ。清を守るとでも言っておいて。オレはそれでも疑わなかった。それで村目線ではどっちが真なのか分からないまま、とりあえず占い師は置いておいて、グレーを精査するしかなくなるし、誰も疑わないまま、グレー吊りになってた。こんな凝った事をして、村に疑念を抱かせる必要なんかなかった。」
それが答えじゃないのか…?
裕馬は思ったが、清が首を振った。
「まだ決めるのは早いぞ。全部オレ達の推測なんだ。本当に騙されているのかもしれないんだからな。煌さんは祈さんを命を懸けて守っている。猫又なのに、狩人だと言って出た。仮に祈さんが真なら、狼は何も知らずに狂人だったから利用されるためだと言って煌さんを噛むだろう。護衛成功されたら厄介だからだ。だが、祈さんが偽なら、煌さんは噛まれない。猫又だと知っているからだ。どう思う?お前はどちらを信じる?」
明日になったら、分かるかもしれない。
だが、今夜なのだ。
あと5縄。
それで、祈が偽だったと分かっても、もう遅いのだ。
ここが、決心のしどころだった。
だが、何を信じたら良いのか、確定情報が少な過ぎて、裕馬には判断がつかなかったのだった。




