四日目の朝のキッチンにて
裕馬は、すぐにキッチンへと向かった。
絶対に、煌がそこへ降りて来るからだ。
真っ直ぐにキッチンへ来てたった一人でパンを持って来て、ペットボトルのコーヒーを手に椅子に座って待っていると、祈が一人で入って来て、驚いた顔をした。
「…あら。裕馬さん?お早いんですね。」
祈だけだ。
裕馬は、頷いた。
「いつも4人だと思っていました。」
祈は、微笑んだ。
「そうだけど、先に準備しておくから、私だけいつも少し早く降りるのよ。煌さんは一緒に降りるから声を掛けろとおっしゃるけど、待たせると急くのでと断っているの。」と、冷蔵庫から玉子などをせっせと出しながら言った。「せっかくだから、裕馬さんも一緒にどう?」
裕馬は、あいにく全く食欲がなかった。
なので、首を振った。
「オレはこれだけで。」とパンとペットボトルを見せた。「食欲がなくて。」
祈は、手際よく野菜などを引っ張り出して洗いながら、鍋に水を入れて火に掛けている。
「とりあえず、スープだけでも。いつも多めに作ってしまうの。少し力を付けなければダメよ?皆さん、肩に力が入りすぎているわ。命が懸かっているのだから、それはそうだろうけど。リラックスしないと気付くことにも気付かなくなるから。」
そんな風に話しながらなのに、祈の手はせっせと動いていた。
それを見ながら、裕馬は思いきって言った。
「…あの、昨日は本当に咲子さんを?」
祈は、さっとキッチンの扉を見てから、頷いた。
「…ええ。煌さんがもし真悟さんが呪殺を装おうとしたとしても、狼が噛み合わせて来たとしても、否定できる位置だからと。結果的に咲子さんは狐だったと分かった。真悟さんが真占い師なのよ。でも、裕馬さんは和彦さんの発言を気にしているのね?」
裕馬は、正直に頷いた。
「…はい。だってもう12人になってしまいました。縄は5本。もし、高広が偽だったら、直樹が真で亜由美さんは狼だから、1人外は落ちてますけど、仮に祈さん、真希さんが狼で、真悟さんが狂人だったらとか思ってしまって。」
祈は、手を止めずにため息をついた。
「…そうね、仮に真希さんが狼でなくても、正志さんが狼で高広さんが狂人、となったら狼陣営が4人残っていることになるわね。そうなると、真占い師は美智さん、咲子さん、悟さんの中に二人居ることになるわね?」
裕馬は、頷いた。
「はい。」
祈は、続けた。
「悟さんは、美智さん、煌さん、海斗さん、真悟さんに白、美智さんは悟さん、和彦さんに白、咲子さんは煌さん、清さんに白、真希さんに黒。必ず一人は人外よ。誰だと思う?」
裕馬は、首を傾げた。
「…残ってるのは狐か狼になりますよね。」
祈は、頷いた。
「ええ。でも限りなく狐よね。なぜなら、あなたが疑っている真悟さんが狂人なら、狼が一緒に出ているとしたら狼陣営の数が多すぎるわ。だから、狐。だとして、誰が狐っぽい?」
裕馬は、うーんと考えた。
「悟さんと美智さんは相互に占い合っているから、狐はありません。あるなら咲子さん…」と、言ってから、あ、と口を押さえた。「…そうか!その内訳だと狐位置が咲子さんしかないのか。真悟さんが狐だとしても、狼陣営がそのために噛み合わせるなんておかしい!でも、真悟さんが狂人なら咲子さんを呪殺できない…何より、数が合わない!そもそも真悟さんは悟さんに占われているから、狐のはずはない!ということは…。」
限りなく、真悟は真占い師だ。
裕馬が呆然としていると、祈は鍋をお玉でかき回しながら頷いた。
「そう。真悟さんは真でしかないのよ。だって、悟さんと美智さんはお互いに占い合っていて白、そして真悟さんは悟さんの白で、咲子さんは死んでいる。咲子さん美智さん真の世界線だと、悟さんは狂人、真悟さんはそれに囲われた狼となるはずだけど、そうなると高広さんが狂人か狼、直樹さんの黒の亜由美さん狼、咲子さんの黒の真希さん狼、そして咲子さんと守ったと騙っている私は狼。一人多いわ。狂人は悟さん、高広さん、狼は真悟さん、私、亜由美さん、真希さんなんでしょ?」
数が合わない。
裕馬が呆然としていると、いつの間にか入って来ていた、煌が言った。
「その通りだ。君は要らぬ心配をしているぞ。」ハッと振り返ると、煌が入って来ていた。「見えたままで問題ないのだ。真悟は咲子さんを呪殺した。狼は真悟の真確定を恐れて噛み合わせて来たが、狩人がそこを守っていたのだ破綻だ。真悟は間違いなく真占い師だろう。」
祈は、スープを器に入れながら言った。
「それに、この事から分かったことがあるの。」裕馬が祈を見ると、祈は続けた。「咲子さんが狐であるなら、きっと初日に吊られた亜由美さんが狐だったのではないかしら。というのも、咲子さんは強く亜由美さんは白だと主張していたわ。真占い師でも、吊られた人の色まではわからないのに、直樹さんをとても疑っていた。皆の意見に紛れていたけど、咲子さんは発言が多い方ではなかったし、印象に残っていたのよ。だから、咲子さんが狐なら、亜由美さんが相方ではないかとなんとなく思っていたの。まだわからないわよ?でも、その可能性はあると思うわ。村は勝ちにかなり近付いていると思う。」
そこへ、海斗と正志も入って来た。
海斗が、空気を読まずに言った。
「うわーいい匂い!パン?スープだもんね。」
祈は、フフと笑った。
「ええ。ちょっと待ってね、玉子を焼くから。」
正志が寄って行って言う。
「サラダ出しとくな。出来てるやつ冷蔵庫にあっただろ?」
祈は、頷いた。
「ええ。助かるわ。」
いつもの朝食風景になりつつある。
裕馬は、祈と話して視点がスッキリして来た。
なので、幾分食欲も戻って来て、4人と一緒に結局きちんとした朝食を、勧められるままに食べたのだった。
それから、いろいろな人が入って来ては新しいペットボトルを手に、リビングへと出て行くのを見ながら、裕馬は過ごした。
清が途中やって来て合流し、さっき祈に聞いた事を説明すると、頷いたが少し、考えるような顔をした。
それを見た煌が、言った。
「…納得がいかない感じか?」
清は、煌を見て頷いた。
「そう。まだ混乱していて、そちらに都合がいい筋道だけを見せられているようにも思えて来て。全視点からの事を考えてからでないと、その通りだと安心できることではないしな。何しろ、悟と真悟、悟と美智さん、悟と咲子さん、美智さんと真悟、咲子さんと真悟…。他にも、いろいろな内訳があるだろう。その視点からの考察も、しっかり聞いてから考えたいんだ。まだ時間はあるしな。縄が5つしかないから、しっかり考えてから決めて行きたいと思っている。」
煌は、ため息をついた。
「全部を説明しても良いが、ここではな。どうせ、皆の前でも説明せねばならないのだろう。そうなった時、二度手間になる。ここで、この少人数を説得しても仕方がないしな。私は、見えたままで良いのだと思っているよ。それでも、皆が納得いかないと言うのなら、とことん話そうではないか。」
正志が、言った。
「そう思うなら、説得は見えている者の義務だ。お前がみんなに全部説明したらいいじゃないか。今夜はどこを吊るのか、結局まだ決まっていない。残った占い師の中で吊るのか、高広を吊り切るのか、狩人をローラーしきるのか、グレーに行くのか。それを決めるために重要な議論だ。避けて通ることはできねぇよ。」
煌は、またため息をついた。
「分かっている。一人でするゲームではないからな。となると、そうだな…私に任せるというのなら、私が進行しよう。清が言うように、全部の内訳からの視点で考えて皆にそれを提示する。それでいいな?」
海斗が、答えた。
「いいと思うよー。話してもらった方が、僕もスッキリしそう。なんかねえ、騙されたらどうしようとか、和彦の気持ちも分かるんだよね。なんかうまく行き過ぎてて、ほんとに狩人は守ったのかとか、考えちゃうんだよ。だから、清さんがめっちゃ白く見える。ここが狩人だったら真確だと思うけどね。」
皆が頷いて、裕馬はホッとした。
だが、清は共有者であって、狩人ではない。
煌はどうするつもりなんだろう、と、裕馬は朝の議論は、任せてみることにしたのだった。




