意見3
祈は、快く裕馬を迎え入れてくれた。
裕馬は、椅子を進められて長くなるかもしれない、と、煌の所で立ちっぱなしだったのもあって、そこに座った。
そして、言った。
「あの、みんなに聞いて回ってるんですけど。祈さん、役職あります?」
祈は、頷いた。
「ええ。私は狩人よ。煌さんから聞いたのではない?」
裕馬は、おっとりと落ち着いてそう言う祈に、疑っているのが何やら気まずく思えて来た。
だが、慎重に頷いた。
「はい。でも、あんまりにも祈さんを盲信してそうだから、ほんとなのかって疑ってしまって。」
祈は、苦笑した。
「あの方は、とても頭がよろしいかたなんだけど、不器用で。手先がとかではなく、対人関係のことなの。どう接したらいいのか、よくわかっていらっしゃらないみたい。私にも、いきなり部屋にやって来て役職があるか?と聞かれて。驚いたけど、嘘をついてもバレちゃいそうだし。正直に答えたわ。人外でも、もう仕方がないと思って。何しろずっと一緒に居るでしょう。私は、煌さんという人そのものを信じようと思ったの。あのかたが、私と共に勝って帰ると言ってくださるお気持ちに、嘘はないと思うから。とはいえ、信じると仰ってからも、何度も探りを入れてらしたけどね。私が人外の可能性も、追っているのだなとだから知っているわ。今は、どうやら探りも落ち着いていて、どちらにしろあのかたの中で私の真贋はついたのではないかと思っているの。」
祈は、気取っていたのだ。
案外に、祈という人は人を細かく観察する力に優れているようだった。
煌ですら、そうして見透かされているということだからだ。
裕馬は、少し眉を寄せて言った。
「どちらにしろって…つまり、祈さんが偽だと思っている可能性もあるということですか?」
祈は、裕馬をみてフフと笑った。
「そうね。でも、今のところ信じてくださっているのだと私も信じているけれどね。ところで、あなたは私を信じていないわね?」
裕馬は、ますます眉を寄せた。
なんだってこの二人は、そんなに鋭いんだよ。
「それは仕方ないですよ。オレは共有者だし、いろんな可能性を考えておかないといけないんですからね。煌さんは祈さんを信じているようですけど、オレはまだ分かりません。」
祈は、まだ笑顔のまま言った。
「そう、煌さんは信じているのね。」え、と裕馬が驚いた顔をすると、祈はいたずらっ子のような目で裕馬の目を覗き込んだ。「だったら、玉緒さんは狩人だと言ったのね?」
バレてる…!
裕馬は、顔を赤くした。
煌が、祈の意見を聞いて来るといい、賢いと言っていたが、確かにこの人は賢い。
煌並みのスピードで、こちらの言葉の僅かな違いに気付いて来るのだ。
「ど、どうしてそれが…?!」
祈は、答えた。
「だってあなたがここへ来る前に話している役職COしてる人は玉緒さんだけでしょう。順番に回ってるのはさっき聞いて知っているんだもの。煌さんは信じていて、私を疑うのはそうとしか考えられない。私はとりあえず、詩子さんよりは白いんじゃないかなと自負しているしね。だって一応白が出てるから。」
だからそれを一瞬で分かるってのがびっくりなんだって。
裕馬は思ったが、仕方なく頷いた。
「…はい。もういいです、バレたし。でも、玉緒さんも真っぽいことを言いました。他の二人は狂人っぽかったから高広さん守り、相互護衛にするって言ったら、騙りの人が破綻するから、それでもいいって。」
煌はこの言葉に反応したが、祈はどうだろうか。
祈は、じっと落ち着いて聞いていたが、頷いた。
「そうなのね。それはそのまま玉緒さんの言葉なの?」
やっぱり同じ所に気がついたのか。
裕馬は、ため息をついて頷いた。
「はい。玉緒さんにしては、出来すぎですよね?狼だと思いますか。」
今度は祈が驚いた顔をしたが、頷いた。
「ええ。仲間が居るんだろうなって。それも、きちんとそんなことが言えるのだからしっかり話してる。皆の目を気にしていたらそこまで分からせるほど話すのは難しいわ。つまり、狼で夜に集まった時に話しているのだと思うわ。狐にはそんな機会がないものね。まして玉緒さんは、初日から疑われているから、二人しか居ないのに一緒に居るのはリスクがあるわ。狂人だとしたら狼に切り捨てられる位置だし。よって、狼よ。私目線ではね。」
煌とはちょっと違うが、同じ結論だった。
煌が、祈を盲信するのも分かる気がしてきた。
裕馬は、言った。
「あの…祈さんはどこが怪しいと思いますか?一人一人話してたら、みんな怪しくなく感じるんですよ。もうわからない。」
祈は、首を傾げた。
「そうね、あなたと私では視点が違うから。私目線では必ず玉緒さんが人外よ。詩子さんがもし、狩人COしたらそちらも人外だと分かるからやりやすいわ。正志さんと海斗さんは、常に一緒に居るから分かるけど、白いと思う。話していても全く違和感がないの。本当に狼を探している思考だわ。必然的に、初日から玉緒さんを怪しんでいる諒さんと和彦さんも白く見えるけど…依然として、この二人の色はわからない。なぜなら、人外でも切って来るようなシチュエーションだったわ。矛盾するから、今日もその姿勢は崩さないでしょうし。狼としてそれを覆すためには、何か徹底的なことがないと村から怪しまれるもの。つまり、白が出ていても和彦さんと諒さんは私にはグレーよ。真希さんは…昨日あれだけヤバい状況でも役職COしなかったでしょう。流れ的には吊られてもおかしくなかったのに。もちろん、玉緒さんと狼同士でそれ以上COできなかったとしたらそうだけど、役職は二人居るんだし。COしても良かったわ。だから、白く見えるわね。今も。」
清のことは言わない。
恐らく祈にも、清が共有の相方だとバレているのだろう。
なので、裕馬はわざわざそれに言及しなかった。
とりあえず分かったのは、煌が祈を妄信するほど、筋道は違えど二人の出す結論は同じという事だった。
「…分かりました。」裕馬は、立ち上がった。「話を聞かせてくれてありがとうございます。次もあるし、もう行きます。」
祈は、頷いた。
「頑張ってね。顔に出るから何を言われても平常心を心掛けて。」
裕馬は渋い顔をして頷くと、祈に見送られて部屋を出たのだった。
次に訪ねたのは、和彦だった。
和彦も海斗から聞いたのか、しっかり部屋で一人で待っていてくれた。
裕馬を部屋の中へと招き入れると、和彦は言った。
「遅かったな。この順番だからもっと早く来るかと思ってたのに。話し込んでたのか?」
裕馬は、頷いた。
「思いのほかあちこちみんな、考えてるみたいで。最初に聞くけど、和彦さんは役職ある?」
和彦は、首を振った。
「あったら良かったんだけどなあ。素村だよ。役職を聞いて回ってるのか?まあ確かに、今出てる玉緒さんも詩子さんも偽っぽいもんなあ。オレなら、さっさと他の役職出して、あの二人と比べてさっさと吊るのにって思ってた。そもそも、あの二人より黒いヤツなんか居るかあ?誰が出ても、吊られるのはあの二人だと思うんだよな。」
裕馬は、苦笑した。
「まあ、そうかもしれないけど。玉緒さんも頑張って考察してるみたいだし、オレは今のところフラットに見てるよ。他に役職が出て来たらまた考えるけどね。」
和彦は、ふーんと言った。
「ここまで役職に当たってないってことか?…オレの他っていうと、もう海斗と清ぐらいしか居ないけどな。もしかして、あの二人のうち少なくとも一人は真って事になるぞ。」
裕馬は、肩をすくめた。
「どっちにしろオレには言えないけどね。結果次第だと思ってくれたら。それより、どこか怪しいところある?役職以外で。」
和彦は、大袈裟に顔をしかめて見せた。
「だからオレ、素村だから。マジで分からねぇんだよなあ。でも、投票先から見て、昨日絶対吊られそうだった真希さんが吊られずに、吊られないと思ってた亜由美さんが吊られた事を考えてたんだ。もしかしたら、真希さんが黒で、吊られたら困る狼が慌てて亜由美に入れたのかなって。詩子さんも今日になって怪しいCOしてるし、詩子さんにも真希さんも入れられない票が、亜由美さんに集中してああなったのかなあとか思ったりしてな。ま、でも発言だけ見たら怪しい所もないし、わからねぇな。」
それは、裕馬も思ったことだった。
だが、今となっては真希よりも、役職の精査とかに精一杯で、それに伴って祈が偽だったりしたら、正志も偽かもしれないとか思えて来て、困っていた。
裕馬は、言った。
「そうだなあ。そこら辺はとにかく、占い師達に頑張ってもらうしかないんだけどさ。でもその様子じゃ、真希さん、諒さん、海斗の三択だったら、真希さん吊りって感じ?」
和彦は、頷いた。
「その三択だったら、そうなると思う。でも、確信がないからどうしたらいいのか、共有に任せるって感じ。」
裕馬は、何でもかんでも共有任せにするなってと内心憤ったが、頷いた。
「ま、頑張るよ。じゃあ、ありがとう。次に行くよ。」
和彦は、頷いた。
「もういいのか?分かった、頑張ってな。」
裕馬は頷いて、そうして次の、問題の詩子の部屋へと向かったのだった。




