意見
椅子に座ると、裕馬は言った。
「単刀直入に聞くけど、正志は役職持ち?」
正志は、苦笑して首を振った。
「いいや。オレは素村。なーんも見えてねぇ。だから、お前に言えることも限られてるがな。」
裕馬は、頷いた。
「それで、正志は今常に海斗と煌さんと祈さんと一緒だけど、何か思うことある?居たら言えないこととかあるだろ?」
正志は、うーんと首を傾げた。
「どうかな。とりあえず煌は物凄くいろいろ筋が見えてるみてぇだが、全部仮説だから裏付けがないと言わないって、確実な情報しかオレ達にはくれねぇ。だが、やたらと祈さんを信頼してるみてぇだから、もしかしたら祈さんには言ってるかも知れねぇな。オレ達は投票が終わったら解散するし、部屋に送り届けるけど、その後施錠時間までまだ間があるから、その間に話していてもおかしくはないしな。どうして祈さんをそんなに信じるんだって聞いたら、祈は嘘をついていないとか言って。だからどうしてそれが分かるんだっての。」
やっぱり、煌は祈が好きなのか。
裕馬は、顔をしかめた。
「…煌さんは、もしかしたら祈さんが好きってこと?」
正志は、驚いた顔をした。
「え、お前知らなかったのか?」逆に裕馬が驚いた顔をすると、正志は続けた。「ゲーム中だと思ってるからなのか、本人は何も言わねぇが、あれは好きってレベルじゃねぇぞ。何しろ議論が長引いて、終わった後祈さんが疲れたと漏らしただけでもう、大騒ぎだ。やれもう部屋に帰れだの、薬をもらうかだのこっちが引くほど心配する。海斗が祈さん祈さんと纏わり付くのも気に入らないから、よく間に割り込むしな。お陰で祈さんは疲れたとも言えなくなって、だんまりなんだ。他の男でも話し掛けて来たら、それこそもっと大騒ぎになるからな。別の意味でめんどくさいことになってるの。」
マジか。
裕馬は、ますます心配になった。
これまで女性に興味はなかったとか言ってたし、もしかしたら初めて好きになってストーカーみたいに回りが見えていないのかも知れない。
祈さんが、それを利用して潜伏している人外だったりしたら、大変なことになる。
裕馬は、真希から聞いたことも併せて、そう思った。
「…ゲームに影響しそうだよな。」
正志は、頷いた。
「それはホントにな。狐なら良いんだよ、真悟に占われてるから、他の占い師にも占わせて呪殺ならハッキリするし。でも黒だったりしたら、真占い師が黒だと言っても煌は信じないぞ。それこそ大変なことになる。あいつは他のルートを提示して真占い師すら吊りそうだ。というか、祈さんが人外でも守りそうな気がする。とにかく厄介なんだよなーそこは。」
裕馬の懸念することだった。
煌は頼りになるが、祈が人外だったら面倒なことになりそうなのだ。
諸刃の剣だった。
裕馬は、息をついて立ち上がった。
「他にも聞いて来ないと。話してくれてありがとう。」
正志は、頷いた。
「お前も、大変だな。ま、まだ昼間だしゆっくり回りな。」
裕馬は頷いて、そこを出た。
なんだか不安になるだけの会話だった。
裕馬は、次に隣の玉緒の部屋に向かった。
チャイムを鳴らすと、玉緒が出て来て驚いた顔をする。
そして、言った。
「どうしたの?」
裕馬は、答えた。
「今、順番に回って個別に話を聞いてるんだ。今いい?」
玉緒は、頷いた。
「ええ。どうぞ。」
中へ入ると、扉を閉じてもう、その場で裕馬は言った。
「あの、玉緒さんは何?猫又?」
玉緒は、目を丸くしたが、言った。
「…みんなに言わない?」
裕馬は、頷く。
「うん。そのつもりだからね。わざわざ個別に回ってるのも。」
玉緒は頷いて、答えた。
「狩人なの。だから知られたくなかった。昨日は高広さんを守ってる。徹さんか直樹さんが狂人かなって思って、噛まれそうに思ったから。だから今夜は高広さんを守れないわ。」
高広守り…!
裕馬は、煌が言っていたのと同じだと思った。
つまり、噛み位置を決めているのが狼なので、もし玉緒と祈のうち人外が居るなら、狼だと思われた。
とはいえ、たまたまなのかもしれない。
予想できることだからだ。
それでも、そこそこ筋の通ったことを発言できている祈に比べて、玉緒のような初心者から簡単にこんな答えが出て来ることから、玉緒が取り繕っているようには見えなかった。
裕馬は、頷いた。
「わかった、ありがとう。他にもCOしてくる人が居るかもしれないけど、そうなったらお互いにあちこち守ってもらうことになるかもだから、こっちから指定するよ?それでもいいよね。」
玉緒は、頷く。
「うん。私が真だし、騙った人はそのうちに破綻すると思う。だからそれで良いよ。」
裕馬は、頷いた。
「よし。じゃあ、他の人の所にも行って来るね。他に何か言いたいことある?」
玉緒は、首を振った。
「何もないわ。」
裕馬は、玉緒に礼を言って、そこを出た。
…困ったな。
次の諒の部屋へと向かいながら、裕馬は顔をしかめた。
こうなって来ると、煌が真猫又でも安易に村の進行を任せるわけには行かなくなって来たのだ。
裕馬は、憂鬱な気持ちになりながら、諒の部屋のチャイムを鳴らしたのだった。
諒は、特に驚く様子もなく迎えてくれた。
どうやら、海斗があちこちに言って回ってくれたようで、諒はキッチンに居たのに急いで上がって来てくれていたらしかった。
「みんな昼飯食って寛いでたとこだったから、急いで上がってったぞ。裕馬は?昼飯まだなんじゃないのか。」
確かにそうだ。
食べることを忘れて考えていたのだ。
「…何しろ、いろいろ考えてて。終わったら食べるよ。それで、諒さんは役職持ってる?」
諒は、ため息をついた。
「やっぱりそれを聞いて回ってるのか。いや、オレは残念ながら素村なんだ。あちこち役職は出てるが、疑われてから出てるのが怪しすぎて信用できてない。玉緒さんは昨日から怪しいが、今日の詩子さんはもっとだ。オレは、あれは騙りだと思うけどな。」
確かに玉緒が狩人なら、詩子は猫又だろうが、残念ながら煌との信用勝負には、詩子はひっくり返っても勝てない。
狩人だったりしたら、もうとりあえず詩子からローラーをかけたい勢いだった。
つまり、今の裕馬目線でも、詩子は本当に怪しい位置だった。
「…そうだなあ…確かにあのCOの仕方は怪し過ぎるよな。白だったとしても人外っぽさ感じてしまうよ。諒は、グレーはどこが怪しいと思う?」
諒は、顔をしかめた。
「どうだろう?囲われてるのかと思うこともあってな。とにかく海斗は白いし、真希さんはゲーム上で怪しいかと言われたら、そこまでじゃない。恋愛どうのでめんどくさかっただけだ。詩子さんがオレの中でもグレーじゃ筆頭だったが役職COだろ?それは吊り逃れに見えるってもんだよ。」
確かにその通りだ。
裕馬は、続けた。
「じゃあ、囲われてるとしたらどこが怪しい?」
諒は、顔をしかめた。
「…うーん、とにかくみんな正しいことを言ってる気がするんだ。清も落ち着いてて村のためになるように皆を動かしてるし、煌さんもそうだ。2白だしな。となると目立たない祈さんが潜伏してるみたいに見えるから、そうなると真悟が偽になって正志も怪しくなるのかな。あの4人はいつも一緒だが、その中に人外が二人居たら上手く隠れてるんだと思えなくもない。でも、今の時点じゃ何もわからない。怪しい所が見えないんだ。怪しいのは役職ぐらいのもんだ。」
怪しまれてからCOしているから尚更だ。
裕馬は、ため息をついた。
「ほんとにな。とにかく明日から黒も出て来るだろうし、そこからだろう。ありがとう。まだ次もあるし、もう行くよ。」
諒は、頷いた。
「あんまり役に立つこと言えなくてごめんな。」
裕馬は、諒の部屋を出た。
…困った、みんな白く見える。
裕馬は、とぼとぼと次の煌の部屋へと向かったのだった。




