イレギュラー
12号室の扉は、外れて壁に立て掛けられていた。
大きく開いたままの扉があった場所を抜けて中に入ると、そこには直樹が、手足をおかしな方向へ向けたまま、目を虚空に向けて開いた状態で倒れていた。
一目見て、もう息はないことがわかった。
裕馬は、直樹に駆け寄って、言った。
「…なんてことだ!」と、飛び散った金時計のガラスを見た。「暴れたのか?君たちが殺したわけではないよな。」
和彦が、言った。
「なんでオレ達が。それなら今頃オレ達だって追放されてる。」
諒が険しい顔で言う。
「だが、金時計を壊して追放になるなら、扉を壊した君たちが追放になっていないのはおかしいよな。どういうことだ?」
煌が、説明した。
「まず、直樹はルール違反で追放だ。」と、腕輪を開いた。「ここにルール違反で追放になりました、と表示されている。」
皆がそれを確認する。
煌は続けた。
「それから、直樹は金時計を壊したから追放になったのではない。直樹はそのつもりだったのだろうが、私達が扉を外そうと外で蝶番を外し始めた時には、ガラスの割れる音と、中の声が漏れてきていた。直樹は、その時点でまだ生きていて、こんなゲームはしないと叫んでいた。」
正志は、頷いた。
「その通りだ。直樹が何度も叫んだ後に、腕輪から確認の声がした。『ゲームを放棄しますか?』とな。直樹は放棄すると答えた。その後声が途切れたので、恐らくその時点で死んだ。オレ達がやっと扉を外して踏み込んだ時には、こうなっていたんだ。だから、金時計を壊したせいでこうなったのではないし、そもそも直樹は自分でこの結果を選んだんだ。」
直樹は狂っていたのだろうか。
裕馬は、思った。
どうあっても助からないと思って、錯乱してこんな結果になったのだろうか。
それとも案外考えていて、自分の色を見せないように、後は陣営勝利を任せて行ったのだろうか。
もう、確認する術はなかったが、どちらにしろ直樹は死んだ。
今夜は、高広をローラーしきるかグレーを詰めるか二択しかなくなったのだ。
清が、言った。
「…こうなったからには、下で進めていた通りにグレー詰めしかない。そして明日、それぞれが思うところを占って色をつけ、役職を出して吊り先を決める。」
煌が、言った。
「今夜は一つの山だ。グレーを一本吊った後、占い師の中の偽は黒を打つにしても迷うだろう。狼も噛み先に困るはず。直樹が死んだことで、奇数進行であったのが偶数進行になった。17人居たのが今16人だ。吊り縄は一本減って7。高広真なら問題ないが、高広偽なら村は今夜吊り間違えたらまずいことになる。直樹がこんなことをしでかしたので、私としてはもう、高広を真置きして今夜グレーを詰めて、明日以降も高広の霊媒結果を真として進めて良いと思っているのだがね。」
縄が減ったのか。
そこで、裕馬は初めてその事実を知った。
奇数だったのだから、一人多めに居なくなるということは、そういうことなのだとやっとわかったのだ。
煌が焦っていたのは、何も直樹の色が分からなくなるからだけではなかったのだ。
正志が、言った。
「…煌を確白にしたい。」皆が、驚いた顔で正志を見る。正志は続けた。「煌の発言力が強すぎる。みんなみたいに煌に対して特に構えないオレでも、信じたくなるほど煌は弁が立つだろう。占い師には二人真が居て、全員生きてる。悟と咲子さんが煌に白を打ってるから、ほぼ白だが確定させるにはあと一人。真悟か美智さんに占わせてそこでも白が出たら、全員が煌を信じられる。なぜなら三人から白が出たら、そこには必ず真結果があるからだ。黒が出たら出たでいい。煌と黒を打った占い師の精査になるだけだ。高広を真置きするなら、吊った後色も分かるしな。いろいろ進めるためには、煌の色だけでも確定させたい。そしたら村を任せられるだろう。」
すると、真悟が言った。
「オレから見て煌さんは白にしか見えない。確実に黒を捜したいから、それならできたら美智さんに占わせてもらいたいけどな。」
美智は、言った。
「え、私も煌さんは白にしか見えないわ。無駄な占いはしたくない。もう白なら白で良いんじゃない?他を占いたいわ。」
裕馬が、言った。
「正志の気持ちは分かるが、今は完全グレーを消したいんだよ。とにかく片白もそうだが、何がなんだかわからない状態なんだ。2白が出ている煌さんより、全く色がついてない所の方が優先だ。明日辺り、役職も隠れていることだし誤爆も破綻もあるだろう。それを待とう。」
和彦が、言った。
「…ということは…今夜は真希さん、諒、海斗、詩子さんから選ぶのか?役職が居たら聞いておいた方が良いんじゃないのか。」
裕馬は、頷いて皆を見た。
「今指定されている中で、役職COがあるか?吊られないと自信があるなら無理に出なくていい。どちらにしろ、明日にはみんな出てもらうからな。」
詩子が、言った。
「…今夜は、私を吊るの?みんな、下で私を吊し上げようとしていたわ。」
裕馬は、答えた。
「わからない。オレは入れると思うけど、他はどうするのかな。」
和彦が、言った。
「ってぇか海斗も煌さんも詩子さん吊りで色を見たらと言ってたよな。そうなりそうな気配か?」
皆は、顔を見合わせている。
咲子が、留めを刺すように言った。
「私は昨日から入れてるわ。潜伏臭がするのよ、人外だと思う。吊られなくても今夜指定してもらいたいわ。占うから。」
詩子は、ぶるぶる震えている。
そして、言った。
「…それは潜伏臭もするわよ!だって…私は役職があるもの!」
二人目…!
皆が、息を飲む。
もし、玉緒と詩子が両方真なら猫又と狩人が露出したことになるのだ。
「…吊り逃れだ!」諒が言った。「そうとしか見えない!他に真役職が居るはずだ、もうここで出したら良いんじゃないのか!」
確かに吊り逃れに見える。
諒の気持ちはなのでわかった。
だが、海斗が言った。
「…例えそうだとしても、真役職が他に居るなら今出ちゃいけないよ。だって、ますます明日の結果が人外にとっては難しくなったよね。この上でグレーを吊って、さらに狭まるんだから共有とか役職者に当たる可能性が上がる。それでも黒打ちするのは真占い師だ。今日さえ凌いだら、明日から盤面が一気にクリアになるよ。どうする?高広真進行でとりあえずグレーで良いんだね?」
裕馬は、悩んだ。
そうするよりないのだろう。
直樹のやり方は、偽だと決定しても良いはずだ。
両方の霊媒目線、それでとりあえず1人外処理できているのだ。
「…直樹が真だったとして、最低でも1人外は落ちた。高広が真なら、直樹で1人外落ちたことになる。7人外中多くて6人外の今、残り7縄。今夜間違えても、とりあえずなんとかなる。明日には盤面がもっとわかり易くなるはずだからな。今夜は真希さん、海斗、諒の中から一人吊る。」と、直樹を見下ろした。「とりあえず、休憩を入れよう。直樹をベッドに戻して…扉を元に戻せるか?」
和彦は、顔をしかめた。
「かなり重いからな。そのまま置いておこう。無理にやったら怪我するぞ。直樹には悪いが、開けっ放しでおこう。」
外した本人が言うのだから仕方がない。
和彦と諒が仕方なく直樹の目を閉じてやり、側のベッドの上に直樹を運んで寝かせた。
重苦しい雰囲気の中、皆は思い思いの方向へと歩いて、休憩に向かったのだった。




