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狂人

その頃、煌、和彦、正志の3人は直樹の12号室の扉の前で何度もチャイムを鳴らして、応答を待っていた。

相変わらず、全く音がしない。

中の音は、何も聴こえて来なかった。

「…死んでるんじゃないだろうな。」和彦が言った。「これだけチャイムを鳴らしたら、いくらなんでもうるさいと言って出て来そうに思うんだが。」

正志は、ため息をついた。

「オレは耳が良いんだが、ピッタリくっついたら中の気配ぐらいは聴こえるんだ。」え、と和彦が驚いた顔をしたが、正志は扉に耳を当てて続けた。「呼吸してるような微かな音は感じ取れる。だから、死んじゃいない。」

和彦は、感心した顔をした。

「マジか。凄いな正志。お前人間か?」

正志は、顔をしかめた。

「うーん、あんまり自信ねぇ。」

その答えに仰天した顔をした和彦だったが、そんな会話に構わずあちこち調べていた煌が、言った。

「…ここ。」と、蝶番を見た。「工具があればなんとか出来そうなんだが。ここを外して、こうしたら案外簡単に外れそうだ。」

和彦が、言われてそこを見た。

「…確かに。オレ、仕事がそっち系だったみたいだ。見たら構造が頭にパッと出て来た。…ええっと、確かキッチンに調理道具はあったよな。似たようなのを見つけたらできそうだ。見て来よう。」

煌は、和彦を見た。

「君の仕事はこういった事なのか。頼りになるな。私は構造は分かるが、こんな事はしたことがなかったようだ。役に立たない。」

和彦は、急に褒められて驚いたのか顔を赤くした。

「いや、まあこれぐらいは。道具を探そう。」

正志が、言った。

「じゃあ、オレはここで見張ってる。出て来たら捕まえにゃ。腹だって空いて来るだろうし、そうそう籠ってられねぇとは思うがな。」

和彦と煌は頷いて、二人してまた、階下へと降りて行ったのだった。


その頃、部屋の中では直樹が耳を塞いでじっとしていた。

朝ご飯を取りに降りるのが面倒だからと、昨夜多めに持って来ていた菓子パンがあったので今のところ食べ物には困っていない。

とはいえ、今夜吊られるとなると、落ち着いて食事などしようと思えなかった。

外の音は全く聴こえないので、誰が来ているのか分からないが、チャイムが引っ切り無しに呼び出し音を出す。

さっきしばらく静かになったのだが、また鳴り出したところをみると、また誰かが来たのだろう。

…どうせ、誰も信じてくれないくせに。

直樹は、思った。

それで、会議の場所に座って皆からの質問攻めに合い、吊るし上げられるなど耐えられなかった。

もしこのまま、ここに籠っていたらどうなるんだろう。

直樹は、考えた。

直樹が居ないなら、もしかしたら投票できないのではないか。

投票できないということは、別の誰かに投票しなければならなくなり、結果的に高広を吊るしかなくなるのではないのか。

もしかしたらだからこそ、みんなはとっかえひっかえ自分を引っ張り出そうと必死になっているんじゃないのか。

自分を、今夜吊るために。

そう考えると、直樹は俄かに腹が立って来た。

結局、高広を生かして自分を殺し、そうして村を勝たせようと考えている事になる。

そして、狼はそんな村人を、分かっていながら止めることなく、自分を切り捨てようとしているのだ。

…狼め。

直樹は、誰だか分からない狼を恨んだ。

というか、もしかしたら狼は、白である直樹が狂人なのか狐なのか分かっていないのかもしれない。

狐だったらさっさと吊られてくれ、狂人でも面倒だから縄消費のために吊られてくれ、という事なのかもしれない。

…そうだ、狼から見たら、オレが狂人なのか狐なのか、わからないのかもしれない。

直樹はそれに思い当たって、呆然とした。

ということは、今夜吊られなくても狼はオレを噛む。

直樹は、宙を見ながら、思った。

噛めなかったら狐なのだからローラーを推し進めて明日吊り、噛めたら狂人で真だったと皆に思われて結果も騙れるし高広に縄を使える。

結局、こうなったら自分は追放される運命なのだ。

それに思い当たった瞬間、直樹はもう、笑い出すしかなかった。

そう、結局殺される。自分は、村人にも狼にも無用の人間なのだ。

それでも、勝てば生き残れる可能性がある。

腹は立つが、狼に貢献するためには、自分の色を見せずに死んで、狼だったのではと思わせること。

人外の数を分からなくすることしかないのだ。

「…やるしかない。」

直樹は、もう何も考えられなくなって、ルールブックを必死にめくった。

何か…何か手があるはずだ…!!


一方、煌と和彦は下へ降りた。

キッチンへと向かおうとすると、裕馬に声を掛けられた。

「あ、ちょうど良かった。意見を聞きたいんです、煌さん。」

煌は、顔をしかめた。

「…それどころではないのだがね。」

和彦が、急いで言った。

「オレが代わりになるような物を捜して来る。煌さんは話しててくれ。」

煌は、不満そうな顔をしたが、頷いた。

そして、和彦はキッチンへと足早に向かい、煌は立ったまま言った。

「なんだ?扉じゃなくて壊すしかないので、蝶番を外すための道具を捜しに来ただけなのだ。」

裕馬は、言った。

「グレーの話の中で、海斗は詩子さんが怪しいと言って、諒さんはグレーの中に狼が居て、直樹が狂人なら狼の首を絞めてることになるんじゃないかって。でも、怪しまれてる玉緒さんがめっちゃ諒さんに叩かれて昨日は投票までしてるのに、おかしくないかって話なんです。」

煌は、ため息をついた。

「私は完全グレーなら誰でも良いと思っている。とにかく一人減らして詰めることが目的なのだ。だが、黒を狙うというのなら、私なら…そうだな、海斗と同じ意見だ。詩子さんに入れる。」

皆が、迷いなく言い切る煌に、驚いた顔をした。

裕馬は言った。

「理由を聞いて良いですか?」

煌は答えた。

「なぜなら昨日の投票が怪しいからだ。あの場合、真希さんに入れたいと考えるのが女子の考え方ではないのか?土壇場で切って来て、結局その一票で吊られている。それに、詩子さんに票が一票しか入っていないのがおかしい。亜由美さんと詩子さんにそう、違いなどなかったはずだ。そう考えたら、人外に庇われている可能性があるから詩子さんにするのだ。もちろん、色はわからない。白かも知れないが、疑わしきは吊れだ。今も言ったがグレーを減らすのが目的なのだ。」

海斗と同じことを言っている。

こうなって来ると、海斗も白く見えて来た。

裕馬は、今にもキッチンへ行ってしまいそうな雰囲気の煌に、急いで続けた。

「あの、では諒さんの意見は?狼の首を絞めてるっていう。」

煌は、それにも答えた。

「狼の首を絞めているのなら、偽ならば直樹は狐なのかもしれない。狼の敵は何も村人だけではないからだ。それに狂人でも、狼が誰で、囲われているのかグレーにいるのかわかっていないということも考えられる。どちらにしろ明日、色を見てから決めることになる。もっとそもそも狂人でも、自分を庇ってもくれない狼を恨んでいる可能性はあるし、根本的にそんな考えに到っていないのかもしれない。ただ、自分が吊られることが嫌でこんなことをしているのかもしれないのだ。どちらにしろこんな騒ぎを起こしている直樹は、出て来ても必ず吊るが、問題は明日、その色を見ることだ。ルール違反で追放になれば、色を見ることができない。その出した色で高広の精査もできる。だから私は、慌てているのだというのに。」

足を止めていることに、イライラしているのだ。

裕馬は、困って言った。

「あの…すいません。」

煌は、頷いた。

「もういいか?」

裕馬は、頷いた。

「はい。」

煌がキッチンに足を向けると、和彦が包丁やら何やらを手に、キッチンから出て来た。

それを見た皆が一瞬固まったが、和彦は言った。

「ろくなものがなかったが、とりあえずこの辺りでなんとかしてみる。」

煌は、頷いて今度はリビングの扉に足を向けた。

「行こう。」

そうして二人は、またリビングを出て行ったのだった。

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