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逃げられない場所で

煌と祈、そして海斗と正志は、その宣言通り一緒に行動していた。

直樹がクローゼットにあったジャージに着替えて降りて行くと、4人は大きな階段を降りきった所にある、広い玄関ホールに立って何か話していた。

そこは、昨日はそれどころではなかったが、広くて天井からは大きなシャンデリアが吊り下がっており、こんな時でなければそれは趣のある素晴らしい洋館の玄関ホールだった。

直樹は、4人に声を掛けた。

「…散歩にでも行くのか?」

海斗が、振り返って顔をしかめた。

「行けたら良かったけどねぇ。開かないんだよ、全く。」

え、と直樹は海斗に駆け寄った。

「開かないのか?」

思えば、逃げることができるかもしれないのだ。

閉じ込められているのは、想定の範囲内だった。

「…どちらにしろ、リビングの窓から外が見えるが、深い森の中なのは確かだ。逃げたとしても、迷って出られないのは分かっているのだ。その上、腕にこの腕輪が有る限り、おかしな行動をしたら追放だろう。つまり、逃げられない。分かってはいたが、確めたかっただけなのだ。」

煌は、そう言って落ち着いているが、祈は不安そうだ。

正志が、祈に言った。

「勝てばいいんだよ、祈さん。大丈夫、分かってたことだ。さあ、リビングへ行こう。」

祈は、頷く。

煌は、言った。

「心配することはない。私がついている。君は大丈夫だ。」

心強い言葉だが、その煌も村人ならいつ襲撃されてもおかしくはない。

だが狼なら…?

そして、祈の方が狼なら?

直樹は思ったが、そのまま黙ってリビングへと歩く、4人について歩いた。


リビングでは、もう皆が集まりつつあった。

直樹を含めた五人が入って行くと、裕馬が顔を上げた。

「ああ、来たのか。結果をホワイトボードに書いておいたぞ。女子が遅れてるが、準備に時間が掛かってるんだろうな。もしさっさと済ませられるなら、朝飯食って来てもいいけど。」

もう椅子に座っている、悟が頷いた。

「オレは菓子パン食べて来た。あんまり腹は空いてなかったが、食べておかないと考えられないかと思って。」

海斗が、言った。

「どうする?祈さん。朝ごはんだって。」

祈は、言った。

「そうね、今朝は昨日の残りもあるし、お惣菜をちょっと追加したもので済ませてしまう?部屋にお化粧品があったし、考えたらみんなお化粧をしているのかも。私は、そんな事も考えていなかったわ。」

正志が、言った。

「まあ、化粧しても見るのはここの人達だけだしな。でも、祈さんは化粧してないのか。めっちゃ肌綺麗だな。」

祈は、フフと笑った。

「あら。正志さんはお上手ね。でもそうなの、お化粧のこと、考えてもなかったわ。バスルームに置いてあった基礎化粧品をつけただけよ。お化粧する気持ちにもならなくて。」

煌が、歩き出した。

「ならば、皆を待たせてはならないしさっさと済ませて来ようか。キッチンへ行くぞ。」

祈は頷いて、正志と海斗と共に、ぞろぞろと煌についてキッチンへと歩いて行く。

直樹は、自分はどうしようかと悩んだ。

全然お腹が空いていないのだ。

何しろ、何度も夜中に目が覚めて、よく眠れていないのだ。

裕馬が、言った。

「直樹は?なんか顔色が悪いな。食べといた方がいいぞ?」

直樹は、頷きながら答えた。

「食欲がないんだよ。何しろ、襲撃されたらと思ったらよく眠れなくて。同じ霊媒の徹は襲撃されてたし…そんなことを考えたら、落ち着かない。早く話し合って、人外を見つけないとって思って。」

和彦が、言った。

「気持ちは分かるが、煌さんが言ってたじゃないか。もしかしたら仮死状態かもしれないんだろう。勝てば帰って来られるのかと思ったら、オレもちょっと勇気が出たよ。何かあっても、村柱にもなれるかもしれない。勝利に必要ならだけどな。」

清が、頷いた。

「オレも。とにかく、食べた方がいいぞ。食欲が無くても、何か入れといたほうがいい。パンでも持って来いよ。」

直樹は皆に勧められて、仕方なくキッチンへと向かった。

あまりにも食べずにいたら、それで逆に人外だとか言われたらいけないからだ。

…今日の結果で、狼は自分が狂人だと知ったはず。

だが、捨て駒にされないとも限らない。

直樹は大きなため息をつきながら、キッチンへと入って行った。


中では、海斗と祈が忙しなく歩き回って、せっせと座っている正志と煌の前に、おかずを並べていた。

今回は、味噌汁もカップで済ませる事にしたらしい。

インスタントでは、煌も文句を言うかと思っていたが、特に機嫌を悪くすることもなく、じっと座って待っていた。

直樹が入って来たのを見て、海斗が振り返った。

「あれ、直樹もご飯?」と、テーブルに米の入った茶碗を置いてから、顔をしかめた。「おかず足りるかな。」

直樹は、慌てて手を振った。

「いや、あの、オレはパンで。取りに来ただけ。」と、テーブルの上に並ぶ、ラインナップを見た。「味噌汁はインスタントにしたの?」

祈が、渋い顔をして頷いた。

「時間が足りないから。お湯はポットにあるし、沸かす必要もないでしょ?このお味噌汁のブランドは、おいしいのを知っていたので、これで我慢してもらう事にしたの。」

煌は、もうお椀を手にして、味噌汁を口にしていた。

そして、満足そうに頷いた。

「君が旨いというものにはハズレが無い。やはり私と味覚がぴったり同じなのだな。」

だからインスタントでも文句もないのか。

直樹は、思って聞いていた。

正志が、箸を手にして食べ始めながら言った。

「お前はそればっかだな。結局食か。で?昨日何か話したいとか言ってなかったか。夜考えて来たんじゃないのか。」

煌は、それを聞いて深刻そうな顔をした。

「…それは、後でいい。今はこのゲームを終わらせることを考えねば。人外の位置は私から見てまだ、真占い師だろう人が一人しか分かっていないからな…いっそ私が占い師であったなら、もっと視点がクリアであったのに。」

直樹が、パンを漁っていたのだが、驚いて振り返った。

「え?!煌さん、一人でも真占い師が分かってるんですか?!」

昨日の会話で、いったいどうやって分かったんだろう。

直樹がじっと答えを待っていると、煌は答えた。

「まあ、後で話す。今は食事だ。君も早く済ませないと、女性の支度に時間が掛かるとはいえ、そうそう待たせないだろう。全ては会議でだ。」

直樹は、頷いたが複雑だった。

煌は、その頭の中で考えていることの、半分も皆に話していないように見える。

その時に、必要だと思ったことしか自分から話さないし、聞かれた時に答える程度だ。

その頭の中を、いっそ全部教えて欲しかった。

理解できるかどうかは分からないが。

直樹は、結局菓子パンを一個とペットボトルを手にして、そして邪魔をしてはとキッチンを出て行ったのだった。


リビングへ出ると、裕馬が言った。

「おう。持って来たのか?」

直樹は、頷いてソファに座った。

美智と咲子が、揃って来てもうソファに座っている。

二人は、軽く化粧をしていて、それで時間を取ったようだったが、他の玉緒、真希、詩子がまだ来ていないところを見ると、もっとしっかり準備しているのだろうと思われた。

直樹は、パンの袋を開きながら、言った。

「あのさあ、玄関の扉が開かないって聞いた?」

え、と皆が直樹を見る。

清が、言った。

「開かないのか?」

直樹は、頷いた。

「そう。煌さん達が、階段降りて来たら扉の所で何かやってて。開かないって言ってた。どっちにしろ、腕に腕輪がついてる限り、逃げられないだろうけどって言ってたけど。山の中だしね。」

清が、言われて窓の方を見た。

煌も言っていた通り、外には広い芝の庭がずっと続いていて、その向こうには塀があり、そしてその向こうには、鬱そうと繁った森が見えた。

どう見ても、完全に山奥だった。

「逃げる事なんか考えてない。」悟が、言った。「多分、賞金目当てで自分で来たんだろうし。逃げたところで、こいつが腕についてる限り、ルール違反で追放だろう。勝つしかないのは、これに参加した時から決められていたんだ。今朝の徹を見て、希望が見えた。多分、あれは仮死状態かなんかで、勝てばきっと戻って来れるんだ。だったら、頑張るしかないだろう。」

その通りだ。

直樹は、黙って頷いた。

だが、まだ二日目。

ゲームはまだまだここからだった。

皆も顔を見合わせていたが、逃げられない事は皆、分かっていた。

勝つしかないのだ。

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