その夜
「…占い先の指定をしなければならない。」煌が、言った。「咲子さんは残らないと。」
運ばれる亜由美について行こうとしていた咲子は、こちらを振り返った。
そして、涙を堪えた赤い目で頷いて、ソファへと戻った。
残った悟、真悟、美智、そして咲子に、一気に老け込んだように見える裕馬が、言った。
「…占い先だが…」と、ポケットからメモ帳を出した。「相方と考えて来たんだ。悟さんは、煌さんか海斗、美智さんは祈さんか和彦さん、咲子さんは清か諒さん、真悟は詩子さんか正志。必ず、そこを占ってくれ。変えたとか言っても信じない。呪殺が起きた時のための指定なんだから、守ってくれ。」
4人は、頷く。
正志が、ぼんやりと投票結果が残っているモニターを見上げて、言った。
「…なあ。」そこに居る皆が正志を見る。「咲子さんはなんで詩子さんに入れた?」
咲子は、答えた。
「…3人の中では、一番怪しく見えたから。真希さんは目立ち過ぎていたし、亜由美さんは率先して聞かれたことに答えていたけど、詩子さんは潜伏したそうに見えたの。女子同士で話している時も、そんなに発言しなかったし。」
潜伏したそうに見えたのか。
裕馬は、言った。
「…なるほどな。もう詩子さんも真希さんも、玉緒さんも亜由美さんについて上がって行って話は聞けないが、亜由美さんに入れてる人の意見は聞きたいかな。特に詩子さんは…あれだけ一緒に居た、亜由美さんに入れてる。何か怪しい所を見つけたのか、それとも一緒に怪しまれたら堪らないからラインを切ったのか。」
清が、言った。
「真希さん、亜由美さんの発言からの情報が多くある中で、詩子さんは判断が付かなかったから保留にしたのが正直な話しだ。真希さんは目立ち過ぎているし、明日以降だろうと思った。だから亜由美さんに投票した。消去法だな。亜由美さんを疑ったわけではなかった。」
咲子が、言った。
「…そんなことで?あの子は…私は白いと思っていたわ。潜伏臭がする方が初日は絶対吊るべきだったのに。」
悟は、言った。
「霊媒が全員生き残ることに賭けよう。とにかく、色を見てもらって今日の投票が正しかったのか見る必要がある。今は、誰も責めるべきじゃない。誰が正解かなんて、終わってみないとわからないんだ。」
真悟が、立ち上がった。
「その通りだ。とにかく明日はまた新しい結果が出る。襲撃先で見えて来ることもあるかも知れない。もし白だったなら、何を言っても亜由美さんが戻って来るためには、勝つしかないんだ。本当に戻って来るのなら…だがな。」
そのまま、皆は黙り込んだまま解散した。
あれだけ祈の側に居ると言った海斗は、亜由美を運んで行くのを手伝ってここには居ない。
なので正志が煌と祈について、そして部屋へと送って行ったのだった。
直樹が亜由美を部屋へと連れて行くのを手伝って、無言で海斗と和彦、徹と、その他ついて来ていただけの女子達と廊下へと出ると、海斗が言った。
「今頃、リビングで占い師達に占い先を指定してるのかな。」言われて、直樹はハッとした。確かに、裕馬と占い師達が居ない。海斗は続けた。「どうする?多分、下へ下りたらホワイトボードに指定先が書かれてあると思うけど。確認しておく?」
和彦が、ため息をついた。
「…いいや。もう疲れた。部屋へ帰って休むわ。ビールでも飲まなきゃやってられねぇ。亜由美さんの体、軽そうなのにずっしり感じてほんとに死んだんだなって思ってさ…なんか気が滅入っちまった。でも、取り乱してゲームができなかったら殺されるしな。必死に抑えてるとこ。ほんとだったら叫び出してるわ。」
確かにそうだ。
直樹も、亜由美が死んでいるという事実を運びながら段々に実感して来て、胸が苦しくなって来て、叫び出したい気持ちになった。
だが、どこか冷静な自分が居て、それは自殺行為だと止めているようだった。
つまりは、皆同じ気持ちなのだろう。
海斗は、ため息をついた。
「僕も。どうせ明日になったら見られるしね。じゃあこのまま部屋に入ろう。でも…役職行動は10時からだったし、狼は11時から外へ出て話ができるんだね?…変な作戦、立てられなきゃいいけど。」
徹と和彦は頷いて、そして直樹に頷き掛けてから、その場を離れて行った。
直樹は、明日の結果をどうするのか、頭を悩ませながら部屋へと入って行ったのだった。
部屋へと入ったが、まだ施錠時間までは間があった。
今日の議論では、誰が狼なのか全く分からなかったが、投票先を見ると真希と亜由美は狼ではないような気がした。
何しろ、票がほぼ真っ二つに分かれていて、その投票理由も何となく分かるのだ。
真希は、多分煌に逆上せてこれからも面倒な事をしそうなので、鬱陶しいと思った票だろう。
亜由美の方はと言えば、恐らく狼票が流れたのではないだろうか。
というのも、亜由美は特に怪しいところなどなかったのだ。
直樹も亜由美が吊られると思っていなかったので、亜由美自身もきっと吊られるはずはないと思っていたことだろう。
それなのに、あの数の票が入っていた。
ということは、白だったのではないだろうか。
相変わらず、玉緒はわけがわからない票の入れかたをしていて、恐らくめちゃくちゃ責められたからだろうが、指定先ではない諒に入れていた。
咲子は、指定先の中で誰も入れていない、詩子に投票していた。
狼ならそんな目立つ事はしないと思われるので、直樹には咲子が真に見えて来ていた。
「…狼が霊媒の襲撃に成功したら…。」
直樹は、考えた。
自分には、多分護衛は入らないだろう。
なぜなら、後から出たし、それまで散々狂人だと言われていたので、その疑いはまだ晴れていないと思われるからだ。
狼から見てもそれは同じだろうと考えると、狼が襲撃するのは真の可能性がある残りの二人の二択。
仮に直樹を噛んだとしても、村目線では真が抜かれたかもと思って、その霊媒師二人を信じることができないだろうと思われた。
だが、面倒な事に結果は揃う。
なので、狼が落として欲しくない結果が落ちる事になるのだ。
…明日は、オレ以外の一人が噛まれていたら黒を出そう。
直樹は、思った。
そして、三人とも生きていたら白を出そう。
恐らく同時出しさせられるだろうから、亜由美がきっと白だったと、それに賭けた決断だ。
上手く一人を噛めて自分が残っていたら、パンダになった結果を見た狼が、自分を狂人だと認識してくれるはずだ。
だが、もし黒だったならまた噛まれてしまうかもしれない。
狂人にとって推測するしかない吊った人の色を、操作するのは本当に難しい事だと直樹は潜伏していた方が良かったかと、心の底から後悔したのだった。
一方、二階の9号室の前まで来た正志と祈は、煌を見た。
「では、煌さん。私は部屋へ入りますから。」
祈は隣りの10号室だ。
ちなみに、正志は5号室で、1から6号室まで並んでいて、その向かい側にまた7から8号室、階段を開けて9から10号室と並んでいるので、正志の部屋はこの9号室の真向かいだった。
煌は、言った。
「祈。」と、何か言いかけて、正志を見た。「…君は本当に村人か?」
正志は、顔をしかめた。
「確かに村人だが、お前目線じゃ確定してないわな。何か二人きりで言いたいことでもあるのか?だったら確定村人の裕馬を挟んで話したらどうだ。」
煌は、息をついて首を振った。
「裕馬は駄目だ。何を話すにしても、顔に全部出ているので私が何かを提案したとしても、それを演じ切れるかどうかも分からない。まあ…いいだろう。」と、祈を見た。「今夜は霊媒師噛み以外だとしたら、占い師噛みしかないだろうし、その次は共有者だ。君は襲撃される事はないだろう。必ず明日も話すことができると信じている。」
祈は、頷いた。
「はい。私もそのように。何かお話ししたいことがあるのですか?」
煌は、眉を寄せた。
「…私の中でも整理できていなくて。明日には結論を出しておきたいと思う。」
何の事だろうと思ったが、大層なことのような気がする。
正志が、言った。
「まあ、お前らが狼ではないのは確かのようだな。狼なら、そんな今生の別れみたいな言い方しなくても、また11時には会うわけだし。」
煌は、正志を睨んだ。
「だから違うというのに。」と、祈を見た。「では。施錠までに何かあったら部屋を訪ねて欲しい。」
祈は、頷く。
正志は、言った。
「まだ二時間あるしなあ。ちなみに何かあったらオレにも相談してくれていいからな、祈さん。」
祈は、そちらにも頷いた。
「ありがとう。でも、大丈夫よ。」
だが、祈だけが他の女性達と話し合いもできていない。
それも結局、煌が囲い込むような形になっているからで、明日からはもっと自分と海斗が誘導して、女子達の中に祈も入れるようにして行く方がいいかもしれない、と正志は思っていたのだった。




