会議
結局、全員がリビングへ集まった時にはもう、午後5時だった。
煌は真希と目を合わせないようにしているし、真希は隣りに座っているのが気に入らないのか、祈を睨むように見ている。
番号が並んでいるのだから、煌と祈が隣り同士なのは仕方ないだろう。
それでも、真希にとっては祈が一番のライバルに見えるようだった。
当の祈は、それに気付いているようで、困ったように進行役の裕馬を見ていた。
裕馬は、言った。
「まず、このゲームには命が懸かっているんだ。少なくてもゲームの間は、絶対に恋愛とかそんなことには言及しないで、粛々と進めて欲しい。オレと相方の考えだよ。」皆が、頷く。真希も、同じく頷いたが、分かっているのかいまいち見えなかった。裕馬は続けた。「それで…ここはもう、ハッキリさせた方がいいと思って。今夜はグレー吊り、で、仮に役職者が投票対象に上がったら、村に不利でもとりあえずCOしてくれ。その際、どっちでもいい。役職名は言わずに、役職有りとだけ言ってくれても。猫又かもしれないから狼は噛めないし、狩人だとしてもだから保護できる。で、お昼に意見を全く聞けてない玉緒さんから話を聞いたい。玉緒さんは、占い師のことはどう思ってる?二人は必ず人外なんだけど。」
玉緒は、おずおずと口を開いた。
「あの…占い師は正直わからない。人狼ゲームのことは、勉強してきたみたいでなんとなく分かってる事もあるの。でも、実際にプレイしたことがないから、言葉の使い方とか分かってなかっただけで。ただ、お互いに白を出してる二人は…なんか怪しいなって思った。特に後から出た美智さん。誰か言ってたけど、囲われて…?出て来たのかなって。悟さんから見たら白になるから、無碍にできないでしょ?味方が居るからとか、思ったのかなって。」
言葉はちょっとアレだが、言いたいことは伝わる。
裕馬は、頷いた。
「それで?グレー…役職でも占われてもない人達はどう思う?」
玉緒は、言った。
「みんな私を怪しいとか言うから、白でも吊るとか。だからみんな黒く見えてる。特にめっちゃ攻撃的な諒さんと、それに乗っかった感じの和彦さん。詩子さんは優しく諭してくれたから、私からは良い人だなって思うわ。直樹さんも、自分も狂人とか言われてるのに、ちゃんと考えようって言ってくれて。だから、良い人だし白く見える。」
良い人って。
直樹は思ったが、対面人狼はそういった印象も判断に入って来るのだ。
裕馬は、さらに言った。
「他は?亜由美さんとか、真希さん。」
玉緒は、それにも淡々と答えた。
「真希さんも亜由美さんも良い人よ。会議ではきついことを言ってたけど、休憩中はとても話を聞いてくれたわ。とっても優しく私にもわかるように話してくれたの。だから黒いなんて思ってない。黒だったら、放って置いて私を怪しいって言ってたほうがいいでしょ?だから、女子に悪い人は居ないと思う。ただ…祈さんとだけはまだ話してないからわからないかな。ご飯食べる時も、忙しそうにしてたし。でも、祈さんは真悟さんの白だもんね。それはグレーとは言わないんでしょ?」
うーん、わからない。
直樹は、顔をしかめた。
色が全く見えないのだ。
素直にそう思っているからそう言ってるようにも見える。
だが、もしかしたら計算してあんな発言をしている可能性もあった。
諒が、言った。
「…わからないな。オレから見たら、印象ばっかで何も論理的なことはないんだよな。やっぱり玉緒さん吊って色を見た方が良いんじゃないか?」
役職なのに?
というか、そう言えば上に居た人達は、特に男子はあの亜由美と詩子の話を聞いていないのだ。
それに思い当たって、直樹は言った。
「ええっと…その、それでもいいけど、役職は?」
諒が、は?という顔をした。
「役職?ないって言ってなかったか。」
裕馬が、ため息をついた。
「いや、あの、情報があってね。」と、玉緒を見た。「役職あるかどうかは、今夜の吊りに影響するんだ。もし役職潜伏するのなら、君は疑われてはいけなかった。亜由美さんと詩子さんから聞いたが…君は、何か役職を持ってるのか?」
玉緒は、むっつりとした顔で亜由美と詩子を見る。
二人は困った顔をしたが、咲子が言った。
「…私達に匂わせてもダメなのよ。役職があるなら、きちんと言わないと、あなたは吊られてしまうわ。亜由美さん達が悪いんじゃないわよ。どうなの?あるの?」
玉緒は、しばらく黙っていたが、ため息をついて、頷いた。
「…役職があるわ。」
玉緒は、役職持ち…!
直樹は、狼ではなかったのか、と残念に思った。
狼だったら、玉緒からの繋がりで見ようと思えるからだ。
煌が、言った。
「…他に真役職が居ても、出る必要はない。猫又も狩人も、潜伏して初めて役に立つのだ。玉緒さんの役職がなんなのか、気になるところだが今回はとりあえず置いておこう。それで、そうなると役職持ちを執拗に吊り押していたことになる、諒が筆頭で、次に和彦辺りがグレーなら怪しくなるがね。私も白でも吊れと玉緒さんを強く吊り推したが、私は咲子さんの白先だし、今夜ではないだろう。とはいえ…私は、玉緒さんが騙りである可能性が高いと思っているとだけ言っておく。」
清が、眉を寄せて言った。
「…それはどうして?」
煌は、答えた。
「いろいろあるが、確かなのは玉緒さんが今COしたからだ。」
それは、直樹も皆も聞いて知っている。
煌は、他の聞いていなかった人達に向けて言っているのだ。
「仲間と話し合って入れ知恵されたのだと考えている。あんなにもお粗末であったのに、いきなりにきちんと発言できるのもおかしいし、昼に和彦が役職はあるかと聞いた時、村人がどうのと、演技をしていたというわけだろう?初心者だからと、村のバイアスが掛かるのを期待して、あんな風に振る舞っていたのだと私には見えた。全くの初心者ならば、『村人は役職なのか』とか、あんな言葉を吐けるものなのか?姑息に見えて、騙りだとしか思えない。」
辛辣だ。
辛辣だが、もっともなことだった。
確かに、村人は役職なの?と玉緒は聞いた。
あれで、一気に玉緒が何も知らない村人なのでは、と皆の玉緒に投票という考えが揺らいだのだ。
だが、あれだけ吊り推していた、和彦が言った。
「…仕方がない。オレも同じ気持ちだが、役職があると言う以上、それに他の村役職を守るためにも、今夜は玉緒さんは吊れない。初日から狩人や猫又が出てしまったら、村人に切り札が無くなるじゃないか。とりあえず、玉緒さんが怪しいのは確かだし、オレも騙りだと思う。それでも、真の可能性が千分の一でもある限り、今日は他のグレーから吊るしかないだろう。オレは自分が白だと知ってるし、完全グレーはオレの他に8人。この中に役職も混じっている事を考えて、慎重に考えよう。」
諒が、ホワイトボードを見た。
「ええっと、完全グレーは何人だ?」
すぐに、煌が答えた。
「今の玉緒さんのCOで9人。真希さん、正志、諒、和彦、直樹、詩子さん、海斗、清、亜由美さんだ。この中に、共有、狩人、猫又が居たら、しっかり発言して怪しまれないように頑張ってくれ。私もこの中となると難しいが、発言を聞いて考えよう。」
裕馬が、言った。
「狂人を吊っても白でわからないしなあ。できたら、初日は霊媒も居ることだし、黒を狙いたい。とはいえ、怪しい奴なんか居たか?…もう一度発言を聞こう。最初の方はまだみんなの発言を聞いてなかったし、真希さんから。今、どう思っているのか話してくれ。」
真希は、頷いた。
何やら気合いが入っているように見える。
直樹は、固唾を飲んで発言を待った。




