ハーレム王のダンジョン探索 2
「やる気ないけどファイアーボルトぉ。」
言葉通りのやる気なさげな火線がゴブリンを貫く。
やる気はなくても、威力は十分らしい。
「はぁ、ホントにやる気が出ないわ……クリム、左に二匹よ。」
「はぁい、適当にエアカッタぁ。」
フラフラと空気の刃が迫りくるゴブリンに向かい、その身体を切り刻む。
「クリム、奥からゴブリンエリートが三引きよ。たぶんこの群れのボスね。」
「どうでもいいアクアバブルぅ。」
クリムのが腕を伸ばすと、人の頭大の水の玉が生み出され、フラフラ~っと、ゴブリンエリートたちに近づく。
それに気づいたゴブリンエリートたちは、ウザそうに手を振るってそれを払おうとするが、水の玉は、その腕をするりとかわし、ゴブリンエリートたちの顔を包み込む。
顔に水の玉が張り付いたため、呼吸が苦しくなったゴブリンエリートたちは、その水玉をどけようと必死にもがくが、相手は不定形の水玉。叩こうが払おうがまったく意味をなさず、却って自分を傷つけるだけの結果に終る。
そして呼吸が出来ないという事実は変わらず、しばらくすると抵抗は完全に途絶え、絶命する。
「なぁアルちゃん。ウチの嫁たち凶悪だよな?」
俺は傍にいるアルちゃんに向かってそう呟く。
やる気が出ないといいながら、アンジェとクリムだけでこの場にいたゴブリン50匹ほどの群れを全滅させるのだから。
いや、実を言えば、この場だけでなく、ここに辿り錘までの間に遭遇したゴブリンやコボルトたちは、すべて彼女たちの手によって、殲滅させられている。
俺がそう言うと、アルちゃんは困ったような表情で軽く首を振る。
「気にするな?……じゃなくて諦めろ?……いや、ある意味諦めているんだけどね。」
何と言っても、クリムは元ヤンデレ……いや、今もか。とにかく、彼女を怒らせるのは身の危険にかかわる。
今回は、俺の誘い方がまずかった、という事だけなので、被害は魔物だけに向いているが、女の子が関わってくると、ヤバい事は間違いない。
嫁という絶対的なポジションを名実ともに得た余裕からか、今まで何があっても浮気は認めないといっていたのが、愛人は許す、という風に変わったことは大歓迎ではあるが、それでも、女の子の扱いについては、クリムの顔色を窺いながら決めて行かなければならない。
「おかしい。俺がハーレムの主の筈なのに、何故嫁の機嫌を窺わなければならない?」
俺が思わずそう呟くと、側にいたクロが、ポンッと俺の頭に前脚をのせてくる。
「あ、そうですか、そういうモノ、ですか……。」
「終わったよぉ……って何やってるの?」
俺がクロに慰められていると、クリムがこっちに向かって飛んでくる。
「いや、人生相談を、ちょっとな。」
「はぁ。そんなことどうでもいいから、さっさと魔石集めて次いくよ。」
「あ、あぁ。」
俺は立ち上がり、地面に散らばった魔石やドロップアイテムを集めて回る。
このダンジョンに入ってからの俺の役割だ。
本来ならば、俺が彼女たちの前に出て、颯爽と魔物を打ち払うべきなのだが、あいにく俺の戦闘スタイルは背後からの奇襲なので、前に出て戦うのには向いていない。
さらに言えば、コボルトやゴブリン程度であれば、近寄ってくる前にクリムの魔法で片が付く。
なので、結局、クリム達ミニマムズではサイズ的に重労働になる魔石やアイテム集めを俺が一任しているという訳だ。
「ダンジョン探索って何なんだろうなぁ。」
俺の呟きに応えてくれる者はいなかった。
「ここが2層……ねぇ、このダンジョンって何層迄あるの?」
二層に降り立ったところでクリムがそんな事を聞いてくる。
「さぁな。」
そんなこと俺に聞かれても困る。
「さぁ、って……ソーマ知らないで連れてきたの?」
「クリム、無茶言うものじゃないわよ。それを調べる為に来たのでしょ?」
アンジェが間に入ってクリムを宥めてくれる。
「それもそっか。じゃぁ、今日はどこまで行くの?」
クリムの問いに俺は少し考えてから答える。
「1層ごとの広さが分からないから何とも言えないけど、とりあえず3層、出来れば5層まではクリアしたい。」
まぁ、5層迄あるかどうかも分からないんだけどな。
「ふーん、じゃぁさっさと行こ。ソーマ、気配はある?」
「今の所はないけど、慎重に進んで行こう。」
「OK!」
クリムはそう言って俺の肩に飛び乗る。
右肩にクリムとアンジェ、左肩にクロ、そして頭の上にアルちゃん。これが俺達のパーティのフォーメーション?だ。
いざ戦闘となれば、アンジェが索敵、クロとアルちゃんが遊撃、その間を縫ってクリムが攻撃、俺は気配を殺して相手の背後に回り奇襲という図式が出来上がる……のだが、実質、クロが遊撃として敵を引き付けている間に、アンジェの指示によってクリムが効率よく敵を屠っていくので、俺の出番はないに等しい。
だから俺の役目は、こうして彼女たちを乗せてダンジョン内を歩く事と、彼女たちが倒した魔物の後処理をするだけ。
……なんか俺の想像していたダンジョン探索と違う。
そうは思いつつ、気配を探りながらダンジョン内を彷徨うのだった。
「結構広いわねぇ。」
休憩のために、ある広場で腰を下ろすと、クリムがそういう。
「そうね、今まで歩いただけでも、1層の倍近くあるのではないかしら?」
クリムの言葉を受けてアンジェもそう答える。
「アンジェの言う通りだな。」
俺は道中マッピングしてきた紙を広げながらそう答える。
世の中には「地図作成」という便利なスキルがあるらしいのだが、そんなスキルは誰も持っていないので手書きが基本になる。
と言っても俺の位置情報は、ブレスレットに仕込んだ魔石を通じて、常にターミナルに送受信されるため、いちいち立ち止まって書き込んで行かなくてもいい分だけ楽が出来る。
「この地図から見て、俺の索敵範囲は大体これくらいの範囲だ。」
俺が地図に記した円の大きさは距離にして、半径200mぐらい。以前の俺はもっと広範囲にわたって気配を感知できていたはずなのだが、再構築により俺の能力が下がったせいなのか、このダンジョンの中という特性の所為なのかは、わからない。
「それらを踏まえたうえで、推測すると、大体、今で半分ぐらいのエリアを踏破したと思われる。」
実際に歩いてきた部分と、歩いてはいないけど気配を探って知りえた情報分を簡単に書き込んでいく。
「だから、今日の所はこの2階層の探索で終了しようと思う。」
「えーなんで?私まだまだ元気だよ?」
クリムが口をとがらせて言うが、それに対してアンジェが諭すように説明してくれる。
「ソーマの判断は妥当なところよ。まず、もしかしたらここがダンジョンコアのあるエリアかもしれないという事。そうじゃなくても、次の3階層がその可能性もあるわ。そしてこの階もしくは次の階がダンジョンコアのあるエリアじゃなかった場合、次の階層も最低限個の階層と同じ広さがある。その事から考えても今日の所は個の階層で探索終了するのは間違っていないわ。」
「……どゆ事?」
アンジェが折角説明してくれたのに、クリムが理解できていなかった。
「あ~、あなたはそういう子だったわね。」
アンジェが頭を抱える。
「いーい、まずこのダンジョンは出来たばかりって事、これは分かる?」
「うん、それくらいは分かるよ。」
「出来たばかりって事はそれ程規模が大きくないって事。なのにこの2階層は結構広い、ここまではOK? 」
「うん、OKOK。」
大きく頷くクリムを不安げに見ながらアンジェが説明を続ける。
「それ程規模が大きくない筈なのに思ってたより広い階層、って事は、ここがダンジョンコアの有る始まりの地とも考えられるわけ。ダンジョンコアがそんなに深く潜ってないから、その階層を広げた、そして地上への道を繋いだ。1階層がそんなに広くなかったのは、入り口を繋ぐことを優先したからと考えられるの。だとしたら、この下に階層はなくここにダンジョンコアがあってもおかしくないの。ここまで大丈夫?」
「あ、う、うん、なんとか。つまり、ダンジョンコアさんが自分の周りを十分広げたから上を作った……って事でいいのかな?」
「概ね、あってるわ。それでね、ここにダンジョンコアがあれば、この階層を探索してダンジョンコアを見つければおしまい。その後どうするかは別問題だけどね。」
「あ、うん、それは分かったよ。でもここにダンジョンコアがなかったら?」
「考えられるのは次の二つ。第三階層にダンジョンコアがあるかないか、よ。」
「うん、それは分かるんだけど……。」
「ダンジョンコアがない場合はね、三階層の広さはこの2階層と同じかそれ以上あることになるわ。」
「それが分かんない。なんで?」
「ダンジョンはね、自らのエネルギーであるマナを吸収するのが目的で、その為にダンジョンを作っているのよ。小さい場所と大きい場所、どっちが沢山獲物が入ってくると思う?」
「それは……大きい場所?」
「その通りよ。でその場所より別の場所……この場合上の階層だけど、そこに新しく場所を広げるって事は、どういうことか分かる?」
「うぅ……頭がこんがらがってきたよぉ。」
頭を抱えるクリムを見て、アンジェが小さなため息をつく。
「つまりね、そこが十分な大きさになったから別の場所を広げることにしたの。畑を耕す場所が無くなれば、別の土地を耕して広げていくでしょ?それと同じことよ。そして、横ではなく縦に広がる場合、その面積は上の階層が下の階層より広くなることはまずありえないのよ。あるとすれば、そこがコアの有る場所だった場合だけ。」
「うん、なんとなくわかるかも……。」
「だからね、3階層がコアがある場所だけだった場合、三階層に降りればそれでおしまいだし、中ったり、あるとしても十分広げた後だった場合、2層と同じかそれ以上の広さがあるって事。だとすれば、ムリして探索するより出直したほうがいいでしょ?」
「あ、うん、そう言う事なら……。」
クリムは理解したのかしていないのか分からないが、一応頷いてくれる。
その後、混乱したクリムの回復を待って、俺達は2階層の探索を続けるのだった
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