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ハーレム王と新しい世界 5

「中々いないねぇ……ふわぁ~……。」


俺の右肩の上に乗ったクリムが、眠そうに大きな欠伸をする。


「まぁ、討伐が目的じゃないからな。いないに越したことは無い。」


クリムが、いないというのは魔物たちの事だが、別に魔物を探しているわけではないので問題はない。


「そうは言うけどねぇ。いい加減歩き疲れない?」


「お前歩いてないだろ。」


俺はクリムの態度に呆れながらそう言うと、左肩に乗っているクロが、「にゃん」と短く鳴く。


因みにアルちゃんは頭の上にいる。つまり実質歩いているのは俺だけなのだ。


「だからぁ、ソーマが疲れたんじゃないかって言ってるのよ。」


「まぁ……疲れてなくもないが、一度休憩にしようか。……おーい、お前らも少し休めよ。」


俺は背後で作業をしている奴ら……ノッカーたちに声をかける。


すると、ノッカーたちは、作業の手を休め、思い思いに休息を取り始めた。


俺達は今、ターミナルの外へ出てきている。


何をしているかというと、施設周辺の整備、というのが一番しっくりくるだろう。


先日、外へ繋がる出入り口のふたつめが解放された。


付近の様子を監視、検証した結果、ある程度の安全が確認されたからだ。


その出口近辺は、なだらかな丘陵地帯で、肥沃な草原が広がっている。ちょっとした農村集落を作るのに丁度良さそうな土地だった。


なので、俺はノッカーたちを率いて、その土地に集落を作る為の下準備に来た、という訳だ。


ここにはノッカーたちの集落を作り、そこで自給自足の生活をしてもらうつもりだ。


生産大好きノッカーさん、と言えども、細工が好きな物ばかりではない。畑や酪農などの生産に情熱を傾ける者達もいるのだ。


だから、俺はこの土地をノッカーたちに開放し、好きにさせることにした。


作物などの食材の一部はターミナルに貯蔵すること、調合に必要な薬草類なども育てれるものは育ててもらう事などの条件は付けてはいるが、殆ど規制はない。ノッカーのノッカーによる、ノッカーたちの為の集落ななることだろう。


一応、今後、他の種族が集落を作る可能性があることも伝えてはあるが、現状では、それほど深く考え無くtれもいいだろう。



「俺達も休むか。」


俺はノッカーたちの様子を眺めた後、適当な場所を決めて腰を下ろす。


すると、アルちゃんとクロが、周りの様子を警戒するために俺から離れていく。


「ねぇ、休憩終わったらさぁ、少し奥の方へ行ってみない?」


「……そうだな。この辺りは大丈夫そうだし、後はノッカーたちに任せてもいいだろう。それに、俺も肩慣らししておきたいしな。」


俺はそう言いながら肩を軽く回す。


俺の中からアンジェの魔石が取り除かれたため、俺の力は、眼に見えて弱くなったのが自分でもわかる。


一応、ドレインのスキルは使えるが、他のスキル、ゴブリンパンチやコボルトキックはステータス依存の為、弱くなった俺では、そこらのゴブリンやコボルト程度の威力しか出せない。


だから俺は危険を承知で、クリムやアンジェに使用できない赤ネズミとゴブリンキングの魔石を体内に取り入れた。


地獄のような苦しみに耐え抜いて、ようやく落ち着いたのが今朝の事。


外に出てきたのは、ノッカーたちの為だけでなく、俺自身の身体のリハビリも兼ねている。その為には、戦闘を経験したかった。


慣れない身体で戦闘して大丈夫か?という不安はあるが、クロとアルちゃんが護衛をしてくれるので、余程の事がない限り安心だと思う。


クロは、崩壊に巻き込まれた際、自らの力の限りを尽くして生きるために戦ったらしく、その過程で様々な魔物の力を取り込み、今の姿になったという。種族名としては『イリーガル・ヘルキャットバット』というらしく、その背の羽によって空を飛ぶことが出来、攻撃方法は、その鋭い牙と爪、高速で飛び込む体当たりと、その際に翼で相手を切り刻むこと。後は、雷系、風系、炎系の魔法が使え、ブレスが吐けるらしい。


アルちゃんもこれまでの間に変異進化したらしく、今の種族名は『イモータル・アサシンスパイダー・コキュートス』となっており、従来の糸を操る攻撃以外にも、極みの死鎌と呼ばれる、鋭い鎌のように研ぎ澄まされたその前脚から繰り出される即死攻撃と、水系・氷系の魔法が使えるとのこと。


二人共、見た目の小ささに騙されると痛い目を見るという典型的な例となっているのだが……俺よりかなり強いんじゃね?俺が主人でいいのか?と、少し不安になり、クロやアルちゃんに聞いてみると、クロは、「何をいまさら?」というように短く鳴き、俺の頭の上に、ポンッと前脚を置き、アルちゃんは、「気にするなよ」というように,チッチッチっと、前脚を立てて左右にかるく振った。


……まぁ、二人がいいならいいんだけど、何か釈然としない。


だから俺としても、最低限の格好をつけるために、それなりに戦わなければならないのだ。


「ホント、今更だよねぇ。」


俺のその決意を無にするかのように、クリムがそう呟く。


「まぁ、実際単純な戦力という意味では、ソーマが弱いのは確かだけどね、ソーマは私達の中心なの。支えなの。だからデンっと構えていればいいんだよ。ソーマがそこにいるから私達は戦えるんだから。」


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどな……。女の子に戦わせて、俺は何もしないって、、それってただのヒモじゃね?俺は甲斐性のあるハーレム王を目指すんだよっ!」


「ハイハイ、がんばろーね。」


クリムはケラケラ笑いながら、俺の言葉を軽く流す。


そうこうしているうちに、クロとアルちゃんが戻ってくる。


「にゃ、にゃにゃにゃにゃん。」


クロとアルちゃんが身振り手振りで状況を離してくれる。


それによると、向こう側の結界の向こう側が騒がしいらしい。


「結界があるって言っても、侵入を完全に防ぐわけじゃないしな。」


俺は、その『騒がしい』理由までは理解しかねたが、放置しておくのも問題かもと思い、クロたちの案内で向かうことにした。



「うぅ……もう走れないよぉ。おかぁさんごめんなさい。」


私は躓いて地面に無様に倒れ込むが、起き上がる力が残っていない。


私の動きが止まったのを見て、天から鋭く飛び込んでくる魔物。


それを寸前で止める、もう一体の魔物。


助かった……と思うほど、私は子供じゃない。


この2匹の魔物は、互いに私を獲物として狙っている。今渡しを庇ったのも、単に相手に獲物を取られたくないと理由だけで、私を助けたわけじゃない。


幸い、2匹の魔物は私を取り合って互いにやりあっている。この隙をついて逃げることが出来れば……。


私は立ち上がろうとして、すぐ、その場に倒れ込む。


「痛いよぉ……くじいたのかなぁ。」


激痛に耐えるためにそう声を出してみる。


声を出している間は、なんとなく楽になる気がするからだ。


「でも、今の内に……逃げなきゃ……。」


私は、そっと這うようにしてその場を離れようとする。


数メートル移動した辺りで、2匹の魔物が、私が逃げ出そうとしているのに気付き、争いをやめて、協力して私を包囲しようとする。


……もっと争っていていいんだよ?


私のその呟きは無視され、目の前に、上空の敵から何かが撃ち込まれ、それ以上前に進めなくなる。


そして、目の前に迫る敵の手にはナイフが握られている。


きっと、私はあのナイフで切り刻まれるのだろう。


……ゴメンね、おかあさん。ミューナはここまでのようです。


……いやだ、イヤだよぉ。死にたくないよぉ。お母さん置いていけないよぉ。


助けて……誰か……。


「……助けてっ!」


「OK!確かに聞き遂げたっ!」


「えっ?」


こんな所に誰も居るはずないのに……だけど思わず叫んでしまった言葉。


その声に応えるように現れた一人の男の人。


……あぁ、王子様ってこういう人の事を言うんだね。


私は小さいころお母さんが語ってくれた物語の一節を思い出しながら、そのまま気を失ったのでした……。



「助けてぇっ!」


女の子の声が響く。


それがどんな状況であれども、女の子が助けを求めているのなら、助けるのが当たり前ってもんだ。


俺は声のする方に駆けだし、女の子に今にも襲い掛かろうとしている魔物との間に飛び込む。


「乙女のその願い、確かに聞き遂げた。俺様、参上!」


ついその場のノリで見得を切りながら、目の前の魔物を切り捨てる。


「「「………。」」」


「えっと……。」


「……ソーマ。……ないわぁ。」


クリムがまるでイタい子を見るような目で、俺を見る。


クロとアルちゃんも、視線を背けている。


「いや、だってな、なんとなく、そんな雰囲気だっただろ?」


俺は助けを求めるように、悲鳴の主を探し、辺りを見回す。


悲鳴を上げた主はそこにいたが、気を失っているようで、俺は助けてもらえそうになかった。


「き、きぃっ!」


すぐそばで別の悲鳴が上がる。


みると地面に倒れている魔物。


どうやら俺達が馬鹿な事を言っている間に逃げ出そうとしたところを、アルちゃんが糸で絡めとり、クロがとどめを刺したらしい。


「あー、もったいない。」


倒れている魔物をよく見ると、どうやらエルフ族みたいだった。


ただ、エルフ族であれば、単独で人間の子供を狙うようなことはしないだろうから、何か訳アリなのかもしれない。


どちらにしても、生きたまま捉えることが出来れば詳しい事情が効けたかもしれない。


「生きたまま捕えれば、拷問と称して、あんなことやこんなことが出来たのに……。」


「ソーマ?」


「あっ。」


どうやら建前と本音が入れ違い、本音を口に出していたようだ。


「あ、ッとッと、それより、アイツを何とかするぞ。」


俺は誤魔化すように空を指さす。


そこには、こちらの様子を伺う魔物が上空を円を描くように飛びまわっていた。


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