ハーレム王と新しい世界 3
「やめろぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~!」
拘束されて体を動かせない俺は、ただ叫ぶことしかできなかった。
しかし、俺の叫びも願いも無駄だというように、女は笑いながら、見せつけるかのようにして、アンジェの魔石を口の中へ放り込む。
シュッ!
その時、横合いから、黒い影が飛び出してきて、今まさに口の中でかみ砕かれようとしていた魔石を奪う。
「な、何なのよっ。それは私のモノよ。返しなさいっ!」
サキュバスの女は、慌ててその魔石を奪い返そうとするが、それより素早く、黒い影はさっと身をかわし、目も止まらぬ速さで、上下左右に動き回り、狙いを定まらせない。
サキュバスの女は、配下の女たちにも、魔石を取り返すように指示をするが、黒い影はそれをあざ笑うかのように、あっちに行ったり、こっちに行ったりと素早く移動を繰り返す。
その動きは、頑張れば捕まえることが出来そうだと思わせているように、たまに鈍くなったりするので、サキュバスたちは尚更魔石を取り返そうと翻弄されることになる。
気づけば、俺の周りには誰もいなく、皆が、黒い影を追うのに必死になっている。
今が最大のチャンスなのだが、生憎と、俺の身体からは力が抜けていて、たとえ拘束されていなくても動けない状態だった。
……回復ポーションさえ飲むことが出来れば……。
俺は革袋の中のポーションを思い浮かべる。
すると不思議なことに、革袋の口が空き、その中からポーションが飛び出してくる。
ポーションは宙を浮き、俺の口の前で少し傾く。
俺が口を開けると、ポーションはそのまま角度をつけて、俺の口の中に流れ込んできた。
……新しい能力に目覚めたのか?
回復を待ちながらそんな益体もないことを考えていると、ポーションの便の近くがキラリと光るのが見えた。
「ン、……糸?」
よくよく見ると、ポーションの瓶に糸がつながっていて、その糸によって移動させたのだと思われた。
俺はその糸の先をたどると、木の上に続いているのが分かり、そのまま糸の主を探してみる。
そこには手のひらサイズの小さなクモが、糸を操りながら、俺に向かって前足の1本を上げて挨拶していた。
「……まさか、アルちゃんか?」
以前ハムの村で、何たらデススパイダーとかいう蜘蛛の魔獣たちと共存していた。
アルちゃんは、その中で生まれ、育ち変異した種類の1匹であり、正式な種族名を『アルケニア・イモータル・デススパイダー・イリーガル』というらしいのだが、長すぎるので、俺はアルケニちゃんとかアルちゃんと呼んでいた。
彼女は(アルちゃんが雌であることは確認済)特に俺に懐いてくれていて、旅に出る時も、こっそりと髪の中に隠れてついてくるぐらいだった。
例の崩壊の原因となった遺跡に入る前、彼女は俺から離れて、異物が遺跡に近づかないように警戒に当たっていてくれたはず。だから、てっきり崩壊に巻き込まれたものだとばかり思っていた。
「無事だったんだな。……っと、それよりアンジェを取り返さないと。」
俺がそう呟くと、アルちゃんは、大丈夫、と前足でサインを送ってくる。
「大丈夫って、……まさか、あの黒い影はっ……クロなんだな。」
俺はそう声をかけると、アルちゃんは、満足そうにウンウンと頷いている。
「そうかぁ、クロも無事だったんだな。」
目の前で繰り広げられている騒動を改めてみる。
樹の上に飛び移り、一瞬動きを止めたおかげで、その姿がはっきりとわかる。
黒くしなやかな猫のシルエットに、なぜか背中に蝙蝠のような羽が生えている。
あの羽根のおかげで、飛ぶような速さを生み出しているらしいのだが、今はそれどころじゃなかった。
「クロがひきつけてくれている間に……。」
俺は、革袋から試作の道具を取り出す。……草刈り用の鎌の柄を長くしたものだ。
本来は武器ではなく、離れた場所の採集に使えないかと試行錯誤していたものなのだが、他に武器になりそうなものを持っていないので仕方がない。
これでも切れ味だけは抜群なので、何とかなるだろう。
俺は鎌を持つと、そのまま気配を隠し、気づかれないようにサキュバスの女の背後へと回る。
「何やってるのよっ!そのまま囲んでこちに追い詰めるのよっ!」
サキュバスの女が、部下に指示を出している。
クロがいくら素早いとはいえ、多勢に無勢だ。だんだん包囲の輪が狭まり、サキュバス女の方へと追いやられていく。
「そうよ、そのままこっちへっ……捕まえ……。」
サキュバスの女がクロの身体を捉える。
……が、その瞬間、首から血を噴き出して、その場に倒れこむ。
「残念だったな。お前にアンジェは渡せないよ。」
「あ……がっ……なん……で……。」
サキュバスの女は、俺の足元で息絶える。
本来であれば殺さずに済ませたかった。しかし、こいつはアンジェを自分の為だけに滅しようとした奴だ。それは許されざる罪である。
ボス格のサキュバスの女が倒れたことを知ったほかのサキュバスは、クロを包囲するのをやめて、あっという間に方々へと散っていった。
そして、周りに誰もいなくなったことを確認すると、クロが魔石を咥えて、目の前にやってくる。
「クロっ、お前も無事だったんだなぁ。よかったぞっ!」
俺はクロから魔石を受け取るとその身体を抱え上げ抱きしめる。
クロは嬉しそうに喉を鳴らしている。
「おっ、アルちゃんも、さっきはありがとな。おかげで助かったよ。」
樹の上からするすると降りてきたアルちゃんにも声をかけると、アルちゃんは前足を上げて、了解したという仕草を取り、トスンと俺の頭の上に乗る。いつもの定位置だ。
「しかし、クロ、小さくなったなぁ。」
俺は抱きかかえたクロを改めてみてみる。以前は子犬くらいの大きさだったのが、今は、大人の拳二つ分ぐらいになっている。
「にゃ、にゃにゃっ!」
「そうか、色々あったんだなぁ。……っと、積もる話は後にして、今は取り合えず、戻ろうか。お前たちも来てくれるだろ?新しい家は、地下にあるんだ。」
俺の肩の上に乗ってくる炉いでいるクロに、そう声をかけながら、俺は帰り路を急ぐのだった。
◇
「クロぉ~、小さくなって可愛いっ!」
「にゃにゃっ、にゃにゃんっ!」
「クロがクリムも小さくなってるって言ってるぞ。」
「……ほんとにそう言ってるの?」
「……多分、な。」
俺はクロの言葉が分かるわけではない、が、なんとなくそんな気がしただけだ。
「まいいや。クロちゃん、私を乗せて~。」
クリムはそういうと、クロの背中に飛び乗る。
クロの今のサイズは、今のクリムにちょうどいいらしい……くそ、うらやましい。
『……マスター。お楽しみのところ申し訳ありませんが、報告いいでしょうか。』
「あ、あぁ、悪い。頼む。」
申し訳なさそうに声をかけてくるビャクレンに、俺はそう答える。
『アンジェ様の魔石の構成と、襲ってきたというサキュバスの体内組織構成を検証したところ、非常に似通ってはいますが、別の種族であることが判明しました。』
「別?エルダーが何とかってのではなく?」
『エルダーサキュバスのことですね。アンジェ様はサキュバス族の上位種であるエルダーサキュバスであらせられますが、通常のサキュバスとの差異を抜いても、こちらのサキュバスとは別種であると確定いたします。』
「つまり……どういうことだ?」
『このサキュバスは、以前、マスターがいた世界に存在したサキュバスではないということです。別世界に存在したサキュバス、或いは、世界再構築の際に変異した種であるかと思われます。』
ビャクレンの言葉に、少しホッとする。アンジェとの約束を破らなくて済んだのだ、と。
アンジェとは、配下のサキュバス族を庇護下において保護すると約束していたから、仕方がなかったとはいえ、同族のサキュバスを手にかけたことを少しだけ気にしていた。
「そうか。……しかしどうしようか。」
俺はアンジェの魔石を見つめる。彼女の最後の願いは俺の中で生き続けることだった。
だとすれば、再度俺が取り込むべきだと思うのだが、目の前のアンジェを再び失うようで実行に移せないでいる。
『……マスター、差し出がましいようですが、アンジェ様を再構成するのはいかがでしょうか?』
「アンジェを……再構築?」
最初、何を言われているのか理解が出来なかった。それだけ、ビャクレンの提案は、予測を大きくそれたものだったのだ。
はわわ~。
一万PV越えてしましました。
もう感謝、感謝です。
とりあえず、本編が進んでいませんので、本編をすすめていきますが、近いうちに記念SSなどをアップしようかと……あ、いや、本編すすめますね、ハイ。
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