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異世界なのに、魔法がない!だと……。

意識が覚醒する。


見ると、アンジェが俺の遺体に縋り付きながらオロオロしていた。


俺を殺した犯人とはいえ、女の子が泣いているのを見るのは好きじゃない。だから俺はすぐに蘇生することにした。


「ソーマっ、ソーマっ!ゴメンナサイ、ゴメンナサイッ!起きて、ソーマっ。何でも言うこと聞くからぁ……。」


「じゃぁ、ずっと俺のそばにいてくれ。」


「ソーマっ!」


俺が目を開けると、アンジェが思いっきり抱き着いてくる。


「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、まだうまく加減できなくて……。ゴメンナサイ……。」


「あー、もういいよ。いいから泣き止んでくれ。」


「うん……。」


アンジェがゴシゴシと涙をぬぐう。


「えと、それでね、さっきの話なんだけど……。」


「ん?」


「ずっとそばにいてくれってやつ……。私そばに居てもいいの?」


その瞳に不安そうな光をたたえながら見上げてくるアンジェ。


「あぁ、独りぼっちは寂しいからな。」


俺はアンジェにそう答える。正直エッチができないのは残念なのだが、それを除けば、こんな可愛い子が近くにいてくれるなんて、幸せすぎる。それに、そのうち加減を覚えてくれれば、エッチだって……。


俺の中で、イケナイ妄想が膨らんでいく。


「嬉しいっ!」


アンジェが抱き着いてきて俺に軽く口づけをする。


「(これでしばらく食事は大丈夫ね。)」


「ん?何か言ったか?」


アンジェが何か呟いたような気がしたので聞いてみる。


「ううん、何でもないよ。ずっと傍に居れて嬉しいなぁって。」


そう言って笑うアンジェの笑顔は、俺の心を撃ち抜くのに十分な破壊力があった……くっそー、これでサキュバスでさえなきゃ……。



「えっ、人里って、この近くにないのか?」


「ウン、この森の周り一帯は一応魔族の生活圏だから。とてもじゃないけど人間が住めるような場所じゃないよ?」


食事をしながら、今後の事を話しあう俺とアンジェ。その中で、とりあえず人里に行きたい、と俺が言うと、返ってきた答えがこれだった。


因みに、サキュバス族も普通の食事はする。ただ普通の食事では、生きていくためのエネルギー補給には圧倒的に足りないのだそうだ。逆に、上質の精気を十分吸収していれば、1か月ほどは呑まず食わずでも活動できるのだとか。


「じゃぁ、人里に行くにはどうすればいいんだ?」


「うーん……。南の方から森を抜けて、3日も歩けば境界の山脈に辿り着くから、そこから山越えすれば人間の領域には入れるけど……。」


アンジェがそこまで言って口籠る。


「何かあるのか?」


「あ、うん……そこの山脈は黒龍マヴロスの縄張りだから、下手に近づくと……。」


「そうなのか。じゃぁ他のルートはないのか?もしくは黒龍を刺激しない山脈越えのルートとか?」


「うーん、私は知らないけど、山脈の麓に集落があるから、そこで聞けば何かわかるかも?」


「じゃぁ、とりあえずそこを目指すか。……一応聞くけど、そこに人間は……。」


「いない……とは言い切れないけど、いないんじゃないかなぁ?」


「だよなぁ。魔族の領域だし。ちなみに、可愛い女の子は?」


「……居ると思うよ?ソーマの好みに合うかどうかわからないけど?」


「よしっ!そこでハーレム要員を見つけるぜっ!出来ればケモミミっ娘希望!」


俄然やる気が出てきた。今なら、オークでもオーガでも倒せそうな気がする……気がするだけなので、ホントに出てこないでね。


「はぁ……はーれむっていうのはソーマのエッチ相手って事でいいんだよね?」


「それは違うっ!ただのエッチが出来る相手とは違うんだよ。そこには愛が必要なんだっ!」


「はぁ?」


アンジェが呆れた声を出す。


うん、わかるよ。自分でも何言ってんだコイツ?と思わなくもない。でも、仕方がないじゃないか。ハーレムは男の夢で男のロマンだけど、どういうものかって説明するのは難しいんだよ。


「メンドクサ。そんなのヤりたい相手を見つけたら有無を言わさず襲えばいいじゃん?」


「だから違うんだって。無理やり、ダメ!そんなのゴブリンたちと変わらないだろうがっ……ってあれ?」


俺はそこでふと思い出す。ゴブリンたちに襲われていた女性の事を。この辺りに人間がいないのなら、あの女性は一体どこから連れてきたんだ?


「なぁ、アンジェ。この辺りに人間がいないって言ってたけど……。」


俺は、その時の事をアンジェに話す。


「うーん、さっき言った集落にね、たまに人間が紛れ込んでくることがあるから、そこから出てきた、という可能性もあるけど……。」


「けど?」


「ソーマが見たのは、たぶん『人モドキ』っていう食人植物だよ。」


「人モドキ?」


アンジェの説明では、魔族領では各地に生息しているごく普通の植物型魔物だそうだ。触手にあたる部分の一部が肥大化して、弱そうな人の雌型に擬態して獲物を呼び寄せる。そして、餌だと思って近づいてきたものを喰らうのだとか。


さらに言えば、魔族や魔物より、人間のオスの方が容易に捕らえることが出来るため、魔族領と人間領の了解付近に数多く生息しているらしい。


「ゴブリンたちはバカで節操がないからね。よく、人モドキの触手を千切って来ては欲望のはけ口にしてるんだよ。」


……って事は何だ?俺は、擬態した魔物の一部に同情して今まで怒っていたという訳か?……少なくとも、この件に関してだけ言えば、ゴブリン共は悪くない?


……。うん、ゴブリン共は滅ぼす。理由などない。それでいいじゃないか。


俺はあっさりと結論を出す。深く考えたら負けだと思ったから。


それはそうとして、ゴブリンの生態はともかくとして、人間のオスが容易に捕まる理由はよくわかるから、同情を禁じ得ない。というか、そんな植物燃やしてしまえっ!


俺がそう言うと、アンジェはまじめな顔をして「どうやって?」と聞いてくる。


「どうって、そりゃぁ……魔法とか?」


ここはファンタジーな異世界。当然魔法もあるだろうから、火の魔法で燃やし尽くすことぐらいは出来るだろうと、そう言ってみた。


「へー、ソーマの世界では魔法があるんだ?じゃぁ、ソーマも魔法が使えるんだね?」


アンジェが感心したようにそう言うが……。


「えっ?」


「えっ、ってえぇっ?」


俺とアンジェはお互いに顔を見合わす。


「……この世界って魔法ないの?」


「ないわけじゃないけど、一般的じゃないからないのと変わらないよ?でも、ソーマの世界では魔法が一般的なんだよね?どんなことが出来るの?見せて見せて。」


「いや、俺の世界では魔法なんてものは存在しない。……あるのかもしれないけど、俺は観たことがない。」


「えー、じゃぁ何で魔法で、だなんて。」


「待て待て、ここは一度落ち付いて、情報のすり合わせといこうじゃないか。」


俺はそう言って、まず俺の世界の事情を話す。


人間以外の亜人と呼ばれるようなものはいない事。魔法は想像の産物であり、時差際には存在しない事。代わりに科学というものが発展していることなどなど……。


「へぇ、つまり、ソーマの世界では魔道具が発展してるんだね。その辺りはこの世界と同じかなぁ?」


アンジェの話では、魔法というのは太古に発展していた技術なのだそうだ。


しかし、時がたつにつれ、魔法が使えない種族が多くなり(、その代用として魔道具が作成されるようになった。


真っ先に魔法が失われたのは、寿命が短いゴブリンやコボルト族、そして人間族だそうなのだが、真っ先に魔道具を作り出したのも人間族なのだそうだ。


そして今では、一部の種族を除き、魔法を使える者は皆無となったそうだ。


「とは言っても、魔族であれば、その種族固有の魔法がいくつか使えるんだけど、それは魔法というより種族の能力っていう方が正しいかな?」


例えばサキュバス族固有の『ライフドレイン』


これは、相手から精気を吸い取り己のエネルギーとして変換する、種族固有魔法ではあるが、サキュバス族にとっては、食事の手段であるその能力を()()というのは烏滸がましいにも程がある、という事らしい。


「ちなみに、サキュバス族は、他にどんな能力があるんだ?」


少し興味が湧いてきて聞いてみる。


「んーとね、食事しやすいように相手を縛る『魅了』でしょ?それから、周りに気付かれないようにする『認識阻害』、後は空を飛べる事かな?」


そう言って、背中の羽をパタパタさせる。


「そんな小さな羽根で跳べるのか?」


「飛ぶときは大きく広げるよ?だけど、普段から大きかったら邪魔だし、魔力の消費も大きいからね。」


「そうなんだ。」


「そうなのよ。だからね、ソーマの言うような『魔法』は魔族の中でも、妖精族の一部や魔王様ぐらいしか使えないのよ。」


だから人間族が、植物を焼き払うような魔法が使える筈もなく、実際に焼き払おうとすれば、かなりの量の燃料が必要になるという。


「いくら植物型だと言っても、自分を滅する準備を黙って見てるわけないでしょ?」


「まぁ、そうだよなぁ。」


……チキショ-。魔法なら覚えればいいと思っていたけど、失われていたなんて。こんなことなら、あの時、魔法能力を選んでいれば、今頃はチートでウハウハだったんじゃぁ……。


「えっと、何落ち込んでいるか分かんないけど、元気だしなよ。」


アンジェが俺の肩をポンポンと叩く。


……そうだな。大体、あの時の選択が違えば、俺はこの娘と出会えなかったのかもしれないんだから、アレは正解だったんだ。


俺はそう思って、おもむろにアンジェの唇を奪う。


一瞬驚いたアンジェだったが、すぐに、俺の首に腕を回し、積極的に応えてくれる。


ただ、積極的過ぎて、俺の精気は限界まで搾り取られ、俺は昇天した……。





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