探索の始まり 最初の遺跡編 1
「さて、今度こそ大丈夫だよな?」
「うん、大丈夫なはずよ。今度こそ、お肉ゲットね。」
俺はクリムと頷きあいながら、最終確認として自分の装備を確認する。
まず、武器はゴブリンから奪ったゴブリンソード。サブアームとしてコボルトナイフが2本。共に攻撃力は低いものの、一応、この世界に新たに出現した魔物へダメージが与えられる……らしい。
防具は巨大ネズミの皮を継ぎ接ぎして作った、革のチュニック……まぁ、ないよりマシ程度の気休め程度のものだ。
腕には魔石を中央にあしらったブレスレット……これは単なるアクセサリーではなく、マップを表示したりなど、様々な情報をターミナルとやり取りするための端末だ。
そして、小物などを入れる革袋の中には、体力回復と解毒のポーションが数本入っている。
これらの防具やアイテムに関しては、新たに発見したターミナルの機能で作成されている。
ターミナルの脇にある、意味不明だった箱の中に素材を入れて、ターミナルで操作すればアイテムが出来上がるという、すごく便利な機能だった。ビャクレンによると、他にも様々な機能がターミナルには搭載されているらしい。
少し懸念していた、食料事情も、ターミナルの製造装置で解決できるとのこと。もっとも、そのための食材は必要になるのだが。
アイテムにしても調理にしても、機能の殆どが封印状態の現在では、できることが限られているらしいのだが、それも支配エリアを拡大してランクアップしていけば制限が解除されるらしいので、当面の目標として、この祭壇の遺跡エリアを掌握するということは最優先事項で間違いない。
ただ、機能の制限が解除されれば、虫肉やネズミ肉などであっても、ターミナルが美味しく調理してくれると知ったクリムのテンションが爆上がりしたのは間違いない。
「よし、じゃぁ行くか。」
「うん、今度こそあいつらをお肉にしてやろうね。」
クリムがやる気に満ちている。
というのも、前回、ろくにターミナルから情報を引き出すこともなく、新たに開かれた通路を通ってエリアを解放しようとした俺たちだったが、瓦礫のあった向こう側、スイッチのある小広間の手前に陣取る巨大ネズミたちの群れにボコボコにされて、這う這うの体で逃げ出してきたからだ。
敗因は明らかに準備不足。俺の装備も何もなく、アイテムもない、そのうえ、巨大ネズミの情報すら持っていない状況で飛び込んだため、数匹のネズミを相手にしている間に他のネズミに取り囲まれ、ダメージを蓄積していった。
結局、10匹程度は屠ったものの、それ以上戦闘を継続するのは難しく、やむなく撤退してきたのだ。
幸いにも追いかけてくることはなく……まぁ、追いかけられても、ターミナルの支配エリアとの境には強力な結界が張ってあるから、攻め込まれる心配はないのだが……こうして改めて準備を整えることが出来たのだった。
俺たちは慎重に歩を進め、しばらくして、巨大ネズミたちの姿が見えたところで一旦足を止める。
向こうからもこちらの姿は見えているはずだが、攻めてくる気配はなく、どうやら、近づきさえしなければ攻撃される心配はなさそうだった。
「ここで最終確認するぞ。」
「うん。まず私がファイアーボールを放てばいいんだよね。」
「あぁ、広域魔法が使えればよかったんだがな。無いものねだりをしても仕方がないしな。」
「うーん、ちょっと弱くなっちゃったから仕方がないよね。」
「そうでもないさ。ファイアーボールなら、今のクリムでも連発できるだろ?相手の一番の強みはその数なんだから、俺が近づくまでに1匹でも多く数を減らすことが出来るのは大変助かるよ。」
「うん、頑張る。で、私はそのままファイアーボールを打ち続ければいい?」
少し残念そうなトーンでクリムが聞いてくる。
彼女が残念そうなのは、火系の魔法を使うと、焼け焦げてお肉の可食部分が減るからだった。前回、そのこともあり、巨大ネズミの弱点でもある火系の魔法を使わなかったことがピンチを招いたともいえる。
「あぁ、とにかく数を打って、俺の援護を頼む。……あれだけの数だ、多少燃えたところで、お肉は十分に得られるさ。」
「……うん、そうだよね。よしっ、頑張るぞっ!」
「頑張ってくれ。俺はクリムがザコを相手にしている間に、中央に陣取っているアイツを倒す。」
俺はそういって視線を巨大ネズミたちの方に向ける。
その中央には、他のネズミたちより二回りほど大きく、燃え盛るような赤い毛皮をまとっているネズミがいる。
「えーっと、アイツには火魔法はダメだったんだよね?」
「あぁ、それに素早いから出の遅い土魔法だと後手に回るだろうな。」
「そうなんだぁ……そういうのってターミナルから得た情報なの?」
「いや、そういうわけでもない。現在ターミナルには、奴の情報は入っていなかった。」
「そうなの?じゃぁなんで、アイツが火属性で素早いなんてこと知ってるのよ?」
「それは、奴が『赤い』からだ。」
「は?」
クリムが一瞬固まる。
「えと、アイツが火属性っていう根拠は赤いから?」
「あぁ、赤い奴は火属性って決まってるだろ?」
「……じゃぁ、素早いってのは?」
「赤は通常の三倍のスピードで動くのは常識だろ?」
「…………あほかっ!」
クリムはこめかみを押さえた後、大声で怒鳴る。
「しぃっ!あまり大声出して刺激を与えるなっ!」
俺はクリムの口を塞ぐ。
幸いにも、クリムの声は届いていないようで、ネズミたちの動きに変わったところはないようだ。
「とにかく、準備がいいなら行くぞ。お前の魔法を合図に俺は飛び出すからな。」
「くぅっ。言いたいことはあるけど、あとにするわよ。……じゃぁ行くよっ!ファイアーボールっ!」
クリムの手から炎の球が放たれると同時に俺はネズミの群れに向かってダッシュする。
背後から俺を追い越して無数の火の玉がネズミたちを襲う。
いきなり攻撃を受けたネズミたちは、右往左往していたが、俺の姿を見るなり襲い掛かってくる。
しかし、俺のもとに辿り着く前に次々と、クリムの放つ火の玉に倒れていき、俺は囲まれることなく、ネズミたちを切り伏せていくことが出来た。
「ボスのお出ましかっ!」
7体目のネズミを切り倒したところで、例の赤いネズミが俺に向かってくるのが見えた。
奴は時々飛んでくるクリムの火の玉をものともせず……実際何発かあたっているのだが、ダメージを受けた様子はなかった。
「ハンっ!お前に火属性の攻撃が聞かないのはわかってるんだよっ!」
俺は赤いネズミに切りかかる。
ネズミは寸でのところで躱す……が、その動きを予測していた俺は、剣の軌道を無理やり変えて横に振りきる。
普通ではまずできない力業だが、ネズミが躱すのを予測していたためにできたことだった。
赤いネズミも、まさか剣の軌道が変わるとは思ってもいなかったらしく、隙のある胴にまともに剣を受け、血しぶきをまき散らしながら吹っ飛ぶ。
俺はさらに追撃をかけるが、紙一重で躱される。
その後一進一退を繰り返しながら、俺と赤いネズミの死闘は続く。その間にもクリムの放つファイアーボールが周りのネズミたちを屠っていって、気づけば、残っているのは赤いネズミだけになっていた。
赤いネズミは伊達に赤くなく、その素早さは俺の目に追えるものではなかった。
それでもなんとか戦えたのは、最初の一撃のおかげで、相手の動きが鈍っていたためだろう。
そして、そのダメージは時間が経つにつれて蓄積され、今では俺の腕でも十分に捉えることが出来るようになっている。
「さすがに「赤」をまとっているだけはあるな。お前は十分頑張ったよ。でも、これで終わりだっ!」
俺は、赤いネズミがよろめいた隙をついてとどめの一撃を放つ。
しかし、赤いネズミがよろめいたのは誘いだった。奴は俺の剣筋を見切り、紙一重で躱してカウンターの……これまで隠していた奥の手、ファイアーランスを放ってくる。
タイミング的に、俺がこれを躱すのは難しく、俺は死なないまでも、重傷を負うはずだった。
ただ、運が俺の方に少しだけあったようで、実際には赤いネズミは俺の剣を躱しきれず、そのため、放ったファイアーランスは軌道を逸れて俺の脇を掠めていくにとどまった。
奴が俺の剣を躱しきれなかったのは、これまでのダメージの蓄積が、奴の想定以上で、その分体の動きが鈍かったためだろう。そうでなければ、形勢は逆転していた……それほど際どい一撃だった。
「お前は強かったよ。」
だから俺は、赤いネズミに敬意を表しながら、その剣を突き立てる。
赤いネズミは一瞬身体を振るわせた後、光の粒子となって消え去る。後には、鮮やかな赤色の大きな魔石が残るだけだった。
俺はそれを拾い上げると後方で待機しているクリムの元へと戻る。
「お疲れさま。大丈夫?」
「あまり大丈夫じゃないな。少し休む。」
「わぁ、凄い傷。すぐ治してあげるね。」
クリムは俺が脇から血を流しているのを見ると、その傍によってきて魔法で治療を始める。
「……キュアヒール!……これで大丈夫よ。」
「あぁ、痛みが消えていくよ。助かった。」
「だからと言って減った血が増えるわけじゃないんだからね……うー、ネズミ数匹残しておけばよかったよぉ。」
クリムが周りを見ながらそう呻く。
確かにネズミがいれば俺がドレインでライフエネルギーを吸収して、すぐにでも動けるようになっただろう。
しかし、周りには生きてるネズミは1匹もいなく、死骸もしくは小さな魔石が転がっているだけだった。
「ねぇ、なんで、死体が残るのと、すぐ消えちゃうのとあるんだろうね?」
クリムが周りの様子を見ながらそう疑問を口にする。
「さぁな。戻ったらビャクレンにでも聞いてみな。」
「うん。気が向いたらそうする。」
俺とクリムはしばらくその場で座り込んでいた。
この後広間に入って、スイッチを入れなければいけないのだが、もう少しだけ休んでてもいいだろう。
俺は、体力が回復するまで、少しの間、クリムと他愛のないおしゃべりを楽しむのだった。
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