ターミナルにて 3
「さて、そろそろ、ターミナルとやらを調べるか。」
俺はそう言ってターミナルの前に立つ。
クリムは俺の肩の上にのっているが、その顔は真っ赤で何も答えてくれない。
……まぁ、さっき迄の様子じゃ、仕方がないけどな。
ロリ女神が消えた後、クリムは激おこだった。原因は、ロリ女神が俺の頬にキスをしたことらしいのだが、頬にキスぐらいで怒られてもなぁ、という気がしなくもない。
で、結局俺はクリムの機嫌を取ることにしたのだが……。
「キスというより食べられそう……。」
キスをしようとしたらそう言われ……。
「愛撫と言うか、押しつぶされそうで怖い……。」
軽く胸を揉もうとしたら、そう言われる……どない所為って言うんだ。
結局、極小の綿棒みたいなものを作って、クリムの身体のあっちこっちを弄り倒した結果、クリムは今のようになっているのだが、俺としては、まったくもって面白くない。
クリムの喘ぎ声や、その顔に興奮を覚えてしまうだけに余計に欲求不満が募る。
結局、呪いが無くなっても、俺は童貞のままと言う事らしい。
『マスター、指示をお願いします。』
俺がターミナルの前に立つと、最初とは打って変わった流ちょうな言葉が流れてくる。
「そうだな……、まず聞きたいが、お前はビャクレンなのか?」
『ビャクレン……私の元になった鬼人族の名前ですね。私はこのターミナルを司る思念に過ぎませんので違います。ですが、思考、性格の元にはそのビャクレン様がベースになっておりますので、大きなカテゴリで言えばビャクレン様であるとも言えます。』
「そうか……じゃぁ、便宜的にビャクレンと呼ばせてもらうな。」
『仰せのままに、マイマスター。』
「あのロリ女神は、すべてお前に伝えてある、と言っていたが、聞けばなんでも答えてもらえる、という認識で間違いないか?」
『基本的には、間違いありません。ですが、ロックがかかっていますので、すべてを開放するためには私のランクアップが必要になります。』
「ランクアップ?それはどうすればいいんだ?」
『一定条件の開放、支配エリアの拡大、保有魔力量など様々な条件がありますので一概には言えません。さしあたっては支配エリアの拡大に努めることを推奨します。』
「支配エリア?……ちなみに今はどうなっている?」
『地図を表示します。』
ビャクレンがそう言うと目の前に大きなモニターが現れ、そこにダンジョンのマップが表示される。
その中央部分の明るくなっている所が支配エリアらしいが、その部分は、今俺達がいるターミナルのある広間だけになっている。
その周りにグレーで薄明るくなっているエリアがあり、さらにその周りは真っ黒に塗りつぶされていた。
『元々、この施設全部が支配エリアだったのですが、現在、崩壊の影響で途切れています。グレー部分は影響エリアで、私の力が及ぼせる範囲になります。』
ビャクレンが言うには、各要所にあるスイッチが、OFFになっているのが現状で、そのスイッチをオンにすることで支配を取り戻すことが出来るらしい。
ただ、その要所に至る道が、崩壊によって瓦礫で塞がれている為、まずはその瓦礫を避ける必要がある。
これは、俺がビャクレンに指示すれば、後はダンジョンの不思議パワーで、時間は多少かかるが、瓦礫を撤去することが出来るらしい。
俺達はそうして出来た通路を使って洋書へと辿り着き、スイッチを入れればいいらしい。
ただ、この施設は意外と広いらしく、すべてのスイッチを入れて機能を回復するのに1か月はかかる見込みだった。
『気を付けて頂きたいのは、外から魔物と呼ばれる存在が入り込んでいることです。』
「外か……そう言えば、外はどんな様子なんだ?」
『現在次元の乱れで安定していませんが、多次元世界と、複雑な絡み合いをしていて、非常な難所となっております。』
そう言いながらモニターに外の様子を映し出してくれる。
遺跡の壁面に設置されたカマラからの映像らしいのだが、そこには、見慣れた田園地帯や森や山などではなく、砂漠と樹海が入り混じったような摩訶不思議な景色が広がっていた。
「ん?アレは何だ?」
その中に少し変わったものを見つける。ドーム状に光っていた場所があったのだ。
『居住区ですね。人族は、この環境下に置いてかなり下位の弱者となります。その様な立場の人族が仲間同士で身を寄せ合って暮らしている場所です』
ビャクレンの説明からすると、崩壊を生き延びた人族は、保護エリアのある街に集まって日々営んでいるという。
そのエリアを覆う防御結界はかなり強力で、周りの魔物も手が出せず、その中にいれば安心して暮らせるのだとか。
因みにその防御結界を作り出しているのは、各地に存在している王玉の力……つまり、居住区エリアは、各国の王都もしくは大領主の領都という事になる。
「そうか、人族は生き延びているんだな。」
俺は少しだけホッとする。なぜなら、リズたちが生き延びている可能性も出てきたからだ。
『人族の居住区については、マスターがその地に辿り着けば詳細なデータを収集することが出来ますので、さらなる情報をお伝えすることが出来ます。その為にも、まずはこのエリアの掌握が優先かと。』
「お前の言う通りだな。それで、外から入り込んでいる魔物っていうのは、俺が以前見たコボルトやゴブリンの事か?」
『それだけではありません。外郭付近まで行けももっと強力な魔物が入り込んできています。今のマスターでは太刀打ちできないかと。』
オイオイ、太刀打ちできないって、どうすんだよ?
俺はそう呟くとビャクレンは答えを示してくれる。
『魔物を倒すには魔物の力を利用することです。』
そう言ってビャクレンが示してくれたのが以下の三つの事。
まず、当然と言えば当然だが装備を整える事。
魔物を倒す力を秘めた武器や、魔物の攻撃を防ぐだけの力を持つ防具などを身につける事。
ただし、これはそう簡単には手に入らない。魔物が運良く落としていくか、生き延びた魔族、人族、が作り上げた対抗できる装備を探すか、そして次元が交じり合ったこの世界ならではの方法として、魔物と対峙してきた世界にあった装備を見つけるかなどいくつかの方法があるが、今すぐ手に入るわけではないという事は覚悟しておかなければならない。
因みに、従来の俺達の持っていた装備では、ろくに傷をつけられないので、素手で殴ったほうがマシ、とのことだった。
次に魔物の力を借りること。
例えばクリム。彼女の今の存在は、見た目通り、ピクシーという種族の魔物らしい。
だからクリムの魔法は、他の魔物に対してダメージを与えることが出来る。
同じように、すべての魔物が敵対しているという訳ではないので、魔物と遭遇した時、交渉次第では力を貸してくれることがある……かもしれない。
どんな魔物がどのような性質を持っているか分からないので、これは推測の域しか出ないと、ビャクレンは言う。だから、多くの魔物のデータを集めてほしい……と。
他に、召喚という方法もあるらしい。要は使い魔みたいなものらしいが、これはターミナルのランクが上がらないと詳細が分からないので、しばらくは保留とのことだった。
最後に魔物の力を取り入れること。
魔物は滅すると魔石に変化するのは、コボルトとの戦闘で俺もよく知っている現象だ。
その中で、稀に、その魔物の特徴を色濃く残した魔石が残る場合もあるらしい。
その魔石の中には、力が蓄えられており、その魔石を体内に取り入れると、力が底上げされたり、その魔物特有のスキルが使える様になったりもするとのことだった。
ただし、これには大変な苦痛が伴い、自分の実力以上の力を持つ魔石を取り入れようとすれば、身体が耐え切れず弾け飛ぶこともあるという。
そんな危険な行為ではあるが、うまくいけば強大な力を得ることも出来るだろう、とのことだった。
……つまり、俺は、アンジェの魔石を取り入れたことで、サキュバス族のスキル「ドレイン」が使えるようになったという訳か。
ビャクレンの説明を聞いて、俺は納得し、今もアンジェが力を貸してくれるという事が分かって、少しだけ気分が浮上した。
そして、この魔石を取り込むのは、魔物でも出来るとのことで、うまく利用すればクリムもパワーアップさせることが出来るという。
ただし、魔物が魔石を取り入れる場合に気をつけなければいけないことが二つあった。
一つは俺の時と同じで、身の丈以上の魔石を使うと、身体が耐え切れず弾け飛ぶという事。
もう一つは、使用する魔石によっては、存在が変質する可能性があるというものだった。
どういうことかというと、例えばクリムがトロールの力を得ようと魔石を取り込むとする。
その結果、問題がなければクリムはトロールの力を得て、その腕力、体力が大幅に上がるだろう。
しかし、その魔石が、トロールの持つ「ジャイアントパンチ」のスキルを内包していた場合、クリムはその魔石を取り込むことにより、ピクシーじゃない「何か」に変わってしまう場合がある。
これは、ピクシーの小さな体では「ジャイアントパンチ」が使えないため、使える「何か」に変わるのだろうと、ビャクレンは推測していた。
「……ねぇソーマ。」
「何だ?」
「つまり結局どういう事?」
「簡単に言えば、魔物を倒すのにクリムの力が必要で、クリムだけだと負担が大きいから仲間を探そうって事だ。」
「成程、つまりソーマは役立たずってわけ?」
「そうならないように、魔物の力を取り入れる方法もあるんだってさ。ただ一歩間違えると弾けるらしいけど?」
「何それ、こわっ!」
『大丈夫です、その為の確認設備もターミナルにはあります。今はまだ限定的な機能しか使えませんが、それでもその魔石を取り入れたらどうなるかの判別程度は出来ますから安心してください。』
クリムの言葉に、ビャクレンがそう反応する。
まぁ、鑑定が出来るのであれば、知らずに取り入れるよりよほど安全だよな。
「あ、そうだ、特殊な魔石って、コレの事か?」
俺は、以前拾った魔石の事を思い出して、革袋から取り出す。
確か、コボルトの魔石だったはずだが、妙に色が濃かったのを覚えている。
『そちらにおいてください』
ビャクレンは横にある大きな装置の前の台座を光らせて指し示す。
俺は言われた通りに置いてみる。
台座が光だし、ターミナル本体が明滅する。
『解析終了しました。これはコボルトの魔石です。ソーマ様が取り入れた場合、危険度1%でコボルトキックのスキルを継承することが出来ます。』
「コボルトキックねぇ。危険がほとんどないのはいいけど……。」
「びみょー。」
クリムも同じことを思ったのか呆れ顔をしている。
「ねぇねぇ、私だったらどうなるの?」
クリムが興味深げに聞いてみる。
『そこに手のひらを置いてください……解析終了。70%の確率でスキルが変質。コボルトキックがワンパンチに変わります。また、これを取り入れた場合のクリム様の危険度は30%』
「ん~、3割の危険を冒してまで手に入れたい能力じゃないよねぇ。」
「だな。という事で、この魔石は保留。格納しておいてくれ。」
『イエス、マイマスター』
ビャクレンがそう答えた後、魔石はどこへともなく消えて行った。
「じゃぁ、とりあえず、遺跡探索と参りますか。」
「うん、お肉集めだよね。」
俺がおどけて言うと、クリムも同じようにボケで返してくれる。
……ボケだよな?
俺は一抹の不安を抱えつつ、クリムと共に、ターミナルを後にするのだった。
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