サキュバスはハーレム要員になりえるか?
この出会いは奇跡であり、運命だわ。
私は運命の相手とキスをしながらそう思う。
私の名前はアンジェリッタ。仲のいい人はアンジェって呼ぶ。
私たちが住んでいた集落が襲われたのは、約1か月前のこと。
敵は強大な力を持っていたため、私たちは逃げることしかできなかった。
安全な場所を探して右往左往している間に、一族は散り散りになってしまい、今ではどれだけが無事に生き延びているかわからなくなっている。
そして私も、ろくに食事ができないまま、この森へと逃げ延びてきたんだけど、大変な目の連続だったわ。
奥地でオーガの集落を見つけた時は、見つからないように必死で逃げた。
途中、トロールの群生地に紛れ込み、ようやく食事にありつけそうだったんだけど、そこにワイバーンが急襲してきて、私はどさくさに紛れて逃げるのが精いっぱいだったのよ。
食事もできず、魔力も殆ど尽きて動けなくなったところにゴブリンたちに囲まれて……。
まぁ死ぬよりマシか……と覚悟を決めたところに飛び込んできた、一人の人間の男。
これはもう奇跡といっていいんじゃないかしら?
だって、想像してみてよ。ゴブリンはクソ不味いの。人間たちにわかりやすく例えるなら、3日ほど、炎天下に放置してあった牛乳って感じ?
それでも、それをいただくか、死ぬか選べって言われたら、放置牛乳を選ぶしかないじゃない?
ところが、よ?そこに差し出された、極上のワインとA5級の国産牛。この出会いは奇跡といっても過言ではないでしょ?
あたしの名はアンジェッタ……サキュバス族のオンナ。
◇
「ってあれ?もう終わり?」
いくら吸ってもなにも出てこなくなった。抱えていた男の身体からは力が抜けている。
「あちゃぁ、しまったなぁ。久しぶりの食事だから加減間違えちゃったよ。」
死なすつもりはなかった。ほんの少しだけ生気を分けて貰って、その後も、なんだかんだと理由をつけて一緒に行動して、その都度食事させてもらうつもりだった。
大体サキュバス族にとって、人間の男は大事なのだ。愛しているといても過言ではない。実際、一族の中には人間の男と番となって子をもうけたものもいるぐらいだ。
まぁ、中には、ただの餌としか見ないものも確かにいるが、多くのサキュバス族にとって人間の男は、愛すべき共存相手なのだ。
「はぁ……しまったなぁ。でもまぁとりあえずお腹はふくれたからいいか。」
「いい訳ねぇだろっ!」
「き、きゃぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!」
死体だったはずの手が動き、立ち上がろうとしたアンジェリッタの手をつかむ。
当然アンジェリッタは驚き、大きな悲鳴を上げるのだった。
◇
……あぁ、俺はまた死んだのか?でもなんで?
何度体験しても変な感じだ。今の俺は復活前の意識のみ覚醒した状態。
この状態であれば、いつでも自分の意志で蘇生することができる……が、自分が何で死んだのかわからない状況で、蘇生するのは危険が伴う。
だから少し様子を見ることにした。
『……久しぶりの食事だったから……。』
俺を抱えている女の子の声が聞こえる。
食事?何のことだ?
彼女をよく見てみると、さっきは正面からだったので気づかなかったが、背中に小さな黒い羽根と、おしりからしっぽが見える。
……つまり、あれか?彼女は、俗にいうサキュバスで、俺はキスされたんじゃなく、生気を吸われて……それで死んだってか?
「いい訳あるかっ!」
俺は怒りに任せて蘇生をし、逃げられないように彼女の腕をつかむ。
「くそっ!ハーレムの第一歩だと思ったのにっ!俺に惚れたと思ったのにっ!ファーストキスだったのに!男の純情を弄びやがって!」
俺は地面を叩いて、みっともなく泣き叫ぶ。
「俺好みの可愛い子だと思っていたのにっ!チキショーッ!」
「あ、あのぉ……。」
「なんだよっ!俺の心臓は裏切られたことでヒビだらけなんだよ。ちょっとしたことで砕けしまうんだよ。ガラスの十代なんだ、ほっといてくれっ。」
「えー、あー、とりあえず、手を放してくれない?」
「いやだ。」
「えっ?」
「可愛い女の子と手を握る機会なんて、今を逃したら、今度は何十年後になるか分かんないだろうが。」
「……。」
女の子は呆れ返っているが、気にしない。これは裏切りの賠償なんだ。正当な報酬なんだよっ!
「えっと、これ握ってるんじゃなくて掴んでるよね?握るなら、こう……。」
彼女は俺の手をゆっくりと話すと指と指を絡めて握りなおしてくる。
「アッ、えっと……。」
急速に頭が冷える。何やってんだ俺は。
恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。慌てて離れようとしてみるが、彼女は俺の手をぎゅっと握って離さない。
「ねぇ、私って可愛いの?」
手を握ったまま顔を近づけてきてそう聞いてくる。
「あ、あぁ。可愛いぞ。少なくとも俺の好みど真ん中だ。」
多少動揺してしまったが、かなりみっともないところを見せてしまった後なので、今更だ、と開き直って応える。
「あはっ、そうなんだぁ。嬉しいなぁ。」
そう言って彼女が身を寄せてくる。
……なんだ、この可愛い生き物は。
「私アンジェリッタ。アンジェって呼んで。」
「あ、あぁ。俺は伊藤相馬。」
「イトソー・マ?」
「あー、ソーマでいいよ。」
この世界で日本の読み方は発音がむつかしいらしいので、名前だけを名乗ることにした。よく考えれば、この世界での家名の扱いが分からない状況で名字を名乗るのは危険かもしれない。
「ソーマ。あなたいったい何者なの?不死人じゃないわよね?不死人なら生気が吸えるはずないし。」
アンジェがマジマジと見つめながら聞いてくる。
まぁ、死んだはずの人間が生き返ったら、まずアンデッドって疑うのは当然だよな。
「俺はただの人間だよ。信じてもらえないかもしれないけど……。」
俺はそういって、今までのことを全部アンジェに話す。
どうやら、俺は気づかないうちに人に、会話に飢えていたらしい。気づけば、どうでもいいことまでしゃべっていた。
そんな俺のたわいもない話を、アンジェは、時に驚き、時に笑いながら聞いてくれた。ほんと、凄くいい娘だよ。
「へー、ソーマのいた世界ってそんなんなんだねぇ。ちょと想像できないや。」
「まぁ、すぐに理解するのはむつかしいだろうけど……。というか、話しておいてなんだけど、今の話信じるの?」
「えt、嘘なの?」
「いや、嘘じゃないけど。でも、異世界がどうとか、荒唐無稽な話、普通は信じないだろ?」
「そう?でも、伝承では、魔王様や勇者様は異世界からやってきたって言ってるし、そもそも、ソーマが異世界からやってきたとか、どうでもいいことだし。」
「あー、ソウデスカ……。ところで、アンジェはどうしてここに?」
どうでもいいと言われてしまっては、それ以上話すことはなく、仕方がないのでアンジェの方に話題を振ってみる。
アンジェは、少し悩んだ後、ここまで来た経緯を話してくれる。
「……だからね、ソーマが現れた時、私は、「あぁ運命の人だ」ってキュンっときたんだよ。だから、ソーマのはーれみ?それになってもいいよ?」
「ハーレミじゃなくてハーレムな。だが断る!」
「えーっ。それってやっぱり私が人間じゃなくて魔族だから?」
シュンとなるアンジェ。
「いや?魔族でも、亜人でも、獣人でも可愛くてエッチができればOKだぞ。可愛いは正義だ。」
「じゃぁなんで?さっき可愛いって言ってくれた……嘘だったの?」
アンジェの瞳が潤む。ヤバい、こういうのは慣れていないんだ。
「いや、アンジェは可愛い。出来れば、このまま襲い掛かりたいぐらいだ。」
「だったらっ!」
「言っただろうがっ!『エッチできる女の子』って!キスしただけで死んでしまう相手とエッチができるかっ!」
「うーっ!さっきは久しぶりだったから手加減間違えたのよっ!」
そういってアンジェは俺の首に両腕を回し、顔を近づけ、俺の唇を奪う。
ヤバい……気持ちいい……。
これが二度目になるキスだ。その先となれば未知の領域であり、初心者の俺が抗えるわけがない。
キスをしながら、彼女の手が俺の身体を優しく愛撫する。
流れに身を任せていたら、いつの間にか俺の衣類は剥ぎ取られている。
「どう?」
「あ、あぁ……。」
蠱惑的なアンジェの笑みに、俺の思考は停止して、何も答えることができない。
「じゃぁ、次はコッチをシてあげる。」
アンジェはそういうと、顔を俺の股間へと近づける。
「アッ……。」
俺のものが暖かなものに包まれると同時に、今まで経験したことのない快感がこみあげてくる。
彼女の動きに合わせるように、快感がどんどん膨らんでいき、一気にはじける。
……と同時に、体中から力が抜けて、俺の意識は途絶えた。
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