ターミナルにて 2
「えっと、あれなんだろう?」
「ウン……なんだろうね。」
俺はクリムと顔を見合わせる。
苦労して瓦礫で塞がれた通路を抜け出し、辿り着いたこの場所。
しかし目の前にはネズミの壁が出来ている。
正確には、見えない壁に阻まれて、それでも突破しようとしている巨大ネズミたちが張り付いている、という図なのだが、俺達の側からではネズミの壁以外、何者にも見えない。
「とりあえずは、だ。」
「うん、お肉……だよね。」
「そう言う事だっ!」
俺はゴブリンから奪った剣を構えると、ネズミに向かって斬りつける。
クリムも、風の魔法で、ネズミたちを切り刻み、土の魔法で退路を阻む。
ほどなくして、目の前には、ネズミの壁ではなく、ネズミだったお肉の山が出来上がっていた。
「早く、早くっ!」
「待て、慌てるな、落ち着け。」
すぐにでも食べたいというクリムを落ち着かせながら、ネズミを解体していく俺。
おれだって早く食べたいのだが、血抜きまではいかなくとも、せめて、毛皮ぐらい剥いでから食べたい。
俺が解体し、ブロック状に切り分けた肉を、クリムは次々と火の魔法を使って焼き上げていく。
「ソーマはレアがいい?それともウェルダン?」
「ミディアムで頼む。」
「もぅ、一番難しいんだからねっ。」
クリムはそう文句を言いながらも嬉しそうに火力を調整している。
実際、魔法で炎を出し続けて肉を焼くという行為は、かなり大変だというのは魔法素人の俺でもよくわかる。一定の火力を維持しながら魔法を放出し続けなければならないのだから。
水がいっぱい入ったバケツを持って、1m下にあるペットボトルの中に水を咲削ぐ行為を、一定の速度を保ちながらも、一滴も水をこぼさないようにする、と言えば、如何に難儀な事かがよくわかってもらえると思う。
それをクリムは事も無げにやってのけるのだ。ピクシーに身を変えた今でも、その魔法を扱う天才的な能力は失われていないようだった。
「いただきまーす。」
適度に焼けた肉の欠片をクリムは早速口にする。
「オイ、コラ、ちょっとま……ムグッ。」
文句を言おうとした俺の口の中に、肉の塊が放り込まれる。
「もぐもぐ……美味しぃ。」
「ムグッ、モグ……確かに美味い。」
「でしょー、ほらもう一つ。」
クリムは焼き上がる端から俺の口の中に肉を放り込んでくる。
クリム自身は、身体が小さいため、肉の欠片を少し食べるだけでお腹いっぱいになるようだ。
「これがネズミのお肉なんてねぇ。元を知らなければ、最高よねぇ、」
「こら、思いださせるなよ……いっている事には激しく同意だが。」
「今ならカエルの肉だって御馳走だわ。」
「確かに……。」
「あの……そろそろ、こっちを気にしてくれてもいいんじゃない?」
俺達がネズミの肉を焼いて食べてると、横から声がかかる。
「後にしろ、今は忙しい。」
しかし、俺達は何より、肉を食べることの方が重要だった。
「……だぁッ!」
声の主がいきなり、肉の山をひっくり返す。
「何するんだっ!」
「何するんだっ!じゃないわよっ!」
肉をひっくり返した凶悪犯罪者……ロリ女神は、ぜぃぜぃと肩で息をしながら詰め寄ってくる。
「アンタねぇ、アンタ、ここに来た目的忘れてるんじゃないのっ!バカなのっ!」
「目的……あ、あぁ!……ワスレテナイヨ?」
「……まぁいいわ。時間もないからついてらっしゃい。」
ロリ女神の有無を言わさない迫力に気圧され、俺とクリムは黙って後をついて行く。
「ここが「ターミナル」よ。」
案内された場所には見覚えがあった。あの祭壇だ。少し様変わりをしているが、間違いなかった。
「起動の魔石をここに差し込んで。」
「起動の魔石って……これか?」
俺は言われるがままに、取り出した赤い石を、ロリ女神がさし示した場所へとセットする。
『システム、再起動中……デス……。』
「この声って……。」
突然聞こえてきた声に驚く俺とクリム。なぜなら、その声はビャクレンの声だったからだ。
「どういうことだっ!」
俺はロリ女神に詰め寄る。
「どうもこうもないわよ。あの石がビャクレン?っていう子の石だった。ただそれだけよ。」
「ただそれだけって……。」
クリムが言葉を無くす。
「……ちゃんと説明しろっ!」
俺は怒りを覚えながらも、ロリ女神に説明を求める。
「はぁ……。何を怒っているか分からないけどね、そこのピクシーになった子も、鬼人族の子もサキュバスの子もあの時点で死ぬ運命にあったの。その理を変更せざるを得なくなったのは全部アンタの所為。要は、アンタの未来のために必要な措置をした、ただそれだけ。」
ロリ女神が、何を怒っているのか分からない、という顔をしながら言う。
「俺の未来の為って……納得できるかよっ!」
「はぁ……。アンタが納得しようがしまいが関係ないのよ。何度も言うけどこれは必要な措置だった。ただそれだけよ。」
「……わけがわからん。そう言えば、お前、俺がターミナルに辿り着けば全部説明するって言ってたよな。俺の納得いくように説明をしろっ。」
「納得のいく説明をしてあげる、なんて一言も言った覚えはないけど……まぁいいわ。システムの起動と初期設定に時間がかかるだろうから、少しだけ昔話をしてあげる。」
ロリ女神はそう言って語り始める。
「昔々のお話だけどね、ある世界の人類は、今では想像もつかないほど栄えていたの。それこそ、アンタ達の住んでいた地球などが原始時代に思えるほどにね。」
「そこの人類は、あらゆる病気を克服し、老いでさえも止めることに成功した。流石に、寿命を無くすことは出来ないけど、その寿命を数百年単位で伸ばすことにも成功した。」
「一瞬にして思う場所へ移動することが出来るようになったし、宇宙に進出することも出来たけど、何故か、この星に拘ったから、宇宙開発は進んでなかったわ。ただ、月や小惑星に無人工作機を送り込んで、そこから掘り出されるレアメタルは、人類の発展を一層促すことになったけどね。」
「その発展の下になったのは、科学と魔法、そしてその両方を融合させた超魔科学。人類は超魔科学を手にしたときに、膨大な夢の殆どを実現させるに至ったのよ。」
「超魔科学の髄を極めた12人の超越者たちと50人からなる評議会の者達によって、その世界はよりよく収められてきたのよ。」
「まるで理想郷だな。」
ロリ女神の語る世界は、人類の夢と希望が詰まった世界に聞こえた。
「そうね、誰もが夢見た理想郷、それを形にしたものがその世界……の筈だった。」
「何か問題があるのか?」
ロリ女神の言い方に引っかかるものを感じた俺はそう聞いてみる。
「そうね、問題はいつでもあるものよ。考えてみて、病気も老いもない健康な身体を得た人類。仕事などしなくても、すべては機械が、人造生命体がこなしてくれる。人々は、ただ、命じるだけ。貧富の差もなく、安全に管理された世界……そんな中で長く生きる人間が次に求めるのは何だと思う?」
「何って……分からないなぁ。それだけ恵まれていて、何を求めるというんだ?」
「分からない?本当に?」
ロリ女神が挑発するように聞いてくるが、俺には見当もつかない。
働かなくても生きていけるって事は、他人に煩わされることもなく、勝手気ままに自由に生きていけるって事だろ?しかも、健康で、老いることもない。他に何を望むって言うんだ?
「……臨んだことをすべて叶えてくれた世界。そこでは飢える事もなく、老いることもない。管理されてはいても、必ずしも自由を阻害されるわけではない。とは言っても、他人を傷つけるようなことは出来ないようになっている安全な世界。そこで人類は等しく、誰もが平等に今日を過ごし、明日を迎える。昨日と変わらない今日、今日と変わらない明日……。誰もが夢見た平和な世界。ホント理想郷よね。」
ロリ女神はそこで一旦言葉を切り、俺を見つめる。
「そんな理想郷で彼らが求めたのは『刺激』よ。自らを危険に晒すことなく、程よい刺激を得ることのできる娯楽を彼らは求めたの。つまりは『代理戦争』ね。」
「彼らの欲求を満たすために、12人の超越者たちは時空を歪め、多元世界の中の一部を固定して一つの世界を作り上げた。そして同じように多数の世界を作り上げ、彼らに開放する。彼らは、その世界に様々な干渉をして自分たちの思うように作り替えていったわ。」
「あるものは、宇宙の成り立ちに干渉しながら、生命の誕生の推移を観察し、時には大規模な干渉もして、その生れ出た生命体がどのような道をたどるのかを興味深く眺めていた。」
「あるものは、すでにある生命体に干渉し、本来、ありえない生命体を作り、それがどのような影響を与えるのかを調べる。」
「またある者は、様々な生命体を作り出し、共存や反発をさせて楽しんだりもしていた。」
「そんな感じで、作られた箱庭の数だけ、創られた世界が存在したの。そんな世界の一つに超魔科学の理論が派生した……正確に言えば、わざと流出させたのね。異なる生命体が、超魔科学を手にしたとき、我々と同じになりえるのか?……流出させた人はそんな事を考えていたみたい。」
「だけどね、精神的に未熟な生命体が、自分でも扱いきれない大きな力を手にしたときの結果は……わかるでしょ?その人はあきらめきれずに何度も何度も同じことをしたわ。そして結果は、何度やっても超魔科学を利用した兵器による世界全滅。その人も諦めかけたその時、一つの世界だけが違う結果を出して生き延びて行ったの。」
「彼は興味深くその世界を観察し続けたわ。そして、その世界の生命体は、超魔科学の理論を追求していった結果、私達の存在に気付いたの。これは驚くべき結果と言えるわ。彼もその思いもよらない結果に歓喜し、その世界の生命体とコンタクトを試みたの。」
「最初の内は問題なかったわ。お互いに、手探り状態でコンタクトを取り、お互いにとって利益になるような取引もされたわ。だけどね、その内に箱庭世界の生命体が反旗を翻したのよ。結局、自分たちが作られた存在で下位に甘んじることに我慢が出来なかった、という事らしいわ。」
「その生命体は、超魔科学の粋を極めた次元爆弾ともいうべき破壊兵器を作り出して、それを使用したわ。その結果がどうなるかも知らずにね。」
「……どうなったんだ?」
「その世界は滅んだわ。他の箱庭世界も巻き込んで跡形も残さずにね。ただ、それだけで済めばよかったんだけど、その爆弾は強力過ぎたのよ。その爆弾の影響は創り出した元の世界にも及んで、人類の2/3を巻き込んだうえ、その世界の根幹を揺るがすまでの影響を与えたのよ。」
「超越者たちは、即座に対応をしたんだけど、世界の崩壊を止めるのは並大抵の事じゃなくてね、ようやく落ち着いた時には12人の超越者と十数人の人類しか動いている者はなかったのよ。」
「滅んだ……って事か?」
「そこまでは言ってないわ。でも滅びつつある、って言ったところね。一応十数万単位の人類がコールドスリープで眠っているし、各動植物の遺伝子サンプルも保管してある。また、十分なエネルギーを得ることが出来れば、箱庭世界のデータを流用して、世界を作り直すことも出来るの。」
「だからね、超越者たちは観察者と名を変えて、自分たちの世界を作り直すために、各箱庭世界の観察を始めたのよ。同じ過ちを起こさせないように、注意しながら、ね。」
「……今の話しと俺達に何の関係があるんだ?」
「分からない?」
「……分からないな。」
いや、実際には分かってる。ただ認めたくないだけだ。
「嘘つき。分かってるくせに。」
ロリ女神は小悪魔的な笑みを浮かべながら、俺が認めたくなかったことを告げる。
「この世界も、地球も、幾多もある箱庭世界の一つなの。そして、元の世界を滅亡寸前にまで追いやった次元爆弾の亜種が、この世界にも存在した。エルゥスはそれを起爆させ、他の箱庭世界と、この世界を繋ぎなおして作り替えた……それがあの時起きた、そして今起きている事よ。」
「観察者は、以前の過ちを繰り返さないために、箱庭世界への過度な干渉は許されていない。だからエルゥスも自ら起爆させることをせず、その世界の者が起爆するように仕向けただけにとどめていた。そして、その思惑に引っかかった者達が、エルゥスの望むままに起爆させ、この世界が出来た。世界が出来上がってしまっては、もう他の観察者たちも下手な干渉は出来ない、ただ見守るだけ。」
ロリ女神は、今まで見たこともないような、慈愛に満ちた目で俺を見つめる。
「だから、私が出来るのはここまで。すべての答えはターミナルの中にあるから、頑張ってね。」
ロリ女神は俺の頬に口づけ、さっと身を離す。
「あなたには期待してるのよ。コレ、本音だからね。」
そう言って、かき消すようにいなくなるロリ女神。
後には頬にかすかに残るぬくもりと、クリムの冷たい視線だけが残るのだった。
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