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非日常の始まり ~クリム編~

「えっと、どういう事かな?」


私は目の前で土下座するイケメンに訊ねる。


別に私が土下座を強要したわけじゃないからね。そこのところ勘違いしないように。


私が気づいたら、目の前でイケメンが土下座していた、ただそれだけなんだからね。


私達はソーマの呪いを解除するための方法として祭壇を探していた。そして、それはほぼ終了していて、今見つけた祭壇を起動させれば、早ければ2年以内にソーマの抱えている問題は解決する……そのはずだった。


だけど、その祭壇を起動させた途端、大きな地鳴りと地響きが起きて、周りが崩壊し始めた。


私も巻き込まれそうになり、そこを助けてくれたのが、飛び込んできたソーマ。


だけど、足元が崩れてバランスを崩し、掴んでいたソーマの手が一週離れたその瞬間に大きな爆発が起きた。


その爆風の盾になってくれたのがそばにいた鬼人族のビャクレンさん。彼女がかばってくれなければ、私はあの爆発で命を落としていた……。


私が覚えているのはそこまで。で、気付いたら今の状況ってわけなんだけど。


「黙ってたら分からないわよ。今の状況を教えて……簡潔にね。」


「簡潔に……ですか?」


土下座していたイケメンがようやく顔を上げる。その顔を見て思い出す。この人、私が死んだときに色々してくれた人だ……確か担当官って言ったっけ?


「そう簡潔に。」


私はとりあえず彼の事は置いといて説明を求める。簡潔にと言ったのは難しい事を説明されても眠くなるだけだからね。


「では……簡潔にお答えしますと、世界は崩壊してあなたは死にました。」


「は?」


一瞬、耳を疑う、というか何を言っているのか理解が追い付かない。


「死んだ?いつ?」


「今さっきです。」


「どこで?」


「祭壇の間で。」


「誰が?」


「クリムさん、あなたが、です。」


「なにを?」


「崩壊に巻き込まれて。」


「何故?」


「祭壇を起動させたから。」


「どうして?」


「運が悪かった?」


……うん、5W1Hの質問によどみなく簡潔に応えてくれるイケメンさん。


とりあえず私が死んだことは間違いないようだ。


「で、これからどうなるの?」


正しんだだけなら、私の意識が、ここにあること、そしてイケメンの担当官さんが土下座をしていたことに説明がつかない。きっと何かあるのだろうと思う。


「えー、クリム様のご要望にお応えして、完結に今回の事を説明させていただくと……。」


イケメン担当官さんは、私の問いに答えず、現在に至るあらましを説明し始める。


なんでも、イケメンの同僚さんが今の世界の在り様に不満たらたらで、なんやら……。


「あー、全然簡潔じゃないよっ!世界が崩壊した?いつ?」


「今さっきです。」


「どこで?」


「世界中全てで。」


「誰がやったの?」


「計画したのは女神エルゥス。実行したのはクリムさん達です。」


「なにをしたって言うの?」


「祭壇を起動させること、それがエルゥスが世界を崩壊させるためのトラップだったのです。」


「何故そんな事を?」


「この世界の秩序を崩すため……それがエルゥスの願いだったのです。」


「どうして?」


「この世界では、エルゥスの望む「自らの欲望に忠実であれ」という理念が悪とされるからです。」


「それだけの理由で?」


「私達にとって、司る理念は存在意義そのものなのです。ですから、理念が否定されることは、自らを否定されることと等しいのですよ。」


「ふぅん……まぁ、一応理解はしたわ。で、これから私はどうなるの?」


一通りの説明を聞いてから、私は再度訊ねてみる。


「申し訳ございませんっ!」


イケメン担当者は再び土下座を始める。


「それはもういいから、この先の事を教えて。」


「……そうですね、クリム様には二つの選択肢があります。元の世界……栗野夢叶として死んだ世界で生まれ変わるか、この、崩壊して無秩序になった新しい世界で生まれ変わるか?です。どちらを選びますか?」


「ちょ、ちょっと待って、生まれ変わるって……赤ちゃんからやり直すって事?」


予想外の答えに私は少し慌てる。てっきり、またどこか別の世界に転生するものだと思っていたから。


「そうですよ。もちろん、生まれ変わった先が人間である保証は全くないですがご安心ください。今までの記憶は、一切消えてなくなりますから、自分が何者であるかなんてことは気にならないですよ。」


「ちょっと待ってよっ!それじゃぁ何?栗野夢叶としての人生はここで終わりって事?」


「そうですよ。輪廻転生という本来のシステムに戻るだけです。元々、それが本来のあるべき姿なのですから。」


「ちょっと待ってよぉ……。それじゃぁ、何?ソーマと出会ったこととかその他諸々の事が一切なかったことになるの?」


「……皆さんも同じことですから。」


「いやよっ!せっかくソーマと出会えたのにっ!これから愛を育むはずだったのにっ!これで終わりなんて認めないっ!私を私のまま、あの世界に戻してよっ!」


私はイケメン担当官に掴みかかり、叫ぶ。


「無茶言わないで下さいよ。それに、例え貴女が戻ったとしても、ソーマ殿が生きている保証はないのですよ?」


「ソーマは生きてるっ!だって不老不死なんでしょっ!まだ私とエッチしてないのに、ソーマが死ぬわけ無いじゃないっ!」


「そうは申されましても……まぁ、ありえないとは言えないですか……。……アイツがついてるしなぁ。」


「そうよっ!だから私を早く戻しなさいっ!私がいないと、ソーマは泣くんだからっ!ソーマの側には私がいないとダメなのっ、私がソーマを守るの。」


「だから、あなたはあの世界ではすでに死んでるわけでして……。」


「そんなの、アンタ達のご都合主義パワーかなんかで何とかしなさいよっ!」


「この子、無茶言ううなぁ……。ハイハイ、わかりましたよ。」


私が無茶振りしすぎたせいか、なんかイケメン担当官の態度が変わった。今までは丁寧な紳士然としていたのに、今は若くして中間管理職に就いた苦労人と言った感じだ。


私は、イケメン担当官が、何やらブツブツ言いながら、何もない空間でキーボードを打つ仕草をしているのを、黙って見ている。



「はぁ……これなら何とか……。」


しばらく見守っていたら、何かの結論が出たのか、疲れた顔のイケメン担当官が私に声をかけてくる。


「クリムさん、一応、あなたの記憶を保持したまま、あの世界に残留させることは可能なようです。」


「ほんと?じゃぁ、すぐやって。」


「ちょっと待ってください。説明がまだですよ。まず、あなたは人間ではなくなります。これは、あなたという存在を構成するものが……。」


「そんなのいいから、ちゃんと私で、女の子だったら問題はないわよっ……あ、可愛くないのはパスね。」


だから早く戻せとイケメン担当官に詰め寄る。


「はぁ……まぁいいか。……後は任せましたよソーマさん。」


イケメン担当官の疲れた顔が段々とぼやけて行き、私はそこで意識を失った。



「えーと、ここは……ってキャッ!」


意識が覚醒し、周りの現状を確認しようとしたとき、殺気を感じて身体を横にずらす。


さっきまで私が居たあたりを、大きな爪を持つ腕が通り過ぎていく。


「何なのあれっ!」


私がその腕の主を探すと、目の前に巨大な魔物がいる。


「あれって……ネズミよね?無茶苦茶大きいんですけどっ!」


私の目の前には、高層ビルほどの大きさの巨大なネズミが、私を獲物として狙っている。


ネズミは、私を捕まえようと、その大きな腕を振るってくるが、その大きさが災いして、私が狭いところに入り込むと、攻撃手段を失ってしまう。


かといって諦める気はないらしく、私が逃げれそうな場所をチェックしながらウロウロとしている。


「むぅ、あんだけ大きいと、私の魔法じゃあまり効き目ないかも?」


そう思いつつも、火炎系の魔法、ファイアーボールを放ってみる。


「あー、やっぱダメかぁ。」


私の放ったファイアーボールは巨大ネズミの腕の毛皮を少し焦がしただけだった。


それでも少しのダメージはあったようで、巨大ネズミは大いに痛がるとともに、私への憎悪を募らせている。


「うーん、100発も連続で打ち込めば倒せるかもしれないけど、……あまり現実的じゃないわね。」


私は、巨大ネズミの殺気を受けつつ、この先について考える。


とにかく、何をするにしても、あの巨大ネズミを排除しない事には始まらない。だけど、その手段がない。ここに隠れていれば、やられることは無いだろうけど、逆を言えばここから身動きが取れないという事だ。


「えーと、こういうの千日手って言うんだっけ?」


私は昔漫画で読んだ知識を思い出してみる。しかし、現状打破は出来そうにもなかった。


「あーもぅ、ここでさっそうと助けに来るのが理想の王子様ってものでしょうがっ。早く助けに来なさいよソーマっ!」


私が思わずそんな事を叫んだ途端、「ドーンっ!」と巨大ネズミの居るあたりの床が弾け飛ぶ。


「何?何が起きたのっ!」


私は訳が分からないまま、もうもうと土煙を上げている場所を見つめるのだった。

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