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ターミナルを目指して 1

「クッ……。」


俺は迫りくる棍棒をかろうじて躱し、すれ違いざまに拳を叩きこむ。


しかし、大したダメージを与えることは出来なかったみたいで、相手は態勢を立て直すと再び殴りかかってくる。


俺の目の前にいるのは、俺より一回り小柄で、犬の頭を持つモンスター……コボルトだ。


以前の俺であれば……、愛用の装備があれば、たかがコボルト一匹に手こずることは無かったはずだ。 


しかし、現実には、俺の手に武器はなく、俺の身体を守る防具もない。


多少剣術や格闘技を教えてもらったとはいえ、元々の俺の実力は大したことがない。


それを装備や、他の仲間の援護、そして、物陰からの奇襲といった方法でやり過ごしていたのだ。


そのすべてがない今、巣の俺はこうしてコボルト1匹に追い込まれている。


「クッ……『ドレイン』っ!」


俺は棍棒を振り下ろしたコボルトを躱し、その腕を掴んで、生命エネルギーを吸い上げる。


ロリ女神の言葉を借りれば「Lv1」に戻った俺が、辛うじてコボルトとやりあえているのはこのドレインによるところが大きい。


相手に触れている間だけ、という制限があるが、それでも、受けたダメージを回復すると同時に相手にダメージを与えるという手段があるのは、大きなアドバンテージとなっている。


その証拠に、コボルトの奴はすでにフラフラで、その眼は俺を倒すか、それとも今の内に逃げるかで迷っている光を湛えている。


俺の能力はすべて失っているにもかかわらず、ドレインが使えるのは不思議なのだが、一つだけ心当たりがあった。


アンジェの魔石だ。


サキュバス族の固有スキルの中にライフドレインがある。魔石を体内に取り込んだことにより、そのスキルが俺の物になったのだという仮説が成り立つが、そんな事より、アンジェが俺に力を貸してくれている、と考える方がしっくりと来る。


だから俺は、一人じゃない、アンジェも一緒だ、と思うと、自然と力が漲る。


そして……。


「アンジェと俺が、こんなコボルト如きにやられるかよっ!」


俺は迷いを見せるコボルトに組み付き、その喉に手をかけ、ドレインをかける。


コボルトはもがき、滅茶苦茶に棍棒を振り回すが、俺はそれを躱しつつも、喉を掴んだ手を離さない。


「いい加減、往生せいやぁッ!」


俺は体内の魔力を活性化させる。と同時に、ドレインで流れ込んでくるエネルギー量が増大し、数秒後には、コボルトはぐったりと力を無くし、やがて光の粒子となって消えていく。


そして足元に転がる小さく濁った石の欠片。


「これがコボルトの魔石か?」


俺はそれを拾い上げてポケットにしまう。


そして、床に転がっていた、コボルトが持っていた棍棒も拾い上げる。


この先、モンスターが現れるのであれば、こんな物でも無手よりはましだろう。


「しかし、どうなってるんだ?」


俺は通路を先へと進みながら考える。


思わず言葉に出してしまったのは、いつもの癖だ。


こうして俺が疑問を口にすると、アンジェやクリムが何らかの答えを言ってくれる。


俺はさらにそこから思考をすすめるのが癖になっていたのだが、今の俺の周りには応えてくれる者はいない。


それでも俺は構わず考えを口に出していく。


「普通に考えれば、ここはあの祭壇のあった遺跡の中……だよな?」


「となると、目指す先は、あの祭壇のあった場所がターミナルという事になるはず。」


俺はあの瞬間まで祭壇のあるフロアにいたはず。しかし、今は周りを見ても祭壇らしきものは見当たらない。


そして、周りの瓦礫などから推測するに、床が抜けて、仮想に落下したと考えるのが自然だ。


「だとすれば、とりあえず上を目指すべきなんだが……。」


俺が気になるのは、コボルトたちの事だ。


最初に遭遇してから、すでに2回コボルトとの戦闘を行っている。


やっぱり、棍棒とはいえ、武器があるのとないのでは、戦いに差が出る。


棍棒を得てからの2戦は、最初ほど苦労はしていない。


棍棒で殴り掛かり、相手の攻撃を棍棒で受け止める。


そして動きが止まったところで、コボルトを掴みドレインを発動させる。


これを2~3回繰り返せば、コボルトを倒すことが出来た。


コボルト族には、ゴブリンの様なクラス持ちがいないのが幸いしている。


今の俺では遠距離攻撃をしてくる相手には手も足も出ないのが分かっているので、コボルト以外の相手に出会う前にターミナルに辿り着きたいというのが本音だ。


しかし、元の遺跡では、トラップとしての石像モンスター以外はダンジョンバットとかダンジョンラットといった小物しか生息していなかった。


というのも、遺跡の入り口が、完全封鎖されていた事……入る為には魔力の供給と、ちょっとした手順が必要だった。


長い年月の間に建物が腐食して、出来た隙間から、ダンジョンバットやダンジョンラット程度の小物が入り込んだと思われるが、人型以上の魔物が入れるだけの隙間はなく、中に入る為には、入り口のギミックを操作する必要があった。それらのギミックをゴブリンやコボルトが操作できるとは思えない。


「となると、奴らが入れるぐらいの穴が開くほど、遺跡が破壊された……と考えるのが妥当なんだろうけど……。」


それにしても壊れて穴が開いたからと言って、すぐに魔物たちが入ってくると考えるのは無理があり過ぎる。


「……とにかく、ターミナルに行けば分かる……と信じるしかないな。」


俺はそう呟きながら、周りの探索を続けるのだった。



「やっぱり、ここしかないか。」


俺は最初に目覚めた場所……アンジェと別れた場所へ戻って来ていた。


あれから歩ける範囲は歩き回ったが、どこも全て行き止まりで、上にも下にも行ける場所を見つけることは出来なかった。


唯一の例外はこの場所で、瓦礫が天井まで届いている。


だから、上の瓦礫をどけることが出来れば、上の階層へ行けるのではないか?そして、俺があの時、そのまま落下したのだとすれば、上はターミナルのある場所なのではないか?


そう結論付けるまでに時間はかからなかった。


「問題は、どうやって瓦礫をどけるか?なんだよなぁ。」


こんな時、クリムがいれば、と思ってしまう。


クリムなら、魔法の一つでこんな瓦礫ふっ飛ばしてくれるだろう。


「まぁ、一般人の俺が出来ることは、地道に手でどけるだけ、なんだよなぁ。」


俺は瓦礫の山を登って、天井近くまで行くと、動かせそうな瓦礫を探す。


運良く、動かしても崩れなさそうな瓦礫をいくつか見つけることが出来、それを苦労しながらどけていく。


どけた瓦礫はそのまま下へと放り投げる。誰も居ないからできる事だ。だからと言って一人であることを感謝する気にはなれない。


「クッソぉ。俺は、クリムと再会してエッチするんだぁッ!」


今の俺はそれだけを考えて力仕事に精を出す。


こんな苦しく地道な作業は、そんな事を考えていないとやってられなかったのだ。


「クリムぅ、待ってろよぉ。嫌と言ってもヤりまくってやるからなぁッ!」


この時の俺は、何故か上にクリムがいることを信じて疑わなかった。

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