非日常の始まり
……ここは?
意識を取り戻した俺は、慌てて周りを見回す。
「ソーマ、意識を取り戻したのね。良かった。」
「アンジェ?」
俺は声のした方に顔を向ける。そこにはいつもと変わらない笑顔を向けるアンジェが横たわっていた。
「ずっと呼びかけているのに、全然反応がないから……もうダメかと思ったわ。」
俺はアンジェに駆け寄り、その身体を抱き上げる。
……アンジェってこんなに軽かったか?
俺の中に生じた疑問が、明確な思考に変わる前にアンジェが口を開く。
「ソーマが無事で本当に良かったわ。最後に声が聞けて……嬉しい……。」
「最後って……縁起でもないことを言うなよ。エナジーが足りないなら、俺からいくらでも吸えばいいっ!」
「魅力的な言葉だけど……無理なのよ。」
「無理ってどうして……。」
俺は言葉に詰まる。
アンジェの視線の先を追ったその先……アンジェの下半身のあたりに視線を向けるが、そこにはあるべきはずのもの……アンジェの腰から下が綺麗サッパリとなくなっていたからだ。
「アハッ、これじゃぁエッチ出来ないね。ゴメンね。」
「そんなことを……そうだっ!クリムなら……クリムの治癒魔法で……。」
「ムリよ。……もう生命力がほとんど残ってないもの。」
「そんな……何か、何かできることはないのかっ!」
俺の魂の叫びは、周りの空気を震わす……ただそれだけだった。
「出来ること……あるわよ?」
そんな俺の叫びに答えてくれたのは、やっぱりアンジェだった。いつも俺がつらいとき、苦しいときに、答えを示してくれる……アンジェは俺にとってなくてはならない存在になっていたのだ。
「キス……して?最後まであなたと一緒に……。」
俺は最後まで言わせず、その口を自分の口で塞ぐ。
口内を通してアンジェの生命力が俺の中に流れ込んでくる。同時に頭の中にアンジェの声が響く。
(ソーマに私のすべてをあげる。)
(400年に満たない短い人生だったけど、ソーマと出逢ってからは、毎日が充実していたわ。)
(私はソーマの中で生き続けるの。だから悲しまないで。)
アンジェの言葉の一つ一つが俺の身体の奥底に染み込んでいく。
俺には、かける言葉が見つからない。
(これからも、ソーマは私が守るの。)
そういったアンジェの顔はきっと笑顔だったと思う。
それがわかるから、俺はアンジェを抱き締める手に力を込める。
そして、今の俺に出来る事が何もないのだと悟る。
(泣かないでソーマ。私はいつでもあなたと一緒よ。)
(たとえ、触れ合う肉体がなくとも、この想いは永久に一緒に……。)
アンジェの声が途切れる。
そして、腕の中にあったぬくもりが、口づけている感触が、徐々に消えていく……。
「アンジェ、アンジェぇぇぇ~っ!」
俺の声が、何もない空間に響き渡る。
俺の腕の中にいたアンジェは、小さな石を残して消え去っていた。
どれくらいそうしていただろうか。
呆然とした状態から、抜け出した俺は、手のひらに残った小さな石を見つめる。
アンジェの石だ……。
俺は、それをしばらく見つめた後、徐に口の中に入れる。
特に理由があったわけではない。しいて言うなら、アンジェが最後に残した言葉……永遠に一緒、という事に触発されたのかもしれない。
アンジェの石を体内に取り込むことによって、一つになろうという意識が働いたのかもしれない。
しかし、石を飲み込んだ途端、激しい激痛が襲い掛かる。
「グゥッ……ガァッ……」
身体を内部から引き裂くような痛み。中で爆発を繰り返しているような間断なく襲う衝撃、一息もつかせまいと、内部から突き上げてくる痛みに、俺はのたうち回る。
「クッ、クッソっ……ガァッ!」
それでも俺は必死に耐える。アンジェを失った心の痛みに比べれば、この程度の身体の痛みなど大したことがない、そう思った。
逆に、もっと痛めつけろ……アンジェを救えなかった俺には、これくらいの痛みや苦しみは生ぬるい、とさえ思う。
実際、身体の痛みや苦しみに耐えている間は、アンジェを失った喪失感を感じている暇はなかったのだから、一種の逃げだったのだろう。
やがて、身体が慣れたのか、痛みも苦しみも、かなり和らいでくる。
すると、色々と考える余裕も出てくる。
さっきまではそんな余裕はなかったが、周りは瓦礫だらけで、自分の周りだけがぽっかりと空間を作っている。
それは、アンジェガッ自らの身体を張って、ソーマの為に作り上げた空間だというのが分かる。
いくら復活できるソーマと言っても、身体が瓦礫に潰されたままでは、復活してもすぐに死ぬことになる。それではいくらたっても復活できないだろう。
アンジェはそう考えたからこそ、自分の身体が瓦礫に埋もれるのも構わず、ソーマの周りにだけ結界を張った。
アンジェは、自分ごと結界を張るには魔力が足りず、それ以前に、すでに下半身が押しつぶされて動けなかった為、結界をソーマだけに集中したのだが、そのような事情まではソーマには分からない。
ただ、アンジェが死んだのは自分を助けるためだという事だけは理解していた。
だからこそ、アンジェに救われた命を無駄には出来ないと思う。
「……そう言えば、今の俺は不死の能力がないんだっけ?」
ソーマは、唐突に、ロリ女神との会話を思い出す。
「ターミナルを目指せって……どこにあるんだよ。」
痛みも苦しみもほぼ無くなった俺は、動き出すことにした。
このままじっとして緩やかな死を迎えるのは、アンジェの望みじゃない事を知っているから……。
そうは言っても、今の俺に何が出来るのか?何をすればいいのか?わからないことだらけだ。
だから、記憶に残っていたロリ女神の言葉……ターミナルへ辿り着け、という事だけが、唯一の行動指針だった。
ターミナルに行けば何かが変わる、と言うのは、浅はかな考えかもしれないが、他の皆の情報を得るためにも、ターミナルという端末は必要になるかもしれない。
そう思うと、俺の脚は自然と早くなっていくのだった。
お待たせして申し訳ありません。
実は数日前に腰をやってしまい、執筆するのがかなり大変な状況になってしまいました。
寝ながらスマホでポチポチと書いて行くのは、なかなか時間が取られますね(^^;
しばらく更新が不安定になりますが、出来るだけ早くマイにに更新に戻していきたいと思いますので、ご容赦ください。
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