ハーレム王、パーティをプロデュースする 3
「わぁ、凄い人だねぇ。」
「まぁ、新しい代官の就任パーティだからな。気になるんだろ。」
代官、つまりこの街のトップがどのような人格か?それが自分の利益にどうつながるのか?もしくはどんな不利益があるのかを見極めるために集まった……ここにいるのはそんな奴らが殆どだ。
そして、そんな奴らが注目しているのは、会場中央に置かれた料理の数々。
その見映えは、流石に一流の料理人を自負する料理長自慢の逸品だけあって、圧巻というより他ない。
それを証明するかのように、パーティの開催を告げる声と同時に、招待客は皆料理に群がった。
「どうやら成功と言っていいようだな。」
「ウム、すべてソーマ殿のお陰だ。」
クリフはグラスを掲げながらニンマリと笑う。
クリフが手にするグラスは、俺の指揮の下、ドワーフたちが心血注いで造り上げた渾身の作だ。
このパーティの為に卸した蒸留酒、それに合うグラスを、と俺が拘ったせいで、ドワーフたちにはかなり無理をさせた。
まぁ、今頃は解禁したお酒を飲んんで、そんな苦労は忘れているだろうが。
そのドワーフたちの傑作だけあって、この近辺では簡単に手に入らないような上等品、それが、パーティ会場内で当たり前のように扱われている。
それがどういうことか?
招待客は、皆、クリフのことを「これ程の逸品を惜しげもなく普段遣い出来るだけの伝手と財力がある」と評価しただろう。
もっとも、さすがのクリフもこれだけのグラスを買い取ることは叶わず、8割程は本日限りのレンタルとなっているが、招待客は知らないので問題はない。
どちらかといえば、問題は、デザート前に陣取っているラーニャお嬢様にあった。
お嬢様は、同じ年頃のお嬢様方を前に「クレープの美味しい食べ方」なるものを実演している。
これはお願いしたわけではなく、ラーニャが勝手にやっていることで、それだけなら問題はないのだが、どうやらラーニャはデザートに関しては歯止めが効かなくなるようで、時々暴走して重要なことをバラしそうになり、その度に、見張っているフリーシャに止められている。
ラーニャの暴走は試食会のあたりから始まっていて、うっかり口を滑らせたフリーシャからプリンの存在を知り、それを食してからはすっかり現代デザートに虜になってしまった。
「こんなデザートが毎日食べられるのなら、ソーマ様のもとに嫁ぎます」と口にするぐらいに……。
その発言の後のことについては……うん、忘れたい。
その後、クリフは招待客の挨拶……という名の情報戦に忙殺され、俺は暇を持て余す事になった。
「ソーマ様、楽しんでますか?」
そんな俺のもとに、艶やかなドレスに身を包んだ少女……リズが声をかけてくる。
「リズか。見違えたよ。どっかの王女様かと思った。」
「ぶぅ~、王女なんですよ。おにぃちゃんは、もっと私を敬って甘やかすべきですよ。」
「わかってる、わかってる。今回の成功はリズのお陰だ。感謝してるよ。」
俺はふくれっ面のリズにそう囁くと、そのおでこに軽くキスをする。
「う~、今回はこれで誤魔化されてあげます。」
「ハイハイ。ありがとうございます。」
リズの頭を撫でながらそういうと、リズは、もっと撫でろ、というように擦り寄ってくる。
そうして暫くリズを甘やかしていると、さり気なくそばによってきたメイドが小声で話しかけてくる。
「ソーマ様、アリーシャ様達からパターンCの要請です。」
「Cか。思ったより釣れそうだな。」
今回のパーティには、貴族以外にも大手の商会の関係者や各ギルドの関係者、そしてごく一部の冒険者達も招待されている。
もっとも、こういう場ではそれなりのマナーが要求されるため、貴族の対応に慣れた上級冒険者の中から選ばれているのだが、俺のコネでアリーシャ達をその中に捩じ込んだ。
目的は遺跡についての情報収集だ。こういう場で、旨い料理と酒を口にしているところで、綺麗な女性が声を掛けて来れば、普段は貝のようにしっかりと閉じた口も、熱せられたように軽く開くことだろう。
ただ、相手は腐っても貴族や商人だ。状況によっては、何らかの切り札が必要になってくるのは間違いないだろう。
だから予め、アリーシャたちとの間で符丁を決めておいた。パターンCというのはその一つで、相手が物品等の見返りを求めている事を表している。
「そうだな。このグラスを一つと、その出処の情報。あと、ウチの店で取り扱っているシャンプーやリンスなどの日用雑貨品等までならOKだと伝えてくれ。」
俺がそう言うと、メイドは軽くお辞儀をしてから立ち去っていく。
俺はそれを見送ったあと、会場内を見回すと、隅の方で和やかに談笑しているアリーシャ達を見つける。
彼女達は、少し離れて、それぞれのターゲットを見つけ、一見楽しげに笑っていた。
「あの笑顔が演技っていうんだから、女の子は怖いなぁ。」
「今更何言ってるの?あの人達がおにぃちゃんの愛人になったのも打算からだよ?」
俺のつぶやきを聞き咎めたリズが呆れたように言ってくる。
「いや、それは薄々分かってたけどさぁ。そうやって現実を突き付けられるとヘコむわぁ。」
落ち込む俺の頭をリズがポンポンと叩く。
「おにぃちゃんにはリズがいるよ?だからいいじゃない。」
「そうだな……って、まさかリズもっ!」
「ん~~、最初は打算がなかったとは言わないけどぉ……。」
リズがオレを覗き込むように視線を合わせる。
「リズはぁ、おにぃちゃんにぃ、メロメロになるまで調教されちゃったのでぇ、今はぁ、おにぃちゃん無しでは生きていられなくなっちゃいましたぁ。」
小悪魔のような笑みを浮かべて、甘えるように言うリズ……クッ、あざといが、そこがまた可愛い。
「だからぁ、おにぃちゃんは責任取らなきゃダメですよぉ。」
言われなくても、リズを手放す選択肢はありえない。
「わかってるよ。責任は取る……差し当たってはメルマルクを滅ぼせばいいか?」
「だ、ダメですぅ。滅ぼさないでくださいっ!」
先程までの余裕が消えてアタフタと慌てるリズ。
「冗談だから落ち着け。」
「ソーマ様は冗談で滅ぼしかねないんだから困るんですよ、もぅ。」
「……ソーマ様に戻ってるぞ?」
「おにぃちゃんのイジワル。………本当に、滅ぼすのはメッですからね。」
「安心しろ。滅ぼしてしまったら、こうしてリズをからかえなくなるからな。」
「……それって安心していいのかなぁ。」
複雑な表情で首を傾げるリズだった。
そんなリズを見て、こんな日がずっと続けばいい。ずっと続いていくのだと、俺はそう思っていた………。
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