ハーレム王の相談屋 7
「おー、店主殿。いてくれて良かった。」
「クリフさん、今日は如何用で?……強壮剤は先日十分な量をご用意しましたよね?」
来客の名はクリフと言い、以前奥様やお嬢様とともにお忍びでご来店、その際、余計な一言を言ってしまったがために、その後、長い間奥様やお嬢様に口をきいてもらえなくなったという悲しい過去を持つ貴族様だ。
もっとも、その際、俺が奥様との仲直りに、と融通した強壮剤のおかげで家庭円満を取り戻したとかで、その後、ちょくちょくと、こうして訪ねてきてくれる。
「うむ、実はな、店主殿に相談があるのだが……。」
「ご相談ですかっ!お任せくださいっ!ほら、リズ、何をしているんだ、こちらのクリフ様を奥へお通ししてっ!」
俺は相談、という言葉を聞いて、クリフ……いや、クリフ様を、普段使われていない応接室へと通し、極上のお茶でもてなすように指示をする。
「……それで、ご相談というのは?」
俺はお茶を飲んで一息ついたところを見計らって声をかける。
「それなんだが……、店主殿、何か新しい料理をご存じかな?」
「新しい料理……ですか?」
「うむ、聞くところによると、東の小さな国の辺境で、珍しい料理が流行っているという。商人によれば、この世の物とは思えないほどの極上な味わいだとか。」
東の小国の辺境って……まさかハムの街のことじゃないだろうな。
クリフの話を聞けば聞くほど、思い当たるフシがあり、俺はひそかに顔を青ざめさせる。
「それで、クリフ様は、その料理をどうしたいのですか?ただ単に食べてみたいという事であれば、何とかできるとは思いますけどね。」
「本当かっ!」
掴みかからんばかりに、身を乗り出してくるクリフ。
「あ、いや、失礼した。食してみたいというのもあるが、噂通りの物であるのならば、ぜひレシピを手に入れてもらいたいのだ。」
「レシピを手に入れてどうするんです?アレはレシピを見ただけで再現できるようなものじゃないですよ?」
「その言い方だと、店主殿は何かご存じの様子。」
しまった。つい口が滑ってしまった。
「……。」
「……。」
俺とクリフの間に沈黙が下りる。
「………分かった。すべてをお話ししよう。」
先に折れたのはクリフの方だった。
まず、クリフの身分について。
ただのおっさん貴族だと思っていたが、実は伯爵の地位を持つかなり偉い貴族様とのこと。
この地方を収める領主の兄で、このベリルの街の代官をすることになったらしいのだが、今は身分を隠して、下見をしているとのことだった。
「それでな、近々、お披露目を兼ねた就任パーティを開くのだが……。」
何でも、この手のパーティは最初が肝心で、この就任パーティで、招待した貴族をガツンとしてマウントを取らなければ後々舐められるというのだ。だから、そのための手段を現在検討しているとのことだった。
「そんな折に見つけたのが店主殿の店というわけだよ。あのような変わったものや珍しいものを取り扱う店主殿なら、何かいい知恵を貸してくれると思ってな……というか、貸せ!」
「いやいや、いきなり凄まれても。そんな態度とるなら強壮剤売りませんよ?」
「すまんかった!アレはいいものだ。ぜひぜひ、今後とも良しなに……。」
俺が脅すと、いきなり態度を急変させるクリフ。
というか、そこまで卑屈にならんでも……。こんなのに代官やらせて、この街、大丈夫なのか?
「つまり、そのパーティを成功させるために手を貸してほしいというわけですね。」
「面白そうじゃない。ソーマ引き受けましょうよ。」
盗み聞きをしていたのか、ドアをバタンと開けてリズとクリムが入ってきてそう言う。
「おぉ、引き受けてくれるかっ!」
「うーん、……お代はお嬢さんで……ぐぼっ!」
俺の頭にどでかい花瓶が振り落とされた。
……うぅ、冗談なのにぃ。っていうか、リズ、だんだんクリムに毒されてませんかね?
「代価は、金貨1000枚プラス必要経費の他、パーティの後、領主に紹介してもらうということでどうか?」
いつの間にか、アンジェも入ってきて、俺の代わりに代金交渉を始める。
「いやいや、金貨100枚というのは……。」
「あら、安いものでしょ?パーティの成功意外に、他では手にすることのできない珍しい料理のレシピが手に入り、珍しい品物を融通してもらいやすくなるのよ?」
「むぅ、……料理のレシピをもらえるのか?」
「レシピを差し上げるというより、そちらの料理長に覚えてもらうと言った方が速いわね。いくらなんでも、その時だけ、料理人を雇うとかじゃぁ格好付かないでしょ?」
「くぅ……それならば……、いや、しかし……。……その新しい料理というのは何種類あるのだ?全部教えてもらえるのか?」
「それは応相談ね。とりあえずパーティに出す料理をどうするか、から考えなくてはいけないしね。ただ、それなりの体裁を繕うためにも、最低でも、料理5品、デザート1品は確約するわ。」
「……うむ、よし分かった。それで手を打とう。ただし、成功報酬だ。」
「それで構わないわ。」
クリフとアンジェが、固く握手を交わすが……えっと、俺の立場は?
「ソーマの出番はこの後たっぷりあるわよ。まずはどうするか話し合ってね。」
アンジェはそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「……じゃぁ、まぁ、そういうことで。」
とりあえず、貴族のパーティで出される料理がどんなものかもわからないので、まずは晩餐に招待してもらうことにする。その料理を味わった後、料理長を交えてどうするかを決めようと思う。
そして、パーティ全体についての相談も、そのあたりから始めて、何とか形にしていこうということで、今回の話し合いはいったん終了し、クリフは満足そうに帰っていった。
「実際のところ、パーティって何やるんだ?ダンスでも踊るのか?」
俺はリズに聞いてみる。
俺の中で、貴族のパーティと言えば、ダンスパーティぐらいしか思い浮かばないので、元王女のリズの知恵にすがろうというわけだ。
「ソーマ様のおっしゃっているのは夜会のことですね。帝国と王国での差はあると思うので確実なことは申せませんが、クリフ様の開くパーティは昼に行われるということですので、ダンスなどはしないと思いますよ。」
「じゃぁ、何をやるんだ?」
「えーと、そういわれると困ってしまいますね。普通は料理を食べながら歓談してるだけです。もっとも、この歓談が、政治的駆け引きを含んでいますので、表面上はにこやかな談笑でも、裏で何を考えているかわからないという恐ろしい場ですよ?」
「なるほど、基本的には飲み食いしながらの会話ってか。だからクリフは最初に料理の話をしたんだな。」
「そうですね。パーティに出された料理で、相手の格を見極めようとしますし、話題のとっかかりにもなりますからね。特に、就任パーティというのであれば、新しい代官がどれぐらいの力を持っているかを示す場にもなりますので、料理はかなり重要な位置を占めるでしょう。」
「なるほどな。逆に言えば料理で度肝を抜けば、8割がたパーティは成功っていう事か?」
「そうですねぇ。そのあたりはクリフ様次第でしょうか?話題の盛り上げ方によっては料理だけで100%の成功を収めることも出来ますし、下手を打てば、5割以下まで落ち込むこともありますので。」
「……そこまでは面倒見れんな。でも、とりあえずは料理に力を入れればいいことはわかった。となれば、どんな料理にするか……。とりあえずカミーラに言ってフリーシャをここに呼ぶか。」
ハムの村で好評を得ている料理は、俺やクリムが監修したものではあるが、それをちゃんとした料理にまで作り上げたのはフリーシャをはじめとしたメイド隊の面々だ。
だから、クリフからの相談を受けるにあたって、一番必要な人材はフリーシャたちなのだ。
俺もクリムも料理が得意ではないので、こんな風、だとか、こんな感じで、だとか抽象的なことしか言えず、ただそれだけの情報から、しっかりとした料理に仕上げるフリーシャたちは、さぞかし苦労したことだろう。
その経験があれば、クリフの料理長に過不足なく教えることが出来るはず、と俺は信じている。
今から呼んで、フリーシャたちがここにつくのは早くても10日後だ。俺はクリフに、晩さん会は10日後以降にするように伝言を送るのだった。
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