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ハーレム王とハイエルフと……

「お初にお目にかかります、村長様。私はハイエルフのセレーナと申します。」


目の前で恭しく頭を下げるエルフ。


「あ、あぁ。俺はソーマだ。」


「ソーマ様、とお呼びしても?」


「あぁ、構わないが、……今日は何の用でこちらに?」


「あら、呼びだしたのはそちらでしょう?」


セレーナは笑いながらそう言う。


……そう言えば、クリムがそんなこと言ってたっけ。


「とりあえず、立ち話もなんですから。」


俺は、メイドたちにハイエルフたちを屋敷へ案内するように告げる。



「改めて、村長のソーマだ。で、これが、元凶となったローナなんだけど……引き取ってもらえるか?」


「えぇ、ご迷惑をおかけしました。……もっとこちらにお世話になっていてもいいんですけどね。」


「いえいえ、異種族の村に一人ぼっちは心細い事でしょう。だからここは同族の下にお返しするべきでしょう。」


俺とセレーナさんはお互いに顔を見合わせる。


お互い笑顔ではあるが、その実心の中ではお互いにローナを押し付け合う事しか考えてなかったりする。


しばらく顔を見合わせた後、俺たちは互いにぷっと吹き出し、笑い合う。


「クスクス……、お互いに腹の探り合い早めにしませんか?」


「探っていたのはそちらだけだと思いますがね。それで、お望みは?」


「そうですね。私達を庇護下に入れていただくこと。代わりに私たちの持てる知識と技術を差し出します。」


「それはありがたい申し出ですが……でもなんで?」


ハイエルフたちの持つ知識と技術は、今の村にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。


それだけに、目の前の賢そうなハイエルフが安売りするとも思えない。


「単純話ですわ。私たちはもう……。」


セレーナはそこで一旦言葉を切り、俺の手を握って見つめてくる。


「もう、いやなんですぅ。定住する場もなく、彷徨い続ける生活はぁ。私だって、温かい家でご飯を作って好きな人を出迎える、そんな生活がしたいんですぅ。」


悲痛な叫びが響く。


周りを見ると、同伴していたハイエルフたちが、ウンウンと頷きながら涙ぐんでいた。


話を聞くと、セレーナたちは遥か昔、人族、亜人族、魔人族、妖精族を交えた大戦で、一族がバラバラになって逃げ伸びた部族の一部だそうだ。


他の部族の行方が分からないまま、セレーナは残った一族を率いて彷徨い続け、現在に至るという話だった。


ここ百十数年は、マヴロスの勢力下の森の中である程度落ち着いた生活が出来ていたそうだが、それでも定住というには程遠く、落ち着いて暮らせる場所というのはセレーナを始めとしたハイエルフたちの悲願だという事だった。


「セレーナさん、もう大丈夫ですよ。辛かったですよね。大変でしたよね、これからは私達と一緒に暮らしていきましょう。大丈夫です、村長さんは私の魅力にメロメロですから、私がチョーッとお願いすればチョロいもんですよ。勿論、私の好みからは外れてますから、お付き合いなんて問題外ですけどね……ってあたっ。」


突然飛び出してきて、勝手な事を叫ぶローナの頭を小突く。


「まぁ、なんだ、ローナの戯言は放っておいて、俺たちの村は、君達ハイエルフを歓迎するよ。」


俺は片手を差し出すと、セレーナは少し躊躇った後、堅く握り返してくれた。


「さて、と、じゃぁこの村の事を色々知ってもらうために、案内しよう。キミ達の住む場所も、実際に見て決めてもらえばいい。」


「はいはーい、私が案内するっす。」


ローナが手をあげる。ちょっとウザいが、同族の方が気安く色々訊ねられるだろうと、俺は案内をローナに任せ、アンジェ達と後からついていくことにする。


()()ローナにすべてを任せるなんて怖いこと、出来ないからな。



「ここが畑っすよ。大麦、小麦、じゃガにもろこし、トマやナァスなんかを育ててますよ。ここは土がいいのか、他所より早く収穫が出来るっす。」


「すごく広いのねぇ。この広さだと、人手が足りてないのでは?」


セレーナが事前に得ていた情報では、この村には50人もいないはず。その村人全員でかかっても、この広さの畑を管理するには人手が足りないように思える。


「ここだけの話ですよ……。実はこの畑を管理する存在がいるっす。間違っても敵対してはいけないっす。怒らせてもいけないです。とにかく、敵意を見せずにそぉっとそぉっとやり過ごすのです。」


「管理者?」


「あのあたりをそおっとみてください、そぉっとですよ?」


セレーナたちは、ろーなが指し示す方をそっと見てみる。


「ひぃっ……ムグ……。」


「声を出さないで。大丈夫ですから、敵意をみせなければ安全ですから。」


せレーナがコクコクと頷くのを確認してから、ローナはゆっくり口を塞いでいた手を放す。


「とりあえず、次の場所を案内しますね。」


ローナはそういって、自然にその場から離れる。


「ローナ、あれは……。」


「ただの蜘蛛ですよ?ちょっとだけ賢くて、ちょっとだけ器用なただの蜘蛛さんです。」


「ただのって、あれはイリーガ……ムグっ。」


ローナが再度慌ててせレーナの口を塞ぐ。


「あれは蜘蛛なんです、ただの蜘蛛。蜘蛛は益虫で賢いから畑のお世話を手伝ってくれるんです。村長様がそういってましたから、ただの蜘蛛なんですよ。いいですか、あれはただの蜘蛛。わかりますか?」


ローナの迫力に押されて、せレーナはただ、コクコクと頷く。


解放されて一息ついたところで、前方から誰かがやってくる。


「あ、あれはクリム様ですね。村長様の奥様の一人で二の姫と呼ばれてます。」


「村長の奥様?……なんかすごい魔力を感じるんですけど?それに傍に居る黒い獣は……ヒィッ!」


ローナは三度セレーナの口を塞ぐ。


そうこうしているうちにクリムは目の前までやってきた。


「あら?お客様?」


「はい、私たちのリーダーのセレーナ様っす。」


「あ、今日ついたのね?ん、何か顔色悪そうだけど大丈夫?」


「あ、あはは。私のやらかしたことがバレて少しショックを受けたみたいっす。」


「まぁ、しょうがないわね。しっかりと怒られた?」


「それは、もう……。」


「ふーん。えっと、せレーナさん?」


「ひゃいっぅ。」


「くすっ、そんな緊張しなくてもいいわよ。この子がやらかしたことで今更責めたりしないから。そんなことより、ゆっくりと楽しんでいってね。」


クリムは優しそうな笑顔でせレーナに微笑みかける。


「あ、はい、よろしくお願いします。」


せレーナはそういって頭を下げるが、そこにいた黒い獣と目が合って、再び身体が強張るのを感じた。



「ねぇねぇ、ソーマ、見てよ、クロちゃん凄いんだよ?」


クリムがその獣を抱き上げてソーマに見せる。その口にはその獣の数倍もある魚をしっかりと咥えている。


「おぉ、これはまたデカい獲物だなぁ。」


「でしょぉ。クロちゃん、仕留めたはいいけど一人じゃ運べなくて困ってたみたいなの。」


「この子たちの歓迎会を開こうと思っていたから、ちょうどいいな。フリーシャたちに活け造りにしてもらうか。」


これだけ大きければ、ハイエルフ達に振る舞うのに十分な量があるだろう。あ、でも……。


「そういえば、ハイエルフ達って刺身は食べられるのか?」


「刺身……ですか?」


「あぁ、簡単に言えば生魚の切り身だな。」


「えっと、魚を生で食べる習慣はなくて……。」


「そうか……。美味しいんだけどなぁ。まぁ半分は焼いてもらうか。……クロ、よくやったな。お前の取り分多くするからな。」


俺は目の前の黒猫の喉をなでてやると、ゴロゴロと喉を鳴らし、すり寄ってくる。うん、やっぱり猫は可愛いよなぁ。


少し撫でてやるとクロは満足したのか、俺から離れてどこかへ行ってしまう。


「あ、クロちゃん、新しい獲物を狩りに行ったみたいだから、私も行ってくるね。」


「あぁ、気を付けてな。」


俺は手を振ってクリムを見送る。


姿が見えなくなったところで、せレーナが聞いてくる。


「あの、村長様、今の黒い……。」


「あ、クロか?可愛いだろ?もともと捨て猫だったらしくて、山に居たのを見つけてな。うちに連れて帰ってきたんだ。」


「えっと、あれはイリーガ……。」


「セレーナさん、こっちですぅ。こっちがお風呂なんですよ。24時間入りたい放題。すごいですよね、入ってみましょ言う、ネッ。」


何か言いかけていたセレーナを遮るように、ローナが腕を引っ張って露天風呂へと連れていく。


露天風呂とはいっても、しっかりと周りを囲ってあるので覗けない。しかも、クリム監修のもと、様々なトラップが仕掛けてあるため、覗き対策は万全なのだ。


「というわけで、私は今からみんなとお風呂に行きますので、村長さんはここまでですよ。確かに私のせくしぃなぼでーを見たいという気はわかりますが、そこはやはりイケメンに限るということで、でもでも、どうしてもっていうなら、今度二人っきりの時に金貨20枚で……あ、やっぱり今のなしです、金貨20枚じゃもったいないので。村長さんは、セレーナさんのだいなまいとばでーを想像して一人で悶々としていてください。でも、そういう人とのお付き合いは考えさせてください、ということでゴメンナサイ。」


ローナはいつものごとく、言いたい放題捲くし立てた後、頭を下げて、ハイエルフ達とともに浴場へと言ってしまった。


……とりあえず歓迎会の準備でもするか。……でも、マジにデカいよな、これ。


俺はクロが置いて行った魚を担ぎ上げて屋敷へと戻ることにした。


ちなみにその魚の体長は3~4mはある。抱え上げてみるとかなり重い……40~50kgはあるんじゃないだろうか?


「こんなもの、よく咥えていたよなアイツ。」


さすがは異世界の猫。樹家具がイだな、と妙なところで感心するのだった。



「ちょっと、ローナ。アレはいったい何なのよ。」


湯船に浸かって一息ついたところで、セレーナはローナに詰問する。


「クロちゃんのことですか?アレはネコですよ、ただのネコ。間違っても『イリーガル・ヘルキャット』なんて呼んじゃダメです。」


いやいやいや……とその場にいたハイエルフ達が首を振る。


「ソーマ様とクリム様がネコと言ったらネコなんです。後、果樹園の方にちょっと大きなミツバチがいますが、それもただのミツバチですからね、間違っても『イリーガル・デスクインビー』なんて呼んじゃだめですよ。」


ローナの言葉にハイエルフ達の顔が蒼白になる。一部の者は、とんでもないところに来てしまったのでは?と天を仰いで嘆いていた。


「あ、せネーナ様。」


ふと思い出したかのようにハイエルフの一人が言う。


「なぁに?」


「村長様、さっきのアレ、歓迎会の料理に……っておっしゃってましたよね?私たち、あの『グレート・デスモスフィッシャー』を食べさせられるのでしょうか?」


グレート・デスモスフィッシャーは、この辺り一帯の渓流に生息する危険なモンスターだ。山の中を流れている渓流にも時々現れるので、水を確保する際は常に護衛数人を連れて行かなければならないほど危険なモンスターだ。


実際、過去にあの魚に襲われて命を落とした同胞もいるのだが、まさか、捕食される側から捕食する側に回ることがあろうとは夢にも思わなかった。


「出されたものはすべて食す。これが礼儀よ。私たちはこれからここで暮らしていくのだから。」


そう、たとえ、周りに住む人々が、どれだけ規格外だとしても、常識から外れているとしても、ここが安住の地になることは間違いないのだ。


そう、「出会ったら人生を諦めろ」といわれている「イリーガル種」のモンスターが多数生息する場だとしても、あの村長様のもとで統制が取れているのであれば何の危険もない……はず。


「ねぇ、ローナ。」


「なんですか?」


「私、生れてはじめて、あんたを凄いと思ったわ。」


セレーナにそう言われて、ローナは顔を赤く染める。


「慣れですよ慣れ。セレーナさんたちも一月もすれば慣れますって。あ、ただ、村長様に手を出す前に奥様方の許可を取るようにした方がいいですよ。村長様は受け入れてくれると思いますが、ここで一番怖いのはイリーガル種じゃなく、アンジェ様とクリム様ですので。」


ローナはそういって、この村で暮らすにあたって地雷になりそうなことを色々と注意していく。


ソーマから見たローナは、少し小生意気でちゃっかりした残念娘というイメージだが、実は意外と出来る娘なのだった。

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