暗黒龍の狩場 2
「それで、いきなり訪ねて来て、何かあったのかマヴロス?」
「いや、何かあったというか……、おぉ、待っておったぞマリーナよ。」
「はーい、マーさんお待たせですぅ。」
丁度そこに、お代りの酒の樽を運んできたマリーナが戻ってきたので、会話が途切れる。
こうなってしまっては、しばらくは話が進まない。仕方がないので、俺もしばらくの間、酒と料理を楽しむことにする。
俺の両脇にはリズとクリムが挟み込むように座り、お酌をしたり、料理を取ってくれたりなどかいがいしく世話を焼いてくれる。
アンジェは、背後から俺に抱き着くようにして、その胸の柔らかなものを後頭部に押し付けながら、料理をつまみ食いしている。
そしてカミーラは、そんな輪の中に入り損ねた、という顔で、少し離れた場所で、ちらちらとこっちを見ながら、入り込む隙を伺っていた……まぁ、いつもの光景ではある。
マヴロズを始めて迎え入れた時も、概ねこんな感じだった。
あの戦いの後、そのまま戦いを続ける気が削がれたため、手打ちにしようと、歓迎と話し合いの場を設けるために、この集落へマヴロスを招き入れたのだ。
勿論、完全に打ち解けたわけでもなく、お互いに警戒心マックスで話し合いを始めたのだが、そのような状況では、中々話がまとまる筈もなかった。
そこで、一息入れようと、酒と料理を運ばせていた時、不意にマリーナがマヴロスに向けて言ったのだ、「弱い者イジメ、かっこ悪い。」と。
酒を注いだマリーナに、マヴロスが「お前は、ドラゴン族をどう思う?」と声をかけたのに対しての答えだったのだが、これに関してはさすがに肝を冷やしたよ。
怒って暴れるマヴロスから皆を護るために、アンジェとクリムに結界を張るように指示したのだが、以外にもマヴロスは怒りもせずに、大笑いをしたのだ。
「弱い者イジメか……これは一本取られたなぁ。」
そう言いながら笑い続けるマヴロス。結局、そのまま宴会に突入し、最初の緊張感はどこに行ったのか、終始、マヴロスは上機嫌で、笑い声に包まれた宴会となった。
そして、翌朝、マヴロスが帰る頃には、この集落はマヴロスの庇護下にあり、何かあれば助けを出してくれること。代わりに3か月に1回、酒樽を2樽と山羊を一頭、貢物として収めるという事で話がついたのだ。
ついたはずなのだが……、なぜかその後も、こうしてしょっちゅう遊びに来るようになった。
まぁ、暇なんだろうな。一応来る時は手土産に、金貨や宝物など適当に持ってきてくれるからいいんだけどさ。
マヴロスがここに来る理由の半分は、ここの料理と酒、残りの半分はマリーナとの会話、そしてほんの少し情報交換と言ったところらしい……って、ここキャバクラじゃねぇぞ?……ないよな?
マリーナの行動を見ていると、少し自信がなくなる。
そして、そのことをボソッと漏らしたら、フリーシャに鏡を渡された。
そこには、クリム達を傍に侍らせた俺の姿が映っていた……。
うん、まぁ、マヴロスは太い客という事で……ドンペリ入りまーす。
……そして、夜も更けて、マヴロスが帰り際に漏らした一言。
「最近魔属領が騒がしい。ここまで影響があるかもしれないな。」
と……。いや、そういう事は早く言ってよね。
◇
「主様、自業自得という言葉を知っていますか?」
そう言いながらフリーシャは俺の首に『自業自得の像』と書かれたプレートをぶら提げる。
俺の首から下は完全に凍り付いていて身動きが出来ない。辛うじて目が見えて口が利ける……今の俺はそんな状態だ。
「クリム様の命で、朝までこのままですよ。」
フリーシャはそう言って、俺の頬に軽く口をつけて逃げるようにして去っていった。
今の頬へのキスは、フリーシャなりのお詫びの印らしい。
事の起こりは、フリーシャの御機嫌が斜めだったことだ。
どうやらカインと喧嘩をしたらしい。喧嘩の理由は聞いていないが、どうせカインの意味のない嫉妬か、小さなプライドが傷ついたか、そんなところだろう。
だけど、フリーシャにはかなり堪えている様で、一見何でもない風を装いながらも、落ち込んでいる姿を隠しきれないまま掃除をしていた。
だから俺は気分を変えるためにフリーシャに命じたのだ、『着替えてこい』と。
この館のメイドたちの服装は、クリムがデザインし、自ら造り上げたメイド服を採用している。
クリムには、前世において、コスプレの趣味があり、服を自作していたという前歴があるそうで、その趣味を生かして、こっちの世界でも色々な服を作っていた。メイド服はそのうちの一つである。
そして、メイド服を着たフリーシャたちの姿を見て、何かに火がついたのか、様々な趣味に走った衣装を、暇に任せて作り、それがクリムの衣裳部屋と呼ばれる一室に山となっている。
そんなクリムの目下の悩みは、自由に着ていいと言っているのに、誰一人として、自ら着替えようとしない事で、仕方がないので、クリムは時々メイドをその部屋に呼んでは、着せ替え人形にして楽しんでいるとの事だった。
だから俺は、フリーシャに、そのクリムコレクションの中から「掃除するのに相応しくない服に着替えてこい」と命じたのだ。
そしてフリーシャが選んだのはチューブトップのゴスロリドレスだった。
エレガントさと可愛らしさを強調しつつ、鎖骨と胸元を大きく曝け出すという、露出の高さを備えた、可愛らしさとセクシーさの非常に絶妙なバランスで成り立っているドレスだった。
というか、フリーシャが着ると、そのドレス……、特にその胸元は非常に危険な凶器となる。
その姿で掃除をしていると、零れ落ちそうなのだ……うん、目が離せない。
フリーシャは、あぁ見えて、非常に貞操観念が高いため、冗談でも俺の御誘いに乗ることはない。ただ、俺のいう事にはどんなことでも従うと決めている様で、胸を触っても拒むことはない。
ただ、触られることに対する拒否感は強い……というかカインに悪いと思っているらしく、その苦渋に満ちた表情が何とも言えない嗜虐心をそそるのだ。
その為、一歩間違えば、マジに犯したくなってしまうため、普段は自嘲しているのだが、流石に今の格好は、非常によろしくない。
気づけば手が伸びていた……いや、こぼれそうだったから抑えようとしただけで他意はないんだよ?
ただ、一度手を伸ばすと、何故か話すことが出来なくなっただけで……いや、フリーシャさん、そんな声出されたら、ますます手が……離れないですよ。
と言うか動けなくなります……これはきっと何かの罠に違いない。
「アッ、ンッ……。ダメです、先を弄らないで……。」
だから、そんな声出したら……。って、あれ?ほんとに体が動かないぞ?
「ソーーマぁ?何してるのかなぁ?」
背後から冷たい声が響く。
気づけば、フリーシャはいつの間にか俺との距離を取り、離れた場所で立っている。
「おイタしたらメッて言ったよねぇ?」
「いや、これはですねぇ。」
「ねぇ、ソーマ。私ね、最近呪術も勉強してるの。」
突然話題を変えるクリムだが、俺は経験上知っている、この流れは非常にまずいと。
「その中でね、面白いもの見つけたの、なんだか聞きたい?」
「あー、いや、聞きたくない……かな?」
「遠慮しなくてもいいよぉ。教えてアゲル。その呪いはねぇ、どれだけ欲情しても、アソコガ立たなくなるって言う呪いなのよ。性欲が無くなるわけでもないし、普段と同じように興奮するんだけど、たたないから発散できないって言う呪いなの、面白そうでしょ?」
何その呪い、怖すぎるわっ!
「私が悪かったです。勘弁してください。」
ホントは土下座したい気分だったが、首から下が全く動かないのでどうしようもない。出来ることは真摯に語りかける事のみだった。
「いや、フリーシャが落ち込んでいたから、少しでも元気になってもらいたくてな?」
「それで手を出した?」
「いや、手を出したわけじゃなく、あまりにもエロいのでつい……。」
「有罪!一晩冷やしてなさい。」
そう言って俺を氷漬けにしたまま出て行くクリム。
……普通は頭を冷やせっていう所だと思うんだけどなぁ。これじゃぁ頭以外が冷えるんですけど?
俺の声にならない反論がクリムの耳に届くことはなかった。
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