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暗黒龍の狩場

「あの……片づけてもよろしいでしょうか?」


メイド服を着た少女……フリーシャがティーカップを下げに来た。


彼女は……というか、あの西の村で助けた(拉致した)少女たちは、この集落の俺の館でメイドとして働いている。


残念ながら、手は出していない……というか出せない。


彼女と一緒に逃げてきたカインという男がいるということもあるのだが、それ以前にメイドさんに手を出すと、クリムに殺されるのだ。


いや、マジで。比喩表現でもなんでもなく、そのままの意味でね。


ここは館というほど大きな建物ではないが、一応、一回には来客を迎えるためのかなり広い応接室のほか、ここみたいにプライベートでくつろぐティーサロンと食堂や風呂場などの水回り、そしてメイドたちの個室などがあり、2階は俺やクリム、アンジェたちの私室がある。勿論、ハーレム要員が増えてもいい様に空き部屋には余裕がある。


日本で言えば豪邸の部類に入るのだろうが、こっちの世界基準では、少し裕福な商人の屋敷にも及ばず、貴族基準で言えば、離れのそのまた離れより小さい。ちなみに、リズが以前私室として与えられていた離宮の1/10以下の大きさなんだとか。……って言うか、貴族どんだけだよ。そりゃぁ数多くのメイドさんが必要になるわけだ。


で、なんで俺がこんな屋敷に住んでいるかというと、一応村長というか、この集落……村の代表だからだ。


西の村から逃げ出した後、俺たちは南下してメルクリア王国の国境を目指した。


俺達が逃げ出した後ほどなくして、ミストラル帝国がメルクリア王国に対し宣戦布告した。


名目としては、「王家簒奪を許すわけにはいかない、我らが正しき道を教えよう」という、勝手極まりないものではあったが、一応筋は通っている。


というより、反乱を起こした時に、王族を一人も確保できていない時点で、他国の干渉を受けるのは避けられない事だった。だからこそ、クーデター軍は、やっきになって王族を探していたのだが、今のところ、すべて後手に回っている。


俺達は、移動している途中、いくつかの村に立ち寄ることがあり、その都度、ささやかなトラブルに巻き込まれ、その結果、数人の村人たちが俺達と行動を共にすることになり……。


この場所に辿り着いた時には50人足らずの大所帯となっていたのだ。



メルクリア王国の南端、国境を越えた先には、それなりに肥沃な平野が広がっている。


近くには自然の恵みが豊富の森があり、水源となる川も清らかな水を湛えている。


耕せば畑も出来、食料となる獲物にも事欠かないこの場所が、何故手付かずなのか?


それは、ここが黒龍の狩場と呼ばれる、暗黒龍マヴロスの縄張りだったからだ。


暗黒龍の縄張りを荒らしたものは、暗黒龍によって滅ぼされる……事実、何代か前の国王がこの肥沃な土地に目を付け、開拓しようとしたことがあった。


その結果、開拓民は護衛の兵士共々蹂躙され、開拓した土地や建物はブレスによって跡形もなく焼き尽された。


それ以後、この土地に手を出そうと思うものはいなくなり現在に至る。


ちなみに、森を抜けた先の山を越えたところが、俺達が助けた獣人の村だったりする。つまりは、ぐるっと一周してきたことになるのを知った時、俺とアンジェ、クリムは互いに顔を見合わせて苦笑したものだ。


なお、リズと会った場所は、ここから北東に向かって馬車で10日ほど走った場所にあり、さらに東に向かっていった先がベスパの街である。


そのことから、俺達が当初どれだけ彷徨っていたのかがわかるというものなのだが、実は、ここからベスパの街までの間に、大きな街が1つと小さな町が4つ、そして小さな村が5つほど存在している。一番近い町は馬車で1日、村であれば馬車で2刻ほど走った場所にある。


それを知った時、クリムは、当初から付き合いのあった馬の首を絞めようとしたので、俺とアンジェが慌てて止めに入った……まぁ、気持ちはわかるけどな。


そんな場所ではあるが、当然暗黒龍の縄張りに村を作って何事も起きないわけがなく、俺たちはマヴロスと対峙することになり、色々あって、無事に村を作ることが出来た、というわけだ。



「あー、ついでにお湯を持ってきてくれるか?」


俺はティセットを片付けているフリーシャに声をかける。


「お湯ですか?……ってまた凍らされたのですか?」


なぜか蔑んだような目で俺を見るフリーシャ。


「なんか誤解があるようだが、俺は何もしてないぞ?」


「そうですか?マリーナが『ソーマ様に呼ばれているの』ってウキウキしておめかししてましたよ?」


「クッ……それって、まさかと思うけど、クリムは知ってるのか?」


「えぇ、カエラがわざわざ告げ口に行きましたから。」


「……あいつ、ろくでもない事ばかりしやがるな。今夜はさらにペナルティだな。」


どんなお仕置きにしようかと考えているとフリーシャが声をかけてくる。


「あの、おそらくですが、カエラはそれを狙っていると思われます。」


「マジか……やり過ぎたか?」


カエラたち護衛三人衆は、例の事件からしばらくの間、アンジェ指導の下、サキュバスやヴァンパイアたちにお仕置きをさせていた。


その甲斐あってか、かなり従順になったものの、たまにとんでもないことをしでかすので、その都度お仕置きのハードルを上げていたのだが、まさか、お仕置きされたいがために、しでかしているとは……。


「まぁ、カエラの事はどうでもいい。マリーナを呼んだのは今日来客があるからだ。その客がマリーナの事を気に入ってるようだから、接待させるために呼んだんだよ。」


「そうですか……って来客ですかっ!聞いてませんよっ。」


「俺も聞いたのが昨日の晩だったからな。そのあとリズとクリムに拉致られたので……文句はあの二人に言ってくれ。」


「言えるわけないじゃないですかっ。ほんとに、もぅ……。」


フリーシャは来客を迎える準備のために、慌てて部屋を出て行く。


「おーい、お湯のこと忘れてない……よなぁ?」


俺は彼女が消えたドアに向かって声をかけるが、何の反応もなかった。



「ヤダぁ、もうっ!マーさんたらぁ、口が上手いんだからっ。」


隣に座る男性をべしべしと叩くマリーナ。


ちょっとした話にも反応してくれて、ころころと笑う、笑顔が可愛いうちのメイドだ。


ただ、誰彼構わず思ったことをそのまま口にするため、時には失礼に当たることもあって、貴族や上位の者の前には下手に出せない……まぁ、裏表のない素直な娘なんだけどね。


実は、マリーナの隣に座っている男性……今日の来客者なのだが、初めて会った時に、マリーナはやらかしていた。


その時は、まだ半分敵対関係に近い状況だったので、俺は完全に敵に回したと覚悟したのだが、目の前にいる()()は、その物おじしない性格と裏表のない、素直に思ったことを口にするマリーナの性格がいたくお気に召したらしく、その後の話し合いはスムーズに行われ、それ以後、こうしてちょくちょくと遊びに来るようになった。



「いやいや、お主の所の主に比べたら、我の所業など可愛いものだろ?」


「えー、それを私に言わせるんですかぁ?マーさん意地悪ぅ。」


……どうでもいいけど、人をネタにするなよ。って言うか、マリーナ、ソレ俺の所業が酷いって言ってるのと同意だからな。


「あれ?もうお酒無くなっちゃった。ちょっととってきますね。」


空になった樽を見て、マリーナが席を立つ。


マリーナがいなくなったところで、俺はその来客に声をかける。


「楽しそうで何よりだ。」


「なんだ、焼きもちか?」


「違うからっ。頼むからこの場でそんな恐ろしいこと口にせんでくれ。」


俺は慌てて否定する。そんな根も葉もないこと言うなよ、ほら、すでに室内の温度が下がってるじゃないか。


「はははっ。お主たちは見ててあきないのぅ。」


「そんな事より、急な来訪だけど、何かあったのか、マヴロス?」


そう、この目の前にいるイケメンは、彼の暗黒龍マヴロスが人化した姿だった。


この地に拠点を作ると定めた以上、マヴロスとの対決は避けられない事であり、かと言って、若い龍(ヤング)ならともかくとして、神代級の伝説龍(レジェンドドラゴン)にまともに戦いを挑んでも勝てる筈もなく、結局、俺は話し合いでの解決を試みたのだ。


そう、俺は話し合いに言ったのだ……。



「ふざけないでよっ、このオオトカゲっ!」


クリムが今使える最大級の氷魔法『永久凍土(コキュートス)』がマヴロスに向かって放たれる。


氷系の最上位魔法に位置するその魔法、初級しか使えないはずのクリムがなぜ使えるのか?


クリムが言うには、俺を凍らせているうちに、いつの間にか覚えた、との事。


アンジェが言うには、クリムの魔力量とその資質は、歴代魔王の中でも頭一つ飛び抜けていると言われる、今代の魔王に匹敵するものがあるらしい。


そして、クリムが初級魔法以外使わないのは「使えない」のではなく「知らない」だけだという。


だから、どこかで覚える機会があれば、それこそ禁呪だって使いこなせるだろうとの事。


……うん、出来るだけ、クリムには危険な魔導書とか近づけないようにしよう。主に俺の安全のために。


とにかく、クリムの魔法は、充分にマヴロスと渡り合えるだけの威力がある。だけど、俺たち話し合いに来たんだよな?


「ふっ、笑止!お主らの力を見せて見よ。話はそれからだ。」


「なに余所見してんのよっ!泣いてソーマに謝るまで許さないんだからねっ!」


マヴロスが俺に話しかけたことにより、それまで均衡を保っていた氷とブレスのぶつかり合いは、ややクリムが優勢になる。


それを見て慌ててブレスを強化するマヴロス。


一見互角ではあるが、このまま続けたら、体力に難のあるクリムが押し切られることは間違いない。


マヴロスは、それがわかっている故に余裕を見せている。


「これって、強制戦闘イベントか?」


「残念だけどね。元々、竜種って言うのは個体差はあれど戦闘種(バトルジャンキー)だから、戦いを通じて認めた相手以外とは会話が成立しないのよ。」


俺の問いかけにアンジェがそう教えてくれる。


「だったらやるしかないかぁ。」


クリムがマヴロスを押さえている間に、俺とアンジェがドレインを敢行する、


ドラゴン相手にドレインは効かないかとも思ったが、流石にクリムを押さえながら完全に抵抗するのは難しいらしく、わずかではあったが、マナと生体エネルギーを吸い取ることに成功する。


それからは、とにかく耐久勝負だった。


クリムが魔法を放ち続け、俺とアンジェがドレインして、クリムにマナを譲渡する。


たまに俺が急所を狙って突き刺したり切りつけたりもするが、これはあまり効果はなかった。


俺やアンジェの動きがウザいのか、マヴロスは追い払おうとするが、少しでも隙を見せれば、クリムの魔力に押されるために、ブレスの手を緩めることが出来ない。


お互いに決め手に欠けたまま、戦闘は三日にわたり続いた。


まぁ、その間、色々あった。


流石に三日間何も食べないでいるということは出来ないので、戦闘途中に抜け出して獲物を狩りに行ったり、曽於課程で、色々な魔物の特技を覚えて、それをマヴロスを練習台にして色々試したり、魔法を放ち続けているクリムの為に、口移しで食べさせてやったり、などなど……。


長きにわたる戦いに終止符を打つきっかけとなったのは、サキュバスたちが来たことだった。


彼女たちは援軍ではない。マヴロスは最初そうは思わなかったようだが。


彼女たちは単純にお腹が空いたので、俺の精気をもらいに来ただけだった。


「主様ぁ。もう耐えられませんのぉ。」


「主様ぁ。なんで私達をたちを放置するんですかぁ。」


「放置プレイ……新たな道に目覚めそうですわ。」


サキュバスたちに囲まれ、精を貪り尽くされる俺。


その様子を見て、マヴロスとクリムは同時に怒りを俺に向ける。


「この浮気者ぉっ!」


「神聖な戦いの最中に、女子とイチャつくとは、許せぬっ!」


クリムの魔法とマヴロスのブレスが俺に向かって放たれる。


俺の傍にいたサキュバスたちは、アンジェのとっさの機転により、難を逃れるが、まともに食らった俺の身体は、一瞬にして凍り付き、ブレスによって粉々にされた。


俺の身体が再生して意識を取り戻したのは、それから二日後の事だった……。

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