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小さな村の……11 拉致・略奪

「これが、最後通牒よ。敵は帝国兵。もうすぐそこまで来てるわ。逃げるの?逃げないの?」


「ヌゥ、そなた等がなんとかするのではなかったのか?」


「そんな事して、なんの得があるのよ?元々逃げなさいって最初から警告してたでしょ?それを拒否したのはあなた方。それでもギリギリまで時間を稼いでいる主様に感謝こそすれ、批判される筋合いはないわよ。」


この期に及んで、まだ文句を言う村人達に、カミーラはかなり苛立っていた。


「おい、どうする?」


「このままじゃヤバいぞ。」


「でも逃げるって言ったって……。」


不安を口にするだけで、全く生産性のない会話を聞きながら、カミーラは村長の返事を待つが、その時間も無駄に終わりそうだと、見切りをつけかけたとき、村人たちの雰囲気が変わる。


「そうだ、コイツを人質にすれば……。」


「あぁ、これだけ極上の娘を差し出せば、見逃してくれるかもしれん。」


「確かに。他にもいたよな。人質は多い方がいい。」


村人たちの目の色が変わり、カミーラを捕らえようと、ジリジリと寄ってくる。


「動くな!痴れ者共がっ。」


カミーラはそれを一喝する。少し威圧を放つだけで、村人たちは動きを止める。


「人間如きが我を捕まえられると本気で思っておるのか?」


こんな雑魚に魔眼を使うまでもない、と侮蔑のこもった目で村人たちを見る。


「カミーラ様、ターゲットを確保しました。……あら?この方たちは?」


報告に来たヴァンパイアの娘が、固まっている村人を見て首をかしげる。


「ほっといていいわよ。私たちを捕まえて、あの兵隊たちに差して助命を願うんだって。」


「……バカなんですか?そんなことで本当に助かると思ってるんですかねぇ。そもそも、前提条件が間違ってますし。」


カミーラの言葉を聞いて呆れた声を出すヴァンパイア娘。


「賢かったら現在ここにいないと思うわよ?そんなことより時間が惜しいわ。ターゲットのもとに案内してちょうだい。」


「はい、こちらですよ。」


ヴァンパイア娘は、カミーラを先導しながら、疑問に思ったことを口にする。


「でも、主様は何で、あんなバカどものために戦っているんですかねぇ?」


「ん-、そこが主様の優しさというものじゃないかしら。そのおかげで私たちが今こうして無事でいることを忘れないでね。」


あの場にいた者たちで、そのことを理解していない者はいないと思うが、カミーラは一応念を押しておく。


「わかってますよぉ。普通に考えれば、あの時点で私たちを滅ぼした方が、後腐れなくて済んだはずですもんね。」


「そういうこと。なのに私達がこうして生きていられるのは、主様の性格によるものだってアンジェが言ってたわ。」


「そうなんですねぇ。ところで、カミーラ様。私常々思うのですが、主様やクリム様って本当に人間族ですか?」


「それねー。私も疑問に思っているのよ。何でも、女神さまに力を与えられたらしいんだけどねぇ。詳しいことは落ち着いたら話してくれるそうよ。」


カミーラが知っているのは、アンジェから聞いた断片的な情報でしかない。落ち着いたら説明してくれることになっているのだが、この村に関するトラブルのせいで、そんな暇がなくなってしまっているのも、カミーラが面白くないと思っている理由の一つだった。


「そうなんですねぇ。とにかく今は与えられたお仕事を……。あ、あそこです。あそこの小屋に閉じ込めています。」


カミーラはヴァンパイア娘に従って、小屋の中に入ると、そこには、ソーマに言われていた4人の娘となぜか男が2人縛られて転がっていた。


「えっとこれは?食料……じゃないわよね?」


カミーラの言葉に、男二人の身体が強張る。


「カミーラさん。なんでこんなところに閉じ込めるんですか?」


カミーラの姿を認めたフリーシャが一歩前に出て抗議の声を上げる。


「えっとね、時間がないから簡単に説明するわね。帝国の兵士がもうすぐ、この村にやってくるわ。あなたたち5人は、その前に私達と一緒に移動するのよ。そのためにここに集まってもらったの。」


「っ……、わ、私は逃げませんって言ったじゃないですか。」


帝国の兵士と聞いて、女の子たちの身体が強張るが、それでも、フリーシャは声を絞り出してそういった。


「わかってないわね。もうあなたの意志は関係ないのよ。主様があなた達を必要としたから連れてく。ただそれだけよ。」


「ふ、ふざけるなっ!フリーシャは連れて行かせないぞっ。彼女は俺が守るっ。」


転がっていた男がそう言い放つが、カミーラは冷めた目で見降ろしながら告げる。


「そんな様で守るって?どの口が言うのかしら?どうせこのままここにいても、帝国兵にさんざん凌辱された挙句、奴隷として売られていくんだから同じことでしょ?主様なら優しく可愛がってもらえる分待遇はいいはずよ?」


そういいながら男をけり転がす。


「カミーラさん、やめてくださいっ。カインは私のためを思って……。」


男を庇うフリーシャ。だけど、そんな彼女にカミーラはさらに追い打ちをかけるように言う。


「さっきも言ったけど、あなた達にはすでに選択権がないのよ。その男は、本当にあなたを守る気があるなら、主様が来た時に、真っ先に連れて逃げるべきだったのよ。だけどそうしなかったどころか、今になってもここでグズグズしている……。今のあなたが選べるのは、自らの意志で大人しく私達と一緒に来るか、強制的に拉致されるかのどちらかだけよ。どっちがいい?」


「……カインは、アベルは……どうなるんですか?」


カインはさっきカミーラに文句を言った男で、アベルはもう一人の男の名前で、様子を見たかぎり、カインはフリーシャの恋人で、アベルはフリーシャの後ろにいる薄青い髪の女の子の恋人らしい。


「どうもしないわよ。拘束は解いてあげるから好きにすればいいわ。もっとも、明日の朝には帝国兵に嬲り殺されているかもしれないけどね。」


「クッ……その前に、フリーシャを、ミランダを連れて逃げるさ。」


カインが忌々しげに言う。


「はぁ、その言葉はもっと早くに聞きたかったんだけどね。後、連れて逃げるのはその二人だけなの?」


カミーラがそういうと、カインとアベルは気まずそうに視線を背ける。


他の女の子たちは、心なしか怒っているみたいだったが、それも無理はないだろう。


「主様みたいに5人一度に助けるって言えないのかなぁ?それよりカミーラ様、そろそろ時間がありませrんよ?」


横からヴァンパイア娘が口をはさんでくる。


「ン、わかってる。もう一つのお仕事の方はどう?」


「はい、アンジェ様たちが手伝ってくれたので、すでに完了してますよ。」


「アンジェが来てるの?主様の方はどうなってるの?」


「あんまり芳しくないようで、急いで撤退するように言ってます。アンジェ様がおこですよ。とっても怖いです。」


「それは急がないと……というわけで、お別れは済んだ?もう行くよ。」


「待ってください……カインとアベルを……連れていけませんか?」


カミーラが、運びやすくするため、娘たちを眠らせようとしたところで、フリーシャがそう言いだす。


「……んっと、時間がないんだけど……とりあえずそっちの娘を運んで。それからアンジェに言って二人応援よこすように言って。」


カミーラはヴァンパイア娘にそう指示を出してからフリーシャに向き直る。


「あのね、別に理解しなくてもいいけど、あなたたちを連れて行くのは主様……ソーマ様の純然たる好意なのよ。まぁ、状況が状況なだけに一方的で強制的になっているんだけどね。それでもソーマ様の好意には違いなく、安全なところに着いた後は、あなたたちの自由意思に判断を任せると思うのよ。本当は村人全員を助けたいと思ってるはず。だから今も無理して戦ってるのよ……何の縁もゆかりもない村のためにね。だけど現実は厳しいの。あなたたち5人なのは、安全に連れていける限界だから。そこに足手まとい二人を連れていけると思う?」


「だ、だったら……私はここから動きません。」


そういって、その場に座りこみ、柱に手を回してしがみつくフリーシャ。


「わ、私も……。アベルがいないなら、死んでも変わりはないわ。」


ミランダと呼ばれた少女も、フリーシャの隣で座り込み、フリーシャの腕をギュッとつかむ。


「フリーシャ……。」


「ミランダ……。」


カインとアベルは、感極まったのか、言葉を亡くし彼女たちを見つめる。


「はぁ。あなたたちの意志は関係ないって言ったじゃない。わからないかなぁ?」


カミーラが瞳に力を入れてフリーシャたちを見つめる。


フリーシャは負けずにカミーラをにらみつけるが、それがいけなかった。


視線が合った途端、フリーシャの身体から力が抜けていく。


「あれ……なん……で……。」


その場にクタァっと崩れ落ちるフリーシャをカミーラは抱き起す。


「カミーラ、まだグズグズしてるの?」


そこにアンジェが入ってくる。


「アンジェ。私が悪いんじゃないわよ。この子の聞き分けがよくなくて……。」


カミーラはアンジェに一連の流れを説明する。


「そういうことね。……いいわ。この男たちも連れて行ってあげる。」


アンジェがそういうと、フリーシャとミランダの瞳が期待で輝く。


「アンジェ、いいの?」


「ここでグズグズしているぐらいなら、さっさと連れて行った方がいいわ。……あなたたち、この男たちを運んで。」


アンジェは一緒に来たサキュバスとヴァンパイアの娘に指示して男二人を運び出す。


「カミーラはその娘をお願いね。」


アンジェは、カミーラからフリーシャを受け取り、ミランダをカミーラに任せる。


「あの……アンジェ様、ありがとうございます。」


「ありがとうございます。」


フリーシャが、自分を抱きかかえたアンジェに礼を述べると、遅れてミランダもお礼の言葉を口にする。


「お礼を言われる筋合いはないわよ。むしろ、恨まれるかも?」


アンジェはフリーシャを抱きかかえたまま空を飛びながらそう答える。


すぐ横には同じようにミランダを抱えたカミーラが並んで飛んでいる。


「どういう事でしょうか?」


フリーシャは、アンジェの不穏な言葉に不安を感じてそう訊ねてみた。


「カミーラが色々バラしたでしょ?その中で言ってなかった?あなたたちが限界だって。」


「あー、そのことはソーマ様には内緒でお願いします。」


カミーラがしきりにアンジェに頭を下げる。そのたびに揺れるので、ミランダは怖くなって思いっきりカミーラにしがみつく。


そんなカミーラたちを無視してアンジェは言葉をつづけた。


「限界を超えて二人追加したことで、予定は大幅に狂い、計画に支障をきたすことになる。それらの修復のために負担はかなり大きくなる。……あなたは、そんなソーマに対して何を返すことが出来るの?どうせソーマは笑って許すでしょうね。自分に負担がかかることなど大したことじゃないって言ってね。だけど、クリムは……そして私は、そのまま見過ごすことは出来ないし、しないわよ。あなたたち二人には、自分の命とあの男の命、二人分の命に値するだけの代価を払ってもらうわ。」


アンジェのあまりにも厳しく重い言葉に、フリーシャとミランダは息をのむ。


「で、でも、そっちが勝手に……。」


それでもミランダは、何とか反論しようと試みるが、カミーラによって遮られる。


「そうよ。あなた達を助けるのはソーマ様が勝手に、強制的に決めたこと。だからあなた達は助けてもらったことにお礼を言うのも文句を言うのも自由よ。だけど、あの男二人に対しては違うでしょ?あなたたちが望んだことよ?……何なら、今からでも捨ててくるけど、どうする?」


そういわれてしまうと、ミランダにも、フリーシャにも返す言葉がない。カインとアベルを助けてほしいと願ったのは、確かに二人の意志だったのだから。


「……まぁ、そのあたりのことは、落ち着いてから改めて相談しましょ。それより、想定より少し遅れてるわ。スピードを上げるわよ。」


「了解。……しっかりつかまっててね。」


アンジェにカミーラが応え、二人の魔族はかなりの速度で、空を駆け抜けていく。


フリーシャとミランダは、落ちないようにしがみ付きながら、これからどうなるのだろうか?と、不安だらけの未来に想いを馳せるのだった。



「クリム、アンジェから連絡が入った。撤退するぞ。」


「うん、わかった。」


傍に控えていたヴァンパイア娘が、クリムを抱えて空へ舞い上がる。


「じゃぁ、最後の目くらまし、いっくよぉっ……シャイニーレイン!」


辺り一面が光輝き、光の矢が、帝国兵に向かって降り注ぐ。


「おー、派手だなぁ。って言うか、魔力は大丈夫なのか?」


俺も、同じようにヴァンパイア娘に抱えられてクリム達の横に並んで飛んでいる。


「んー、少しヤバいかも。でも倒れるほどじゃないから大丈夫。」


「そうか、まぁ、後は合流して休むだけだからな。今回はクリムのお陰で助かったよ。」


「ん、くるしゅない、もっと褒めていいぞよ。……ってか、何でそんな恰好なの?」


「クリム様、申し訳ありません。主様が抱き抱えられるのは嫌だと申されておりまして。」


俺が答える前に、ヴァンパイア娘がクリムの質問に答える。


クリムが何を言いたいかというと、ヴァンパイアたちに運ばれる際の体勢についてだった。


クリムは素直に抱き抱えられている……いわゆるお姫様抱っこという状態だ。ヴァンパイアたちに言わせれば、この態勢が一番楽なのだとか。


しかし、男として、女の子にお姫様抱っこされるのは如何なものだろうか?


俺のちっぽけで、ぺらっぺらのプライドがお姫様抱っこを許容せず、悩んだ挙句、正面から抱き合う体勢で運んでもらっているのだ。


流石にこの態勢はヴァンパイア娘も恥ずかしいのか、ずっと顔が赤いままだ。だけど、その恥ずかしがっている顔がまた可愛くて、思わず意地悪をしたくなってしまう。


「ぶー、浮気者ぉ。ジェラしっちゃうゾ。」


俺の心の中の思惑が態度に出ていたのか、クリムが膨れっ面でそんな事を言いながら魔法を放とうとする。


「ま、待て、今は非常事態だ。勘弁してくれっ。」


「……後で、じっくりと話し合いますよ?」


クリムも、今は魔法を放てばどうなるかを理解しているらしく、素直に魔力を引っ込めてくれた。


だけど、俺達を運ぶヴァンパイア娘たちは、みんなと合流するまでの間、ずっと震えていた……なんか、ゴメン。


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