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小さな村の……9 罠?

「で、本当のところはどうするの?」


カミーラに、各地に散ったサキュバスやヴァンパイアたちを呼び戻すように指示していると、そばで寛いでいたクリムが、何事もなかったかのように聞いてくる。


「ソーマ様……私が言うのも烏滸がましいのですが、本当に助けることは出来ないのでしょうか?」


リズも心配そうに聞いてくる。


リズは世間知らずではあるが、心根が優しい娘だ。村が襲われることを知りながら、何もしないというのは納得ができないのだろう。


「村の奴らが逃げないといってるんだ。俺たちに何ができる?」


「私が魔法を使えば……。」


クリムがそういう。


「無理だな。」


俺は、即決で、クリムの意見を却下する。


確かにクリムの魔法をうまく運用すれば、50人程度であれば殲滅することも出来るかもしれない。


しかし、それは何もない広い場所で、相手が固まっていれば、の話だ。


クリムが使える広域魔法は、この森という場所では非常に相性が悪い。木々にさえぎられて効果が半減するからだ。


さらに言えば、相手がまとまって移動してくる保証もないうえ、樹々に紛れて分散されたら、半分も倒さないうちに接近されてしまうことは容易に想像がつく。


魔法使いは相手との距離があればこそ、威力を発揮するのであって、接近戦に持ち込まれたらひとたまりもないのだ。


それは弓使いのリズにも言えることだし、アンジェやカミーラたち、サキュバスやヴァンパイアも、正面切っての乱戦では分が悪い。


俺の戦闘スタイルについても乱戦向きとは言い難く、他を庇いつつ50人相手にするのはむつかしいだろう。


つまり、まともにぶつかったら勝ち目はないのだ。だから、敵が接近してくる前に逃げる、コレが最善の策であることは間違いない。


間違いはないのだが、何かを期待するような、クリムとリズの視線がいたい。


「それで、結局私たちは何をすればいい訳?」


アンジェが、すべてお見通しよ、といった表情で聞いてくる。


「やっぱり助けるんじゃない。」


クリムが茶化すように言ってくる。


「違う。助けるんじゃない。ただ、このまま放っておけばあの村が襲われ蹂躙されるのが目に見えてるだろ?いうことを聞かなかった村人たちは自業自得だけど、だからと言って俺以外の奴らがいい目を見るのはなんか悔しいじゃないか。」


だから邪魔してやるんだ、という俺に、クリムたちが生暖かい視線を向けてくる。


「そうだよねぇ、ソーマ悪い人だもんねぇ。」


「そうですね、ソーマ様は悪い人です。」


クリムとリズが、笑いながらそう言ってくる。悪い人、と連呼しながらも、その口元が嬉しそうに緩んでいる。


俺は見透かされているのを誤魔化すかのように、各自に指示を出していく。


「……リズは、フリーシャが連れてくる者たちを、馬車にのせて南に向けて先に出発してくれ。連絡役にサキュバスとヴァンパイア各二人付いて行ってもらう。カエラたちはリズの護衛についてもらうが、くれぐれも変な真似をするなよ。何か不審な行動があれば、ヴァンパイアたちによってお前らの行動を制止するからな。」


リズがいれば余程おかしなことにはならないだろうと思うが、一応釘を刺しておく。


「アンジェには、悪いけど、偵察と連絡係をやってもらう。相手の情報を集めつつ、逐一状況を報告してくれ。連絡役に、サキュバスを2名連れて行くように。残ったヴァンパイアとサキュバスは、二人を残して、あとはカミーラについてくれ。」


「私は何をやればいいの?」


カミーラが聞いてくる。


「村人の拉致と略奪だ。……一応説得を繰り返して、受け入れてくれるようであれば、先行しているリズたちのもとに誘導してくれ。」


「誰も言うこと聞かなかったら?」


「……逃げ出すタイムリミットが迫ったら合図を送る。その時点でフリーシャたちが残っているようだったら有無を言わさず拉致して、ついでに村の食料や金目の物をありったけ略奪して、リズたちと合流してくれ。」


俺はそういってフリーシャ以外の4人の名前を挙げる。みんなフリーシャと同じぐらいの年齢の女性だ。


村に残っていた年ごろの娘たち。そのままにしておけば、盗賊たちの手によって酷い目に合うのは間違いない。


そして、村に残った食料などを奪われるぐらいなら、俺たちが生き残った者のために消費した方が余程マシな使い道に違いない。


「同じ酷い目に合うなら、その相手が俺でも問題ないだろ?」


俺はそう嘯いてみるが、リズたちは、やはり生暖かい目で俺を見て、うんうんと頷いていた。


「そうだね~、ソーマは悪い人だもんねぇ。」


「そうですねぇ、ソーマ様は悪い人ですから。」


「有無、主殿は悪い奴じゃ。」


「あなた達、顔が笑ってるわよ。」


口々に俺を悪い人、と罵るクリムたちに、呆れたように突っ込むアンジェ。


「そうだよ、俺は悪者だよ。だからこれから悪いことをするために、クリムとヴァンパイア二人は俺についてこい。この前野営をしようとしていた広場に向かう。ここからは時間との勝負だ。各自、連絡を密にするようにな。」


俺の言葉で、各自、それぞれの作業をするために散っていく。


リズは人を乗せて運べるように、クリムが出した馬車に馬を繋ぎ、異常がないか点検をし始める。


俺は彼女に近づくと、ある指令をこっそりと伝えておく。


別にこっそりでなくてもいいのだが、こうするとリズが喜んで頑張るのだ。


「ソーマ、私たちが一番大変だよ。急がないと。」


歩いていかなければならない俺たち。しかも時間が少ないとなれば、一刻も早く行動に移さなければならない。


俺は、ヴァンパイアたちに何をするべきかを伝え、先行してもらう。多分、彼女たちの作業が一番手間がかかる。それが分かったのか、アンジェがヴァンパイアを一人回してくれた。



「それで、ここからどうするの?」


広場についたところで、クリムが訊ねてくる。


「まずは、少し下流で川を塞き止める。」


「塞き止めるの?」


「あぁ、川の水が少ないと思わないか?」


「うーん、言われてみれば流れが緩やかになってるねぇ。」


クリムは、川をのぞき込んでそんな風に答える。


「ここは時間が経つにつれて水が少なくなる。奴らが来た時に干上がっていたんじゃ、ここで休憩を取ろうなんて思わなくなるだろ?だから、下流で塞き止めて、ここの水をある程度確保するんだ。」


「そうなんだね。了解、じゃぁ、チャチャっとやってくるね。」


クリムはそういって、下流へ向けて川沿いに歩き出す。


「さてと、俺はこの間に……。」


俺は周りを見回し、適当な木を伐採して、先を尖らせた簡易的な槍を作っていく。


100本ほど作ったあたりでクリムが戻ってくる。


「ただいま……って、何これ?」


「おかえり。これは罠に使うためのものだ。疲れているところ悪いんだけど、俺の言う場所に穴を掘ってくれ。」


俺は木の槍を抱えて、クリムを穴を掘る場所まで案内する。


「ここでいいの?深さはどれくらい?」


「んーと、5m……いや、10mにしておこうか。広さはこれくらいで。」


「結構広いんだね。……ピットホール!」


クリムは「大変だよ」と文句を言いながら、楽々と穴を掘っていく。


こうしてみれば、いかに魔法が便利なものかがよくわかる。これだけ便利なものであれば、何としてもその技術を後世に残そうとするものなのに、なぜ魔法が廃れてしまったのだろうか?


落ち着いたら、この世界のことを色々調べるのもおもしろそうだと思いながら、俺はクリムの掘った穴の底に降りて、樹の槍を垂直にたてていく作業に勤しむのだった。



「そろそろ説明が欲しいかな?」


一通りの作業を終え、少し離れた場所で、携帯食を口にしながらクリムが聞いてくる。


「あぁ、まとめて説明する方がいいと思ったから後回しになったけど、要はここで奴らを撃退するってことだな。」


「うん、それはわかるんだけど、どうやって?」


「ここからは、かなり推測が混じるから、実際にはその場に応じて臨機応変に動くしかない、というkとを、まず前提として頭に入れておいてくれ。」


「うんうん、それで?」


「セオリー通りであれば、たぶん斥候役が本隊より先にここに辿り着くはずだ。」



「斥候?盗賊がそんなことするかなぁ?」


「ただの盗賊ならしないな。だけど奴らは盗賊じゃなく、どこかの軍隊……訓練された兵士だと思う。まぁ、そのあたりは、今アンジェが探っているから、すぐにでも答えが出るだろうけどな。」


「うん、わかった。それで?」


「斥候が、この場所を見て野営にいいと判断して、戻るようであれば、そのままここで待つ。」


「戻らなかったら?」


「処分する。下手に進まれて、罠にでも引っかかられたら、せっかく設置したのが、ぱぁになるからな。」


「ふーん。それから?」


「斥候が戻れば、改めて本隊がここに到着して野営をするだろうし、斥候が戻らなかった場合は、何回か斥候を送りつつも、最終的にはここまで本隊が来るはずだ。」


「うんうん」


「本体がここで野営をするなら、寝静まったころ合いを見計らって、クリムは火球を天に向かって放ってくれ。」


「火球を?空に?なんで?本陣にぶち込めばいいじゃない?」


「この段階では、まだ襲撃されているってことを悟られたくないんだよ。空に向かって放ってもらうのは上流にいるヴァンパイアへの合図だ。彼女には、火球が見えたら塞き止めてある水を放流してもらうことになっているんだよ。」


「そっかぁ、水が少ないのは、すでに上で塞き止めていたからなんだね。」


「そういうこと。放たれた水はこの場に辿り着いたところで氾濫を起こす……この先でも塞き止めているからな。」


「そういう事かぁ。出mこの辺り一帯は水浸しになるってことだよね。」


「そういうことだ。水が出たせいで、何人かが行動不能になったり、食料がダメになったりすれば大成功なわけだけど、まぁ実際には、寝入りばなをたたき起こされて睡眠不足になるって程度だろうな。……で、そんな状況に陥ったらどうなると思う?」


「うーん、敵襲に備えて警戒する?」


「正解。そのまま何事もなかったかのように寝直すほどの強者はまずいないだろう。大抵は、何が起きたかを調べ、この機に乗じて敵襲を受けないように、見張りを多くしたりするだろうな。」


「わざわざ警戒させるようなことして大丈夫なの?」


「この作戦は、本来なら、もっと長い道中で仕掛けるものなんだよ。人間、常に気を張り詰め続けるのはかなり疲れるからな。休ませず、常に警戒させて、空振りさせる。これを繰り返していけば、本来の目的地に着くころには、精も根も尽き果てて、まともに戦えるような状態じゃなくなるんだが、今回はそこまでの距離も時間もない。だから、「なにかある」と思わせて、この場に足止めするのが目的なんだよ。」


「そっかぁ、だからあの落とし穴なんだね。」


「あぁ、まず知らずに踏み入ったものは、そのまま落とし穴の犠牲になる。10mの落下だ。槍に突き刺さらなくても、無事ではいられまい。生きているなら、それはそれで、奴らを足止めすることにもなるから問題はない。」


「で、落とし穴に引っかかったら、他にも何か仕掛けているかもしれないって警戒するってわけね。」


「そういうこと。まぁ、ここで稼げるのは長くて2日ってところだろうな。それでもこの先も罠に気を付けて進軍速度は落ちるはずだ。そこで、要所要所でクリムの魔法の出番ってわけだ。」


「魔法でやっつければいいのね。」


「倒す必要はないよ。小さな穴を足元に掘って転ばせるだけでもいい。蔦を絡ませて動きを阻害するだけでもいい。要は、いかに進軍速度を下げるかってことだよ。そして、それはこの場所まで続ける。」


俺は地図にマークを付けた場所を指さす。


「あの大きな穴を掘った場所ね。」


「あぁ、あそこを抜けたら村はすぐ目の前だからね。あの大穴が最後の砦ってわけだ。あいつらがそこまで行っても、村人たちが逃げださないようなら、あとはもうどうしようもない。……奴らがこの時点を過ぎたら、カミーラに合図を送る。」


俺は、クリムにわかりやすいように、地図のある一点……先ほどの最終防衛ラインの手前に〇をつける。


「ここを超えて、最後の罠を抜け出すのに1日はかかる計算だ。それだけあれば、カミーラたちも拉致は出来るだろう。」


実際その段階になれば、アンジェ達もやることがないのでカミーラの手伝いに回せる。ここでの最後の足止めは俺とクリムだけで行けるはず。落とし穴で足を止めさせ、奇襲で兵士を襲う。援護にクリムの魔法を使えば、運が良ければ壊滅状況まで持っていけるかもしれないが、そこまでの期待はしない。カミーラたちの行動を助けるだけの時間が稼げれば十分なのだ。


そして、リズたちは三日ほど先行しているが、ヴァンパイアとサキュバスたちに少し無理をしてもらえば、十分追いつける計算だ。


そうすれば、あとは逃げるだけ。奴らの目的はわからないが、満身創痍の状態で、逃げだした俺たちを追いかけるようなことはないだろう。少なくとも、傷と疲れをいやしてから行動を起こすことは間違いないはずだ。


「まぁ、奴らがここまで来るのは、早くても明日の昼。アンジェの工作がうまくいっていれば、明後日になるはずだから、今夜はゆっくり休もう。明日以降は、寝る間も惜しんで働かなきゃいけないからな。」


「うーん、ゆっくりって言っても、下はごわごわだし、毛布しかないから寒いよ?」


「一晩ぐらいは我慢してくれ。」


「ン、我慢する。だから……。」


クリムはいきなり俺に抱き着いてくる。


「んー、この抱き枕さえあれば大丈夫だよ。」


「はいはい、抱き枕でーす。」


俺はおどけてそう言いながら。クリムをぎゅっと抱きしめる。


……確かに、これなら温かいよな。


俺はクリムの体温を感じながら、いつしか眠りに落ちていくのだった。






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