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小さな村の……8 村人たち

「……。」


「……。」


俺達は睨み合っていた。


ここは西の森の外れにある、名も無き小さな村。


この村に危険が迫っていることを伝えようと夜通し森の中をかけてきた俺達だったが、村に着くなり、鍬や斧、鉈などを構えた村人たちに取り囲まれたのだ。


正直に言えば、この囲みを破って、村人たちを制圧するのは容易いのだが、それでは俺達が何のためにここに来たのかわからなくなってしまう。


「ねぇ、ソーマ。もう行きましょう。これ以上ここにいても時間の無駄だわ。」


アンジェがそう言ってくるが、俺としてはせっかくここまで来たのだから、何もせずに引き上げることはしたくなかった。


「なぁ、聞いてくれ。俺たちは敵じゃない。君たちに危険を知らせに来ただけなんだ。」


「嘘つけっ!俺たちは騙されねぇぞ。」


「そうだそうだ。お前らは盗賊の手先だろうが。そうに決まってるっ!」


……誰も聞く耳を持ってはくれなかった。


そして……クリムがキレた。


「あんたらっ!少しはソーマの話を聞いなさいっ!」


「「「「……すみませんでしたぁっ!!」」」」


天から光の矢が、男たちを掠めるように降り注ぐと、男たちはみな武器を放り出して、ひれ伏した……クリムに対して。


……うん、クリムさん最強説。俺っていらない子かもしれん。


とりあえず、話を聞いてくれる気になったようなので、俺は、ここから数日先のところに盗賊団らしきものがいること、すでに近隣の村が襲われていること、盗賊に扮してはいるが、盗賊とは思えないほどの練度を持った集団だということ、そして、次はこの村が襲われるであろうことなどを話す。


村人たちは、最初は疑心暗鬼ではあったが、俺の話す内容が具体的なことと、数日前に追い払った流民たちが似たような話をしていたというものが出てきたりしたことなどから、まじめに検討する気になったようだった。


……というか、数日前に追い払った流民って、ここまで逃げてきた、襲われた村の住人じゃないのか?それを追い払うって、どれだけ排他的なんだよ。


結局、結論が出るまで時間がかかりそうだということで、俺たちはその間、村長宅の離れで休ませてもらうことになった。



「あ、おはようございます。ゆっくりと休めたでしょうか?」


俺が目を覚ますと、ちょうど食事の支度をしていたらしい村娘が、振り返って声をかけてくれる。


この娘は、村長の孫娘でフリーシャという。俺たちが休む前に「皆様のお世話をいたします」と言ってやってきた娘だ。


大方、村長辺りに「しっかりともてなすように」と言い含められてきたのだろう。しっかりとした言葉遣いとは裏腹に、その声は少し震えていた。


こういうところでの「もてなし」には、食事や寝具を整えたりする『世話』以外に『ご奉仕』が含まれることが多い。何もないところだから、せめて女性をあてがうことで、無理難題から逃れようとする昔ながらの風習だと聞いたことがある。


……うん、まぁ、好意は無下に出来ないよな。なんて俺が鼻の下を伸ばしていると「じゃぁ遠慮なく」と言って、アンジェとクリムがフリーシャを連れて行ってしまった。


……いや、いいんだよ?どうせ女神の呪いがかかったこの身体では何もできないんだからさ。


だけど、だけどだよ?アンジェより大きいあの果実に、触れて、齧って、心行くまで戯れたい……そう思うのは、男なら当たり前だと思わないか?それだけのことすら許してもらえないなんて……。


俺はショックのあまり、早々に横になって寝たふりをしていたのだが、どうやらそのまま、本当に寝入ってしまったらしく、フリーシャとアンジェ達があの後何をしていたかは知らない。


「あ、ソーマ起きたの?」


「あぁ、今起きたばかりだ。外がなんだか騒がしいけど、何かあったのか?」


俺は、手早く装備を身に着けながらアンジェに聞いてみる。


「んー、あったというか、やらかしたというか……。」


その目で確かめるのが一番早い、とアンジェは俺を外へと引っ張り出し、村の広場まで連れていく。


俺は広場について、ソレを目にして、あちゃーと頭を抱える羽目になった。


広場の中央では、カエラがフル装備を身にまとい、演説していたのだ。


「皆の者、怯えることはない。盗賊など、われらが簡単に切り伏せてくれよう。我は姫様の一の騎士である。我の行動は姫様の意志。姫様は民を助けよとおっしゃった。なればこそ、我々は、姫様の意志に報いるべく、剣を手に取り立ち上がるのだ。姫様は民に寄り添う心優しきお方。苦難を乗り越え……。」


『姫様』がいかに素晴らしい方であるかを滔々と語るカエラ。その横では、キーラとケーラが脇を固め、カエラの言葉にもっともだ、というようにウンウンと頷いている。


「あのバカ。……ん?リズはどうした?」


「クリムが早々に避難させているわ。あの場に彼女がいたら余計面倒なことになるでしょう?」


俺の質問にアンジェが答える。すでに適切な手を打っていてくれたようで何よりだ。


「取り敢えず、あのバカを止めるとするか。」


俺は広場に飛び出すと、まだ演説を続けている帰らを殴り倒し、引きずるようにして広場を後にする。



「いきなり何をするんだ!」


人気のない場所まで移動するとカエラが文句を言う。


「それはこっちのセリフだ。お前何やってんだよっ!」


「私はただ、あの聞き分けのない連中に、姫様がいかに素晴らしいお方かということを語って聞かせていただけだが?」


カエラが何か問題でも?という顔でそういう。


……ダメだ、こいつ全然わかってねぇ。


「あのなぁ、その姫様は、今どういう立場だ?」


「……そ、それは、たしかに今は主様のような、どこの馬の骨とも分からぬ下賤な輩に騙され、奴隷という身分に身を落とされてはいるが、姫様の心は汚れておらず、いつかきっとお家再興を成し遂げる……いや、私が、力になって、必ず成し遂げますとも!」


……コイツ、言いたい放題だな。リズの手前制限を緩くしているのが裏目に出たか?


「ハァ……違うだろうが。」


「何が違うというのだ?」


「分からないのか?リズはメルクリア王国の王族で、クーデター軍が血眼になって探している重要人物だろうがっ。お前等が姫様、姫様と騒ぎ立てれば、すぐ噂になって、捕らえに来るぞ。それにクーデター軍だけでなく、他国にとっても、リズは外交的に利用価値の高いから、常に狙われているってことを忘れるなよ。」


「そんな……。」


自分のやったことが、リズを危険に晒すことだということに気づいたカエラは、その場に崩れ落ちる。


「わかったらとりあえず今は大人しくしていろ。色々と落ち着いたら、お前らはカミーラのもとで二度とこんなことをする気にならないように、よく指導してもらうからな。」


俺の言ったことの意味を理解したのか、カエラたちはその場で身体を縮こまらせる。


まぁ、人間は痛みに耐える訓練はできても、快楽に耐えることは難しいからな。心を折るにはアンジェやカミーラ達サキュバスは最高の拷問吏であることに間違いはない。


「それより、早々に村長と話をつけないと……もう遅いかもしれないけどな。」


「そうね……。これはかなり厄介なことになるかもね。それで、あれはいいの?何なら私の方で処分しておくわよ?」


アンジェがそういう。つまり俺が手を汚したくないなら、代わりにやってくれると言いたいらしいが、そのアンジェの優しさに甘える訳にもいかない。


「大丈夫だ。さっきも言ったように、落ち着いたらカミーラたちに預ける。」


「つまり、とことんまで追い詰めるわけね。」


「あぁ、俺が甘かったから、こんな結果になったんだと思うからな。今後勝手な真似ができないように、よく()()()()()もらうとしよう。」


カエラたちの今後の処遇が決定したところで、俺とアンジェは村長宅へと急ぐ。そこには今後のことを決めるために村人の代表たちが集まっているはずだった。



「……じゃから、お主達が何とかしてくれるのじゃろう?だったらわしらが逃げる必要はなかろうて。」


俺がいくら避難を勧めても、村長はそう言って譲らない。


「だからアレは世間知らずのバカの妄言だって言ってるでしょうが。よく考えてみてください。俺たち4人で50人以上もいる奴らを相手にできると本当に思ってるんですか?しかも相手はただの盗賊じゃない。どこかの軍兵の可能性が高いんですよ?」


「じゃから、それを何とかしてくれるんじゃろ?それが姫様の努めだと、あの娘っ子達が言っておったではないか?」


「だから、それは妄言だって何度言えばわかるんですか。」


さっきから同じことの繰り返しだった。


こっちが何を言っても、お前らがなんとかしろの一点張りでまともに人の話を聞く気がない。


「ソーマ、もう何を言っても無駄よ。」


アンジェが焦れたように言う。確かにここでグダグダやっているのは時間の無駄以外何物でもない。


俺達がこれからどうするにしろ、時間は有効的に使う必要がある。


更に言えば、俺達がこの村に対して何かする必要も義理もない。ただ立寄っただけの縁もゆかりも無い村なのだ。


「はぁ、わかった。もういいよ。俺たちはすぐにでも村を出ていく。お前らも早く逃げ出す準備をした方がいいぞ。」


「なんと!我々を見捨てるというのか?」


俺が出ていくというと、途端に騒めき始める村長とその他の人々。


「だから言ってるだろ?逃げるなら手は貸してやる。逃げないのであれば、それ以上の面倒は見れないから勝手にしろ。……俺たちは一刻後にこの村を出る。それまでにどうするか決めておくんだな。」


俺はざわざわしている村長宅に踵を返し、離れへと戻る。特に用もないが、一応フリーシャに声をかけておこうと思ったからだ。


「あ、お帰りなさい。話し合いはどうでしたか……って、あまりうまくいかなかったようですね。」


フリーシャは笑顔で出迎えてくれたが、俺たちの顔を見て、その表情を曇らせる。


「あぁ、俺たちは一刻後にはこの村を出る。……よかったらフリーシャも一緒に行かないか?他に連れていきたい者もいれば一緒でも構わないぞ?」


せめても、と思い、フリーシャにそう声をかけるが、答えは芳しくないものだった。


「……お気持ちはありがたいのですが、私だけ逃げることは出来ません。」


「そうか……。なら仕方がないな。」


俺はそれ以上何も言わずに荷物をまとめる。


「あの……できれば子供たちだけでも連れて行ってもらうことは出来るでしょうか?」


「その子供たちが、俺たちの言うことを大人しく聞くならな。親が恋しいとか言って泣きわめくなら無理だ。」


「それは大丈夫です。連れて行ってほしいのは、その……。」


フリーシャが少し言いよどみ、しばし逡巡したのちにきっぱりと告げる。


「連れて行ってほしいのは、身寄りを亡くした子供たちですので。子供たちの世話と将来の面倒を押し付けるようで、大変申し訳ないのですが、大人の事情で、これ以上あの子たちに悲しい思いをさせたくないのです。」


「……分かった。俺たちが出発するまでに、村の入り口に集めておいてくれ。一応、他にも逃げたいというものがいれば声をかけてもらって構わないから。」


俺はそういって離れを後にする。


その俺を、フリーシャは頭を下げたまま、ずっと見送るのだった。


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