小さな村の……7 盗賊?
ガタゴトガタゴト……。
馬車が揺れる。
「……。」
「えっとリズちゃん?」
「……。」
「そろそろ、機嫌治さない?」
「……。」
リズはずっとだんまりを決め込んでいる。
あの事件があり、北の廃村を出てから、ずっとこの状況だ。
あの件で、リズを奴隷にすることにはなったが、俺は別に人形が欲しいわけではないので、リズに対しては、「主人を害することは出来ない」「契約に準じた主人の命令には複縦」という、奴隷の基本制約以外は何の制約もかけていない。
だから、普段のように、我がまま言ったり甘えたりしてほしいのだけど……。
「あー、もぅ。リズに命令する。普段通りの行動をするように。」
「……お断りします。私は奴隷ですから。どうしてもって言うなら強制執行すればいいでしょ?」
ふんだ、というように顔を背けるリズ。
完全に拗ねていた。
「よし、わかった。」
俺はリズを抱きかかえ、自分の膝の上にのせる。
そして背後から抱えるように抱きしめながら、頭を撫でる。
「あっ……ダメ……、そ、そんなの……ズルい……です……。」
「聞こえないなぁ。」
俺は構わずリズを撫でまわすと、リズは顔を真っ赤にして俯いてしまう。。
その様子を見ながら、クリムがどう割り込もうかと逡巡している。
これで女神の呪いさえなければ……と、俺はリズとクリムを撫でながら、歯噛みするのだった。
女神の呪い……本人は祝福と言っていたが、俺がエッチな行為に及ぶ際に何かが起きる、というもの。
ただでさえ、少しでも気を抜けばコントロールが不能になるドレイン能力の所為で、相手を選ばないとエッチなことが出来ないというのに、そこに加えて、何が起きるか分からないという訳の分からん呪いの所為で、俺は能動的なエッチが出来ずにいる。
因みに、本当にそんな呪いがかかっているのか?を確認するため、アンジェとカミーラの協力の元、行為に及んだことはあった。
その二人であれば、俺のドレイン能力が発動しても、耐えることが出来るからだったのだが、いざ本番、という段階になった時、カミーラ相手にしていた時は、突然の嵐が起き、近くの川が氾濫し、村に洪水が起きて……と立て続けに被害が起きた為にエッチどころではなくなった。
そして、アンジェを相手にしたときは、天から隕石が落ちてきて、村の半分が壊滅した……廃村でよかったと、この時は心から思ったよ。
他にも、何故か突然寝ぼけたクリムが乱入してきて、俺を氷漬けにしたり、ワイバーンの群れの襲撃にあったりと、あり得ないことが立て続けに起きた為、この呪いは本物だと認めざるを得なかった。
だから、奴隷となって何の障害もなくなったこの元お姫様を、犯そうが蹂躙しようが好き放題できる……はずだったのに、いまだに手が出せないのは、その所為だったりする。
そして、俺の膝の上で、真っ赤な顔をしたお暇様が拗ねている本当の理由は、最後まで手を出さないからだという事に、俺は気づいていなかった。
もっとも気づいていても手が出せない事には変わりがなく、すべてはあのロリ女神の所為だ、と喚く以外にしようがないのだが。
しばらく撫でまわした後、クリムにリズを預け、俺は窓から何気なく外を眺める。すると、丁度横を走っていた馬上のキーラと目が合う。……が、彼女はさっと視線を逸らすと前方へと移動してしまった。
全く持って、嫌われたものだ、と思いながら窓の遠くを眺める。
今、この馬車はメルクリア王国の西部を目指している。東部はガイスト王国と睨み合い、小競り合いを繰り返しているので必然的に西に向かうことになったのだが、先日のロリ女神の言葉からすれば、西部でも何らかのトラブルに巻き込まれることは間違いないだろう。
「はぁ……。」
「どうしたのソーマ。ため息ついたら幸せが逃げるよ?」
「ため息つかなくても幸せは逃げていくんだよ、あのロリ女神の所為でな。」
「そうねぇ、出来れば、目立たない村でゆっくり暮らしたいよねぇ?」
「そうだなぁ。いい加減落ち着いてイチャイチャ三昧の暮らしがしたいぜ。」
現在の嫁は4人。これだけいれば十分ハーレムを名乗っても問題ないはずだ。だったら後は安全なところで、エッチ三昧の……って、その問題も解決しないといけないのかぁ。
大きすぎる問題を抱えて、お先真っ暗の気分になるのだった。
◇
「クリムっ!」
「大丈夫、任せてっ!」
がしっ!
振り下ろされた巨大な前脚は、クリムの身体に届く寸前で、見えない何かに阻まれる。クリムが張った魔力障壁だ。
「グガァッ!」
怒り狂った魔獣……グラップラーベアが、再度腕を振り下ろす。
この辺りに生息する魔獣の中でも、危険度は上位クラスのグラップラーベアではあるが、クリムの障壁を崩すだけの力はないようだ。
狂ったようにクリムの障壁を叩きつけるグラップラーベアの額に矢が突き刺さる。
背後で狙っていたリズの仕業だった。
リズは秀でた戦闘力があるわけでもないので、戦闘時は護衛三人が傷つけないように守っていたのだが、奴隷となってからは、自分も何か役に立ちたいと、弓の練習をすることが多くなった。
しかし、リズの放った矢は、少しだけ威力が足りず、グラップラーベアの額を微かに傷つけるだけにとどまったが、意識をリズに向ける効果としては十分だった。
グラップラーベアは、矢の飛んできた方を睨みつける。完全に、前方のリズしか見えていないようで、その為に、背後から忍び寄る人影には気づかず、気付いたのは、自分の首が胴体から離れた直後だった。
「ソーマお疲れー。」
「あぁ、クリムもリズもお疲れさん。ところでどうだった?」
俺が聞いているのは先ほどの戦闘についてだ。俺たちのパーティの構成上、盾役がいないので、後衛のクリムやリズが正面から相対することになる。そのリズも、弓での実践は初めてであり、上手く連携が取れるかが課題だったのだが……。
「そうねぇ、やっぱり私が盾役に回ると、火力が不足になるから、正面からの戦いには向いてないわね。」
「そうですねぇ、やっぱり奇襲で先手必勝ってところでしょうか?」
クリムもリズも、前衛がいないのが厳しいという意見でまとまっていた。
「それよりソーマ様の気配が全く分からないので、下手に攻撃を仕掛けたらソーマ様に当たるのでは?とヒヤヒヤしてました。」
そしてリズの意見……。俺の戦闘スタイルは気配を隠して背後から忍び寄り、急所への一撃を放つというものだけに、効果は高いものの、パーティ戦には向いていない事が明るみに出る。
「今のリズ程度の腕なら、難なく躱せるから気にしなくてもいいけど、練度が上がってきたら確かに問題になるかもな。」
俺はそう答えながらも、対処方法を考えてみる。
盾役がいれば、リズは最初だけ弓で攻撃をし、あとは、アイテムなどを使用してパーティの補佐をしてもらえれば十分だし、それならばフレンドリーファイアーの心配も減る。
クリムにしても、攻撃魔法だけに専念できるから魔力の消費も気にしなくても済むし、不足している火力を補える。
つまり、すべての問題を解決するには、前衛で戦える戦士が必要という事なのだが、それがいないから悩んでいるのだ。
リズの護衛のカエラたち三人をパーティに入れれば問題は解決するのだが、お互いの信頼関係が0の今の状態では、怖くてパーティなど組めやしないし、重要な仕事を任せることも出来ない。
だから彼女たちには先行してもらい、この先にある水場で野営の準備をお願いしておいた。
ちなみに、アンジェは、もっと先まで偵察に行ってもらっているし、カミーラたちとは、この森に入る前に分かれた。
彼女たちはこれから、俺たちの行く方へ先回りしてもらって、方々の情報を集めてもらい、俺たちみんなが落ち着ける拠点になりそうな場所を探すことになっている。
「まだ時間もあるし、色々試したいこともあるから、狩りを続けようか。」
俺はそう言ってクリムとリズと共に森の中ほどへと足を踏み入れるのだった。
◇
「ただいまー。」
野営地にて、食事をしようとしていたところにアンジェが戻ってきた。その後ろには、何故か別れたはずのカミーラもついて来ている。
「おかえりー。カミーラも一緒なんだな?何があったのか聞きたいけど、先に食事にしようか。」
俺がそういうと、二人は頷いて、俺の前と横に座る。そして……。
「「いただきまーす」」
アンジェは正面から俺の唇を塞ぎ、カミーラは横から俺の首筋に牙をたてる。
……いや、食事先にって言ったけどね……まぁ、彼女たちの食事と言えばこっちなんだけど……。
クリムとリズの視線が痛い。……さすがにクリムもリズも、この状況で「浮気者~」とは言いださないが、それでも面白くないという表情を隠そうともしない。
そして、カエラたち三人は、まるで虫けらを見るような視線を俺に向けてくる。……いいけどね、別に。
「ふぅ、ご馳走さま。」
「ご馳走様ぁ。満足ぅ。」
俺の精気とマナを、思う存分吸い取ってから、二人はようやく身体を離してくれる。
「それで、何があったんだ?」
アンジェとカミーラが離れたのを見るなり、さっと近づいてきて俺の両脇に陣取ったクリムとリズから、焼けた肉を受け取りながら聞いてみる。
「うん、まずね、この先1日ほど歩いたところに小さな村があるのよ。」
「それで?」
「で、ここから逆方向、2日ほど歩いた辺りに、ちょっと厳つい装備をした集団がいるわ。ざっと見たところ50人ぐらい。」
「それって、盗賊?」
クリムが横から質問を投げかける。
「うーん、盗賊というには装備がしっかりしていたのよねぇ。かといって、この辺りに貴族はいないから、近隣の貴族の私兵ってこともなさそうだし。」
そうカミーラが答える。
俺達と別れた直後にカミーラがその集団を見つけ、一応報告しておいた方がいいと判断したカミーラは、ヴァンパイアの一人を見張りにおいて、戻ってくるところで、アンジェと合流したらしい。
そこで、アンジェの判断で、その集団の目的らしきものを探ってから一緒に俺のところに報告に来たという事だった。
「それで、そいつらの目的って言うのは?」
「はっきりしないんだけど、手近な村を襲うらしいの。」
アンジェが言うには、その集団は、この近隣の村を襲う相談をしていたというのだ。しかも、無計画にただ襲うのではなく、奪ったものをどうするか、村人をどうするかなど、かなり具体的なことまで話していたらしい。
「それでね、この付近の村って言ったら、さっき言ったこの先にある村と、その集団がいた場所の近くにある村の二つってわけ。」
「っ……。するとその村は……。」
「すでに手遅れよ。一応、確認に言ったんだけど、すでに襲われた後だったわ。」
「ソーマ、ひょっとしてあの人たち……。」
クリムが青ざめた表情でつぶやく。
「なにかあったの?」
「あぁ、昼間、狩りをしてる時にな、何かに追われている様子の村人の集団にあったんだよ。てっきり、森の中で魔獣に襲われて逃げているって思ったんだけどなぁ。」
「でも、私達を見るなり逃げ出したから、ちょっと変だなとは思ってたのよね。」
「多分、その襲われた村に住んでいた人たちでしょうね。」
俺達の言葉にカミーラがそう結論付ける。
「引き上げたりする様子もなかったし、多分次は、あの村が襲われるでしょうね。」
どうするの?とアンジェが視線だけで聞いてくる。
「……村まで三日の距離か。ちょうどここを通ることになるよなぁ。」
「そうね。だからどちらにしてもここは早々に引き上げる必要があるわね。」
「……だな。よし、ここで野営は中止。夜通し移動して村に向かう。」
「助けるの?ソーマ。出来るの?」
クリムが不安気に俺を見上げる。
「助けるかどうかは村の人次第だろ?まぁ俺たちに出来る事と言ったら夜逃げの手伝いぐらいだろうけどな。」
「夜逃げは得意だもんね。」
「人聞きの悪い。」
ペロッと舌を出しておどけるクリムの頭を軽く叩きながら、俺たちは村を目指して進んでいく。
「……これも、神々の仕業ってやつか?」
薄暗くなりつつある森の中を進む中、思わず天を見上げて呟いた言葉に応えられるものは誰もいなかった。
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