小さな村の……6 暴走
「えっ……。」
俺は胸に突き刺さった剣を見て、刺されたことを自覚する。
ヤバい……急速に意識が遠のく……辛うじて刺さっている剣を引き抜く……俺が出来たのはそこまでだった。
◇
『バインド!』
『アイス・コフィン!』
クリムが立て続けに魔法を放つ。
土の拘束魔法がカエラをはじめ、リズの護衛の動きを縛る。
そして氷の魔法をソーマの胸にぶつけ、応急的に止血をする。
「クリム、まだ間に合う、早くっ!」
倒れ込むソーマを抱え込んだアンジェが叫ぶ。
「分かってるっ、ソーマは死なせないよっ!」
「『限界突破』……『ヒール』『ヒール』『ヒール』『ヒール』……。」
ありったけの魔力を込めた、クリムの治癒魔法がソーマの体を覆う。
ソーマの胸の傷が塞がり、やがてソーマの身体に血の気が戻っていく。……何とか山を無事越えることが出来たようだ。対処が早かったというのもあるが、直前にソーマが女神から体力の大幅上昇の能力を授かっていたのも幸いしたのだろう。
だからと言って、失われた血が直ぐに戻ることは無いので、しばらくは安静にする必要がある。
アンジェは、サキュバスたちにソーマをベッドに運ぶように告げてから、縛られて動けないカエラたちに視線を向ける。
クリムも、右手に氷の刃、左手に炎の玉を浮かび上がらせて、リズたちと相対する。
「さて、申し開きはあるの、お姫様?」
アンジェがリズを睨むが、リズ自身、何でこんなことになっているのか分からずオロオロするだけだった。
「ねぇ、骨も残さず丸焼けがいい?それとも氷漬けで、どっかの御屋敷に飾ってもらう?」
クリムがカエラの目の前で炎と氷の刃を見せつけながら、静かに聞いている。声の抑揚がない分、余計に恐ろしく聞こえる。
「ねぇリズちゃん、コレってあなたの命令かなぁ?」
カエラたちが何も答えないので、クリムは首を巡らせ、リズに視線を向けると、リズは思いっきり首を横に振る。
「よせっ、姫様は関係な……ムグ……」
「お前に聞いてない。その腐った声を聞かせるなボケ。」
その開いた口の中に土を発生させて声を塞ぐ。まったく容赦する気のないクリムの所業にカエラの横で固まっているキーラとケーラは声も出せない。
そして、本気で怒っているクリムに対し、何も言えず固まるリズ。
「クリムを怒らせて……アンタたちバカなの?言っとくけど、私も怒ってるんだから、庇う気はないわよ。」
クリムの様子を見て、アンジェがため息交じりにリズたちに告げる。
そして、その背中の影ではカミーラとヴァンパイアたちが、怒らせなくてよかったぁと、身を寄せ合って震えていた。
カミーラたちも、一歩間違えば、あちら側にいたのだから仕方がない事だった。
「リズちゃんのお仕置きは、ソーマに残しておくとしても、アンタらはいらないよね。まぁ今まで一緒に過ごした仲だから選ばせてあげるよ?丸焼け?氷漬け?それとも切り刻んで活け作りになってみる?生き埋めっていうのもあるよ、どれがいい?」
三人の護衛に向けて見せつけるように属性魔法を発生させるクリム。
「ま、待ってくださいっ。部下の非礼は私の罪です。どうか、どうか寛大な心でお慈悲を……。」
リズがクリムとカエラたちの間に立ちふさがり、その場で土下座をする。
「……リズちゃん、どいて。あなたを傷つけるとソーマが悲しむから。」
「いいえどきません。彼女たちは私が幼い頃から一緒にいてくれた腹心なのです。彼女達を罰するのであれば、まずは私からお願いします。」
恥も外聞もなかった。とにかく今はクリムの怒りを納める事だけを考えなければ……。リズの心はその事だけで一杯だった。
クリムがどうしようか悩んでいると、その肩を優しくポンポンと叩かれる、
◇
……ん、ここは?
目が覚めて最初に飛び込んできたのは見慣れぬ天井だった。
「あ、お目覚めですか?」
声をかけてきたのは、新しく配下となったサキュバスの一人。
「あ、うん。大丈夫だけど……。」
そう言って起き上がろうとするのをサキュバスが押しとどめる。
「無理しないでください、かなり血を失っておりますので。」
「血を?……あぁ、そうか。」
サキュバスの言葉で、自分に何があったのか思い出す。
そして、いつもの蘇りと感覚が違う事から、どうやら死ぬ前にクリムが治療してくれたらしいことを知る。
「……あれからどうなった?」
俺は外の状況をサキュバスに聞くと、彼女は困った顔で告げる。
「現在、絶賛揉め事中です。」
「そうか……とりあえず手遅れになる前に何とかしようか。」
俺は起き上がると、外の騒ぎの中心へと歩き出すのだった。
現場に着くと、飛び込んできたのは、殺気を纏わせ下手に近づけない雰囲気のクリムの姿と、その前で地に伏せているリズ、そしてその背後で震えているカエラたち3人の姿。
一目で、何が起きているのか分かる構図だった。
分からないのは、何故か、アンジェの陰に隠れるようにしてガタガタ震えているカミーラとヴァンパイアたち。
俺が寝てる間に何かあったのだろうか?と疑問に思いながら、殺気まみれのクリムに近づき、その肩をポンポンと叩く。
「ソーマぁ、ソーマぁ……。」
さっきまでの殺気が嘘の様に掻き消え、泣きじゃくりながらしがみ付いてくるクリム。
「心配かけたね。クリムが助けてくれたんだろ?ありがとな。」
「ううん、当然の事だよぉ。それよりもう動いて大丈夫なの?無理してない?」
「クリムが心配だったから、多少の無理はするよ。それより今どういう状況?」
「あ、うん、犯人の死刑執行を邪魔しようとした共犯容疑者をどうしようか悩んでいた所なの。」
「そ、そうか。なら、とりあえず死刑執行は取りやめな。」
危ないところだったらしい。間に合ってよかったとホッと胸をなでおろす。
正直なところ、カエラたちを許す気はないのだが、クリムが無抵抗のものを手にかけた場合、その事でクリムが後々思い悩む事が有ってはいけない、そして、そのことでリズとの間に溝を作らせたくはない。ただそれだけの理由だったのだが、そんな事を知らないリズは、思いっきり感謝の念を送っていた。
「んー、ソーマがそういうのなら……でも、無罪放免ってわけにはいかないよ。」
「ま、そうだよな。……で、何であんなことしたんだ?」
俺は、カエラに視線を向ける。
「もごっ、むが……。」
口の中に詰まった土の所為で喋れないらしいので、俺は口に手をツッコんで書き出してやる。
「グほッ……ゴホッ……。」
「で、何であんなことしたんだ?」
俺は改めて聞いてみる。
「グっ……。貴様が本当に不老不死なのか確かめようとしただけだ。」
「だけって……。それで俺が死んだらどうする気だったんだ?逆に不老不死だった場合は?」
「貴様が死ねば、姫様に不埒な真似をする奴がいなくなるだけだ。そして貴様が本当に不老不死だった場合……。」
カエラはそこで一旦言葉を切り、ちらっとリズを見る。リズは悲しそうな瞳でカエラを見ている。
「そんな化け物の側に、大事な姫様を置いて置けるか。私の命に代えて姫様を逃がす。」
そう言い放つカエラ。
……ダメだ、こいつ。リズが大事なのはわかるが現実が見えていない。
「だってさ、リズ。この始末どうつける?」
「姫様には関係ないっ!すべては私が……っ!」
パシンっ!パシンっ!
小気味いい音が響く。
カエラの右頬をクリムが、左頬をリズが引っ叩いた音だ。
「アンタどうしようもないバカなの?アンタの行い総てがリズの責任ってわからないかなぁ?」
クリムがカエラの頬をバカにするようにぺちぺちと叩く。
俺を刺したことがよほど許せないらしく、ダーククリムモードから戻ってきていない。
「クリム様の言う通りです。誰がそんな事を頼みましたかっ!私の事を思うのであれば、私の意にそぐわない行動を慎みなさいっ!」
そして、そんなカエラを失跡してから、リズが再び俺の前で再び土下座をして言う。
「この度の事、すべては私の責任であります。罪を犯した身で、こんなことを申し上げるのもつらいのですが、私はどうなっても構いませんので、どうか、彼女らはご寛恕いただきたく……。」
「はぁ……そうは言われてもなぁ。」
俺は困り顔でアンジェを見る。困った時のアンジェ頼みだ。
それが分かっているのか、アンジェは呆れた顔のまま近づいてくる。
「ハイハイ、わかったわよ。何とかすればいいんでしょ?とは言ってもねぇ……。」
結局、アンジェの考えた案は、リズを含めて、立場を奴隷に落とす事と、実行犯のカエラとついでにほかの二人の護衛には何らかの罰則を与える事、罰則の内容はクリムに一任することだった。
そのままここに放置という案も出たのだが、それは俺が却下した。放置すれば、そう遠くない未来に彼女たちを待つのは無残な死か、良くて奴隷として売り払われるだけだからだ。
リズの事は気に入っているので、そんな目に合わせる気はないし、俺以外のものが奴隷としてリズを扱うのはなんだか許せなかったからだ。
結局、リズは奴隷になることを受け入れ、当初は反発していたカエラたちも、リズが受け入れたことで、大人しく奴隷になることを了承した。
奴隷化に関する小道具は、以前奴隷商のザコビッチのアジトから奪ってきた小物の中にあったし、隷属の指輪も在庫があり、奴隷紋の刻み方もカミーラが知っていたので何の問題もなく、リズたちを無事に奴隷にすることが出来た。
ただ、リズに奴隷紋を刻むのは忍びなかったので、リズに対してだけは隷属の指輪のみで縛るだけに留めておいたが、それについてアンジェもクリムも反対しなかったので良しとしよう。
「じゃぁ、後は罰則ね。何にしようかなぁ?」
ニヤリと邪悪に嗤うクリムを見て、カエラたちは心底震え上がる。
「よし、決めた。女騎士と言えばクッころよね?だからあなた達はクッころの刑よ。」
クッころと言われても何の事か分からないカエラたちはぽかんとしていたが、そのまま村の広い部屋に連れて行かれるにつれ、何やらとんでもない事をされるのだと直感で感じ取り震えあがっていた。
……それからどうなったかって?
それはもちろん……眼福ものでした、とだけ言っておこう。
ただその状況でも俺が手を出せるわけでもなく、サキュバスたちが代わる代わるご奉仕をしてくれたおかげで、何とか賢者の心を保つことが出来ていたけど、そうじゃなかったら死人(8割の確率で俺)が出ていたのは間違いがなかった。
そして、サキュバスたちも、極上の食事にありつけて大変満足し、「一生ついていきます」と改めて忠誠を誓ってくれた。
ただ、自分で言いだしておきながら、俺とはキスまでしかせず、ご奉仕を受けている俺を見て「浮気者」と散々罵るクリムと、俺にご奉仕しながら挑発を繰り返すアンジェやカミーラとの間で、ひと悶着があり、その後のことは……あまり口にしたくない。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




