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小さな村の……3 北の廃村

「うーん……こっちの方に確かに気配を感じるんだけど。」


ソーマたちと北の廃村に辿り着いてから三日。アンジェは、今日も村の周りを探索していた。


アンジェは、村に辿り着いた時、かすかに残る気配を感じ取っていた。その気配は魔族特有のものであり、つまり、村が廃村なのは魔族が関わっていたからだ、と結論付ける。


魔族の大半は人間族と仲が良くない。


単純に「人間は弱いから」と見下している者と、「人間は危ない」と脅威に感じて排除しようとしている者達をひっくるめた『人族排除派』が全体の約半分であり、残りの半分の内の3割が人間に関わるな、関わらせるな』という、関わる気がない『中立排斥派』。そして残りの2割が、比較的人間族に好意を持っている『人族共存派』である。


もっとも、人族共存派の中でも、「来るなら拒まないけど、こちらから歩み寄る気はない」という消極的共存派と、自ら人族の中に飛び込んでいく積極的共存派に分かれるため、本当に人族の味方と言える魔族はごく少数でしかない。


だから、この気配の魔族も、きっとソーマたちの障害になる、と思って、先に処分してしまおう、と探しているのだが、中々尻尾を掴ませず、今日に至るのだった。


しかし、それも今までの事。アンジェは、今までと違ったハッキリとした気配を捕らえ、それを追っている。


「ここね。……いるんでしょ、出てきなさい。」


アンジェ達、サキュバスは、直接戦闘に長けた種族ではない。しかし、それを補うほどの魔力と探査能力のお陰で、気配だけで相手の大体の力を図れる能力を持っている。


そして、その力によれば、相手はサキュバス族と同様であり、個人差はあるものの、アンジェより上回っていないことははっきりとわかる。


つまり、直接やり合っても、負けることはないだろうという自信がアンジェにはあり、その自負が、ここでの直接対決を望んだのだ。


「久しぶりね、アンジェリッタ。元気だった?」


「カミーラっ!あなた無事だったの?」


アンジェは、姿を現した旧友に駆け寄っていく。


「あなたこそ、よく無事で……。ほんと驚いたわよ。……よかった、無事で。」


瞳に涙を浮かべて、カミーラが抱き着いてくる。


「もぅ、ヴァンパイアの癖に相変わらず泣き虫なんだからぁ。」


アンジェは、抱き着いてきた旧友を受け止め、その頭を優しく撫でる。


「うー、半分だけだもん。ヴァンパイアって言うなぁ。」


魔族の中において、ヴァンパイアという種族は、内包する魔力が多く、強い再生能力を持ち、魅了の魔眼を始めとする、精神に作用する多彩な魔法を使い分ける、かなり強力な種族である。


その反面、自己顕示欲が強く、自分は高貴な生まれである!と高笑いするような種族……いわゆる、イタい種族だったりするのだ。


最も、そんなことはするのは、大抵が若い個体であり、ヴァンパイアたちの多くは、そういう時を経て大人になり、自分の若かりしときの言動に羞恥で悶え、黒歴史として封印し、分別ある者へと成長していくので、若者たちの言動を、種族全体で生暖かい目で見守るという心優しき種族でもあった。


そして、目の前の少女、カミーラはそんなヴァンパイア族と、アンジェと同じサキュバス族の間で生まれたハーフヴァンパイアであり、ハーフサキュバスなのだ。


サキュバス族とヴァンパイア族の能力には近しいものがあるため、その両方を受け継いだカミラは、ヴァンパイア特有の再生能力を持ち、他のサキュバス族より、魅了の力に長けた、まさにハイブリッドと呼ばれるにふさわしい能力を持っていたが、生来の優しい心根のせいで、その力が十全に発揮されることは少なかった。


しかし、それ故に、ヴァンパイアの若き恥ずかしい行いを冷静な目で見ることが出来るがために、自分の中に流れるヴァンパイアの血がいつ暴走するかと戦々恐々とし、ヴァンパイアであることを嫌っていたりするのだ。



「カミーラ、あなた今までどうしてたの?ほかのみんなは?」


ひとしきり泣きじゃくっって、落ち着いたカミーラに、アンジェは優しく声をかける。


「うん、今は数人の仲間と一緒に細々と暮らしているの。そうだ、アンジェリッタも仲間になってよ。最近食べ物が無くなっちゃって困ってたんだ。あなたがいれば、何とかなると思うのよ。」


「食べ物って……まさかっ!」


カミーラの話では、他に全部で12人のサキュバス族とヴァンパイア族がいるらしい。


そして彼女らの食事と言えば、人の血……正確に言えば、血液の中に混じっている魔力と、人の精気……生命力だ。


その食事が無くなったことと、空っぽの村がアンジェの中で結びつく。


「アンジェリッタがリーダーになってくれれば、みんな言うこと聞いてくれると思うのよ。ほら、私だと、半分って侮られるし。それでも、今までは食事を見つけてくることで、何とか従ってくれているんだけどね。今回も、危ないところで、食事になる人間が来てくれて助かったよ。」


「カミーラ、アンタまさか……。」


「ごめんね、アンジェリッタ。私あの人たちがやり過ぎないように見てこなきゃ。せっかくの食糧をなくすわけにはいかないからね。」


「ま、待ちなさいっ!」


空高く飛び上がるカミーラを追いかけようとして、自分の体が思うように動かないことに気づく。カミーラの魔眼の力だ。


「クッ……舐めるんじゃないわよカミーラっ!」


アンジェは、自分を捉える魔力の塊を無理やり引きちぎる。


「ソーマに手を出すのは許さないんだからねっ!」


アンジェは、カミーラが飛び去った後を追いかけていった。



「なぁ、本当にこっちであってるのか?」


俺は前を行くサキュバスに声をかけるが、何の返事もない。


というより村の入り口で「アンジェリッタ様が待っている、ついてこい」という言葉を発したきり、一言もしゃべっていないのだ。


いかにも怪しい。怪しいのだが、アンジェと同じサキュバス族なので、下手に手を出すことは出来ない。


「よく来たわね。」


「アンジェはどこだ?」


広場につくと、そこにはアンジェとよく似た雰囲気の少女が待ち構えていた。


「アンジェリッタはこの先で待っててもらってるわ。それより、あなたにお願いがあるのよ。」


「なんだ?」


この先にアンジェがいるという少女の言葉に嘘はないようだ。だが、五体満足でいるという保証はどこにもない。


「あなたなんでしょ?アンジェリッタに食事を与えているのは?私達にも分けて欲しいの……わかるでしょ?」


少女が近づいてきて、そのささやかな身体を見せつけるようにくねらせる。


「あー悪いんだが、アンジェから聞いてないのか?俺体力ないから、一人相手にするだけで死んじまうぞ?」


無駄だと思いつつ、一応そう言ってみる。


「大丈夫よ。その為にコレがあるんだから。」


そう言って少女が取り出したのは、怪しげな色と異臭を放つ液体の入った小瓶だった。


「これはねぇ、魔界の精力剤。効果は魔王様の保証付きよ。」


……そんな怪しいもの、飲みたくはない。飲みたくはないが……。


少女はその瓶の中身を口に含むと、俺に口づけをし、その中身を注ぎ込む。


押し返そうにも、その舌遣いが巧妙で、俺はあえなく飲み干してしまう。


「うふッ。効果が出てくるまで、私が食事させてもらうわね。」


少女はそういうと、俺の首筋に、その可愛らしい口から覗く牙をたてる。


何かが吸い出される感じがするが、体内に廻った、怪しい力のせいで、深く考えることが出来なくなり、そのまま意識が吹っ飛んだ。



「このクリム様をなめんじゃないわよ。ソーマはどこにいるのっ!」


廃村にて……。


クリム達を足止めするためにやってきたバンパイアたち5人。


すでに、リズと護衛三人は、不意を突いて血を戴き、現在は動けなくなっている。


そして、この目の前の娘、クリムも同じように動けなくしてしまえば任務完了だ。後は、カミーラが来るまで、血を吸いたい放題。


やり過ぎはいけないけど、ある程度空腹感を満たすぐらいなら大丈夫なはず。


簡単なお仕事だ……とさっきまでは思っていた。


しかし気づけば、仲間の四人がすでに地に倒れ伏している。生きているのかどうかもわからない状態だ。


「もう一度聞くよ?ソーマはどこ?」


「……向こうの広場にカミーラが呼び出して……。」


「カミーラって女ね……。そう、よくわかったわ。」


重い一撃を脳天に喰らい、あっさりと意識を手放すヴァンパイア。


「ソーマの浮気ものぉぉっぉ!」


クリムはそう叫びながら、ソーマが言ったと思われる広場に向けて駆け出すのだった。

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