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小さな村の……2 北へ

メルクリア王国の東にあるガイスト王国。正義感に溢れ、平和を愛する心優しい国王に治められた静かで豊かな国だ。


メルクリア王国とは、古くから友好的で、国家間の交流も盛んであった。現にガイスト国の現国王の妻は。メルクリア前国王の姉君であることからも、両国の関係が良好なのは誰の目にも明らかだった。


だから、ガイスト王国が攻めてくるなんてことは、メルクリアの国民誰もが思いもよらない出来事であった。勿論、当のクーデター軍の首脳陣たちでさえも。



「なぜだっ、何故ガイストが攻めてくる?」


将軍がそう叫ぶが、その場には答えられる人物は一人もいなかった。……ただ一人を除いて。


「恐れながら、ミゲル将軍。ガイスト王国が攻めてきたのは、あなたに責任がありますぞ。」


その場の人々が発言したものを一斉に見る。


「俺のせいだと?どういうことだ、答えろ宰相っ!」


「元宰相ですよ。あなた方によって、前政権は瓦解していますからな。」


宰相と呼ばれた男は、何事も無かったかのように役職を訂正する。現に、クーデター軍により王族が瓦解した今、彼には何の役職もなく、単に政治に混乱をきたさないための助言役としてこの場にいるに過ぎなかったのだから。


「そんなことはどうでもいい。それより、どういうことか説明しろ。」


「いやいや、役職というものは、これでいて中々に大事なものでございますぞ。」


「どうでもいいと言っただろうが。それよりどういう事なんだ?」


「はぁ……まぁいいでしょう。それより本当にお分かりになりませんので?」


「何がだ?」


「ガイスト王国が攻めてきた理由ですよ。」


「わからんから聞いておるっ。第一、あの国の王は平和を愛すると聞いておるぞ。それなのになぜ攻めてくる?」


「さよう、彼のガイスト王国国王、アバレスト=ガイスト様は平和と細君をこよなく愛する心優しきお方でございます。」


「ならばっ……。」


憤る将軍を制し、元宰相は続ける。


「そして、何より、正義感溢れるお方。そんな方が、愛しき妻の実家が逆賊に荒らされたと知ったらどうすると思いですか?逆賊に荒らされ、妻の家族、親族が行方不明……それを知った心優しき、正義感溢れる人であれば……もうお判りでしょう?」


「俺達が逆賊だとッ!」


その場にいた者達が騒めく。中には剣に手をかけるものまで出てくる。


「あなた方自身は憂国の士かもしれませんが、王族から見れば十分に逆賊でございましょう。立場が変われば視点も変わる……世の中そういうものでございます故。」


「……では、ザンクよ。今この場で、お主を宰相として任命する。その上で、どうすればよいか意見を具申せよ。」


ミゲルが元宰相に向かってそう告げる。


「やれやれ、引退はさせてもらえないのでしょうな。」


「当たり前だ。有能な者を遊ばせておく余裕はわが国にはないのだ。」


「はぁ。お引き受けいたしましょう。……では、ガイスト王国に対する事ではありますが……。」


ザンクは、自らの考えをミゲル将軍を始め、その場にいる者達へと伝えていく。


「……むぅ。しかし、まったくの無防備でいるわけにはゆかぬ。ベスパの街を前線とする。よいな。」


「お好きになされよ……言っても無駄でありましょうから。」


ザンクが進言したのは、ガイスト王国に和平の使者を出すこと。その上で、わが国の現状を説き、王族に手を出す気はなかったことを主張して説明する。現在、行き違いがあり王族の姿を見失ってはいるが、王族を見つけても害する気はない事を、話し合い協力していくつもりだという事を国内外に向けて喧伝する事などだった。


その際、ガイスト王国を刺激しないためにも、差し向けるのは最低限の武力にしておいた方がいいと進言したのだが、これについては他の幹部たちの了承が得られず、結局、国境に近く、多数の軍を駐屯させても問題のない経済力があるベスパの街へ一軍を差し向け、その上でガイスト軍との交渉にあたることが決議されたのだった。


尚、ガイスト王国への使者は、王妃とも面識のある自分が行くとザンクは申し出たのだが、ミゲル将軍によってそれは却下された。


ミゲルにしてみれば、ザンクの知恵と知識は、手元において活用したい貴重なものだったからだ。


他の幹部たちには見えていなかったが、他に解決すべき問題が山積みになっていることをクーデター軍の中でミゲル将軍のみが実感していた。そして、それにはザンクの力が必要になる事も。


かくして、新生メルクリア王国とガイスト王国の泥沼の和平交渉の火蓋は、こうして切られたのだった。



「あの時ほど、情報の重要さを思い知ったことはなかったよなぁ。隣国の王妃がリズの伯母だという事を知っていたら、サッサとガイスト王国の王都を目指したんだけどなぁ。」


「知った時には、逆に動けなくなっていたもんね。」


「ん、子供たちの相手はいいのか?」


お茶を入れたティーポッド片手に、横に座ったクリムにそう声をかける。


「リズちゃんが追いかけまわしてる。元気だねぇお姫様は。」


そういいながら、俺の空になったカップにお茶を注ぐクリム。


「ありがとな。……結局争いの下になった内容を知らないままに、俺たちは北に向かって移動したんだよなぁ。」


「北……ね。」


クリムが、突然間を詰めてきて俺に抱き着く。そして俺の首に両腕を回しキスをしてくる。


この一年で、クリムもリズも、キスがすごく上手くなっていて、そんな風に責められたら俺の理性が持たない。


しかし、いつの間にか、下半身に添えられたクリムの腕から冷気が広がり、俺を氷漬けにする。


「結婚するまでお預けって言ってるでしょ。……んッ、チュッ……。」


俺の口内にクリムの舌が侵入し、思うが様に蹂躙し出す。


頭は熱で浮かされ暴走寸前だが、肝心の下半身は氷漬けになっているためその熱が伝わらず、当然何の反応もしない。


「私だって、ソーマと結ばれたいよぉ。……んっ……でも、いま結婚するわけにはいかないんでしょ?……チュッ……ン……。」


そう、クリムは結婚したらしてもいいと言ってくれている。だったらサッサと結婚すればいい。クリムもすでに14歳。成人まであと1年ほどあるが、この世界14歳で結婚はざらなので何の問題もない。


そう、クリムと結婚するだけであれば問題はないのだが……。


「ン、チュ……チュッ……。北での浮気騒動忘れてないからね。」


そう言いながら一層激しく攻め立てた後、「アンジェと遊んでくる」と言ってクリムが去っていく。……下半身氷漬けで動けない俺を残して。


「浮気騒動ねぇ。俺は悪くないだろうが?」


動けない俺は、仕方がないので、北に向かった時の事を思い出すことにした。



「えっと、この村……。」


「寂れてますわね。」


「いや、寂れてるって言うか……廃村だろ?」


ようやくたどり着いた、北の果ての村。戦火を逃れるためか、東側の住民が西へ、北へと移動している中、なるべく人目に付かないように、と移動して辿り着いたのだが、その村には誰一人として住んでいなかった。


「おかしいわね。逃げ出したって感じではないんだけど。」


アンジェが村の中を巡りながらそう言う。


アンジェの言うとおり、逃げ出したのであれば、食料や貴重品など、取り敢えず持てるものは持てるだけ持っていくのが普通だ。


しかし村の中の様子は、普段と変わらぬ装いのまま、住民だけがある日突然消えてしまった、という感じなのだ。


「とりあえず、食料があるのは助かります。村の住人達にはあとで詫びるとして、今はこれをいただきましょう。」


ある家の中を調べていたカエラが、食材を見つけるとそう言ってくる。


「そうだな。」


実際、この数日は、逃げるのに必死で、ろくなものを口にしていなかった。


美味しいものを食べて、しっかりと眠れば、何かいい案も思いつくだろう。だから今は分からないことを考えるより、目の前の食事と休息の方が大事だと、結論付ける。



「どうしたアンジェ?食べないのか?」


「あ、うーん……。やっぱり気になるから、ちょっと周りみてくるね。私の食事は後でソーマから貰うから、ソーマはしっかりと食べて栄養付けておいてね。」


サキュバスにとっての食事というのは、基本的に生気を吸う事であり、人間と同様の食事をすることもあるが、それはあくまでも副次的なものであって、食事とはなりえない。


そして、アンジェは、旅の間、毎晩のようにソーマから生気を吸い上げているため、碌なものを食べていなかったソーマたちと違い、元気いっぱいであった。


毎晩、というと羨ましく感じるだろうが、ソーマはいまだ童貞である。アンジェといたすと死に至ってしまうため、最後の一線を越えることが出来ずにいる。


最近では、アンジェもソーマが死ぬまで吸い尽くさないように加減が出来るようになったが、それでもその先へ進もうとすれば、ソーマの命が尽きてしまうために手が出せないでいた。


そして、最近のソーマは「このままでもいいか」と諦めの境地に達しようとしていたのだった。



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