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ハーレム王町へ行く7

「着いたぁ!」


馬車がベスパの街に到着した時、俺は思わず叫んでしまった。


「長かったぜぇ。」


「そうだねぇ。この三日間が1週間以上かかった気がするよ。」


クリムも嬉しいのか、訳のわからないことを言っていた。


だが、それも仕方がないことだ。俺が転生してからこの町にたどり着くまで、すでに三か月以上経っている。クリムと出会ってからでも一か月以上の時が過ぎているのだ。そろそろ人里が恋しくても仕方がないだろう?


そんな感じで、クリムと喜びを表現していると、横からリズが、つんつんと袖口を引っ張る。


「ン?どうした?」


「あ、はい、実はですねぇ、街に入ったら夕方まで、私と一緒に街中を歩きませんか?……いわゆるデートのお誘い、というものなんですが。」


顔を赤らめながらそう言うリズの仕草に、不覚にもときめいてしまう。


「あー、うん、デートと言うからには二人っきりで、ということで間違いないかな?」


「はい、そのつもりです……。恥ずかしながら、デートというものをしたことがないものですから、すべてお任せしてしまうのですが……。」


リズの顔は益々赤くなり、羞恥のためか、顔を伏せてしまう。


「いいよ、任せてくれ。門をくぐったら、適当なところで降ろしてもらおう。」


俺は俯いているリズの頭を軽く撫でて、そう告げる。


はっきり言えば、俺だってデートの経験があるわけじゃない。だけど、こんな顔で言われたら、任せろ、以外の答えなんか出るわけないだろ?


大丈夫。確かに俺はリアルデートの経験はないが、ギャルゲでのデートはすでに何万回とこなしているんだ。


あらゆるタイプの女の子とのデートイベントをこなしきった俺に死角はないっ!



「あのー?」


「うん、わかってる、わかってるんだよ。」


困ったように俺を見上げるリズ。


今のリズの恰好は、周りに合わせたのか、いつものドレスとは違って、少しだけ上品なワンピース、だ。


見る人が見れば、そのワンピースの素材が、かなり上物だということはわかるだろうが、とりあえず、一見すればちょっといいところのお嬢様、で通る範囲に収まっている。


そして、俺はというと、ボロボロの着古した旅人の服……思いっきり周りから浮いてます。


……仕方がないじゃないか、これしか持っていないんだから。


ちなみに同じ立場であるはずのクリムと、そもそも衣服など気にしないアンジェは、リズの護衛のカエラさんたちから予備の洋服をもらって、それを着て今頃はショッピングを楽しんでいるはずだ。


「とりあえず、お洋服を見繕いましょうか?」


「ハイ、ソウデスネ。」


俺は黙ってリズの後をついていくしかなかった。



「えーと、なんか悪いな。」


「いえいえ、これも謝礼のうちですから。」


衣装一式とそれに付随するものすべての支払いを、リズがしてくれたことに、俺が頭を下げると、リズは笑ってそういった。


「それに、かっこよくなりました。私がご褒美もらっちゃった感じですよ?」


そういいながら腕を絡めてくるリズ……なんだ、この可愛い生き物は?


「え、えっと、じゃ、じゃぁ、次はどこへ行こうか……。」


動揺を押し隠しながらなんとか声を絞り出す。


「えー、さっきソーマさん、俺に任せろって言ってた。」


くすくす笑いながら言うリズ……これは絶対わかって言ってるやつだ。


「あー、はいはい、そういいました。でもゴメンナサイ、見栄張りました。俺もデート初めてなんです。それ以前にこの国そのものが初めてです、はい。」


俺は諦めて白旗を上げる。ここで、さらに見栄を張ることも出来たが、どう考えてもろくな未来しか思い浮かばないので、早々に降参することに決めたのだ。


「くすくす、仕方がないなぁ。でも、本当に私、ソーマさんと一緒ならどこに行っても、何をしててもいいんですよ?」


「そうは言われてもなぁ……。って、そうだ、お腹すかないか?」


「そうですね、言われてみれば少し空いたかもしれません。」


「よし、じゃぁ、ここは定番の()()だな。」


「アレ……ですか?」


リズは何のことかわからず俺を見上げる。


「そう、『いい処のお嬢様が、庶民の安っぽいジャンクフードを食べて、「なんておいしいのっ。庶民の皆様はいつもこんなの食べることが出来てうらやましいですわ」と驚く』というものだ。」


「まぁ、そんな素敵な食べ物があるんですか?早速行きましょう!」


俺の言葉を聞いて、リズが瞳を期待で輝かせながら、俺を引っ張って、市場の方へ歩き出す。



「さて、どれがいいかなぁ……あれかな?」


市場のはずれ、休憩スペースにもなっている広場の近くには、食べ物関連の屋台が並んでいる。


それらをざっと見まわして、俺は一つの屋台に目をつける。


肉串の店だ。お嬢様であれば、直接齧り付く、肉串などはあまり馴染みがないだろう。実際、野営の時も、少し困っていたようだったからな。


「おっちゃん、これ何の肉だい?」


串4本で銅貨1枚。あまりにも安いので、支払った後、思わず聞いてしまう。


「色々さね。余った肉をかき集めてるんだ。そうじゃなきゃ、こんな値段で出せるかよ。……はいよ。」


カッカッカッと笑う店のおやじから、串を受け取り、とりあえず1本をリズに渡す。


リズは受け取った串と俺の顔を交互に見て、少し困った表情を見せる。


……あー、毒見ね、はいはい。


俺は1本の串にかぶりつく。それを見たリズが同じように串にかぶりつく。


なんだ、毒見じゃなくて食べ方が分からなかっただけか。


俺は肉を咀嚼しながら、リズの様子を眺める。


……筋のある肉に少し苦労しているようで、その困った仕草も可愛いと思う。


しかし、この肉串……。


俺は1本を食べ終えると、そのままリズが食べ終えるのを待つ。


「ふぅ、ご馳走様でした。でも、こういっては何ですが……。」


「あ、うん、いいよ、言わなくても。それよりもう一本あるけど?」


俺がそういうと、リズは静かに首を振る。……だよねー。


俺は残った2本の串を、近くで物欲しそうに眺めていた子供に渡す。すると、わらわらと集まってきたので、俺は屋台のおやじに銅貨数枚を渡し、あの子供たちに、って言い残し、リズの腕を掴んで逃げだした。


「はぁ、はぁ、ここまでくれば大丈夫だろ。」


「は、はいぃ、びっくりしましたぁ。どこにあんな人数が隠れていたんですかねぇ。」


「そうだな。ほんとびっくりだ。……っとごめん。」


落ち着いたところで、俺はリズと手を繋いでいたことに気づき、慌てて離す。


しかし、リズは、逆にぎゅっと力を入れて握り返してくる。


「もう少しこのままじゃ、ダメですか?」


「……ダメだという理由が思いつかない。」


俺は諦めて、手を繋いだまま街中を歩くことにした。



「本当に、さっきは驚きました。でも、あの子たち美味しそうに食べてましたね。」


「あぁ、あれでも、あの子たちにとってはめったに食べられないご馳走なんだろうな。」


肉串屋の肉……筋張っていて固く、中々噛み切れない。えぐみと臭みをたれで無理やり消している感じで、まずい訳ではないが、それだけというものだった。


よくよく考えてみれば、料理というものが現代の地球ほど発展していないこの世界では、素材の良さがそのまま味に直結しているといっても過言ではない。


だから、庶民が口にできないような上級素材をふんだんに使った料理を、常日頃から口にしている貴族のお姫様が驚くほどの食べ物が、そこらの屋台で売ってるわけがないのだ。


Mission Failed……


ガックリと項垂れる俺の頭を優しくポンポンと叩くリズ。


「どうしたんですか?元気出してくださいよ。」


ええ子や。ホンマええ子やで。


こんないい子には、やっぱりぜひおいしいものを食べさせて笑顔にしてあげたい。


とはいうものの、すでにお昼時を大幅に過ぎているせいか、さっきの屋台程度ならともかく、大概の店での食事の提供時間が終わっている。


……あ、そうだ。


周りを見回し、あるものが目に入ったので、名案が思いつく。


「ちょっと待ってて。」


俺は繋いでる手を放し、リズをその場で待たせておいて、目を付けたお店へ向かう。


目的の物を手に入れて、リズの元に戻ってくると、彼女は少しつまらなそうな顔をしている。


「お待たせ。」


「待たされましたぁ。ダメですよぉ、ソーマさん。これはデートなんですから、ちゃんとエスコートしてください。というか、私から離れないでくださいよぉ。」


そういいながら腕を絡めてくるリズ。


なんか今日のリズはかなりの甘えっ子になっている。……いや、コレが素なのだろうか?


「ごめん、ごめん。お腹すいただろうと思ってね。」


俺がそういうと、応えるかのように、リズのお腹から、くぅっという可愛い音が鳴る。


小さな串1本しか食べていないのだから、仕方がないのだが、リズは真っ赤な顔でうつむいてしまった。



「えっと、この辺りならいいかな?」


町はずれの一角、周りに何もない少し広くなっているところで、俺は簡易的なかまどを組み、アイテム袋の中から少量の薪を出し火をつける。


そして、かまどの上に鍋を置き、水を注ぎ、さらにその上に「せいろ」をセットする。


「えっと、ソーマさん、それは何ですか?」


俺がやっていることを興味津々といった感じで眺めていたリズから質問を受ける。


「あぁ、これは、せいろ、と言って、蒸し料理に使う道具さ。」


鍋とか食器などは奴隷商のアジトから根こそぎもらってきたものだが、この世界には蒸すという調理法がないのか、せいろにあたるものは見かけなかった。だから、暇つぶしもかねて、旅の合間に作ってみた。


「そして、これをセットします。」


俺はそういって買ってきたものを見せる。


「えと、ジャガ?……さすがにそれは……。」


ジャガと呼ばれる穀物……いわゆるジャガイモだ。


やせた土地でも育てることが出来、成長も早いが、その可食部分は、固くまずく、そのうえ、時折食あたりを起こすというので、人が食べるものではなく、主に馬などの飼料として栽培されている。


だからリズのこの反応もごく当たり前のことなんだが……。


「まぁまぁ、だまされたと思って。」


俺はそんなリズを宥めながらせいろにジャガを並べていく。


……ちょっと多すぎたか?まぁ、余ったらお土産にすればいいだろう。


そして、しばらく待ち、ちょうどいい具合にふかしあがったジャガを取り出して、上に十字の切れ目を入れひとかけらのバターを落とす。


「はい、熱いから気をつけてね。」


アイテム袋から取り出したお皿の上にのせてリズに差し出す。


しかし、リズは受け取ったものの、困った顔でこっちを見ている。


「あー、そのままかぶりついてもいいけど、熱いから、フォークとナイフ使った方がいいよ。」


俺はそういいながら自分の分のジャガにかぶりつく。


「あつっ……はふはふ……うん、いけるな。」


俺が食べているのを見て、リズも恐る恐る食べだす。


「あ……おいしぃ……熱っ!」


「気を付けなよ。中まで熱がこもってるから。」


「はふはふ……ん、おいしぃ……。」


リズは食べるのに夢中で聞いていなかった。


結局、あっという間に4つあったジャガバターは、そのうちの3つがリズのお腹に消えていったのだった。


「はふぅ……あのジャガがこんなにおいしいなんて……。」


「ジャガは、安いし、栄養価高いし、生産も容易い、そしていろいろな調理法がある万能の食材だよ。」


まぁ、万能は言いすぎだと思うが、はじめて、知識チートがうまくいったことに、そして何より、リズが今見せている笑顔……初めて見る年相応の無邪気な笑顔に俺は浮かれていた。



「ねぇ、ソーマさん。」


「ン?」


あの後、ちょっとのんびりしよう、と高台にのぼり、二人で街並みをぼんやりと眺めていた。


そして、今、横で街並みを一緒に見ているリズが声をかけてくる。


「んー、いきなりなんですけど、ソーマさんの前に道が二つあったとします。その道はそれぞれ別のほうを向いているんです。」


「うん。」


「片方は、正しき道。誰もがこうするべきだ、と、こうしなければいけない、こうするのが当たり前なんだという道です。その道ははたから見るより決して楽な道じゃないです。実際に歩いてみれば細かな凸凹があったり、上下の落差があったり、光が差さない場所もあったり、決して楽じゃないんです。でも、道の横にはアドバイスしてくれる人も大勢いて……もちろんヤジを飛ばしたりいい加減なことを言う人もいますが……それでも大勢の人に見守られ、励まされ、ほめられながら歩いていく道です。そして、長く険しいその道を歩きとおすことが出来たのなら、その先には約束された成功へとたどり着く……そんな道です。」


「うん。」


「もう片方は悪しき道。軽い下り坂から始まって、もう一方の道より楽に進むことが出来ます。その道では、見ている人もいなく、何をするのも自由です。疲れたらその場で寝たっていい。横道があるなら、そちらへ行ってもいい。歩くのをやめたっていい。何をしようが誰も何も言いません。すべては自分のなすがまま、やりたい放題の道です。そしてその先に待っているのは、今まで歩いてきたことそのものが結果となる……そんな道です。」


「うん。」


「ソーマさんなら、どちらを選びますか?人々と寄り添い、長く険しい、定められた道か、自分一人の楽だけど、何の保証もない、それどころか途中で途切れるかもしれない不定の道か?」


「そりゃ、また、難しい問題だね。俺だったらどっちを選ぶか……か。俺なりの答えはあるけどね。リズの助けにはならないよ?」


「え?どういう……。」


「リズの場合、どっちを選んでも一緒ってこと。道を選ぶ、その時点で既にもっと大きな道を歩いているってことだからさ。」


「言ってる意味が……分かりません。」


「今はわからなくてもいいよ。リズも難しいこと言ってる様だけど、要は、貴族としてこのまま決められた道を歩いていくのか、すべてを投げ出して逃げだすのか?どっちを選ぼう?ってことだろ?」


「…………。」


「問題なのはどこを歩くか?じゃないんだよ、どう歩くか?なんだ。正しき道を歩いたところで、自分がどうしたいのか、何をしたいのか?それが分からず言われるままに歩いて行ったところで、正しい道にすすめるはずがない。逆に逃げ出したはずの道でも、自分の中に、確固したる意思があれば、その道はおのずと正しいほうへ繋がる。」


「……よくわかりません。」


「要は、道は2本だなんて誰が決めた!ってこと。あの道だって、複数の先に細かな道があるだろ?」


俺は眼下に見える街並みを指して言う。


「リズがリズである限り、リズの中にあるものを忘れない限り、どの道を進んでもリズの思い描く道につながってるよ。だから、どっちでも好きな方を選べばいいさ。それに、必ず一人で歩かなきゃいけないわけでもないだろ?誰かと一緒なら、どんな道でも楽しめるさ。今日だって、何の変哲もない道を歩いてきたけど、楽しかっただろ?」


「……そうですね。ちなみに手を繋いで歩いてくれますか?」


「リズが望むなら、ね。なんていってもデートだし。」


そういって差し出した俺の手を、リズはしっかりと握る。


「そろそろ帰ろうか。」


「そうですね。帰りましょう。」


そういって振り返ったリズの笑顔は、今までの中で一番輝いていた。

ようやく街に入りましたが、次回すぐ出てしまいます(><)



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