ハーレム王街に行く 5
「リーゼロッテと申します。この度は助けて頂き、ありがとうございました。」
そう言って、お淑やかに頭を下げる目の前の少女。高貴なのはその所作でよくわかるが、場所が場所なだけに、非常に場違い感がある。
「ご丁寧に、どうも。俺はソーマ。貴族の作法とかよくわからんから無作法なのは勘弁してくれ。」
「えぇ、わかっております。このような場で作法だとかマナーとか、いう方が無粋というものですわ。私共の事は構わず、普段通りでお願いいたしますわ。」
「そう言ってもらえると助かる。で、こっちがアンジェでこっちがクリム。実際、アンタらを助けたのはこの二人だよ。俺は無様にも、最初に斬られて気絶してただけだ。」
「気絶?」
リーゼロッテの横に控えていた騎士が思わず口にする。
「そう気絶。どうやら斬られ処が良かったみたいでね、傷は大したことなかったんだけどな。何と言っても俺は平和主義だから、こういう争いに慣れてなくてね。」
「いや、あの傷で気絶だけって……。」
「斬られ処が良かったんですよ?気絶してただけですよ、気絶……わかりますよね?」
「あ、はい……ソウデスネ。」
俺が少し強く言うと、何故か彼女の身体か強張り、受け答えがぎこちなくなったけど、どうやらわかってもらえたみたいで何よりだ。
さて、最初の挨拶は終わった、後は謝礼の話だけど、どう切り出したものやら……。
「あ、あのっ……。このたびは助けて頂いて本当にありがとうございます。本来は贅を尽くした充分なもてなしをし、謝礼を用意するところですが、旅先という事もあり、手元不如意でございます。ですので、皆さまさえよろしければ、この先にあるベスパの街までご一緒していただけないでしょうか?街に着いたら、十分なおもてなしと謝礼を用意することをお約束しますので是非。」
俺が悩んでいると、彼女の方から言いだしてきたので、それに乗っかることにする。
「謝礼だなんて、そんなつもりで助けたわけじゃありませんから。でもそうですね。私達も道に迷って難儀していましたので、街まで一緒に行ってくれるというのであれば心強いですよ。何と言っても家には御者が出来るものが一人もいなくて、馬任せで走ってましたからね。」
ハハハッと笑いながらそういう。
御者がいない事は、アンジェが先に伝えてあった。だから、リーゼロッテの護衛騎士の一人が御者をしてくれていたのだ。
「まぁ、そんなんですの?それはさぞ大変だった事でしょう。」
彼女はそんな俺の言葉に驚いた風を見せ、興味深そうな表情を作る。
「よかったら色々とお話聞かせてもらえませんか?街まではまだ三日の行程もありますし、先は長いですのよ。」
「そうだな。俺も色々聞きたいし、とりあえず野営の準備が終わってからなら。」
「ハイ、約束ですわよ。」
そんな感じで、俺と姫様のファーストコンタクトは無事終了したかに見えたのだが……。
「えー、それでどうなったのですか?そのゴブリン。」
「その後もずっと追っかけてくるから、行く先々で罠に嵌って……。」
リーゼロッテがコロコロと年相応の笑顔を向けてくる。
それはいいのだが……何と言っても近い。
彼女は今、俺の隣に座り、その両腕で俺の腕を絡み取って体重を預けている。
そして見上げるようにしながら、俺の冒険譚をねだり、その話に笑ったり困ったりし堤、その胸を押し付けたまま離れようとしない。
「えっと、リーゼロッテ様、少し寄り過ぎなのでは?」
「リズって呼んでって言ったじゃない、おにぃちゃん。」
「いや、おにいちゃんというのも……。」
「リズって呼んでくれなきゃ、おにいちゃんの言う事聞かないよ。」
「わ、わかった、わかったから少しだけ離れてくれリズ。カエラさんの視線が痛い。」
「ぶぅ、しかたがないなぁ。これくらいならいい?ソーマ様。」
「あ、あぁ、まぁ、それくらいなら。」
リーゼロッテ……リズは俺に密着していた身体を少しだけ離して座りなおす……が、その腕は解放してくれなかった。
リズは年(14歳らしい)の割には発育がよく、どことは言わないが、ボリュームだけで見ればクリムを凌駕し、アンジェに匹敵するものを持っていらっしゃる。
そして貴族の娘らしく、容姿が整っている。
貴族の容姿が整っているのは不思議でも何でもない。
何と言っても貴族というのは特権階級だ。平民と違って、そこそこ無茶をしても咎められることは少ない。
つまり、ある貴族の嫡男が、美女を目にして、奥方にと求めれば、大抵は要望が通り、それが代々続くとなれば、後は遺伝の問題だけだ。
美男美女の子供であれば美男美女になりやすく、また美男美女が求めあい出来た子供も美男美女になって……と、延々と受け継がれてきた美男美女の血筋、それが貴族というものである。
とにかく、そんな美少女であり、発育にも恵まれた娘に寄り添われた俺の理性が、いつまで持つのか?というのが目下最大の問題点である。
色々と話を聞いたところ、来年にはリズの成人の儀が大々的に執り行われるらしいのだが、その成人の儀と並行して、婚姻の儀が執り行われるそうで、政略結婚は貴族の娘の義務とは言うものの、さすがに、成人して即結婚というのには嫌気がさしたらしく、抗議のための家出をしてきた、その途中で賊に襲われ、俺達と会った、というのがリズたちの言い分だった。
まぁ、どこの貴族か、とか、肝心なところはぼやかしている為、全面的に信用は出来ないのだが、当面に俺達の目的には関係ないのでスルーしてある。
とりあえず、リズが貴族の娘であることは間違いがなく、その身柄を狙っている敵がいる、それだけ分かっていれば、今はそれで十分だった。
◇
「どうしたんだい、リズ?」
朝起きると、テントの前でリズが俺を待っていた。
「あの、すごく勝手な申し込みで申し訳ないのですが……。」
そう言ってリズが切り出したのは、馬車一台で移動しないか?という提案だった。
なんでも、護衛の騎士を一人、先ぶれとして、馬を与えて先に街へと送り出したため、御者に回す人員が不足している事、元来二頭立ての馬車なのに一頭で引かせると負担が大きい事などから、俺達の馬車を処分して、馬をそのまま姫様の馬車に、そして俺達も暇様と一緒の馬車で、というのだ。
「失礼ですが、見たところそちらの馬車に荷は殆どないようですし、もちろん、街へ行けば、馬車の代金も色を付けてお支払いいたしますわ。」
「いいんじゃない?私ももっとリズとお話ししたかったし。」
俺が答える前にクリムがそう答える。
「あ、でも馬車代は別に請求しないから、気にしなくていいよ。」
クリムはそう言うと、、自分たちの馬車を、さっと収納してしまう。
「なっ、収納魔法……。」
「いやいや、ただの魔道具ですよ、アイテム袋。なっ?」
俺はそう言いながらクリムに目配せをする。
クリムもそれに気づき、慌ててフォローに入る。
「ウン、そうそう。収納バック。特に珍しいものじゃないよね?」
魔道具であるアイテム袋、収納バックは確かに珍しいものではない。ただ、馬車が丸ごと入る、というのであれば話はまた別だ。
そんな魔道具は、王家の宝物庫にも存在はしなかった。
因みにリズが黙って国庫から拝借してきた収納バック(もちろん国宝級)は、馬車2台分の容量が入る優れものではあるが、それでも、体積としては酒樽ぐらいの大きさが精一杯で、それ以上の大きさのものはいくら軽くても入らないのである。重量より、体積に難がある……それが一般的な収納バックの評価であり、間違っても、中身がないから、と言って馬車が丸ごと入るようなものではない。
だけど、リズも、カエラも、今ここでそんなことを言っても意味がないだろうと、あえてスルーする道を選ぶのだった。
そして時間は流れ馬車の中……。
「そう言えば、アンジェ様の御姿をお見掛けしませんが?」
今気づいた、というようにそう口にするリズ。
御者台にはカエラとその同僚のキーラが手綱を握っている。もう一人の護衛であるケーラは先に街へ向かっている。
馬車の中には俺とクリム、そしてリズが座っているのだから、アンジェがいないのは一目瞭然であった。
「あー、アンジェの奴は、じっとして居られない性質でね、今朝早く、ふいッとどっかに言ったんだよ。心配しなくても、明日か明後日には何もなかったかのように戻ってくるよ。」
「そうなんですか?……でも、女性一人でふらふらなんて危険じゃありませんこと?」
「そうなんだけどねぇ、まぁ今更って感じかな?」
俺はそう笑ってごまかす。
実はアンジェは、先行して街の様子を見に行ってもらっていて、街にはいる1日前に合流予定だ。
このままリズたちと一緒に街に行くのは危険だと、俺のカンが告げていたから。
俺のカンはよく当たる……ただし悪い予感だけ。いい予感が当たるのなら、今頃競馬や宝くじで大儲けして大金持ちだったよ、畜生!
とにかく、その悪いことに関してだけよく当たる俺のカンに従い、情報集めのために先行してもらっているのだが……アンジェばかりに働かせすぎている気がする。
でも仕方がないよな。アンジェ便利だから。
次回、次回こそ街に行きます!
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