ハーレム王、街へ行く 4
「……うん、ここは?」
「あ、起きた?」
目を覚ました俺の顔をのぞき込んでくるアンジェ。
「あ、うん。アンジェがいるって事は……あの馬車の件は片付いたのか?」
「片付いたって言うか、これからって言うか……。」
何故か言葉を濁すアンジェ。そこにクリムが言葉をかぶせてくる。
「あのね、襲われていた方は助けたよ。あの馬車の中には『お姫様』が乗ってるらしいの。で、詳しい事情を聴くために、今落ち着ける場所まで移動中。OK?」
「OK、よくわかったよ。それでその落ち着ける場所っていうのは?って言うか、今誰が馬車を動かしてるんだ?」
「もう少し行ったところに、夜営に適した水場があるんだって。で、それを教えてくれたのも、今御者をやってくれている、『姫様』の従者の人。」
「成程な。」
俺はちらっと御者台に座る騎士の格好をした女性を見て、そして後方からついてくる馬車の姿を見て頷く。
「アンジェ、今の状況を詳しく。向こうが持っていうだろうこちらの情報も含めて。」
「推測も入るけどいい?」
「構わない。」
この後、休憩に入れば、当然あちらとの交渉に入ることになる。こちらとしては助けた立場なので、ある程度強気に出ることも出来るが、何と言っても俺達に足りないのは、こちらの世界の情報だ。こちらの鞭に付け込んで、いつの間にか、不利な条件を突きつけられている、なんてことにならない為にも、できうる限りの情報を集め、分析する必要がある。
そして、アンジェの索敵、情報収集、分析の能力は1級品であることを知っている。故に、彼女の言う「推測」というのは、証明できないだけで、限りなく真実に近づいているものとみて問題はない。
「そう?じゃぁ、まずは現状分かっていることからね……。」
俺が敵の不意打ちで倒れた後、キレたクリムの魔法によって敵は全滅。その場での生死の確認はしていないが、そのまま放置してきたので、運が良ければ生き延びている者がいるかもしれないとのこと。
甘いな、と思いかけたが「姫様」側の護衛が満身創痍だったことと、こちらも俺が死んでいることから、まずはその場を離れることを優先したらしい。
おれであれば、その場できっちり止めを刺して、身ぐるみ剥ぐところではあるが、真っ先に死んだ俺が、その場の判断に口を出す資格はない。
殺人、というものに対しての忌避感は、今の俺は薄い。もちろん、まったく罪のない無抵抗な人を殺すことは躊躇うが、相手が悪人、しかも、こちらを襲ってきた賊というのであれば、それは、人ではなく、魔物と同じ。ゴブリンを殺すのと何ら変わりがない。
そもそも、戦闘中、少しでも躊躇えば、死ぬのはこっちだし、悪人に情けをかけて逃がせば、その逃げた悪人は、別の場所で、新たな、罪のない人間を何人も不幸の底へと突き落とすことになる。
それは突き詰めて言えば、その時情けを掛けた俺の責任という事になるのだ。そんな責任負える筈もないし、負う気もない。
ま、どちらにしてもすでに終わったことだから俺以上考えることもないか。
それより、その賊の正体について、だ。
倒した後、移動を優先したため、お互いにロクな会話もせずに、こうして移動している為、あくまでも推測の域を出ないらしいが、それでも、アンジェが御者をやっている女性騎士たちとの会話の中から集めたピースを組み合わせて、出した結果によると、あの賊は、賊に扮した『姫様』の敵対勢力の連中で、騎士の格好をしていた男たちは『姫様』の護衛で、裏切って敵側についたとのこと。
圧倒的数量差であっても、彼女たちが降伏を選ばず、戦って死ぬことを選んだのは、ただ単に、降伏しても、命が助かるだけで、下手すれば死んだほうがマシ、という目にあう事が分かっていたからだ。
「十数人の獣の前に放り出された女性騎士の末路なんて「クッ殺」以外にないもんね。降伏なんて選べるわけないよ。」
「いや、そうなんだけどな?なんでお前がそんなネタ知ってるんだよ、元16歳。」
クリムの言葉に思わずツッコむ俺。……一応、アレは十八禁ネタの筈だ。
「ぶぅー。いいじゃない。女の子は16でお嫁に行けるんだよ。それなのに18禁って言われてもおかしいと思わない?」
「数年前なら、そのネタを流行らすことも出来たけどな、残念なことに、今は18じゃないとお嫁に行けなくなったんだよ。」
「うー、日本政府のバカぁ。あれ?でも、そう言う事なら、私に「手が出せない、何でだぁッ!」って、ソーマが喚くのはお門違いってものだよね?そういうのは結婚してからっていう、私の意見正しいよね?」
クリムがにんまりと笑いながら言う。
「クッ……しかしそれは、日本での話だ。ここは異世界。ここでは成人年齢は15歳、女の子の結婚適齢期も14~18歳だから、問題ないのだっ!」
「私、コッチだとまだ13歳。残念でしたね、ロリソーマさん。」
「クゥッ、何故だぁ。なぜこうなったぁ。俺のハーレム計画がぁっ……!」
クリムの完璧な返しに、馬車の支柱に頭をぶつける俺。その度び馬車が揺れて、御者台の女性騎士が迷惑そうに振り返ってこちらを見ている。
「あー、そろそろ、続きいいかな?」
黙って聞いていたアンジェが、いい加減にしろとばかりに割り込んでくる。
「あ、あぁ、悪かった。それでどこまで話したんだっけ?」
「相手が姫様の敵対勢力で、、姫様側にも裏切り者がいたってところまで。」
「あ、そうか、それで?」
「……それだけよ。とにかく、生き残りは、姫様に従っていた護衛騎士の三人で、一応信頼できる。ただ、こちら側に対してはどう思われているか不明だけど、かなりの力を有してるので、何かに利用できないか?と考えている可能性はある。ってところね。」
「……いくばくかの謝礼金をもらって、この辺りの地理を聞いて、はいさようなら、ってわけにはいかないか?」
「いかないでしょうね。少なくとも、謝礼は払う、追加の報酬も出すから、街までの護衛を頼みたい、位は言ってくるでしょうね。」
「うわぁ、テンプレだぁ。」
「てんぷら?何それ、美味しいの?」
「美味しいよ。今度作ってあげるね……ソーマが。」
「俺かぃっ……って、そこはクリムが……いや、何でもない、悪かった。」
「ちょっとぉ。なんでそこで謝るのよぉ。私だって本気を出せばてんぷらの一つや二つや三つぐらいは……。」
「いや、ほんと、ごめんなさい。その本気は別の機会に……。」
クリムに料理をさせてはいけない。これは、クリムと一緒に旅をした俺とアンジェの共通見解である。
因みにクリムの腕がどれほどのものかというのは、この旅の間の料理当番が俺だったという事と、食事の内容が、煮込んでスープにするか、焼いてそのまま食べるか、のみなのに対し、クリム以外は誰も文句を言わないところから察してくれ。
食事と言えば、男の精気を吸う事であり、人間と同じ食事をとるのは上辺の形だけに過ぎないアンジェが人間と同じような料理が出来る筈もなく、また、生前は入退院を繰り返し、まともな日常生活を送ることが叶わなかったクリムが料理を覚える暇がなかったのは当たり前の事で、結局まともに作れるのは、独り暮らしで多少の経験もある俺だけだという話だ。
もっとも、ガスコンロも、電子レンジもなく、調味料も香辛料もロクに手に入らないこの世界で出来る事なんてたかが知れているのだが。
その辺りの条件はクリムも俺と同じはずなのだが、クリムには俺にないもの……つまり知識があった。
それはいい、知識は大事だ。情報は世界を制する。
経験不足など、実践をこなしていけば何とでもなる。
しかし、知識があるのとないのでは、その習得に明らかな差が出ることは間違いない。何と言っても、何もわからず手あたり次第やるのと、知識……完成形に基づいて試行錯誤するのでは、効率がはるかに違うのだから。
ただ、以上の事は、その知識が正しいものであれば、という前置詞が着く。
いくら知識があっても、それがいい加減なモノであれば何の意味もなさない。
そしてクリムの持つ知識の90%は、彼女が入院中に読んでいたラノベや、やっていたゲーム及び、そのプレイヤーによる、全く根拠のないものだった。
だけど、クリムにとって、その知識は叡智の泉そのものであり、だからクリムは自信をもって料理をすすめる。
例えばスープ。野菜を入れ、肉を入れ、香りづけの香草を入れる……そのままで。
だって、ラノベでは、下ごしらえの細かい描写など無いから。野菜を切って入れることは知っているが、どれくらいの大きさでどれくらいの量か?など考えもしない。だから、適当に切って入れる。鍋からはみ出しても気にしない。肉も同じだ。
そして最悪なのが香草。
ここでいう香草というのは、香づけや毒消し、臭み取りなどに使えるハーブ類の事だが、クリムはそんな事を気にしない。これはいい匂いと言ってポンポンと入れる……ただの雑草を。しかも中には毒を持つものもあるが気にしない。
そんな感じで出来たものを、果たして料理と呼んでいいのだろうか?
俺とアンジェは、クリムの料理は初日にして、永久封印することで暗黙の了解を得たのだった。
「まぁ、てんぷらは置いといて、とりあえずどう対処するかだけど……。って、ひょっとしてもう着いたのか?」
馬車が止まり御者が降りる。
近くには川もあり、岩や木々が適度な障害物になっていて、且つ、テントを張るだけの十分な平地もある。
まさしく野営にはもってこいの場所だと言えよう。
向かいに泊まった馬車からは女性騎士に続き、上質なドレスに身を包んだ女性が降りてくるのが見えた。
……結局、具体案は決まらないままか。
まぁ、バカな話題で脱線しまくった自分たちの自業自得だと割り切るしかない、と覚悟を決めて、馬車を降りることにした。
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