ハーレム王町へ行く?2
「なぁ、アンジェ?」
俺は隣で手綱を握ってるサキュバスの娘に声をかける。
「ん?なあに?」
「そろそろ、街と言わないまでも、村についてもいい頃じゃないか?大体、今どのあたりを走っているんだ?」
獣人の集落を出てから、手綱はアンジェに任せてある。
なぜか?……現代日本人の俺が、馬車に乗ったことがあるわけがないし、御者をやったことなんかあるわけないだろ?当然、俺の右隣にいるクリムも同様だ。
だからアンジェに任せてあるんだが……。
「ん?知らないわよ?」
「おぃ。」
「そんなこと言われたってしょうがないでしょ?馬車なんて初めてなんだから。文句があるならソーマが御者をやりなさいよ。」
「初めてって、この世界に居てそれは……。」
「自前で飛べるのに、なんで手間も暇も時間もかかる馬車に乗らなきゃいけないわけ?」
……ごもっとも。
「じゃぁ、今まで走っていたのって……。」
「うん、その馬がね、人里知ってるっていうから任せてるの。私は本当にコレを握ってるだけね。」
アンジェがそういって、手綱を見せる。
どうやら今まで馬任せで走っていたらしい。道理で、グネグネと進路を変えるわけだ。
「……なぁ、その馬、本当に道を知ってるのか?」
俺は疑惑の視線を馬に向ける。
「んー、ちょっと聞いてみるね。」
何でも、魔族固有の能力で念話というものがあるらしい。これを使えば少し離れた人とも会話ができるらしい。しかも、ある程度の知能があれば、それが動物や植物であろうとも意思の疎通が可能だというのだ。
……うーん、アンジェのほうが俺やクリムよりよっぽどチートな能力を持ってるんじゃないだろうか?
「えっとね、ソーマ。すごく言いにくいんだけど……『俺は人里は知ってるが、そこまでの道を知ってるって言った覚えはねぇ。』ですって。どうする?馬刺しにする?」
アンジェの言葉に、馬が身を竦ませ、その場で止まる。
「あーそこまでしなくていいから。とりあえず人の気配がありそうな方へ走るように伝えてくれ。この先のことは、あとで相談しよう。」
俺がそういうと、アンジェはつまらなそうな顔で、馬にそう伝えると、馬は勢いよく走りだした。
余程馬刺しにされるのが嫌だったのだろう。
そして残念そうな顔をするクリム……。ひょっとして、馬刺しが食べたかったのか?
◇
「じゃぁちょっと見てくるね。」
あれからしばらく馬車を走らせた後、休憩に丁度良い水場を見つけたので、俺達は休息をとることにした。
そして、その間にアンジェが、空から周りを偵察してくるというのだ。せめて向かう方向だけでもわかれば、と。
ホント、アンジェって便利だよな。
馬に水を飲ませ、クリムとどうでもいい話をしながら待っているとアンジェが戻ってくる。
「お帰り。どうだった?」
「う~んと、暫くの間は人里は無いわね。ただ街道らしき道はあったから、そこからどっちかに行けば辿り着けるかも?」
「そっか、じゃぁまず街道を目指そうか。」
俺は横に来たアンジェに水差しを渡してやる。
「うーん、あとねぇ馬車が3台こっちに向かってきてるわ。少し様子を見てたけど、先頭の馬車が後ろ2台の馬車に追われてる感じだったわ。」
水差しの中身を飲み干したアンジェが言う。
「大変!早く助けに行かないとっ!」
今にも飛び出そうと、腰を浮かしかけたクリムの腕を掴んで、落ち着かせる。
「待て待て。追われてるって言っても、状況がわからないだろうが。ひょっとしたら犯罪者が官警に追われてるんかもしれないし。」
「でもでも、こういう時のテンプレだと、追われてるのは高貴なお姫様一択でしょ。で、助けに入った冒険者に惚れて…………助けなくてもいいですよね。」
「オィ、掌返しが早すぎるっ!」
ハイライトの消えた瞳でブツブツ呟き出すクリムをなんとか宥めていると、焦れたようにアンジェが聞いてくる。
「で、どうするの?多分そろそろ追いつかれる頃よ?」
「どうするかなぁ……どう考えてもトラブルに巻き込まれること間違いないんだよなぁ。」
「放っておくのよ。下手なフラグ立てて、これ以上ソーマに女を近づけるわけにはいかないわ。」
クリムがダークサイドに落ちかけていた。
「ま、フラグ云々はともかくとして、見なかった事にしたいよなぁ。」
俺が当初ハーレム計画にて考えていた、出会い編その1。襲われている女の子を助け出して好感度アップ。そしてそのままなし崩しにイチャイチャへ、というのがことごとく外れているのだ。
いや、一応はハーレムメンバーとして仲間にはなってるよ?だけど、全く手出し出来ないのにハーレムと言えるのか?
だから今度も、せっかく助け出しても手が出せない御荷物を抱えることになるんだ。きっとそうに違いない。
何故なら「二度あることは三度ある」というからな。
「ソーマがそう決めたなら、それでもいいけど、本当にいいの?情報を集めるチャンスだと思うんだけど?」
「ウッ……確かに。」
アンジェの言う通り、色々と情報を集めるには都合がいい。相手も流石に命の恩人に対していい加減なことは言わないだろう。
それに路銀の問題もある。
今は食料は狩りをして何とかなってるし、寝るのも馬車の中で問題はないが、流石に街に行けば、それなりのお金が必要になるだろう。
だとすれば、ここで助けて恩を売るのは悪い事ではない。
「仕方が無い。助けに行こう。それに「三度目の正直」とも言うしな。」
「ソーマ、さっきと言ってることが違う。」
ぶん剥れるクリムを宥めながら、俺たちは追われているという馬車の方へと進路を向けるのだった。
◇
「姫様、何があってもここから出ないでください。……何があっても、です。」
「わかってます。そして覚悟もできてます。」
護衛の騎士の言葉に大きく頷く、姫様と呼ばれた少女。その手には胸元に仕込んでいた小型ナイフが握られている。
襲われ純潔を散らされるぐらいなら、と自決用に持たされているナイフだが、少女はそう簡単に自決する気はなかった。
死ぬ前に、このナイフで一人でも多く道連れにする……それが少女の決めた覚悟だった。
少女の名前は、リーゼロッテ=フォン=メルクリア。メルクリア王国の第4王女である。
悲壮な決意と何があっても折れないという強い意志が宿る瞳を持つ少女。この少女の姿を見るのも最後かもしれない、とその愛らしい姿を目に焼き付けて、護衛の騎士……カエラはその身を翻し、馬車の外へ出る。
姫様にはああ告げたが、実際の所、それほど酷い状態にはならない、とカエラは思っていた。
何故なら、こちらには姫様の御世話係を兼任している女性騎士3人と護衛の男性騎士5人がいる。
それに対して、追って来ている賊の数は多くて12〜3人。その差なら、鍛え抜かれた王国騎士が遅れを取ることはないだろう。
姫様に言ったのは、本当に万が一に備えてのことに過ぎない。
そして、姫様を護ることは出来ても自分が無事であるかどうかはわからない。そんな諸々の決意を秘めて戦いに赴く事にしたのだが、自分の目算が甘いことに気づいたのは馬車を出てすぐのことだった。
「どういうことです?エラン、オクト、答えなさいっ!」
馬車を降りたカエラが目にしたのは、この馬車を取り囲む10人以上の賊と、その前に立ち、同僚である女性騎士を牽制している5人の男性騎士達だった。
「見ての通りだよ。あんたらはもう終わりなんだ。降参して大人しく姫様を差し出せば、命だけは助けてやるぜ。」
カエラに答えたのは、男性騎士ではなく、その後ろに立つ、賊のリーダーと覚しき男だった。
その男の言葉に、同僚の女性騎士の間に動揺が走る。
これはマズい、とカエラは声を張り上げる。
「みんな、騙されちゃダメよ。命は助けるって言っても何もしないって言ってるわけじゃない。ここで降参したら、ここにいる男達が飽きるまで慰み者にされ、その後は奴隷として売られるわ。そんなことになるくらいなら、私はここで討死することを選ぶっ!」
カエラはそう言って剣を抜き、馬車の入り口に立ちはだかる。
「この『絶壁のカエラ』を無傷で抜けると思うなよっ!」
ちなみに、カエラの二つ名は、その高い防御力に由来したものであり、間違っても、その身体的特徴を現したものではないと告げておく。
カエラの両脇に、同僚達が並ぶ。これで少なくとも、自分たちが倒れるまで、姫様の安全は保証される。だけどその後は……。
カエラは浮かび上がる思考を頭を振って追い払う。そもそも命果てるまで姫様を護りすべての義理は果たすことになる。自分が死した後まで面倒見られるか!というのが本音である。
もっとも、姫様の酷い惨状を目にすることがないだけマシだと思う。
そしてカエラは結果の見えている、長い戦いに身を投じるのだった。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




