ハーレム王町へ行く? 1
「えへっ、えへへ……。ソーマぁ……。」
「ん?」
「何でもない、ただ呼んでみただけぇ。」
にへらっと、表情を崩し、俺の腕につかまったまま体を寄せてくる少女……クリム。
「えへっ。私の彼氏だぉ。えへへ……。」
もたれかかりながらそんなことをつぶやいているその顔には締まりがなく、緩み切っている。
俺としても、こんな風に好意100%を直接ぶつけてきて甘えてくる女の子のことを悪く思えるはずがなく……というか、そのしがみついてくる身体の柔らかさのせいで、舞い上がりそうになる気持ちを抑えるので精一杯だった。
「はぁ、いい加減飽きないわねぇ。」
逆側の隣から、アンジェが呆れたように言う。
それも無理はない。なんといっても、獣人の集落を出る時からずっとこの状態なのだ。
あの時、アンジェに釣られるように、自らも告白した後、クリムは自分のことをどう思っているかと聞いてきたので、可愛いし、好みだし、俺のオンナにしたい、と素直に言ったところ「じゃぁ、これで恋人同士だねっ」と言って、それからずっと、この状態なのだ。
信じられるか?こんな可愛い子が俺の彼女なんだぜ?
そして、これだけ好き好きって言ってるのに、……ヤれないんだぜ?
クリム曰く、そういうことは、もっと付き合いが長くなって、愛情を深め合ったうえで、結婚した後か、せめて婚約をした後に、ムードたっぷりのロマンティックな状況でないとダメだというのだ。
いつの時代の少女漫画だよっ!
ソーマは与り知らぬ事ではあったが、クリムの前世……栗野夢叶は、内向的で病気がちという事もあり、友人と呼べる相手が殆どいなかった。当然男性とのお付き合いなどしたこともなく、結局、夢叶にとっての男女交際というものは、ラノベや少女漫画などで仕入れた知識がもとになっており、夢と妄想だけが肥大化していた。……まぁ、この辺りはソーマと大差ないのだが。
そして、見知らぬ異世界で奴隷にされるという絶望的な状況下において、助け出してくれた、しかも同郷の男性。更には、自らの命をかけて救ってくれた相手。加えて、ファーストキスの相手やら何やらと様々な補正が掛かった結果であり、チョロインなのは仕方が無いにしても、裏を返せば、同じ状況であれば、別にソーマじゃなくてもよかったという事に、ソーマは気づいてなかった。
それはそれとして……と、俺はクリムと逆の方に視線を向ける。
そこにはつまらなそうな表情をした、サキュバスの娘、アンジェがいる。
信じられるか?こんなエロ可愛い娘が俺の彼女なんだぜ?一生傍に居て離れないって言ってくれてるんだぜ?
さらに言えば、手を出しても何ら問題ないどころか、積極的に求めてくるんだぜ?
そして、ヤろうとしたら、途中で死ぬことになるんだ……。
アンジェが言うには、自身の手加減がうまくないのもそうだけど、それ以上に、俺の体力が無さ過ぎなのがいけないのだそうだ。
オーガ並みの体力と絶倫さがあれば、1~2回やったぐらいでは死なないというらしいが……。うん、道は長そうだ。
俺の異世界ハーレム計画……すでに二人目の嫁をゲットして、順調に進んでるように見えるだろ?
だけど、片や、ヤれば死ぬ地雷女、片や、身持ちが硬すぎるヤンデレ……。
俺が、早く三人目をゲットしたいと思ってもおかしくはないだろ?誰でも同じようにするだろ?
本当は、獣人の集落で3人目をゲットしようと思えばできた。
しかも相手は、みんな大好き、フリスキーなネコミミ少女だ。
さすがのクリムも「この娘なら仕方がないわ」といて、その耳をモフモフしてたくらいだ。
だけど、だけどだぞ?
その少女は、俺の前に来ると怯えきっていて、身体は常に小刻みに震えていて、それでもその瞳には悲壮な決意の光が見えて……。
何かおかしいと思って、だれもいない所でアンジェに尋問してもらった。
尋問といっても何も酷いことはしていない。ただ、思考誘導してもらって、思っていることを素直に話してもらっただけだ。
その結果、わかったことは、その少女は人身御供とのこと。
奴隷商に連れ去られた者たちを救ってくれたことには集落の獣人一同、皆感謝している。それは間違いない。
ただ、その救った主というのが、サキュバスと異常な魔力を持つ人間を従え、殺しても死なない、怪しい人物……(俺がビックボアに串刺しにされたところを見た人質たちがしっかりとしゃべったらしい)
……はっきりいて、集落にとって脅威以外の何物でもなかった。
警戒しながらも歓迎の意を示して様子を見ていると、その怪しい人物(俺のことだ)は女の子が大好きとのこと。だから、獣人の中から一人差し出して、さりげなく、この集落から去るように誘導してもらおう、という計画がなされたのだ。
そして選ばれたのが一人のネコ科の獣人の少女。その少女に身よりはなく、また、奴隷に売られるところを助けてもらった恩もある。(ここでの恩が、獣人の長に向けられているところがおかしいのだけど)
失うはずだった命なのだから、集落のために喜んで差し出します、と自ら進んで願い出たらしい。
そして悲壮な決意をもって、俺に差し出され、自らの身体を好きにする代わりに、集落には手を出さないでほしいと泣いて懇願する少女を、ハーレムに入れようなんてできるはずないだろ?
だから俺は、快くその申し出を辞退して、逃げるように、獣人の集落を後にしたのだ。
ちょっと……、いや、かなりもったいないことをしたかもしれない。
とにかく、人間の街に早く行こう。そして、そこでハーレムメンバー三号を早く見つけるのだ。
手っ取り早く、奴隷を買ってもいい。奴隷なら言うことを聞くし、優しいご主人様だと分かれば尽くしてくれるはずだ。いや、そうに違いない。……そうであってくれ。
ヤれない美少女より、ヤれる普通の子がいいと思う今日この頃だった。
◇
「えっ、ロリ女神じゃない?」
人間の街を目指して二日目のこと、クリムに転生時の話を聞いて分かった驚愕の事実。
「うん、普通にイケメンのお兄さんだったよ?」
クリムが転生の話を聞いたのは、俺が出会ったあの少女ではなく、イケメンの青年らしかった。ということは、あの少女以外にも神、もしくはそれに準じたモノが、多数いる、ということになる。
「それでね、『運命のサイコロ』を振ってもらえたのがねぇ……。」
クリムと話していて、俺の時と、内容が大きく違っていることに気づかされる。
クリムはそこで、死んだときの状況を詳しく説明してもらった上、母親と別れを告げる時間まで用意してもらったらしい。
そして、次に行く場所……つまりこの世界について、基本的な説明をしてもらった上に、運命のサイコロがどういうものなのか、それについて得られるメリット・デメリット等を懇切丁寧に教えてもらったらしい。
その上でダイスを降って出た目が8と7の15。最高が9のゾロ目の18だと考えると、中々良い数値だ。
そして貰った特典が空間魔法を含む、各魔法を使用できる魔法使いとしての力。
ダイスの目がそのまま特典ポイントとなっているらしく、各属性の初級魔法の力を得るのに、それぞれ1ポイント必要で、空間魔法だけは5ポイント必要になるらしい。更に中級魔法まで伸ばすのであればプラス5ポイント、空間魔法はプラス10ポイント必要になるらしい。
クリムが得たポイント全部を使えば、中級の空間魔法使いになれるが、それだと身を護る術が無い為、結局、火、風、水、土、光の5系統の属性と系統外の無属性魔法、そして空間魔法の初級を貰い、残ったポイントは、魔力量アップ、無詠唱、魔力回復、限界突破を貰ったそうだ。
因みに鑑定とか空間転移に関しては、そもそもポイントが足りなかったそうで、早々に諦めたとのことだった。
「ポイントが足りないって、一体どれだけ必要なんだよ。」
「んーと、初級の鑑定で3ポイントだけど、それだと、それがなにか?が分かるだけなのよ。ソーマが考えてるような鑑定能力だと全部で13ポイントかかるらしいのよね。後、空間転移は空間魔法の上級だから、全部で45ポイント必要で、そもそも18が最高の転生ポイントじゃ貰えないんだって。」
なるほど………じゃぁ俺の0ってのは?
新たな疑問が生まれた瞬間だった。
「そういえば、ソーマのその不死の能力って何ポイントだったの?」
「分からん。そもそも俺が出したのは0のゾロ目だったからな。」
「ゼロのゾロ目って……。」
正直に答えた俺を、クリムが珍獣を見るような目で見る。
「えっとね、これ聞いた話なんだけど、0と9のゾロ目ってまず出ないんだって。」
「出ないって……たかが10面ダイス2個だろ?確率的には1/100……1%じゃねえか。出にくいのは確かだろうけど、まず出ないっていうのは言いすぎだろ?」
「あ、そうじゃなくてね、特典ポイントとしても使う目が0というのは可愛そうだっていうのと、そう簡単にポイントを上げられるかっていうので、0と9は出難いように細工がしてあるんだって。だから9のゾロ目が出る確率は1/100000で、0のゾロ目に至っては1/10000000の確率だって。」
「イカサマサイかよっ!」
運命を示すサイコロがイカサマだというのは嫌すぎる……。そして、そのイカサマを覆すようにゼロのゾロ目を出した俺って一体……。
「くっそぉ、なんか納得いかねぇ!賠償を要求するっ!」
「要求って言っても、その女神様出てこないんじゃぁ……。」
「呼んだ?」
クリムが困り顔で言ったとき、突然、何もない空間から、顔だけを出す少女が現れた。
「アッ、てめぇ、よくも顔を出せたもんだな。」
「ン~、何怒ってるのぉ?何か不具合でもあった?」
とぼけてるのか、素なのかよくわからないが、不思議そうな顔で俺を見るロリ女神。
「大アリだよっ!そもそも、俺とこいつの扱いが違いすぎるだろうがっ!賠償を請求する。」
「そんなこと言われてもねぇ、対応はその担当者に一任されてるわけだし。何の問題もないのよ?でもまぁ、せっかく来たんだから一つだけ要望をかなえてあげるわ。何が欲しいの?」
「何って、そりゃぁ……。」
……マズイ。まさか、こう素直に来るとは思っていなかったので何も考えてない。
「あー、あんたに選ばせたんじゃぁ、私のお休みフイにしちゃうからこっちで決めるわ。そうねぇ……カミの装備一式でどう?」
「あー、じゃぁそれで。」
神級の装備があれば、大抵の攻撃を防ぐことは出来るだろう。いくら生き返ることが出来ると言ったって、斬られれば痛いし、死ぬときは苦しいのだ。
「はい、これね。……じゃぁ、また何かあったら呼んでね。……顔を出すとは限らないけど。」
そういってロリ女神は、出てきた時と同様に、不意に姿を消した……そこに、あるものを残して。
「……ってこれ新聞紙じゃねえかっ!」
新聞紙の中央に穴をあけて、被れる様にした……多分鎧。
新聞紙を丸めて筒状にした……多分小手と脛当。
新聞紙をそのまま広げた……多分マント。
そして新聞紙で折った兜……妙に出来がいいのがかえって腹が立つ。
それでも素直に装備してみる。
しかし防御力が上がる気配は全然ない……当たり前だ、ただのカミなのだから。
「きょれがほんちょのきゃみそうび……。」
……噛み噛みだった。紙装備で噛み装備ってかっ!
「ねぇ、あの女神さま、このネタのためだけに出てきたってことは……ないよね?」
クリムが顔を引きつらせながらそう言うが……十分あり得る話だった。
「ソーマ、その新聞の見出し……。」
クリムがマント部分に書かれた見出しに目を付ける。
そこには……。
『女子高生婦女暴行未遂容疑者、自滅!!」』
と、大きく書かれていた……。
「あのクソ駄女神がぁっ!!」
俺の叫び声が荒野に響き渡るのだった……。
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