ハーレム王への道のりは遠く険しく果てしなく……。
「姫様、どうかお覚悟を……。」
「よい、わかっておる。」
姫様と呼ばれたのは、まだ若い……というか幼いといっても差し支えない少女だった。
ディゲル帝国初代女王、メリルゼファー・イリス16歳の正念場でもあった。
「力に驕るものはさらなる力によって潰される……自然の摂理です。」
メリルはそう呟いて側使えに着替えの手伝いを命じる。
身だしなみを整えながら、メリルはこの最近の事を思い浮かべる。
初代女王とは言っても、その座に着いてからまだ半年にも満たない。
しかも、女王とは名ばかりの傀儡に過ぎない。
国是の全ては最少及びその側近がすべて決め、自分は形ばかりの書類にサインをするだけの道具に過ぎない。
宰相の野望のままに、ディゲル侯国は近隣の人族エリアを襲い支配下に置き、ディゲル侯国はディゲル帝国となった。
宰相の言うなりになる気はないが、何もできないのも事実であり、せめてもとばかりに、支配下に置くエリアは、同等に扱うように命じる……どこまで伝わっているかは甚だ疑問ではあるが、自分に出来ることはこれくらいしかないのだから、と自分の心を偽り、本音に蓋をする。
ディゲル帝国の攻勢は続く。連戦連勝に、民たちの興奮も膨れ上がり、もはやだれも止められないところまで、行きつく先まで行かなければ止まらないところまで来てしまった。
その状態に不安を抱いていたのは、たぶんメリルだけだっただろう。
人を力づくで従えるなんてことが、長く続くはずがない。攻め入って支配してしまったことは、今更どうしようもないが、せめて、良政を敷いて他の民たちにも納得してもらわなければ、いつかはしっぺ返しを食らうことになる。
今までの歴史がそう伝えているのに、そんな簡単なことが何故分からないのだろうか?
漏れ聞こえてくる自軍の悪政を知るたび、メリルの心は強く締め付けられるのだった。
そしてメリルは覚悟する。近い将来、大きなしっぺ返しが来ることを、そしてその席はすべて自分が負わなければならないと。
「その時が来た、という訳ね。」
約一月ほど前、メリルは宰相から最後のエリアへ宣戦布告したと告げられた。
そのエリアは、以前に敗北を喫したエリアだという事で、今度こそは負けない、と兵たちの戦意も高いと聞くが、メリルにはイヤな予感しかしなかった。
聞けば、そのエリアは以前の争いの後、こちらに対して賠償の請求も仕返しもしてこなかったと聞く、だったらそのエリアは放置しておいたほうがいいのでは?というメリルの声は、誰一人にも届くことは無かった。
そして、意気揚々と攻め込んだ結果がコレだ。
攻め入った軍はあっという間に蹴散らされ、追撃を受けて全滅。
敵軍はそのまま近隣エリアまで攻め込み、これを開放、解放したエリアからの義勇兵を組み込み、次々と、近隣エリアへ攻め込んで開放していった。
介抱されたエリアは、そのまま教順氏、自ら支配下に入ったと聞く。
気づけば、ディゲル帝国の領地は、最後に残されたここ、ディゲルエリアのみとなっており、今、そのエリアは2万にも上る兵に取り囲まれている。
もハタ、帝国に残された道は、徹底抗戦をして、力づくでエリアを潰されるか、無条件降伏してエリアを明け渡すしかない。
どちらにしても、責任者はその責を問われることになる。
そして宰相たちは、すべての責任をメリルに押し付け、自分たちだけは助かろうという魂胆なのは間違いない。
「ソーニャ、今までありがとうね。あなただけでも逃げて。」
メリルは、着替えを手伝ってくれた側使えに、小さなネックレスと指輪を渡す。
どうせ捕まったら略奪されるものだ。だったら、今まで献身的に尽くしてくれた、この子の為に使った方が何倍もマシというもの。
「私だけ逃げるなんてできませんっ!いざとなれば私が盾になってでも姫様をお守りします。」
「ダメよソーニャ。あなたはまだ12歳でしょ。今の内に逃げるのよ。」
「いやですっ!私はずっと姫様の側にいます。」
「ダメっていったらダメなのっ!ここにはもうすぐ敵が惜しよ手てくるわ。血に飢えた兵士たちがあなたを見たらどうなるか……わかるでしょ?」
「それでも、私は姫様から離れません。」
「ソーニャ……あなた……。」
瞳に涙を浮かべて縋りつく少女を見て、メリルは、この子だけでも守らなければ、と心に固く誓うのだった。
「えーと、そろそろいい?」
不意に声をかけられ、びっくりして振り返るメリルとソーニャ。
「こんにちわ。リィズエリアの代表のアリスだよ。あなたがこのエリアの代表って事でいいのかな?」
軽い口調で言う少女。年の頃は自分より少しだけ年下だろうか?
そう、相手を観察しながら、メリルは慎重に口を開く。
「そうね、私がこのエリアの代表。ディゲル帝国初代女王メリルです。……と言っても形だけですけどね。」
受け答えしながら、そっとソーニャを背後に隠すようにする。
「はぁ……予想はしてたけど、やっぱり女の子だったかぁ。」
全くもぅ、とブツブツ呟くアリス。
「一応聞くけど、今ココで捕まるのと、後程、攻め入られてから捕まるのとどっちがいい?」
「今ここで捕まれば、民たちに無理を強いないと約束していただけますか?」
「そこまでの権限はないよ。だけど、流れる血は少なくなるのは間違いないよね?」
「……もう一つ、この子だけは見逃してもらえませんか?」
メリルは傍にいるソーニャを指して言う。
「見逃すのは構わないけど、あまりお勧めできないよ?」
「何故でしょう?」
「一つは、その子が自分だけおいていかれるのをよしとしていない事。」
アリスの言葉にソーニャがうんうんと頷く。
「もう一つは、私が見逃しても、外の人達迄見逃してくれるって保証がないからね。連れて行った方がまだマシだと思うよ?」
「外のって……もうここまで兵が来てるのですかっ。」
メリルは震えあがる。
冷静に考えれば敵将がここに入り込んでいるのだ。王宮はすでに制圧されたと思って間違いない。
だけど……と、そこでメリルは疑問に思う。
……だったら、先程の選択は何だったのか?と。
「あぁ、違う違う。外にいるのはこの国の人達だよ。自棄になって略奪しまわっているけどね。」
「そんな、何で……。」
何故、自国の者が略奪を?メリルは混乱してしまう。
「んー、たぶん、今なら、私達の所為に出来るからでしょ?まだ自分だけは逃げだせると思っているあたり、おかしいんだけどね。」
「我が国の民は、そこまで腐っているのですか……。」
メリルは情けなくて涙が出てくる。
「まともなのも残っていることを切に願うよ。じゃぁ悪いけど、大人しくしててね。」
アリスはそう言うと、メリルとソーニャを手早く縛り上げ、転移の魔道具を起動させるのだった。
◇
「……以上がアリスからの報告です。」
アンジェが報告書を読み終える。
「はぁ、で、その女王様はどうなったんだ?」
「現在、こちらへ護送中です。あと2日程で到着するでしょう。ミューナをつけてあるので、道中は不足なく丁重に扱っているとのことです。」
「そっか。それで、ディゲルエリアの方は?」
「一部兵士たちの抵抗が激しく、膠着状態とのことです。力任せで押せなくはないですが、そうすると相手の被害が大きくなるとのことで。」
「そっか、アリスは優しいからなぁ。」
「しかし、隔壁付近で膠着して居る傍ら、都市内部では自軍の略奪被害が大きくなってきており、脱走したり、略奪に加わる兵が多くなってきているので、崩れるのは時間の問題だとのことです。」
「兵士ってどうせ男だろ?そんなの蹴散らして、凌辱されている女性を助けてやれよ。」
「後の事を考えれば、今は放置しておくのが良作だと、後、男性であれ、女性であれ、兵士であれ、民間人であれ、自国の起こしたことの責任はとるべきだと、そうでなければ、他のエリアへの示しがつかない、とアリスが言ってますわ。」
「そっか、アリスは厳しいからなぁ。」
俺はしみじみと、そう呟く。
アリスは立派な為政者になるだろう。人には向き不向きがあって、アリスは為政者に剥いているに違いない。だから表向きはアリスに任せておけばいい。俺はその裏で……。
「何か変な事、考えていますか?」
アンジェが見透かしたかのように言う。
「そ、そんなことないぞ?ただ、思ったより時間がかかったなぁと。」
「そうですね、私も意外でした。」
アンジェが周りを見回しながらため息をつく。
俺とアンジェ、そしてセレスが座っているテーブルには一人の少女が同席している。そしてその後ろには少女の護衛が数人控えている。
「それは、人族の方が愚かだという証明ではございませんか?」
目の前の少女がそう答える。
少女の名は、ケミストリア・オーガスタ……今代の魔王である。
「いやいやいや、……否定はできないか。」
「そこは否定してあげなよ。」
俺の受け答えに、呆れたようにクリムがツッコミを入れる。
「そうはいってもなぁ、俺としては、人族側のケリがついても、魔族側は膠着状態の予定だったんだよ。そこに人族側で浮いた戦力をつぎ込んで状況打破をもくろんでいたのになぁ。」
「ソーマは魔族を買いかぶり過ぎ。大体、イリーガル種、イモータル種の魔物1体で、街一つを余裕で殲滅できるのに、それは1000体以上率いているってどこの化け物よ?それに加えてエルダーデイモスを愛人にしてる?って言うか、もうあなたが魔王を名乗ったほうがいいんじゃないの?」
ケミストリア……本人はケーちゃんと呼べと言い張っている……がそういう。
「そんなこと言われてもなぁ?」
俺はセレスに視線を向ける。
「そんな惚けたところがマスターのいいところですわ。まぁ、私もアル様には逆らう気が起きませんからね。」
セレスが言うには、セレス地震ですら、アルちゃんやクロ相手では、うまく立ち回って、逃げ出すのが精一杯とのことで、高位の魔族程度では、相手が見逃してくれるのを祈るしか助かる道はないというぐらいの戦力差なんだそうだ。
「はぁ、アルちゃんってすごいんだな。」
俺がそう呟くと、天井から、ぶら下がったアルちゃんが得意げに前脚をあげていた。
「とにかく、あれだけの戦力を前に、まとものぶつかるのは愚策。話し合いで互いに不干渉を貫けるのであれば、それに越したことは無いでしょう?」
ケーちゃんがクッキーを齧りながらそういう。
実際のところ、クリムに率いられた軍団が南下したところ、魔法軍の四天王の一人、アモデウス率いる北部方面軍とぶつかり、そこでクリムがあいさつ代わりにエクスプロージョンを放ったところ、相手側から講和の申し込みの使者が来た。
更には、時を置かずに四天王の残りの3人と魔王自らの使者が来て、話し合いの場が持たれたのが、今から半月ほど前の事だった。
その場で、様々な誤解の元に生じた小競り合いについて謝罪を受けた事と、俺に積極的な侵攻の意志がない事などが分かると、話し合いはスムーズに進み、お互いの領地へは相互不干渉、友好的な交友、経済の好き流通の為の行き来など、平雄和的な話し合いがなされ、今もこうして魔王と仲良くお茶を嗜んでいるという訳だ。
因みに、俺がハーレム王を目指すと冗談交じりで言ってみると、何故か、四天王の皆さまから、娘をよろしく、と嫁候補が送られてきた。
むげには扱えないので、現在、領地経営の手助けをしてもらっている。
更にはケーちゃんの誘惑も凄いことになっているが、ケーちゃんと契ると、その瞬間に魔王に就任するとのことなので、現在は保留状態にしてある。
「まぁ、色々あったけど、これでようやく、平和でエッチ三昧の生活が送れるよな?」
俺はアンジェの肩を抱いて引き寄せ、そう囁いてみる。
しかし……。
「あー、ソーマ?悪いんだけど、そんな余裕はないぞ?」
俺のささやきを聞き咎めたケミストリアが、笑いをかみ殺した表情で言ってくる。
「魔王領のさらに南方には龍族の住む谷があってな、そこのドラゴン達が騒いでいるらしいぞ?」
ケーちゃんが、ざまぁ、という顔を向けてくる。
どうやら、俺の安息の日々はもう少しお預けらしい。
俺はただ、この世界で女の子に囲まれて、キャッキャウフフの生活を送りたいだけなのに、どうしてこうなったっ!
責任者出てこいやぁっ!
俺は、あれから一向に姿を現さない、ロリ女神に向けて呪詛の言葉を吐く……ほんと、どうしてこうなった?
皆様の応援のおかげで3万pvに達しました。改めて感謝を。
そして、この回を持って、一応完結とさせていただきます。
応援があれば、続きを書くことがあるかもしれませんが、今はとりあえず、エタってる作品たちを、なんとか、ケリをつけようと考えています。
他の作品、もしくは新作でまたお会いいたしましょう。
今後も応援よろしくお願いいたします。
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