ハーレム王、覇王への長い道のり
「みんなぁ、準備はいいかい?」
アリスの声に応えるかのように、大歓声が響き渡る。
「迫ってくる敵からこのエリアを護る!その後は、二度とそんな気が起きないように、こちらから攻めるよ。皆力を貸してねっ!」
「「「「「「「おぅっ!」」」」」」」
「では、全軍、前進っ!」
アリスの号令に従い、第一陣がエリア外へと向けて進軍していく。
しばらくすれば、エリアを取り囲む敵とぶつかる筈だ。
「大丈夫……だよな?」
その様子を指令室となったメインコントロールルームのモニターで見ながら呟く。
「大丈夫ですよ。相手の兵は5千弱。それに対して我が方は、人族の義勇兵が1500と、魔族の混成軍が1000余り。数の上から見れば約半分と、劣勢に立たされているように見えますからね。ご心配なのはわかります。」
アンジェが冷静に現状を分析しながら説明をしてくれる。
「しかしながら、装備の上では相手の質に勝り、加えて、修羅人様率いる鬼人族、クロ様率いる、イリーガル・ヘル部隊を相手にするには3倍の兵力でも少ないと言えるでしょう。正直、人族相手の戦争にはオーバーキルと言わざるを得ません。どこまで過保護なんですか?と言いたいです。」
「……仕方がないだろ?」
俺は一言だけそう言って黙り込む。
これ以上何を言ってもからかいのネタにされるだけだからだ。
「これもすべてあいつらのせいだ。」
今リィズエリアに向かっている敵軍はディゲル帝国の奴らだ。
以前、リィズエリアを攻めてきた奴らなのだが、それだけなら放置していても問題なかった。
以前と比べてエリアの防御力がとんでもないことになっており、あいつら程度がどうあがいても、攻め落とせるわけがないから。
因みに、リィズエリアだけでなく、俺の管理するエリアの防御力は軒並み跳ね上がっている。
というのも、ノッカーさん達が、以前手に入れたエリアバスターを、あれこれいじくりまわして、とんでもないほど強力なものにしてしまい、エリアの防御バリアを壊してしまったことがあった。
それを見たコアツーが、なぜか対抗意識を燃やして、エリアの防御システムの改築を施した。
結果、ノッカーさん達とコアツーの技術革命という名の争いに火が付き、結果として、エリアバスターも、防御結界もものすごい事になってしまった。
エリアバスターは、結界解除という機能だけじゃなく、単純な物理破壊力も跳ね上がり、その場一帯を大きなクレータに変えてしまう破壊力を持ってしまった。……ハッキリ言って、通常の城塞であれば跡形もなく吹き飛ぶことは間違いない、
そのエリアバスターの破壊力を辛うじて耐えるだけの防御力を誇る防御結界。マナ効率を最大にすれば、クリムの最大魔力を込めた、エクスプロージョンとメテオストライクの10連発でも余裕で耐えきって見せた。……ってか、こんなん出鱈目すぎるだろ。
まぁ、それ以上は不毛な争いになるだけなので、介入して止めたけど、もし止めていなかったらと思うと、未だに背筋が凍る思いだ。
それはともかくとして、そう言うわけなので、ディゲル侯国の奴らがどれだけせめて来ようが、気にしないのだが、奴らは俺達が何もしないのをいいことに、北方にある人族のエリアをあらかた攻め落とし支配下に置き、ディゲル帝国を名乗り、俺達へ宣戦布告をしてきたのだ。
相手がここまで大きくなると、直接の被害はなくても色々面倒な事が起こる。主に経済の流通とかだな。
なので、攻めてきたのを機に大反攻で逆に攻め滅ぼしてやろう、という事になったのだ。
大まかな戦略としては、攻めてきた軍を返り討ち、そのまま追撃しつつ、近くのエリアの支配権を奪いこちらの支配下に置いていく。
最後はディゲルエリアをつぶしてTheEnd。……の予定だ。
こちらの主力は、修羅人率いる鬼人族とクロの魔獣軍団が中心なので、普通に戦えば負けることはないだろう。
問題としては、相手がどのような魔道具を開発しているか?という事だが、そこはコアツーとメイリーン、そしてノッカーさん達がついているので、余程の事がない限り後れを取ることはない。
因みに、可愛いお⒨んあの子はすべて捕らえるように言明してあるので、まず問題ないはずなのだ、
……こっち方面は。
「それより、問題はこっちよ。」
アンジェがモニターを切り替える。
『いーい?死ぬ気で働かないと、アンタたちまとめて吹っ飛ばすからねっ!』
モニターの中では、クリムが檄を飛ばしている。
それに応えるのは、広場に集まった魔族の混成群。
主力は朱音率いる鬼人族と、ドラゴニュートの長、ドラン率いる、ドラゴニュートとリザードマンの混成軍、合わせて500程。
それに追従するラミアの軍勢が約500.
バックアタッカーのシルバーデビルの部隊が約500とそれに率いられた肉壁要員のオーク、トロール、ゴブリンの部隊が約2000。
偵察及び空撃要因としてサキュバスとハーピーの混成軍が約500.
そして遊撃部隊として、アルちゃん率いるイリーガルデーモンスパイダー及びその亜種で混成されているスパイダー部隊が約1000、クロの部隊からの応援としてインフェルノファングとスターダストウルフの混成部隊部隊が1000、ブラックインフェリアという魔獣の群れが約300、
そして、俺の横で、アンジェと張り合っている古代悪魔のセレスの部下、グレーターデーモンの部隊が約3000と総勢1万近い軍団が広場を埋め尽くしている。
「ホント、なんでこうなったんだろうなぁ。」
「ソーマの所為でしょ?」
「マスターの所為ですね。」
俺の呟きに、アンジェとセレスが応える。
「いや、待て、それはおかしいだろ?」
俺は事の起こりを思い返してみる。
……アレは、オークの軍団を蹴散らしてそれ程日が経ってない頃だった。
突然、悪魔族の使者が訊ねてきたんだよ。
そう、あそこでグレーターデーモンの指揮を執っている、ナーシャがその時の使者だった。
俺は、とりあえず、問答無用で捕まえて縛り上げて、色々としたんだよ。
可愛い女の子が来たんだからおもてなしをするのは当然だろ?
そう言ったら、アンジェが「問答無用で縛り上げることをおもてなしとは言わないわよ」というので、ナーシャは敵国のスパイに格下げとなった。
そして、スパイに対する扱いなんて、決まってるだろ?
散々楽しんだ後、ようやく聞き出したのが、近くにいる悪魔族が一度会って話がしたい、という伝言だった。
そして、その悪魔族というのが、今ここに居るセレスで、こうして俺にベタベタしてるって事は、そういうわけで……。
「私が、マスターに降ったから、近隣の魔族達が慌てるのも無理ないわね。」
セレスが、甘えるような声でそう言ってくる。
そうなのだ、南方地帯は、一応魔王軍のテリトリーとなっている。その中でも俺達のいる北部地域は、人族エリアと接しているという事もあって、空白の中立地帯になってはいたのだが、中立になっていた要因の一つとして、魔王ですら一目置く悪魔族の一部が、縄張りとしていた事もあった。
その悪魔族の中心だったセレスが、いきなり名も知らぬ男をマスターと呼び、軍門に降ったという事実は、瞬く間に魔族領一体に知れ渡り、魔族間に緊張を走らせることになった……らしい。
その後、様子見の小部隊がちょっかいをかけてくるようになり、キノ里にも少なからずの被害が出るようになったため、地域一帯を併合することを決めた。
決して、朱音がかすり傷を負わされたからではない、と明言しておく。
放っておけば、調子に乗ったやつらが、もっとひどい事をし始めるに違いない。ターミナルのエリアと違って、まだこっち方面の防御機構は完成していないから、迎え撃つにも限度がある。
だったら、こっちから行くしかないだろ?
という事で、今回の出陣と相成ったわけなのだが……。
「……俺の所為じゃないよな?」
せめてもの悪あがきでそう言ってみるが、二人は目をそらしてスルーする。
……どうやら俺の所為らしい。
俺は仕方がなく、モニターの中で、檄を飛ばし続けるクリムの姿へと視線を戻すのだった。
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