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名もなき村の攻防 その6

「ソーマ、今日の予定よ?」


アンジェが山のような資料を抱えてやってくる。


「……ってまだやってるの?」


「あぁ、誰がマスターなのか理解してないようだからな。」


俺は、アンジェが視線をやった方を見る。


そこにはエッチな格好で縛られて転がされている双子の姉妹の姿がある。


「鬼ぃー。」


「悪魔ぁー。」


罵声にも力がない。と言うか、あれだけイジメて(可愛がって)やったのに、まだ文句を言えるだけの体力が残っているのか。


「はぁ、お前ら、まだ分からないのか?……仕方がない、もう少し教育が必要だな。」


「え、でもっ……可哀想です、もう許してあげては……。」


朱音が、申し訳なさそうに口を挟んでくる。


「何言ってるんだ?お前も同罪だぞ。」


俺が指をパチンと鳴らすと、どこからともなくメイドが現れ、朱音を縛り上げていく。


「えっ、あ、何でぇ~。」


俺は縛られて動けない三人を相手に、新しいラウンドを開始する。


「……ハァ、お昼までには終わらせてね。後、この書類も目を通しておくこと。」


「えっ、アンジェさぁーん、助けてくださいよぉ~。私こんなことしてる場合じゃぁ……むぐっ……ァッ……だ、ダメェ……。」


「里のみんなの事は気にしなくていいから。ソーマの相手をお願いね。」


「そ、そんなぁ……ぁん、そこはダメですぅ……。」


アンジェが部屋を出て行く。


俺のいつもと変わらない日常が始まるのは、もう少し後のようだった。



「状況はどうなってる?」


「ご覧の通りよ。」


アンジェはそう言って、目の前のパネルに何処かの風景を映し出す。


「コレはなんですの?」


「集楽外縁の様子だな。」


コレは、無数にいるアルちゃんの眷属に持たせた魔導具が、見たものをリアルタイムに送ってきてくれているという画期的なシステムだ。


俺やクリムにとっては馴染み深いモノでも、こちらの世界ではそういう概念がなかったせいか、この手の戦いにおいては大きなアドバンテージとなっている。


そして、そこにはゴブリンを引き連れたオーク軍が映し出されている。


「数は5千といったところか。」


俺達は今、集落の外縁とキノ里の住民達が開拓している住居部分の間に本陣を敷いている。


最悪、ここまで敵が迫ってきたら、本陣を爆破し、その間に転移陣を利用して逃げ出す事になっているのだが、里の住人たちの戦意は高く、撤退戦はかなり難儀しそうだ。


ということは、なんとしてもここで食い止めなければならないということで……。


「ここに来るまでに、どれだけの数が減るか、だな。」


外縁部には堀と城壁があるが、時間がなかったため、里を囲うに至って無い。回り込まれたらおしまいなのだが………。


「なんでアイツら突っ込んでくるんだ?回り込めばいいだろうに。」


「所詮はゴブリンにオークだから。」


アンジェがそういい切る。


結局、エリート種やジェネラル種がいても、頭の悪さはそう変わらないってことか。


急遽誂えた堀と城壁は2kmしか無い。少しでも頭が回れば、そちらに回り込むと考え、堀の切れている場所に、色々と罠を仕掛けたのだが、全て無駄になってしまったようだ。残念ではあるが、堀や城壁が本来の役目をしている事と、その有益さを里の住人が実感できたのだから良しとしよう。


そんな事を考えている間にも、戦況は目まぐるしく変わっている。


「アンジェ、城壁にいる部隊に、第2防衛ラインまで下がるように伝令を。」


堀がゴブリンたちで埋まっていくのを見て、俺はそう指示をする。


「わかったわ。」


アンジェが答え、その後サキュバスの一人が飛び立っていく。


「力押しとはいえ、それが出来るだけの数が脅威だよな。」


既に堀は無数のゴブリンの死体によって埋め尽くされ、堀の意味をなしていない。


そしてこうしている間にも、城壁からの攻撃で、ゴブリンの死体が量産されているが、それはもはや、城壁を乗り越えるための足場を作っているに等しかった。


不意に城壁からの攻撃が止む。サキュバスの伝令がついたのだろう。


こうして、リアルタイムに状況がわかるのは、やはり大きなアドバンテージだ。


ゴブリン達は、急に攻撃の手がやんで、少しの間戸惑っていたが、すぐに、城壁を登ることを再開し始める。


先程までは、よじ登ってくるゴブリン相手に、矢を射かけたり、巨石などを落として押し潰したりしてたのだが、そうしてできた死体を積み上げて土台にしているから、城壁を突破されるのも時間の問題だろう。


「ここまでで1500は減らせたか……。」


かなり減らせたはずなのだが、それでも相手の数はまだまだ多い。


「かなり減ったけど、それでもゴブリンとトロールが合わせて3千、無傷のオークが500ってところね。」


「第三防衛ラインまでに後2千は減らしておきたいな。」


それでも、1500を相手にしなければならない。


こちらの戦力は里の住人が100人と俺達だけだ。


しかも、クリムと一部の、魔法を使えるやつは第2防衛ラインに行っているので、実質では一人頭20匹近くを相手にする計算になる。


だから、第2防衛ラインで、できるだけ数を減らしておきたい。


コレが、相手が少しでも知恵が回るやつであれば、第ニ防衛ラインに仕掛けてある罠と、その後に控えている広域魔法の嵐に怯んでくれて、ある程度の時間は稼げるのだが、ゴブリンやオークのような考えなしのモンスターが相手だと、その被害も考えないまま、ただ突っ込んでくるからたちが悪い。


与える被害が多いもののそれ以上の数で押し寄せられては……。戦いは数だと、よく言ったものだ。


「そろそろ、第2防衛ラインに入るわよ。」


アンジェの声が響く。


「そうか。……朱音、第3防衛ラインに戦力を集めておいてくれ。第2防衛ラインを抜けてきたものを各個撃破するように。」


「わかりましたわ。………全部アイツらが悪いんですわ。」


……朱音の目が座って何やら呟いている。少し可愛がり過ぎただろうか。


朱音を送り出しモニターに視線を向けると、ちょうどクリムのエクスプロージョンが炸裂し、ゴブリンたちを吹き飛ばすところだった。


流石は、最上級の魔法だけあって、その場にいたモンスター達をすべて吹き飛ばす。


ただ、ギリギリ効果範囲を逃れた者たちや、その後から進軍してくる者達が、そのまま前進してくる。


最大級の魔法故に、次を放つまでにどうしてもタイムラグが起きる。その間に抜けてくるヤツラがいるのはどうしようもない。


一応、抜けた先にはトラップが仕込んで合ったり、里の住人の魔法使いたちによる迎撃もしているが、やはり数量差はいかんともしがたく、多数のゴブリン共が抜けていくことになる。


「ソーマ、動きがおかしいわよ?」


同じ様に観測していたアンジェが、気になることを言い出す。


「ゴブリン達の進軍が止まったわ。」


「……何をしでかすんだ?」


俺の疑問はすぐに答えが出る。


止まっていたゴブリン達が、一斉に走り出したのだ。


しかし、進軍速度を速めても、クリムの射程から逃れるにはスピードが足りないのだが………。


「……そういうことね。」


吐き捨てるようにアンジェが言う。


ゴブリン共がクリムの魔法の犠牲になっている間にオーク共が射程から逃れるようにかけていくのだ。


ゴブリン共に同情する気はないが、使い捨てるような戦術には反吐が出る。


「あら、ソーマなら喜んでやりそうだけど?」


場の雰囲気を変えるためか、アンジェがからかうように言ってくる。


「バカっ!コレで俺が同じことやったら、オーク並って言われちゃうだろうがっ!」


「気にするとこはそこなのね。」


「でもまぁ、数は減ったからな。」


やりやすくなった、と言い、後はアンジェに任せて俺も最前線に出ることにする。


後はオークのリーダーを倒せばいいだけだ。


……ソレがかなりの困難を極めることを知ってはいるが、やるしか無いのだ。


「はぁ、終わったらクリムとアンジェに癒して貰おう。」


俺はそれを戦後の楽しみとして、戦場に赴くのだった。

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